第四章 07 休憩所
07 休憩所
建物はいくつか並んでいるが、町と呼べるほどの規模ではないので、これが休憩所なのだろう。私がそう考えていると、御者の「では、あの休憩所に向かいます」という声が聞こえてきた。
魚車が近づくにつれ、休憩所の様子がよく見えてくる。
建物は五つほどあった。食堂や、食べ物の売店のようだ。宿泊もできるのかもしれない。複数の人魚が出入りしているのが見える。
それから、魚車屋にあった牛舎を小型にしたような小屋もあった。そこにはすでに他のベージンザメと御者がいた。ベージンザメにはハーネスがついたままだが、御者の餌袋から餌をもらったり、休んだりしている。私達の乗っている魚車もそこに向かった。
二人の御者はベージンザメを停止させ、私達に言った。
「では、ここで四半時限ほど休憩します。休憩を終えたらまたここに集まってください」
その言葉で私以外の乗客は立ち上がり、ハンモックを出て泳ぎ始めた。食堂の方へ向かうようだ。私もゆっくり泳ぎだし、途中で止まる。
御者からも他の人魚からも距離を取ったところで、私は肩の上のノアタムを見た。
「休憩所とかあるんだ」
ずっと静かにしていたノアタムは、私の肩から離れてしゃべり出した。
「うむ。泳ぎ通しでは疲れるからな。高速道路のサービスエリアのようなものだ」
「あ、その例えわかりやすいかも」
私は辺りを見回す。自分達の乗ってきた魚車も今はベージンザメに御者が餌を与えている。あれがガソリンスタンドで、乗り物が休む場所。食堂は人が休む場所だ。
「あ、てことはトイレもあるの?」
「あるぞ。あれだろうな」
ノアタムがひれで示した建物は、サービスエリアのトイレ施設のような、トイレだけがいくつか集まった建物のようだ。
「わあ、じゃ行ってこようっと」
私はトイレを済ませ、外で待っていたノアタムの元に戻った。
「ええと、いつまで休憩なんだっけ。四半時限って言ってたよね。四半時限は……」
「この世界では一時間半を『一時限』と呼ぶので、その四分の一、22、3分のことだ。あそこの時計で昼の三刻過ぎだな」
ノアタムが示した建物の壁には、時計が設置されていた。針は90度のやや手前を指している。
「今は午後の三時前ってことか。お昼過ぎに出発したから、一時間半ぐらい魚車に乗ってたのかあ。ツウギの町までもそのぐらいかかるのかな?」
「そうだな。休憩所の位置はおおむね等間隔のはずだ」
「ご飯にはちょっと早いけど、なんかおやつあるかなあ」
私は売店を覗くため、そちらに泳ぎだした。
「あ、そういえば、畑や養殖場ってあんな感じなんだね」
「うむ」
「『素泳ぎ』ってのは、人間の『徒歩』みたいな意味で合ってる?」
「そうだ」
ノアタムとそんな会話をしながら、私は売店の中に入った。ノアタムに話しかけるのをやめ、店内を見回す。
そこには、町の弁当屋で見かけるような商品が並んでいた。
はさみパン、瓶詰めの果汁、砂糖ギーム焼き(クッキー)、砂糖メーコ揚げ(ドーナツ)、木の実の詰め合わせなど。だが種類はあまり多くない。食材を町の店ほど自由に持ち込めないからだろう。私は40テニエルの砂糖ギーム焼きを一袋買った。
食堂も覗いてみたが、やはりメニューは多くないようだ。それでも、食事をしている人魚が何人もいた。
食堂にはもちろん机と椅子があったが、建物の外にもベンチのような椅子が置かれていたので、私はそこに座って砂糖ギーム焼きを食べる。
休憩所には、私とは別の魚車や、素泳ぎで移動してきたらしい人魚が十数人はいただろうか。
「確かに、雰囲気はサービスエリアに近いかも。あんなに近代的じゃないけど。時代劇に出てくる峠の茶店みたいな感じ?」
「施設の役割としては同じだからな。シンがそう感じてもおかしくない」
おやつを食べながらノアタムと話しているうちに、四半時限が過ぎた。
私が魚車の位置に戻ると、御者はベージンザメの支度を調えていた。他の乗客達と一緒にまた魚車に乗り、ツウギの町へ向かった。




