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目覚めたら異世界で人魚だった  作者: 御餅屋ハコ
目覚めたら異世界で人魚だった 第二章
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第二章 07 人魚のかまど

07 人魚のかまど


 町にはノアタムの言うとおり、弁当を売る店がたくさんあった。日本で、パン屋や惣菜屋が入口を広げ、店頭に弁当を並べている姿と同じだった。

「どれにしようかな……。なんか、パンが多いね」

 弁当は、パンに具をはさみ、紙や植物の葉で包んでいる、という形の物が多かった。

「持ち運びしやすいからな。具をはさんでいるから『はさみパン』と呼ぶ。サンドイッチタイプもホットドッグタイプもすべてその日本語訳だ」

「ふうん。でも、水中なのにパンってどうやって作るの? 昨日あんたが夕飯の時になんか言ってたよね」

「うむ。ギームもメーコも、複数の実をシーズ水と混ぜて練ると粉物の生地のようになる。それを細く切って加熱すると麺類だ。

 パンは、その生地に『イーストースター草』という海草のエキスを混ぜて焼く。すると生地が柔らかく膨らんでパンになるのだ」

「……『イースト菌』と『トースター』が混ざったような名前……。パン関係の植物だから?」

「ネーミングは気にするなと言うのに」

 図星なのだろう。ノアタムの顔にそう書いてある。

「あ、でも焼くって、水中でどうやって火を使うの? 昨日からお店で食事してて今更だけど。炎の魔法があるってことは、魔法のかまどかなんかがあるわけ?」

 昨日も今日も、入った店は客席から厨房の中が見える造りにはなっておらず、人魚がコック服で料理をしているらしい姿がちらっと見えただけだった。空腹だったし、初めての食材の方にばかり気を取られて注目しなかったというのもあるが。

「うむ。人魚も地上の人間のように、かまどを使って調理をしている。精霊の作ったアイテム、『かっぱまき』や『てっかまき』を使ってな」

「カッパ巻きや鉄火巻き!?」

 なぜいきなり寿司の名前が出てくるのか。思わず声を上げる私に、ノアタムは説明した。

「『かっぱまき』は、『乾いた葉の薪』と書くのだ。日本語訳では。

 ノアタムアは海の中だから『乾燥した物』は無いのだが、火が付きやすい物を『乾く』と表現するのだ。

 『薪』も、日本語では『燃料になる木材』のことを指すが、この場合の日本語訳では『燃料として使う物質全般』と考えろ。その方が面白い語呂合わせになるからな」

「寿司の名前とかぶっているのは意図的なのか……」

 まんまと驚いてしまった。私のつぶやきを聞きながらノアタムは続ける。

「『乾葉薪』はその名の通り、乾いた葉の形をしたような薪だ。蓄光石と同じく、精霊の力で作られている。

 ノアタムアのかまどは土や石で作られており、地球の中世にあるかまどと大差は無い。だが、精霊の作った薪を使うことで、調理はずいぶん楽になっている。

 乾葉薪は葉の大きさに大中小の区別があり、大が強火、中が中火、小が弱火に対応している。

 葉っぱ一枚に着火すると、四半時限の更に半分、十分間ほど乾葉薪は燃え続ける。同時に燃やす葉っぱの数を増やすと燃焼時間は十分ずつ増えていく。

 弱火を十分使いたい場合は小の乾葉薪を一枚、かまどに入れる。中火を二十分使いたい場合は中の乾葉薪を二枚だ。

 葉の大きさを選べばふいごで火の調節をしなくて良いし、時間が経てば勝手に火は消える。すぐに火を消したければ火かき棒で乾葉薪を崩せば燃え尽きて消える。すぐまた火を使いたければ新たな乾葉薪をかまどに入れればいいだけだ。

 乾葉薪を使えば、中世風のかまどでも、現代日本のガス台のように、気軽に火を起こしたり消したりできるのだ。

 そのため一人分の料理を作る手間が現代日本と同じぐらいなので、ノアタムアは中世ヨーロッパ風の異世界だが、町には飲食店がたくさんあるのだ」

「……あっそうか、確かに、日本の昔話でも、ご飯を炊くときにかまどを竹筒でぷーぷー吹いてたりするよね。あんなのお客さんの注文ごとにやってたら大変だし、メニューだっていくつも作れないよね。実際の中世ヨーロッパだってそんな感じだよね」

 私は、私の元になった日本人達がテレビなどで見た映像を頭に浮かべる。現代のように便利な道具が無い時代、火を起こすのも消すのも大変なことだったはずだ。

「うむ。実際の地球の中世ヨーロッパでは、庶民の食事はシンプルなものだったようだな。だが、現代日本で描かれる中世ヨーロッパ風ファンタジーでは、おいしそうな料理が出てくるだろう。現代人の理想が込められているのだ。異世界に憧れはするが、食事のレベルが下がるのは嫌だからそこは魔法でどうにか対応して欲しい、という願望だな。

 確かに、食事はうまいに越したことはない。だからこの世界でも、魔法のアイテムで便利な薪を設定したわけだ」

 私は感心してうなずく。

「そうだよねえ。雰囲気は中世風がいいけど、毎日同じもの食べるの嫌だもん。でも町に食べ物屋がたくさんあるためには、かまどが便利にならないといけないわけか」

「そうだな。そして、その需要を更に進化させたのが、『てっかまき』だ」

 ノアタムは私が納得したのを見て、次の説明に入った。

「『てっかまき』は、撤廃の撤に火と書いて『撤火薪』だ。日本語訳では。火を撤廃した薪、という意味だな。

 乾葉薪は便利なアイテムだが、炎が出るので、かまどなどで囲われた場所でないと使えない。海中だから周りに火が燃え移ったりはしないが、火に触れれば火傷するからな。

 『撤火薪』は火が燃えるわけではない。熱だけを発する薪なのだ。そして乾葉薪のように燃え尽きる使い切りのアイテムではなく、何度も繰り返し使えるアイテムだ。

 撤火薪は薪と言っても板のような形状で、表裏の区別がある。表には円のマークが描かれており、端の方にスイッチがある。スイッチは客室のランプと同じような、ねじを回すタイプだ。ねじを右にひねると円のマークの中が熱くなる。ネジの傾きが小さいと弱火、大きいと強火の火力に対応している。

 撤火薪の円の中に鍋などを置き、鍋に伝わった熱で食材を調理する」

「……え……それって、IHヒーターでは?」

 私はノアタムの説明に沿った道具を頭にイメージしていった。そうしたら卓上用のIHクッキングヒーターが脳内に出来上がったのだ。スイッチの形はガスコンロっぽいが。

「まあ、似たような物だ」

「へえー! 現代の日本だってIHヒーターが作られたのってそんなに昔じゃないよね? それなりに普及してるけど、ガスコンロしかない家だって多いはずだし。薪とか言ってるけど、日本の最先端の台所アイテムと同じじゃん」

「うむ、だがな、撤火薪もランプと同じく、『ねつち』に込められた精霊の力を放出しているのだ。だからそのエネルギーを使い切ってしまったら、裏面の蓋を外して『ねつち』を取り出し、『じゅうねつの魔法』が使える精霊のいる店に持って行って『ねつち』に熱を入れ直してもらわなければならんのだ」

 『熱池』に『充熱の魔法』。ランプの時と同じなので、ノアタムの発音を聞いただけで漢字がすぐに頭に浮かぶ。

「IHヒーターが充電式みたいなもんか。そんなに長時間使えなさそうだね」

「その通り。光池は部屋を明るくする程度の光のエネルギーがあれば良いが、熱池は高熱のエネルギーがいる。一つの熱池にエネルギーを凝縮しすぎるのは危険だ。それに熱池はそこそこ根が張るので、大量に買い置きするのも難しい。

 それに比べて乾葉薪は安い。そして、やはり直火で料理した物の方がおいしいと考える人魚も多いのだ。

 だから乾葉薪と撤火薪の使用率は、半々と言ったところかな」

「ああなんか、IHヒーターとガスコンロとどっちがいいか、みたいな話に似てるねえ」

「そうだな。それぞれの要望によって使い分けられている。今度食べ物屋に入ったら、厨房をよく見てみるといい」

「うん。お弁当屋でも見れるかな?」

 ノアタムの説明が一通り終わったので、私はもう一度周りを見回し、弁当を選ぶことにした。

 辺りにあったパン屋や惣菜屋は、調理室と店舗が完全に分かれているようで、店先で覗いても、加熱調理をしているところは見えなかった。

 それはまた今度の楽しみにしよう、と考え、私は弁当を選んだ。魚肉と野菜(海草)をはさんだパンと、瓶詰めのジュースを買い、ポーチの中にしまった。

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