第三章 01 質問(魔法とか一人称とか蓄光石とか)
第三章
01 質問(魔法とか一人称とか蓄光石とか)
「……ねえ、一人旅する人って、ああして怪我しても自分で回復魔法を使って治すの?」
タヴィデの町に向かいながら、私はノアタムに尋ねた。
「そうだ。さっきの怪我で回復魔法の練習ができればよかったのだがな」
「無理だよ~痛かったもん」
私は治してもらった左腕をさする。
「あんな痛みは初めて……いや、『最近の記憶には無い』し。
昨日は魔物に一撃も食らわなかったし、今日も途中まではうまくいってたのに、突然あれだもん。
私って、『ずっと一人旅をしてきた』、それでやってこれた設定なんでしょ。魔法やナイフもそこそこ使えるみたいだし……。でも、あのぐらいの怪我はちょくちょくしてたわけ?」
「そりゃあ、魔物と戦っていれば怪我ぐらいする。
RPGだってそうだろう。主人公がレベル10ぐらいの時に単独行動して、レベル1の雑魚モンスターがたくさん出る場所に行ったとする。敵を倒すこと自体は簡単だが、敵の攻撃をすべて避けるというのは難しい。HPの何十分の一かのダメージは食らうだろう。
ノーダメージでどんな敵でも倒し続けられるのは、レベル99のチートな主人公ぐらいのもんだ。シンの能力はそこまでではないのでな」
ノアタムの例えはわかりやすかった。
「うう……。この世界で魔物狩り屋としてやっていきたいとは思ってるんだけど……。回復魔法が使えるようになったら……いや、『コツを思い出したら』、怪我しても大騒ぎせずに戦えるかなあ」
「そうあって欲しいものだ」
「でも回復魔法の練習って言っても……。
そもそも、魔法屋で回復魔法を覚えるときって、どうやるの? 炎とか風は気合いでそれを出せばいいけど、回復魔法だったら、怪我した人がいるんじゃない? まさか自分で自分を傷つけて練習台にするの?」
「それだとさっきのシンみたいに大騒ぎして集中どころではない者が出てくるだろう。かといって、練習のために他の人魚に怪我をさせるわけにもいかん。
だから、回復魔法の練習台には、精霊がなるのだ。
さっき説明しただろう、精霊は基本的には肉体がないが、必要に応じて実体を伴って具現化すると。
人魚が回復魔法を習得する時には、精霊が一部分だけ肉体を作り、そこに練習用の傷を作って人間に回復させるのだ。
……そうだな、シン、明日は魔法屋に行ってみるか」
「え、なんで?」
「回復魔法の練習を魔法屋で行うのだ。
魔法屋は、新規で魔法を覚えるコースの他に、過去に魔法を習得したがうまく使えない者が、もう一度指導してもらうコースもあるのだ。
自動車学校がペーパードライバー用のコースを設けているようなものだ。
特に回復魔法は怪我人がいないと使えないから、魔法屋で訓練し直す者も多い。シンが習いに行ってもおかしくないぞ」
「そうなんだ! じゃあ、明日行こう」
回復魔法を練習すれば、少しは戦闘で落ち着いた行動ができるかもしれない。それに、魔法屋が実際にどんな感じなのかも気になる。
「あ、そういえばさあ、さっき気になることがあったんだけど」
前向きな気分になってきたので、心に余裕が出てきたのだろう。私はそれらを思い出した。
「何だ?」
「私を回復してくれた人が言ってた、『あい』って何?」
『大した怪我じゃ無さそうですし、あいが治しましょうか?』
彼女はそう言っていた。痛かったのと、代金を提示されたことの方に気を取られてそのときは疑問に思う暇が無かったが。
「一人称の一種だ。日本語にはふさわしい単語がなかったので創作した。この世界の女性の一人称としては一般的なものだ。男性が使う『ぼく』に近いな」
「へえ……だったらそのまま『ぼく』で訳せば良かったんじゃないの?」
「男が自分を『ぼく』と言うのと女が『ぼく』と言うのではニュアンスが違ってくるからな。日本語は一人称が多いが、女性が一般的に使える二文字の一人称となると、適当な言葉がないのでな。
『わたし』と『わし』、『おいら』と『おら』、『あたし』と『あっし』のように、三文字の一人称を短くする形で、『あたい』から『あい』を創作したのだ」
「んー確かに、男は『私』『俺』『僕』と三つあるけど、女は『私』と『あたし』の二択だもんねえ。『うち』『わて』とかはちょっと方言入るし」
「うむ。異世界の言語を日本語に訳しているわけだから、該当する単語がなければ作ってしまえばいいのだ」
「それもそうだね。
あとさ、もう一つ聞きたいんだけど、魔物って、倒せなかったらどうなるの?」
私に噛みついたキヴァーヲは逃げていった。敵に逃げられるのは初めてだ。
「今もあの林で人魚を待ち構えているだろうな」
「私はあのキヴァーヲに全然反撃できなかったけど、ある程度ダメージを与えた状態で魔物に逃げられても、蓄光石に光は溜まらないの?」
「そりゃそうだ。世界のエネルギーは魔物としての形を保っているのだからな」
「まあ、そうだよね。きちんと倒さないとただの骨折り損かあ。
……あ、じゃあ、蓄光石を持たずに魔物を倒したらどうなるの?」
「魔物を倒した後の光が、蓄光石に吸われずにそのまま世界に還元されて消えていく。蓄光石を離れた場所、例えば町の宿屋などに置き忘れてきた場合も同様だ。蓄光石をつなぐひもが切れてその辺に落ちた、程度の距離なら、倒された魔物の光は、倒した人魚の蓄光石を察知してそこに吸い込まれて行くがな。
蓄光石は、『その人魚が親指と人差し指で作った輪の大きさ』で、精霊が一人に一つずつ作る。だから本人とある程度シンクロしているのだ。
しかし、落としたり無くしたり置き忘れたりしないように、肌身離さず身につけておくのが一番だ」
「なるほど」
私は首に掛けた蓄光石を服の上から押さえた。
そう話している間に、私達はタヴィデの町に帰り着いた。




