第四章 09 ツウギの町の食事
09 ツウギの町の食事
私が選んだ宿は繁華街から離れているので、人で賑わう方向に泳ぎ出す。日は落ち、上空は暗くなっているが、ツウギの町の建物には明かりがともり、町の中は明るかった。泳ぐのにも店を探すのにも支障はなく、私はおいしそうな料理屋を見つけてそこに入った。
そこはタヴィデの町で自分が入ったどの料理屋より大きかった。大きい町には大規模な店があるものだ。客もたくさん入っているが、テーブルもたくさんあるので、私は隣に客のいない席を選んで座る。
メニューには、初めて見る料理名が増えていた。
『トリポイの卵と海草のサラダ 40テニエル
トリポイと海草のスープ 50テニエル
ブータッポと海草のスープ 60テニエル
トリポイとトリポイの卵の炒め物 70テニエル
ブータッポの炒め物 70テニエル
焼きウーシポ(角切り) 80テニエル
焼きウーシポ(厚切り) 120テニエル
トリポイの卵のパスタ 70テニエル
ブータッポと海草のパスタ 80テニエル
薄切りウーシポと海草のパスタ 90テニエル
ルクミ 100テニエル』
「わーっ! 増えた!」
「増えたのではない。シンが魚の固有名詞を知って、シンの目に映る日本語訳が具体的になっただけだ。それにルクミは、やや高級品なので小さな店にはない。だから今までの店のメニューで見かけなかっただけだ」
ノアタムの建前を聞き流し、私はどれを注文するか迷う。
「やっぱ鶏と豚と牛と全部制覇したいよねー。卵も欲しいし……ルクミもどれだけ牛乳っぽいか確かめてみたいし……」
「なにも今日、全部食わんでも……食い過ぎではないのか……」
「いいの、移動で疲れたんだから」
「ほぼ魚車の移動ではないか」
メニューの影でノアタムと会話しながら、私は今日の夕飯を選んだ。
私は、トリポイの卵と海草のサラダ、トリポイと海草のスープ、焼きウーシポ(角切り)、ブータッポと海草のパスタ、ルクミを注文した。
サラダは、海草にスライスしたゆで卵が乗っていた。卵は大きさも味も鶏卵に似ていた。スープも、鶏肉と野菜のスープに似ていた。スープの味自体も鶏ガラのようだった。焼きウーシポは牛肉のサイコロステーキに近かった。パスタは、豚肉と野菜のパスタのようだった。ルクミもミルクのような味がした。
「……あれ? そういえば、パスタって前は『ギームの麺』みたいな表記じゃなかった? 今は普通に『パスタ』って書いてあるね」
ブータッポと海草の味が染み込んだパスタを味わいながら、私はノアタムに尋ねた。
「シンはこの間、オープンキッチンで麺打ちを見せる店に入っただろう。パスタを作っている所を見たから日本語訳がパスタになったのだ」
「ふーん。確かに、『パスタ』って三文字だけの方が読んでてこっちも楽だし。日本語訳がわかりやすくなったのか。
あっでも、これだと麺の材料がギームかメーコかわかんないよ?」
「ノアタムアは中世ヨーロッパ風ファンタジーの世界だから、メーコよりはギームの方がよく使われるのだ。パンもただ『パン』と表記されることが多いだろう。材料がギームであれば特筆せずに『パン』や『パスタ』とだけ書かれることが多いのだ」
「ああ確かに、メーコの場合は『メーコのパン』とか書かれてた気がする。そういうことかあ」
そんな会話をしながら、私は夕飯を平らげた。合計で350テニエルにもなったが、おいしかったので満足だ。
私は腹一杯で宿に戻った。
私は房楊枝で歯を磨き、寝間着に着替えた。
この宿も、前の宿と同じように一階に洗濯部屋があるので、私は下着だけ洗いに行った。水中なので、洗濯板でさっと洗えばあとは乾かさなくてもよいので楽だ。
部屋に戻ってくつろぎ、やがて私は眠りについた。




