第二章 10 実戦で実践
10 実戦で実践
「この感じは……」
私は辺りを見回す。これは昨日、魔物が出たときに感じた雰囲気と同じだ。
そして近くの木の陰に、凶悪な顔の魚がいるのを見つけた。
「うわっ、なんか、すごい……」
その魚はピラニアに似ていたが、ピラニアよりももっと大きな牙を持っていた。セイウチのように口から長い牙が飛び出している。しかも牙は普通、左右に一本ずつのはずだが、横並びに五本ほど、同じ長さの鋭い牙が口から飛び出していた。
「凶魚の一種、キヴァーヲだ。生物ならば歯があんなに飛び出していては食事しづらい。牙だけ長くして、前歯は短いのが普通だ。だが魔物は食事をしないので、歯は敵を攻撃するためだけの形状を取れるのだ」
「牙の魚だから、きばうお、キヴァーヲってことか。相変わらず雑だね……。まいいや、今日は魔法で戦ってみるよ」
私はネーミングについてはそれ以上気にせず、火の魔法を使うために精神集中を始めた。
びゅんっ!
「うわっ!」
だが魔法が発動する前に、キヴァーヲが突進して噛みつこうとしてきたのでそれを避けた。そのため、集中が切れた。
「これ……戦いながら魔法って、無理じゃない?」
私はキヴァーヲの動きを警戒しつつノアタムに言う。
「慣れれば中級の魔法も、そんなに長い時間集中しなくても発動できる。シンは『今までに何度も中級の魔法を使っている』はずなのだ。だから、やれるはずだ」
ノアタムはやや離れた場所から答えた。
「そ、そうは言っても……!」
両手を向き合わせてさっきより大きな火の玉が現れることをイメージしようとしても、またキヴァーヲが突進してくるので集中が切れる。キヴァーヲの牙を回避するだけで精一杯だった。
「シン、お前は火の魔法だけでなく、風の魔法も使えるのだ。風で敵を押さえ込み、距離を取って火の魔法を使え」
「……そうか」
私はノアタムの助言通りやってみることにした。さっきと同じぐらいの強さの風なら、キヴァーヲに突進される前にやれそうだ。
私はキヴァーヲの突進をかわし、キヴァーヲの背後に回って精神を集中した。キヴァーヲが向きを変え、もう一度突進してくる前に右手を挙げ、大きなうちわを持っていることをイメージする。
「風よ!」
私は手を振り下ろした。さっきよりも強いぐらいの風が、キヴァーヲを吹き飛ばす。キヴァーヲは数メートル先まで飛ばされた。
今のうちだ。私は両手を向かい合わせ、火の玉が現れてくるのをイメージする。
キヴァーヲは体勢を立て直し、こちらに泳いでくる。だが自分も、手の中が熱くなってくるのを感じた。
「炎よ!」
手の中に、野球ボールぐらいの火の玉が現れた。突進してくるキヴァーヲに向けて、それを投げつける。
「!」
キヴァーヲは火の玉の直撃を受け、身をのけぞらせた。大ダメージのようだ。
「もう一発!」
私はキヴァーヲがもがいている隙を突いて、もう一度精神を集中した。同じように手の中に火の玉を作り、キヴァーヲが体勢を立て直す前に投げつけた。
「!!」
キヴァーヲは目と口を大きく開き、そのまま、存在が薄くなっていった。その代わりに光が現れ、私の胸元に吸い込まれていった。
「やった! 倒した!!」
私はタンクトップの下から蓄光石を引っ張り出す。鑑定屋で黒に戻った蓄光石は、また銅の色に輝き始めていた。
「うむ、よくやったぞ」
ノアタムがそばまで泳いできて褒める。
「こうやって光になって吸い込まれると、確実に倒したってことがわかるからいいね。倒したと思ったら反撃された、なんてことにならないから」
「そうだな。だが、油断するなよ。魔物と戦ったということは、そこは魔物が出やすい場所なのだからな。新手が現れるかもしれん」
ノアタムに言われ、私は辺りを見回す。だが、魔物の気配は感じられなかった。
「今は他にいないみたいだね。……そういえば、今は敵が一匹だったから火の玉を作って投げたけど、これってRPGで言う『単体攻撃』の魔法だよね。魔法で『全体攻撃』をしたい場合ってどうするの? それとも中級魔法って単体攻撃しかできないの?」
「おお、その話はまだしておらんかったな。では説明してやろう。長くなるからその辺に座ったらどうだ」
ノアタムは長いひれで近くの木の根元を指した。
「うん。それに練習と戦闘で疲れておなか空いたから、昼ご飯食べながら聞くよ」
時間的にも、昼に近くなっているはずだ。私は木の根元に座り、食事をしながらノアタムの話を聞くことにした。




