第四章 16 休憩を終えて
16 休憩を終えて
賑やかな声の主は、もちろんトトラだった。買い取り屋の店員に案内され、シン様は応接室にいらっしゃるのね、長い時間お待たせしてしまったわ、などと話しながら応接室に入ってきた。
「手形屋がすっごく混んでたのですわ! シン様、お待たせしてしまってすみません!」
トトラは子猫が跳ねるように出入り口から私の所に泳いできた。
「あっいえ、ここでゆっくりさせてもらってましたから。大丈夫です」
「まあ、シン様、お優しいんですのね」
ノアタムと存分に会話ができたので、戻りが遅いのはむしろありがたかったのだが、トトラは私が気を遣ったと思ったようだ。そりゃあ、魚とずっと会話していたとは思うまい。
「シン様、これが、お約束の30,000テニエルですわ!」
トトラは三枚の大金貨を差し出した。一万円札を四つ折りにしたサイズより一回り大きい楕円形の金貨が三枚、私の目の前で光っている。
「こ、こんなに……。いいのかな……」
「もちろんですわ。わたくしはシン様のお持ちになったニッコ貝が気に入ったんですもの!」
トトラは私に三枚の大金貨を手渡した。
「あ、ありがとう……」
「こちらこそ、嬉しいですわ。
ねえシン様、我が家が主催する武闘大会に、ぜひいらしてくださいませ。シン様がお持ちになったニッコ貝、わたくしが身につけている姿を見てもらいたいですわ」
トトラは、今身につけている古いカチューシャを撫でながら、私の目を見た。
私は手元のチラシとトトラを見比べ、うなずいた。
「そうですね……行ってみようかな」
貝を売り終わったら、その先の予定は特にないのだ。祭りに行くのもいいかもしれない。
「本当ですの? 絶対ですわよ!」
トトラは私の手を握った。女の子らしい、かわいい手だ。
「ええ。じゃあ私達はこれで……」
私は椅子から立ち上がり、ノアタムも動きだした。私は30,000テニエルとチラシを腰のポーチにしまい、貝取屋を出る準備をする。
「お邪魔しました」
私はトトラと一緒に応接室にやってきた貝取屋の店員に頭を下げる。店員は礼儀正しくお辞儀をする。
「トトラさん、ありがとう」
「こちらこそ、今日シン様に会えて良かったですわ。武闘大会でシン様にお会い出来るの、楽しみにしていますわね」
私は店員とトトラに見送られながら、貝取屋を後にした。




