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目覚めたら異世界で人魚だった  作者: 御餅屋ハコ
目覚めたら異世界で人魚だった 第四章
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第四章 14 質問その1(人魚の繁殖方法について)


14 質問その1(人魚の繁殖方法について)


「えっと、今、『子供が卵の外に出てくる』って言ったけど、それって鳥の雛みたいに自分で殻を破るの?」

「人魚の卵に殻はない。魚の卵には殻がないだろう。地上の鳥やは虫類のように、中身を乾燥から守る必要がないからだ。ノアタムアには、衝撃から守るために固い殻を持った卵を産む魚もいるが、人魚は卵を腹にくっつけて守るので、卵に殻はない。

 人魚の卵は最初は小さく柔らかいが、約一年、子供と共に成長するにつれて、かなりの弾力を持った厚い膜に包まれるようになる。

 膜は外からの刺激には強いが、成長した人魚の子供が内側から膜を破ろうとすると、やがて卵が割れ、子供が出てくる。魚が卵から孵化する感じに近いな」

「……でも、へその緒がつながってるんだよね? それって自動的に取れるわけ?」

「卵が破れると、卵の内側で母親の腹に接していた胎盤も剥がれていく。役目を終えた胎盤と臍帯はやがてしぼんで子供の腹からも剥がれるが、邪魔になるので、子供の腹に近いところで切り落としておくのが一般的だな。人間の新生児と同じだ」

「切り落とすのは……産婆さんが?」

「まあ、出産を手伝う者もいるが、母親がやることが多いだろう。人魚の出産は、人間のように何時間も陣痛に苦しみ、激痛を伴って胎児を体から出すわけではない。卵は体の外で育っているからな。

 卵から子供が『出て』『産まれる』という意味で『出産』という日本語訳は使うが、母親の疲労は人間の出産よりはるかに少ない。だから出産直後に刃物で臍帯を切るぐらいの余裕はある」

「え……でも、卵はお母さんのお腹の皮とつながってるんだよね? だったら、卵が破れたら痛いんじゃないの?」

「母親も子も、卵の膜や胎盤に対して痛みを感じることはない。出産時に卵が揺れるので、母親の腹の卵周辺の皮膚は引っ張られて多少は痛むようだがな。

 臍帯と同じく、卵の膜の残りも、産後にやがてしぼんで母親の腹から剥がれていく。だから母親の体に近いところで切り落とすと邪魔にならない。卵の膜に痛みを感じていてはそんなことはできん」

「そうなんだ……。人間の出産って、話に聞くだけで痛そうだもんね。産んだ後も体が元に戻るまで時間がかかるって言うし。人魚はそんなにつらそうでなくてよかった」

「確かに人間ほどではないが、産前産後で全く母体に変化がないわけではないぞ。

 まず精神面だが、長期間、腹に壊れやすい大事な物を抱えて過ごすのだから緊張が続く。そして卵に栄養を与え続けるため、体調にも気を遣う。それに腹に卵が結合することで、体内のホルモンの分泌が変わる。だから精神的に不安定になる者もいる。

 それらは人間の妊婦と同じだ。人魚の場合は卵を抱えるから『卵婦らんぷ』と呼ぶがな。

 それから、人間は腹が大きくなるときに皮膚の内側がひび割れ、妊娠線と呼ばれる線ができたりする。卵婦も卵と結合したあたりの腹にはそういう線ができたり、産後に卵が剥がれたところの皮膚の色が変わっていたりする。出産した勲章だな」

「なるほど」

「それから、一番の変化は、産後に母乳が出るようになることだ」

「えっ、おっぱい!? 水中で出るの!?」

「もちろんだ。どうして人魚に乳房があると思っている。人魚は下半身は魚だが上半身は人間なのだ。人間、つまり哺乳類、哺乳をするということだ。クジラやイルカだって哺乳類だから水中で授乳をするのだぞ」

「えー……知らなかった……」

「卵婦はホルモンの分泌が変わると今、言っただろう。腹で卵を育てる一年弱の間に、乳房に刺激を与えるホルモンも出るのだ。時が満ちて、卵が破れ、胎盤が剥がれ、産まれた赤子が乳首をくわえる、という刺激を受けると、母乳が出るようになる」

「そうなんだ……。あ、でも、性転換や卵を産むのにかかるのは一ヶ月なのに、おっぱいが出るようになるには一年近くかかるんだね」

 さっきからいろんな話を聞いて驚き通しだが、私は聞き流さずに質問した。

「そりゃあ、母乳が必要になるのは子供が生まれた後だからな。腹で卵を育てている間にゆっくり乳房も育てれば良い。

 だが、その卵、受精卵を作るためには、必ずパートナーが必要だ。しかも、パートナーは、いなくなる可能性があるからな。

 腹に受精卵が結合すれば、一年後に子供を産むのは、いざとなればその女一人でもできる。だが、子供を作るには、必ず男と女がいなければならない。

 だから子供を作りたいと思ったら、すぐに体に変化が起きなければ困る。そのため、性転換も卵を産むのも、一ヶ月という短い期間で体に変化が起こるようになっているのだよ」

「そっか……。人間でも、別れた後に妊娠がわかって、女手一つで子供を育てる人とかいるもんね」

「うむ。ただし卵婦の状態の一年弱の間だけは、女から男への性転換は起こらない。腹に貼り付けた卵が性転換のホルモンが出ることを抑制するのだ」

「ああ、そりゃあ、妊婦さんが男になっちゃあ困るもんねえ。いや、卵婦か」

「うむ。それ以外の時は、ノアタムアの人魚は、男から女へも、女から男へも性転換が可能だ。

 仮に男の人魚が卵婦になろうと思ったら、『女になれ』と一ヶ月念じて性転換し、そこから『卵が産みたい』と一ヶ月念じれば、最短で二ヶ月ほどで、男の人魚でも卵婦になれる。もちろん相手の男も必要だがな。

 だから子供を作る直前までは、カップルは男同士でも女同士でも良いのだ」

「そうなんだー……。

 あっでもさあ、さっきあの子に私、『男になって結婚して』って言われたよ? 卵婦以外の人魚は男にも女にもなれるなら、あの子が男になったっていいのに」

「そうだな。ノアタムアの人魚は、自分が男になるより、相手に男になって欲しい者が多いようだ」

「どうして?」

「理由の一つは、生まれたときの性別が女だからだ。正確には、子供から大人になる際、まず女として成熟する、ということだが。

 だから女の体で過ごすことに馴染みがあり、それを手放したくないという理由だ。

 それから、前述の理由のため、ノアタムアの人魚は女の方が数が多い。

 だから、社会が女中心にできているのだ。

 量産品の服は女物ばかりだし、娯楽小説で活躍するのも女ばかりだ。

 公衆トイレも、普通は男女別に分かれていない。男も女も使っていい個室が並んでいるとはいえ、実質女子トイレのようなものだ。

 シンが泊まるような安めの宿も、客室は分かれているが、トイレや洗濯部屋は共同だ。男の人魚がそこに泊まったら、女の魔物狩り屋が何人も出入りする場所でトイレに行ったり、下着を洗ったりせねばならん。

 同性より異性が多い空間というのは、緊張するものだろう。

 ノアタムアで男として過ごすのは、肩身が狭いとまではいわんが、女のままでいた方が気楽ではあるだろう。

 『男になろう』という明確な意志を持たないかぎり、ノアタムアの人魚は男にはならん。だから好き好んでマイノリティになりたがらないわけだ」

「ふうん……あっでもさ、魔法屋に行ったとき、男の姿の精霊が人気だって聞いたよ? 人魚だって、男が少ないなら、男ってだけでモテモテになるんじゃない? だから男になる人魚がもう少しいてもいいと思うけど」

 私は初めて行った魔法屋での事を思い出した。男の精霊は客に人気だが、ときめいて魔法に集中出来ないので女に替えてと言われることもあると。だからその店の精霊は女の姿の方が多いのだと。だが、それだけ男の姿が喜ばれるということだ。

「そりゃあ、精霊の外見は人魚が自由に設定出来るからな。どんな美しい顔にもできる。言わば身近にいるアイドルのようなものだ。それに、相手と自分が釣り合うかどうかなども考える必要は無い。人魚は精霊の美しさを、ただ享受していれば良いのだ。

 しかし人魚同士ではそうはいかん。

 性転換したからと言って、生まれつきの顔までは変わらん。外見を美しくするには努力が必要だ。それに恋人や結婚相手に求め、求められるのは外見だけではない。

 男が少ないからと男に性転換し、それで女にもてたとしても、それは自分自身を好きになってもらったのか、自分が男の姿だから好意を持たれただけなのか、という疑念が生まれるのだろう。

 恋人や結婚相手には、性別が変わっても一緒にいられる相手がいいと考え、まず女の姿同士で気が合うか確かめる、そんな人魚が多くても不思議はないな。だから女のままの人魚が多いのだ」

「なるほど……。でもさ、じゃあなんであの子は私に『男になって結婚して』って言ったの?」

「結婚というのは一つの節目だからな。子供を持つことも真剣に考え始める時期だし、パートナーのどちらが男になるか、はっきりさせたいと考える者がいてもおかしくない。あの娘は結婚相手に、確実に男になってくれる人魚を探しているのだろうな」

「そっか……。そりゃ結婚だし、人によって考え方は違うよね。恋人の時は同性でもいいけど、結婚していざ子供を作るときにどっちが男になるかもめて別れたら大変だし……」

「うむ。結婚を機に性別を固定する者はそれなりにいる。結婚して女から男になり、子供を作った後も男のままでいる、という風に。だから年配の人魚だと男の割合は高くなるのだ。だが既婚者だから他の女と付き合うわけにはいかない。

 若い男の人魚は少ないから、あの娘は、若者で男になってくれる相手を探しているのだろう。だからシンにも声を掛けたのだ」

「そっかー……」

 話は長くなったが、様々な疑問が一つずつ解消していった。私は大きくうなずく。

「もう、聞きたいことはないか?」

 ノアタムが尋ねる。トトラはまだ帰ってこないようだ。私はしばらく考え、最後の質問を口にした。

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