第二章 11 質問(魔法の全体攻撃と単体攻撃とか)
11 質問(魔法の全体攻撃と単体攻撃とか)
紙包みを開き、ほぐした魚肉と刻んだ海草をはさんだパンをスカートの上に置く。人間ならば『膝の上』と表現する辺りだ。それから瓶詰めのジュースを自分の横の地面に、海底に置く。瓶はコルクのような弾力のある木で栓がしてある。
ノアタムはひれを三脚にして隣に立った。
「魔法の単体攻撃と全体攻撃だが、それは魔法の級によって決まるものではない。
魔法が使えるようになるには、精霊に『この人間に、世界のエネルギーをこれだけの量、呼び出すことを許可する』と認められる必要がある。
一度そうやって許可されれば、その量までなら、人魚がエネルギーを狭い範囲に使おうが、広い範囲に使おうが、自由なのだ」
「ふんふん」
私は弁当を食べながらその話を聞く。
「だが、中級の火の魔法を一つ習得したからといって、中級の火の魔法がすべて使えるようになるわけではない。
そもそも、中級といっても初級に近い所から上級に近いところまで、幅がある。同じ級の魔法でも、扱う人魚によって、精霊に許可されたエネルギー量が異なる。
それに、エネルギーの発動の仕方が違えば、気合いの入れ方も異なってくる。だから魔法が得意な者でないと、応用は難しい」
「うーん……」
私はうなりながらノアタムの話を聞く。
「そうだな、例えば、日本の語学学校を想像してみろ。
英会話教室は、初心者用、日常会話用、ビジネス用、試験用など、いろいろなコースがあるだろう。
英語が苦手な者は初心者コースの英文でも習得が難しい。
それでも努力すれば、初心者コースを修了して日常会話コースに進み、テキストの例文を丸暗記するぐらいはできるだろう。
英語が得意な者は、いきなり日常会話コースに通っても内容を理解できる。そして、テキストの例文を応用して、臨機応変に使いこなすことができるだろう。
だが、いくら英語が得意でも、知っている単語の範囲でしか応用できない。
だからもっと上達するためには、ビジネスや試験用のコースに通って、日常会話には出てこない専門用語を覚えないといけない。
この世界の人魚が魔法屋に通うのも、そんな感じに近いな」
「あーなんか、イメージできてきたかも。
例えば火の玉を一個、作れるようになりたいって魔法屋に通って、精霊に認められて習得するよね。それは例えば、火の玉のエネルギーが100だったら、同じ熱量までの火の魔法なら使えるってことだよね。100の火の玉を一個作るか、1の火の粉を百個作るかは、人魚が好きにしていいんだ。でも、器用な人じゃないと、応用して魔法を使うのは難しいわけだ」
「そう。だから器用な者なら、魔法屋で単体魔法を一つ習得しただけで、自力でそれを全体魔法に変化させられる。
だが器用でない者は、魔法の発動させたい形ごとに、何度も魔法屋に通って訓練するのだ」
「そっかー。器用な人だと費用が浮くからいいね。
ねえ、私はどっちなの? 応用できる人? さっきの火の玉を、火の粉みたいに降らせることもできる?
それか、過去に何度も魔法屋に通って、火の粉みたいに降らせるやり方も習得してる、って設定になってるの?」
「それはお前自身で確かめてみるといい。シンは『魔法とナイフを使って一人旅をしてきた』のだから。どんな火の魔法が使えるのかは、自分が一番よく知っているはずだ」
「煙に巻くようなこと言って……。応用できる人、って確定してれば、今後違う魔法を覚えるんでも、魔法屋に一回通えば済むから安上がりでいいのに……」
「そうは言うがな、魔法の範囲を単体から全体に増やせば、威力は弱まるのだぞ。
威力100の火の玉を一個作る魔法を覚えた人魚がいるとしよう。その者は器用で、自力でその火の玉を、火の粉の全体魔法に応用もできたとする。
だが、威力100火の玉を二つ同時に作って放ちたければ、やはりもう一度魔法屋に通って、威力200までのエネルギーが使えるように、精霊に認めてもらう必要がある。
これは例え話だから、ここまで厳密な数値が決まっているわけではない。だが、単体攻撃と同じ威力で全体攻撃を使おうと思ったら、魔法屋に通って訓練する必要があるだろうな」
「そっかー。魔法をたくさん使えるようになるには、魔法屋に何回も通わないといけないんだ。お金かかるなあ」
ため息をつく私に、ノアタムは言った。
「そういう仕組みでないと困るのはお前だぞ。
誰もが『火の中級魔法を一度習得したら、あとはどんな火の中級魔法も使える』ということになったら、町の魔法屋の経営が成り立たん。
ゲームでは、町の施設をプレイヤーが気が向いたときに使うだけでもよいが、実際の施設は、客が来なければ経営難に陥る。
『以前、火の玉の魔法を覚えに通って、今度は、火の粉の魔法を覚えに来ました』という客が何人もいなくては困るのだ。
だから、精霊の姿を美しくデザインし、他の魔法屋ではなくうちに来てください、と客を呼び込むわけだ」
「……ああ! 鑑定屋を出たときにもそう言ってたね! 精霊が綺麗な顔で萌えキャラみたいになってるのは、そういう理由もあったんだ」
私は納得した。
「語学学校などでも、先生が好きだから通う、という場合もあるだろう。人魚が精霊の外見に好意を持てば、やる気につながって上達しやすい。今すぐ必要でもないけど、精霊に会いたいから新たな魔法を覚えようか、と何度も魔法屋に通う者も出てくる。経営者は利益を得るし、通う人魚は自分の能力が増える。
施設の運営側にも利用者側にもメリットがあるから、精霊の外見は美しく作られていることが多いのだ」
「なーるほどねー」
私は大きくうなずいた。




