第三章 15 その日の成果
15 その日の成果
戦闘を終え、力の抜けた私はとにかく座りたくて木の根元を目指す。
「おい、油断するなよ。他の魔物もいるかもしれんのだからな」
ノアタムもそう言いながらついてくる。
「ああ、そうだね……」
私は周りを見回す。魔物はいなさそうだ。私はナイフを鞘に収め、木の根元に腰を落ち着けた。
「痛てえーっ」
私はゴブリンに殴られた下半身を見る。人間でいう左の太もも辺りに、打撲の痛みが続いている。戦闘中はじっくり見ている暇もなかったが、その箇所のうろこがいくらか剥がれていた。
「ああ、こんなになって……早く魔法で治さなきゃ……」
ちょうど昨日、魔法屋でこんな怪我を治す練習もした。回復魔法でうろこも再生するはずだ。それがわかっているので、私は取り乱さずにすんだ。
「傷よ……癒えよ」
痛みをこらえて精神集中し、傷に手をかざしてそう言葉を発すると、うろこが修復され、痛みも消えていった。
「治ったー! よかったー!」
私は安堵のため息をつく。なんとか一人でゴブリンを倒し、受けたダメージも自分で回復出来た。
「よくやったな」
ノアタムが私の隣に三脚で立ちながら言う。
「疲れたぁー! ご飯食べよ」
私は弁当を取り出し、そこで休憩することにした。
「……でも今の、ゴブリンが一匹……一体? 魚より大きいから一体って呼んだ方がいいかな?」
「好きにするがいい。魔物だからな」
「じゃあ、ゴブリンが一匹だったからなんとか倒せたけど、二匹いたら勝てる気がしないよ」
「うーむ……。シンの能力ならば、絶対に無理、ではないと思うがな」
「そりゃRPGなら、残りHPが0にならない限りは戦えるし、戦闘終了後に回復魔法を重ねがけしてHPをマックスに戻せるけどさ、私は棍棒を一発食らっただけでしんどかったもん、もっと何発も殴られたら敵を倒すのもきっと無理だよ。
仲間がいて、戦闘後に回復するのは全部お任せ出来るっていうならまだしも、回復魔法を使う余力を残しておかなきゃと思うと、捨て身で攻撃ってわけにも行かないし」
「そうだな……」
「ゴブリンが一匹ならいいけど、二匹いるのを見かけたら、向こうに気づかれる前に逃げないとやばいかもなあ」
「まあ確かに、無茶な戦いをして再起不能になるのはよくない。魔物と戦うのに卑怯という言葉は必要ないからな。確実に勝てる相手にだけ戦いを挑むのは賢明な判断だ」
「となると……ゴブリンと戦うのは敵が一匹だけの時で、ザーコウオやキヴァーヲだったら、二匹ぐらいいても頑張って倒す……って感じかな」
「そうだな。まずはそれでやってみて、コツをつかんだら挑む敵の数を増やしてみたらどうだ」
「そうだね」
ノアタムとそんな会話をしながら私は弁当を食べ、休みを取った。怪我は魔法で回復させたし、精神力も昼食で回復したようだ。私は立ち上がった。
魔物を探しに行く前に一度、林を出て公衆トイレに向かう。すっきりしてから林の中に戻り、また魔物を探して泳ぎだした。
やがてキヴァーヲを一匹見つけたので、戦って倒した。先日、自分に噛みついた魔物と同じ個体かどうかはわからない。だが、一対一だったので、噛まれないようにしながらナイフと魔法で倒すことができた。
それから、ザーコウオ一匹と、キヴァーヲ一匹の組み合わせと出会った。敵が複数とはいえ、魚二匹なので、戦いを挑んでみた。キヴァーヲの牙を警戒しつつ、確実にダメージを与えていく。ザーコウオの突進は何度か食らったが、ザーコウオに牙はないので大ダメージにはならなかった。岩にぶつかってちょっとすりむいた、程度の痛みだった。私は一匹ずつ着実に倒し、それから自分に軽く回復魔法をかけた。
その後、ゴブリンが二匹いるのを見かけたが、私は近づかずにそっとその場を離れた。
そして別の場所で、ゴブリン一匹と、ザーコウオ一匹がいるのを見かけた。これならば勝てるかもしれない。私は戦いを挑んだ。ザーコウオはとりあえず無視し、ゴブリンを倒すことだけに集中する。ザーコウオが体当たりしてくるがその痛みは我慢し、ゴブリンの棍棒を避け続ける。そして自分の魔法とナイフをゴブリンに当て続ける。攻撃を避けることに重点を置いているので、なかなかこちらの攻撃も当てることができない。だが、少しずつだがゴブリンにダメージを蓄積させ、ついに倒した。それからザーコウオに向き合い、倒した。かすり傷はたくさん受けたが、ゴブリンの棍棒で殴られるよりはましだ。私は回復魔法で自分を癒やした。
「おお、蓄光石が銀色になってる!」
今日はそれなりに魔物を倒した。蓄光石はどうなっているだろうと、タンクトップの内側に垂らしたそれを引っ張り出した私は、そう声を上げた。
これまでは銅貨と同じ色に輝いているところしか見たことがなかったが、今は銀貨と同じ色に輝いている。
「蓄光石に溜まった光が500テニエルを越えたのだ」
「500テニエル! ってことは五千円だよね! 私、今日はそれだけ稼いだんだ!」
「うむ。細かい金額は鑑定屋に行かないとわからんが、500テニエル以上、5,000テニエル未満の金と交換出来るのは確実だ」
「やったあ! じゃあ今日はこれで帰って鑑定屋に行こうかな。それなりに時間も経ったみたいだし」
倒せそうな魔物だけを探し、戦闘でも攻撃を避けることを重視したので戦闘には時間がかかった。気づけば林の中に降り注ぐ木漏れ日が少し赤くなってきている。もう夕方なのだ。
私は今日の魔物狩りはここで切り上げ、タヴィデの町に戻ることにした。




