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目覚めたら異世界で人魚だった  作者: 御餅屋ハコ
目覚めたら異世界で人魚だった 第三章
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第三章 14 新たな魔物の姿


14 新たな魔物の姿


「一晩休んで、HPもMPも満タンって感じ。今日はバリバリ魔物を倒すぞー!」

 昨夜は早くに寝たので、朝の目覚めは快適だった。私は身支度を調え、宿の近くの店で朝食を取り、弁当を買って、町の外に向かっていた。この世界での朝の過ごし方も、ずいぶんと慣れてきた。

「やる気があるな。いいことだ」

 私と並んで泳ぎながらノアタムが言う。

「今日はキヴァーヲに噛まれても慌てないもんね、多分。噛まれないに越したことはないけど」

 今日も二日前に向かったのと同じ、町の南西の林に向かうことにした。おとといの雪辱を果たすのだ。

「だが、同じ魔物が今もいるとは限らんぞ。それに、ザーコウオ二匹を倒して油断していた時に噛まれたから、余計に動揺したのだろう。

 魔物の出る場所では、いつどんな敵が出るかわからんのだ。常に気を緩めるな」

 ノアタムに言われなくても、今日は戦闘終了後も油断しないつもりだ。それに回復魔法も使えるようになっている。今日は逃げ出さずに日暮れまで魔物狩りをするのだ。

 私は気を引き締めて、南西の林に向かった。

 林は先日と同じ姿でそこにあった。木々が広がり、草のように海藻が生えている。魚は泳いでいるが、魔物の気配はしない。他の魔物狩り屋も近くには見当たらない。

「魔物、いないね……」

 私は警戒しながら、林の輪郭に沿って少しずつ移動する。

「思い通りに魔物と遭遇できるとは限らん。だが、林の中に入れば、エンカウントの確率は高まるだろう」

「そうだね。よし、行ってみるか!」

 私は林の中に向かって泳ぎだした。先日は林と海底の境目辺りをうろついただけだったので、茂みの中に入っていくのは始めてだ。

 海の底とはいえ、ノアタムによって生える設定が作られた深海の樹木は、地上にある樹木と似た形で広がっていた。円柱形の固い幹が縦に伸び、上に行くにつれて枝分かれしている。枝の先には葉が生い茂っている。

 林の外はノアタムによって作られた太陽により明るかったが、中はやや暗かった。複数の木々の葉が重なり、頭上を覆っているからだ。しかし鬱蒼とした深い森ではないので、木漏れ日は降り注いでいる。

 明るさはあるが、木陰から何が飛び出すかわからない。私は警戒しながら木々の間を泳いでいった。

 地上で林の中を鳥が飛ぶように、深海の林の中も魚が泳いでいた。だが突然、魚達が息を潜めたように感じた。

 魔物の気配だ!

 私は辺りを見回す。

 それは、いた。

 自分から少し離れた木々の間から、こちらを睨んでいる。

 初めて見る魔物だが、一目でそれが魔物であるという確信を持った。

 ザーコウオやキヴァーヲと違い、両腕があり、武器を持っていた。棍棒だ。

 ボロとはいえ、衣類も身にまとっていた。

 大きさは自分の半分ほどで、全体的に緑色だった。

 つり上がった目、とがった耳、耳まで裂けた口があり、凶悪な顔つきでこちらを見ている。

「こ、これってまさか、……ゴブリン?」

 私は魔物から目を離さずに、隣のノアタムに尋ねる。

「そうだ。RPGの序盤の雑魚モンスターとしておなじみのやつだ。大体どの作品も同じような姿だから、わしに聞かんでもわかるだろう」

「いや……だって……、なんでゴブリンが人魚なんだよ!」

 私は叫ぶ。私だって多分ゴブリンだろうとは思った。だが、目の前の魔物は、下半身が魚だったのだ。

「人間にとってのゴブリンは、『自分達より一回り小さい、邪悪な小鬼』というイメージを絵にしたような姿だろう。

 ならば人魚にとってのゴブリンは、『自分達より一回り小さい人魚』になるのは当然ではないか」

「え、ええっ? そうかな……」

 私は木陰にいる『その魔物』から目を離さないようにしつつ、ノアタムの言葉を聞く。

「前にも説明したように、この世界における精霊は、所有者の人魚が容姿を設定し、国に申請して具現化する。

 だが魔物は、精霊のストレスが自動的に具現化する。

 その際、魔物の外見は、その地の人魚達の深層心理にあるイメージが反映されるのだ。

 地球の人間達が大昔から描き続けてきた怪物の絵もそうだろう。その地方の動植物や人間がモデルになっていることが多い。

 だからこのノアタムアで遭遇する『人型の魔物』は、『人魚にとっての人型』、つまり『人魚の姿』というわけだ」

「う、うーん確かに、日本の妖怪と西洋の妖精って、見ただけで区別が付くもんねえ。ここは深海で、地上とは交流がないってあんたが言ってたし、だったら人魚達は魔物の外見に『人間みたいな足』なんて、想像もつかないか……」

 そこまで言い、私は急いでナイフを抜いた。『ゴブリン』がこちらに向かって泳ぎだしたからだ。

「のんきに話してる場合じゃないね!」

 この世界のゴブリンは下半身が魚。私はその事実を受け入れた。それに、人間の足より魚の尻尾の方が泳ぐのに適しているのは、目の前のゴブリンの移動速度でよくわかった。

 ゴブリンは私の近くまで泳いできて、棍棒を振り下ろした。私はそれをかわし、ナイフでゴブリンを牽制しつつ、後ろに下がって距離を取る。棍棒とナイフで斬り合うより、魔法で攻撃した方がいいと思ったのだ。

 私は右手にナイフを持ったまま両手を向かい合わせ、そこに火の玉が現れてくることをイメージする。昨日から何度もやっているので、体も素早く反応するようになってきた。

 こちらに向かってくるゴブリンに、ナイフを握ったままボールを投げる仕草をする。

「炎よ!」

 火の玉はゴブリンに命中した。

「グッ!」

 ゴブリンがうめく。

「あっ、声が出た!」

「魚ではなく、人型だからな。人が、人魚が声を発するように、人型の魔物も声ぐらい出す」

 少しは慣れたところからノアタムがそう言った。

「グアアア!」

 ゴブリンは怒りに満ちたうめき声と共に棍棒を振りかざし、また私に向かってくる。

 声が出せるとはいえ、精霊と違い、会話にはならないようだ。『魔物の思考能力は戦闘の判断力ぐらい』と、以前ノアタムに聞いたとおりだ。

 ダメージを受けていらだっているゴブリンは棍棒を振り回した。私はそれをかわし、また距離を取って火の玉を放とうとした。だが手負いのゴブリンは私が後ろに下がるのを許さず、何度も私に向けて棍棒を振り下ろした。最初の何発かはかわすことができたが、私はついに、ゴブリンの棍棒を体に受けてしまった。

「痛てーーーーっ!!!!」

 下半身の魚部分、人間でいうと左の太もも辺りに衝撃が走る。

 ゴブリンは自分の半分ぐらいの大きさなので、棍棒も野球のバットの半分ぐらいの大きさだ。とはいえ殴られれば当然、痛い。

「このやろー!!」

 私もダメージを受けていらだった声を出し、ナイフをゴブリンに向けて何度も振り回した。むちゃくちゃな戦い方だが、ナイフは何度かゴブリンをとらえた。粘土細工を切りつけたように、血の出ない傷跡がゴブリンの体に付く。ゴブリンの服も少し切り落としたが、ゴブリンから離れた布きれはしばらく水中を漂った後、溶けるように消えていった。

 衣類も含めて『魔物というエネルギー体』、ということなのだろう。

 頭の隅でそう思うほどには、冷静さが戻ってきた。とはいえ攻撃を受けた尻尾はまだ痛む。

 ゴブリンも棍棒をめちゃくちゃに振り回して疲れたのか、攻撃の手を止めて一息ついた。私はその隙にゴブリンから離れ、痛みを我慢しながらもう一度、魔法を使おうとする。

 私は一瞬、迷った。ゴブリンもすぐに体勢を立て直し、また襲ってくるだろう。回復魔法と攻撃魔法、どちらを使うべきか。

 私は攻撃に徹することにした。さっさとゴブリンを倒さないと、また打撃を受けるかもしれない。

 私は痛みをこらえつつ、火の玉を放つために精神を集中する。痛みに気を取られるが、なんとか手の中に火の玉を作ることができた。

「炎よ!」

 私の放った火の魔法は、またゴブリンに命中した。しかしゴブリンはまだ倒れない。

「くそーっ! 強いなこいつ!」

 ゴブリンはまた棍棒を振りかざして私に向かってくる。私もナイフを構えて抵抗する。

「ザーコウオやキヴァーヲよりはな。だが、シンが勝てない相手ではないはずだ!」

 近くからノアタムの声が聞こえる。私はそちらを見る余裕もない。必死にゴブリンの棍棒をかわしながら、自分のナイフをゴブリンに当てることに集中する。

 ゴブリンごときに負けてはいられない。剣と魔法の世界で冒険の旅をするのは、私の夢だったんだから!

 私は気合いを込めてナイフを振り続ける。ゴブリンも必死で向かってくるが、私の方が体が倍ぐらい大きいので、腕のリーチもそれだけ長い。なんとか自分の攻撃だけを当て続けることができた。

 やがて、ついに蓄積したダメージが限界に達したのだろう。ゴブリンが動きを止めた。

「ガ……」

 ゴブリンは体をのけぞらせ、そのままの姿勢で、溶けるように光になっていった。光が私の胸元の蓄光石に吸い込まれていく。

「や、やったー!」

 私は脱力し、そのままへろへろと地面に向かって降りて行った。

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