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目覚めたら異世界で人魚だった  作者: 御餅屋ハコ
目覚めたら異世界で人魚だった 第四章
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第四章 08 ツウギの町


08 ツウギの町


 休憩所を出てからも、魚車からの風景は似たような感じだった。畑が広がり、養殖場の網が見える。

 魔物狩り屋達は居眠りを始めたし、商人はずっと本を読んでいた。この世界の住人にとっては珍しくない光景なのだろう。だが、さっきと代わり映えしなくても私にとっては初めての魚車の旅だ。私は電車の窓を流れ去る風景を飽きずに眺める子供のように、魚車に揺られながら周りの景色を見て過ごした。

 魚車は北を目指して進んでいった。やがて、前方に建物が見え始めた。数えるほどしか建物のなかった休憩所と違い、数え切れないほどの建物が集まっている。ツウギの町だ。タヴィデの町より大きい。

 御者二人は声を掛け合い、進行方向をやや右に傾けた。なぜだろうと思ったが、答えはやがて見えてきた。

 魚車屋がツウギの町の東側にあったのだ。そうか、町の南は建物ばかりだもんな……私がそう納得している間に、魚車は牧場のような空間に近づいていった。

 別の方向からも、魚車は何台もやって来た。荷物を運んでいる魚車も、人魚を運んでいる魚車もある。魚車を使わず、素泳ぎでツウギの町に来た人魚達もいる。彼女達は魚車屋に向かわずそのまま町の中へ泳いでいく。

 まだ町に入ってはいないが、人の出入りの多い、活気のある町だとわかる。

「ツウギの町、到着でーす」

 魚車が魚車屋の敷地に入るころ、魚車がそう声を上げた。眠っていた魔物狩り屋達は目を覚まし、商人は読んでいた本を片付け始めた。

「ああ、着いた着いた」

「ありがとうございまーす」

 乗客達はそう言って立ち上がり、ハンモックから離れていく。私も彼女達に習い、魚車の座席を立つ。

 乗客達は町の中に泳いでいく。御者はベージンザメのハーネスを外しにかかる。

 私は魚車から降りたところで止まり、辺りを見回していた。

「……さあて、これからどうしようか」

 他の人魚が近くにいないことを確認して声を出すと、肩の上のノアタムが応えた。

「暗くなる前に、宿を探したらどうだ」

 ノアタムは私の肩から離れ、正面に回った。

「そうだね。なるべくなら安い宿に泊まりたいし。貝取屋は明日でもいいか」

 今はまだ日暮れではないが、それでも夕方に近い時刻だ。これだけの広い町、移動するだけでも時間がかかるだろう。

 私はとりあえず町の中に向けて泳ぎだした。

 魚車屋の近くには飲食店がいくつもあり、宿屋もたくさんあった。だが、看板をよく読むと、一泊1000テニエルから2000テニエルほどの宿ばかりだった。

「たかーい」

「魚車屋の近くだからな。駅の近くに高級ホテルがそろっているようなものだ。裏通りを探せば安い宿もあるだろう」

「通りっていっても、道らしい道は無いじゃん」

「人通りの少ない場所という意味だ。旅人用の店で賑わう地区からやや離れた、住宅街に近い場所ならそれなりに安い宿があるだろう」

 人魚の町に道は無いが、建物は、似たような用途の物がある程度まとまって建っている。確かに、魚車屋の近くは駅前の繁華街のように店が多かった。飲食店や宿屋の他に、武器屋、防具屋、魔法屋などの看板が見られた。大きい町だから同業の店がいくつもあるようだ。魔物狩り屋らしき人魚が何人も出入りしている。

 そこから離れ、看板を掲げていない建物の多い地区に向かう。そこはこの町の住人や、住人の日用品や食料品などを売る店が集まっているようだ。そういう地区でも、時々は宿屋が見つかる。そして便利な施設から遠い分、宿代は安かった。

 私は一泊500テニエルの宿を見つけ、そこに泊まることにした。本当はもっと安い宿が良かったが、これ以上安い宿は見つからなかったし、空も赤くなり始めた。タヴィデの町の宿屋と同じ値段なら悪くはないか、と思いつつ私は宿屋の入口をくぐった。

 宿屋の構造も前の宿屋と似ていた。一階が入口で、ロビーの先のカウンターに受付の人魚がいる。宿泊を申し込んで代金を払い、差し出された宿帳にカタカナで自分の名前を書けば、この世界の言語でサインしたことになる。

 部屋の鍵をもらい、客室に移動する。壁にあるはしごに手を掛け、上の階に向かって泳いでいく。

 私は受け取った203号室の鍵で、その部屋の扉を開けた。

 部屋の中も前と同じで、木製のフレームと布のベッド、隣には荷物置き場の台があるだけの、二畳ほどの部屋だった。窓はなく、手提げランプが天井のフックから吊り下げられている。

 私は部屋に入り、ランプのスイッチをひねって明るくし、荷物を台に置いてベッドに腰掛けた。

「大っきい町でも宿代が同じだと宿の中も同じなんだね」

「それはそうだ。日本でも同じ価格帯のビジネスホテルはどこも似たような設備だろう。リゾートホテル並みのサービスが欲しければそういう価格の宿に行くしかない。だが、そんな贅沢をしていてはすぐに金が尽きてしまうぞ」

「そうだね。これだけの設備でも十分だもん。無駄遣いはしてられないよね」

 宿屋の各階には、もちろん前の宿と同じく、共用のトイレが設置されていた。化粧室のような鏡のある小部屋にゴミ箱、その奥にトイレの個室。

 私はトイレを済ませて休憩し、夕飯を食べる店を探しに宿を出た。

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