第三章 17 弁当とお菓子
17 弁当とお菓子
次の日も私は魔物狩りに向かうために早く起きた。身支度を調え、宿の近くの店で朝食を済ませる。
それから弁当を買いに、開いている店に向かった。大きめの弁当屋を見つけ、中に入る。出入り口近くにははさみパンが並んでいたが、店の奥に向かうと、お菓子のコーナーがあった。
「やっぱりお弁当屋にもお菓子があるんじゃん」
「シンが今まで立ち寄った店には置いていなかったか、シンがそのコーナーを見過ごしていただけだ」
確かにこの店は広いので、店内には、戦士と魔法使いが数人ずつの、魔物狩り屋らしいパーティが何組かいた。彼女達の話し声に紛れ、私とノアタムも小声で会話することができた。
お菓子は薄い紙袋や瓶に入れられており、手書きで商品名と値札が付けられていた。
『砂糖ギーム焼き 30テニエル
砂糖メーコ焼き 30テニエル
蜂蜜ギーム焼き 40テニエル
蜂蜜メーコ焼き 40テニエル』
三百円分のクッキーが入ったような小袋には、そう書かれていた。
「これ、この世界におけるクッキー?」
私はノアタムにそう尋ねる。
「うむ。ギームかメーコに、砂糖か蜂蜜を混ぜて焼いたものだ」
「昨日食べたパウンドケーキも、『四角焼き』とか書いてあったけど」
「ギームかメーコに、砂糖や蜂蜜を混ぜて甘くした生地を『砂糖ギーム』や『砂糖メーコ』と呼ぶ。
そして基本的に、できあがりが柔らかい菓子は、生地名の前に『薄焼き』や『四角焼き』といった説明を付け、できあがりが固い菓子は、生地名の後に説明を付けるのだ」
「なるほど。じゃあこっちは……」
私はクッキーの隣にある菓子を見る。
『砂糖ギーム揚げ 50テニエル
砂糖メーコ揚げ 50テニエル
蜂蜜ギーム揚げ 60テニエル
蜂蜜メーコ揚げ 60テニエル』
そこには穴のないドーナツのようなお菓子が、値札と共に並んでいた。
「生地を揚げた固めのお菓子だから、後ろに『揚げ』って付いてるんだ」
「そういうことだ」
「どっちも、砂糖より蜂蜜の方がちょっと高いんだね」
「地球でもそうだろう。人が植物から直接、糖分を抽出するのと、他の生物が植物から集めて巣に蓄えた物をいただくのでは、手間が違うからな」
「そっか、なるほど。でも手が出ない高級品ってほどじゃないんだね。
うーんどっちを買おうかな……。でも、甘くないお菓子も欲しいなあ」
「あっちにあるではないか」
ノアタムがひれで示した先には、瓶詰めのナッツのような物が並んでいた。
『木の実詰め合わせ(蜂蜜) 50テニエル
木の実詰め合わせ(スパイス) 50テニエル』
「この世界の『木の実』はフルーツっぽい実だけじゃなく、ナッツ系も指すんだ」
「『木の実』であることに変わりはないからな。柔らかい実も固い実もある」
「スパイスもあるんだね」
「もちろんだ。シンが今まで食べた料理にも使われていたはずだぞ。シンが今、甘くない物も欲しいと言ったように、様々な味を求めるのは人の自然な要求だ。それは人間も人魚も変わらん。地上の人間が植物から様々な調味料を作り出すのと同じで、ノアタムアにも様々なスパイスがある」
「確かに今まで食べた料理、いろんな味がしてたもんなあ。じゃあこの、スパイスのナッツと、あとは……」
私はしばらく迷った後、蜂蜜ギーム焼きと砂糖メーコ揚げ、木の実詰め合わせ(スパイス)を買うことにした。それから昼食用に、貝と海草のはさみパン50テニエルと、海草の実のジュース10テニエルを選んだ。
合計で200テニエル。そのうちお菓子が140テニエル。お菓子とは高いものだ。だが、おいしいのだからしょうがない。
その分もっと頑張ろう、と思いながら私は店を出た。




