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目覚めたら異世界で人魚だった  作者: 御餅屋ハコ
目覚めたら異世界で人魚だった 第四章
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第四章 01 宝貝ハンター


第四章


01 宝貝ハンター


「たからがいハンター?」

 聞き返す私に、ノアタムはうなずいた。

「うむ。日本語でも『タカラガイ』と呼ばれる種類の貝があるだろう。貝殻に光沢があり、一部の国では貨幣として使われたり、漢字の『貝』の元になったりした貝だ。

 ノアタムアで言う『宝貝』は、もっと広い意味での『美しい貝、お金になる貝』を指す。

 地上の人間も美しい貝殻を収集して愛でたり、貝殻を加工して装飾品にしたりするだろう。人魚も同じだ。そのための貝を集めてくる人魚を『宝貝ハンター』と呼ぶのだ」

「そうなんだ……。でも、人間は海に行かないと貝を捕れないけど、人魚だと貝なんてその辺ですぐ見つかるんじゃないの?」

 私は周りを見回した。海に生える樹木と海藻。魔物の気配は無いので、魚がその間を泳いでいるのが見える。貝だって、植物をのぞき込めばその辺にいそうな気がする。

「貝自体は確かに身近にあるが、入手しやすい物はそれだけ価値が下がる。地上にだって石はたくさんあるが、道ばたの石ころと美しい宝石とでは価格が異なるだろう。金になる貝を入手してくるのが宝貝ハンターだ」

「なるほど」

「高く売れる貝は人魚の生活圏から離れた場所で探さねばならん。そういう場所は魔物が出やすい。だから宝貝ハンターは魔物狩り屋も兼ねていることが多いのだ。

 シンにはノアタムアを広く見て回って欲しいのでな。魔物を倒すだけでは稼ぎきれん生活費は、宝貝の入手で補うことにしよう。

 本格的な宝貝ハンターは、貝の生態や貝殻が流れ着きやすい場所など、詳しい知識を得ているものだ。だが、魔物狩りで森や洞窟に行くついでに、売れる貝殻が落ちていないか探すだけの人魚もいるのでな。シンもそういう、ゆるい宝貝ハンターを魔物狩り屋と兼業していることにしよう。

 そして、時々は神の力で、いい物を拾わせてやることにしよう」

「ほんと!」

 私は身を乗り出した。

「だが、そんなに頻繁には贔屓してやらんぞ。そもそもシンには中級の魔法を三つも使える設定にしてやったのだ。魔物狩り屋だけで一人旅ができんことはないのだぞ。もっと敵とうまく戦えれば良いのだが……。

 まあ、『ずっと一人旅をしてきた設定』とはいえ、実際のお前は数日前に動き始めたばかりだ。一人旅は続けてもらいたいし、これで手を打とうではないか」

「やったあ! じゃあ、今すぐその宝貝を出してみてよ」

「目の前には出せんよ。今まで何も無かった場所に突然、物体が現れるのは不自然だ。そうだな、あの木の裏を探してみろ。そこは木陰で、シンが一度も覗き込んだことがない。だから『今まで気づかなかったが宝貝が転がっていた』という設定を作ることが可能なのでな」

 ノアタムは辺りを見回し、近くの木をひれで指さした。

 私は言われたとおり、その木の裏を覗く。木の根元には海藻が生えており、かき分けると小さな魚が逃げていった。海藻の根元を探っていくと、貝殻が二つ、見つかった。

 それは、巻貝だった。十センチ弱ほどの大きさで、鮮やかなオレンジ色をしている。形は円錐形で、巻貝の頂点から放射状に茶色い縞模様が走っている。

「それは、ニッコ貝だ」

 私の隣に泳いできたノアタムが言った。

「ニッコ貝? ああ、この縞模様が日光みたいだから?」

「『ニッコ』はノアタムアの言葉で『形が整っている』のような意味だ。ニッコ貝は正三角形に近い形になるのでな」

 ノアタムはムスッとした顔で説明した。

「こんな綺麗な貝、この辺にいるの?」

 私は話題を変えた。周りを見ても、樹木や海底にこんな鮮やかな貝は見当たらない。

「ニッコ貝は生きているときは軟体部分が貝殻を覆うので、貝殻の色がよく見えんのだよ。日本語で言うタカラガイもそういう生態をしておる。

 それにどんな貝殻でも、潮の流れに乗って転がり、移動する可能性はある。海はつながっているのだからな。確率は低いが、それをシンに遭遇させることができるのがわしの神の力だ」

「はいはい。……あれ、この二つの貝、巻き方が違うね」

 私はノアタムの自慢を聞き流して手元の貝を見つめたので、それに気づいた。

「うむ。ニッコ貝は広い海域に生息するのでそこまで珍しくない貝だが、貝殻が美しいので宝貝として買い取られている。

 だが、基本は右巻きの貝なのだ。そしてまれに、左巻きの貝が生まれる。左巻きは珍しいので、価格が高くなる。そしてこれはかなり大きく育った貝殻で、同じ大きさの右巻きの貝とセットだ。二つ合わせて売るとかなり高い値が付くだろう」

「へええ~!」

 私は二つの貝を見比べる。上から見ると円で、横から見ると正三角形に近い、円錐形の巻貝。それが鏡に映したように右巻きと左巻きで、私の手の中に収まっている。色も綺麗だし、確かに高く売れそうだ。

「じゃあさっそく町に戻って売ろう!」

「待て。宝貝の売買はタヴィデの町ではできん。RPGではアイテムの売却はどの町でも簡単にできるが、ノアタムアではそうはいかん。宝貝を売るには専門の店に行く必要がある。

 宝貝を扱う店は『貝取屋』と言う」

「『かいとりや』……貝を買い取るからか……」

「日本語で語呂合わせをした方が覚えやすいだろう。それと、貝の『とりあつかい』をしている施設なので、宝貝の販売も行っている。地上で言う宝石商のようなものだ」

「なるほどね。で、その貝取屋がタヴィデの町にないんなら、どこにあるの?」

「貝取屋はもう少し大きい町にある。タヴィデの町からだと、北のツウギの町が一番近いな」

「『ツウギ』……『次』の町か……」

「いちいちネーミングの元ネタを考えるな。ツウギの町に向かうなら、タヴィデの町を発つ準備をせねばならんぞ」

「そうだね。せっかく手に入れた貝、早く売りたいし。じゃあ今日の魔物狩りはここまでにして、タヴィデの町に帰るか」

 私は手に入れたニッコ貝を鞄にしまい、町に戻ることにした。

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