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目覚めたら異世界で人魚だった  作者: 御餅屋ハコ
目覚めたら異世界で人魚だった 第四章
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第四章 13 人魚の繁殖方法


13 人魚の繁殖方法


「わしが最初にお前にこの世界の説明をしたとき、『人魚は基本的に女ばかりだが、性転換する』と説明したな」

 私は最初の洞窟での話を思い出した。

「ああ、うん、『魚には性転換するものがよくいるし、人魚も性転換するんだ』とか」

「そうだ。お前が日本人として生活していたときに、テレビか何かで性転換する魚について聞いた覚えは無いか? 有名なのは、ホンソメワケベラやクマノミなどだ」

「うーん、まあどっかで、聞いたことあるような気はするよ」

「だが、性転換する魚の話は聞いても、陸上生物、とくに脊椎動物で性転換する生物の話を聞いたことはあるか?」

「うーんと……。は虫類なんかは、卵がかえるときの温度で性別が決まるって聞いたことある気がするけど、生まれた後に性別が変わるって話じゃなかった気がするなあ」

「そうだろう。性転換するのは主に水中の生物なのだ。なぜだと思う?」

「えー? わかんないよ」

「それはな、水中の生物ならば、生殖器の構造が雌雄で大きく違わなくて済むからだ。

 日本の小学校ではメダカの繁殖方法を学ぶだろう。『メスは水中に卵を産み、オスは水中に精子を放出する。卵と精子が結びつき、受精卵ができる』と。

 魚ならば、水の中で生きているから、体の外で配偶子を合体させることが可能なのだ。そして、水中に放出するのが卵か精子か、という違いだけだから、雌雄でそこまで生殖器の構造が違わない魚も多い。

 それに引き換え、地上に生きる生物の場合、精子は空気中を移動することができない。だから、メスの体内にオスが直接、精子を送り込む必要がある。そのため、オスとメスの生殖器の構造はかなり異なる。性転換するには肉体を大幅に作り替えることになり、もし性転換するならば大量のエネルギーや時間が必要になるだろう。だから地上の生物は、性転換をしないのだ」

「な、なるほど……」

 私はノアタムの説明を自分の中で咀嚼する。

「えーっと、でも、魚の全部が性転換するわけじゃないよね?」

「うむ。魚でも、例えばサメなどの軟骨魚類はすべて体内受精を行うため、生殖器の構造が雌雄で大きく異なり、性転換しない。

 体外受精をする魚も、すべてが性転換するわけではない。

 魚の性転換の仕方は一つではないし、理由も異なる。

 雌性先熟しせいせんじゅく、まずメスとして成熟し後にオスになるもの。これは、オスが縄張りを持つ魚に見られる。体が小さい間はメスとして生き、体が大きくなったらオスになる。その方が有利に繁殖出来るからだ。ホンソメワケベラはこのタイプだ。

 雄性先熟ゆうせいせんじゅく、まずオスとして成熟し後にメスになるもの。一夫一妻のペアを作るクマノミがこのタイプだ。体が大きい方が多くの卵を作れるため、大きい個体がメスになる。

 性転換が一方通行ではなく、双方向にできる魚もいる。

 結局のところ、それらの魚は効率よく自分の子孫を残すために、性別を変えるという手段を取っているのだ。

 生殖器の構造がそれほど違わない魚でも、体を作り替えるにはそれなりの時間とエネルギーがかかる。その労力を使ってでも性別を変えた方が有利ならば性転換をする。そうでなければ性転換しない。

 性転換は、それぞれの生物が、繁殖のために選んだ様々な方法のうちの一つ、と言えるかもしれんな」

「……難しい話になってきた……」

 私は頭を抱えた。理科の授業でも受けているかのようだ。

「生物の繁殖方法はいろいろあるのだ。タツノオトシゴなどは、俗に『オスが出産する』などと言われるのだぞ」

「えっ!?」

 私は抱えていた頭を上げた。

「タツノオトシゴのオスの腹には育児嚢という袋があってな、メスがオスの育児嚢の中に産卵する。卵は育児嚢の中で受精し、オスが育児嚢の中で卵を育てる。育児嚢から稚魚が出てくるので、『オスが出産する』と言われるわけだ。

 生物の繁殖方法は様々なのだ。人間の繁殖方法が唯一の基準のように考えてはいかん。どの生物もそれぞれのやり方で生命をつないでいるのだ」

「……うん……。まあ、あんたの言いたいことはわかったよ」

 専門用語をいろいろ出されたが、最後の言葉がノアタムの真意なのだろう。

「で、人魚の性転換はどんな感じなの?」

 ノアタムはうなずき、答えた。

「ノアタムアの人魚は、生まれたときはすべて女だ。正確に言うと、子供のころは性的に未成熟で、ノアタムアの暦で十二歳前後、地球の人間で言う十歳前後に、まず女として成熟する。だから『生まれたときから女』と認識されているのだ。

 その後は、何もしなければずっと女のまま。

 男になりたいと思ったら、『男になれー!』『男になれー!』と一ヶ月ほど念じ続けていると、やがて肉体が変化して男になる」

「ええっ!? そんな簡単に!?」

 叫ぶ私に、ノアタムは続けた。

「簡単と言っても、一ヶ月間ずっと気合いを入れ続けるのはそれなりに大変だぞ。そうやって気合いを入れることで、脳からホルモンが分泌され、生殖器に変化が起こるのだ。

 さっき説明しただろう、体外受精をする魚なら、生殖器の構造が雌雄でそこまで違わないと。

 人魚も、男と女で生殖器が人間ほどは違わないため、一ヶ月ほどで生殖器を作り替えることが可能なのだ」

「そうなんだ……。あれ? でも、てことは、人魚は卵を体の外で育てるわけ?」

「そうだ」

「えっ、でも、へそがあるじゃん!」

 私は腹を押さえた。着替えの時に自分の体は何度も目にしている。人魚とはいえ、腰から上は人間と全く同じ姿をしていた。ノアタムアの人魚は、上半身にひれや水かきのあるタイプではないのだ。

 もちろん、腰の中央にはへそがあった。それも人間の上半身と同じだから、何の違和感も持たずに過ごしてきたのだが。

「うむ。へそは、哺乳類にとっては、胎児が母親の胎内で母親から栄養を受け取るパイプ、臍帯の痕跡だ。

 人魚のへそも、同じく親子がつながっていた痕跡だ。だが、人魚の場合は、体の外でそれを行うのだ。

 人間は、母親の胎内という水の中で子供を育てる。だが人魚は水中で生活しているので、体の外でそれを行えるのだ。

 人魚の女は、『子供が欲しいから卵を産みたい』と一ヶ月ぐらい念じると、脳からホルモンが分泌され、体内に卵ができる」

「また一ヶ月……」

 私はようやくそれだけ言った。

「人魚の女が体の外に卵を産み、人魚の男がそれに精子を振りかける。そうして卵を受精させ、その受精卵を、卵を産んだ女の腹にくっつける。すると受精卵と女の腹が一体化するのだ」

「ええっ……?」

 驚くのにも疲れてきたが、驚かずにはいられない。

「卵を産んだ直後の女の腹の表皮は、受精卵と結合する状態になっているのだ。

 日本で、チョウチンアンコウの生殖について聞いた覚えはないか? メスに比べてオスの体はかなり小さく、オスはメスを見つけるとメスに噛みつき、そのままメスの体に融合してしまうのだ。これも、繁殖の機会を逃さないために生物が取った戦略の一つだ。

 ノアタムアの人魚の腹に卵が結合するのも、それほどおかしな話ではないだろう」

「う、うん……」

 今までのノアタムの説明のおかげで、私は納得した。

「母親の腹に結合した受精卵は、約一年の時間を掛けて成長していく。ノアタムアの暦で一年だから、妊娠期間は人間とほぼ同じということだ。

 卵の中の人魚の子も、人間のように母親から栄養をもらう。卵の内側の、母親の体と結合した部分に胎盤のような物ができるのだ。そこから人魚の子に栄養を送るパイプが伸びる。人間の臍帯と同じだ。

 卵の中で成長を終えると、子供は卵の外に出てくる。臍帯は卵から出た後は必要なくなるから、子供の体から切り離される。その痕跡がへそになる。だから、ノアタムアの人魚にもへそがあるのだ」

 ノアタムは話を終えて、私の反応を見た。

「えーっと……。またいろいろ聞きたいことが出てきたから、ちょっと待って……」

 まだトトラは帰ってこないようで助かった。私は聞いた話を反芻し、浮かんだ疑問をノアタムにぶつけることにした。

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