第二章 14 また練習
14 また練習
「この辺がいいかな」
私とノアタムは泳ぎを止めた。
平らな海底と、木や草が生え始める林との境目の、開けた場所。
ひと気は無いので魔法の練習に向いているし、トイレからそれほど離れていないので、またもよおしたらすぐに行ける。林から魔物が出てくれば、それを練習台にできる。
「じゃあ今度は、全体魔法をやってみようかな。威力は減るかもしんないけど、使えたら便利だもんね」
「うむ。がんばれ」
ノアタムは少し離れたところに三脚で立った。見物するつもりのようだ。
私が、火の玉の魔法を火の粉に応用できる人魚なのか。それとも、火の粉の魔法も過去に習得した設定なのか。
ノアタムは語るつもりはないようだ。
どっちでもいい。今ここで私が火の粉の魔法を使えれば、私はそれができる人だとはっきりするのだ。
「ええと、さっきは火の玉をイメージしたから……」
私は両手を動かしながら考える。
火の粉を振らせるのだから、風の魔法のように、うちわを振り下ろすイメージがいいだろうか。だが最初に火の魔法を使ったとき、手の中にろうそくほどの小さな炎がともった。火の魔法は、手の中に炎が現れることをイメージした方が力が入れやすい気がする。
考えを巡らせていると、あの気配を感じた。
「!」
もう何度も体験している。これは魔物の気配だ。
私は顔を上げ、辺りを見回す。すると近くの木の陰からこちらを睨む、凶悪な顔つきの魚が見えた。あの姿には見覚えがある。
「ザーコウオ! しかも二匹だ」
私は身構える。一度に二匹の魔物を相手にするのは始めてだ。だが、全体攻撃の練習にはもってこいだ。
「……よおし」
私はザーコウオ二匹から距離を取りつつ、精神を集中し始めた。
手の中に小さい炎がたくさん集まった火の玉が現れることをイメージし、気合いを入れる。するとだんだん手の中が熱くなってくる。
ザーコウオ二匹はこちらに突進してくるが、その前に、魔法を放つ。
「炎よ!」
手の中に現れた火の玉を敵に投げつける。火の玉は細かく散らばり、二匹のザーコウオに火の粉となって降り注いだ。
「!」
「!」
火の粉は両方のザーコウオに命中した。二匹とも身をよじる。
だが魔法の範囲を広げたため、威力は弱まっている。ザーコウオはすぐに体勢を立て直しに入ったようだ。
自分も、その間にナイフを抜く。今はザーコウオ二匹が近い位置にいたから火の粉が双方に命中した。だが、二匹がある程度離れてしまうと、それだけ広範囲に火の粉を振らせられるかは、ちょっと自信が無い。武器も使った方がいいだろうと判断したのだ。
まず一匹が、こちらに突進してくる。私はその動きをよく見て、ナイフを振り下ろした。
ズバッ!
ザーコウオに大きな傷が付く。血は出ないが深い傷が付き、ザーコウオの動きが鈍る。
その間にもう一匹のザーコウオも突進してくるが、私はそちらにも同じようにナイフで切りつけた。
ザクッ!
二匹のザーコウオにはそれぞれ私のナイフの傷が付き、素早く動けなくなった。
私は少し下がってまた魔法を使うために集中を始める。今ならまた二匹まとめて攻撃できそうだからだ。
右手にナイフを握ったまま、両手を向かい合わせて気合いを入れる。左の手のひらと右手の指が熱くなってくる。
「炎よ!」
ナイフを握ったこぶしの状態で、さっきと同じようにボールを投げるような仕草をする。それでも火の魔法は飛んでいき、ボールは細かい火の粉になってザーコウオ二匹に命中した。
二匹の魔物は光となり、私の蓄光石に吸い込まれていった。
「やったあ! 火の粉の魔法で二匹とも倒せた!!」
私は歓声を上げる。火の粉の魔法が使えたこともだし、一度に二匹の魔物を相手にして、勝利を収めたことも嬉しかった。
「うむ。よくやったぞ」
ノアタムが隣に泳いでくる。
「私ってば火の粉の魔法もできる人だったんだね! 結構器用なのかも? ナイフの扱いも慣れてきた……いや、『思い出してきた』みたいだし!」
私は声を弾ませながらナイフを鞘に収める。
「うむ、シンは『今まで一人旅をしてきた』のだからな。ザーコウオぐらいは軽々と倒せるだろう」
「でもザーコウオ二匹じゃ大したお金にはならないね。一日の宿代や食事代を賄うにはもっと魔物が出てきてもらわないと……」
そこまで言ったときだった。
左の二の腕に、鋭い痛みが走る。
「!?」
慌ててそこを見ると、キヴァーヲが鋭い牙を私の腕に突き立てていた。
「……ギャアアアアアアアア!!!!」




