第二章 03 朝食
03 朝食
「この宿は朝食付きではないので、宿の外に食べに行く必要がある。宿の近くには営業中の飲食店があるはずだ」
「へえ、結構早い時間なのに開いてる店があるの?」
「うむ。だが、日本のように同じ店が二十四時間営業しているわけではなく、早朝から昼まで、昼から夜までなど、様々な営業時間の店が町にあるのだ。だからどこかには開いている店がある。
特に宿の近くは宿泊客が食事をしに来るから、飲食店が多いはずだぞ」
「そうなんだ。じゃあ、財布は持っていくとして……」
出かけるために、私はまず財布の入ったポーチを腰に付ける。
「しばらくこの宿に連泊するのだから大荷物は置いて出かけても良いぞ。武器は、手元に無いと不安なら装備しても良いが」
私は少し考えたが、ナイフも腰に付けた。
「町の中じゃ魔物は出ないんだろうけど、武器を持ってるとファンタジー異世界!って感じがするからね」
私はノアタムと共に部屋を出て、はしごの方に向かった。泳いでいるので頭から降りてもいいのだろうが、なんとなく落ち着かないので、人間がやるように頭を上にしてはしごに手を掛けながら一階まで降りた。
カウンターには誰もいなかったので、そのまま玄関から外に出た。
「朝は受付の人、いないんだね」
「こういう宿には宿直室があるので、受付の人魚は一日交替で泊まり込んでいるはずだ。そろそろ起きてはいると思うが、食事に行ったのかもしれん。
我々が食事を終えるころには受付に戻っているだろうから、今日の分の宿代を払わないとな」
「ノアタムアは宿代が一日ごとに先払い方式なんだね」
「町の宿を拠点にして、町の外に魔物狩りに行く者が多いからな。魔物の深追いをして道に迷ったとか、怪我をしたとかでその日に宿に戻れない者もいる。連絡も無く客が戻らない場合、部屋に残された荷物は宿が処理することになる。だが宿代が先払いなら、宿側もしばらくの間、荷物を保管しようという気になるだろう。
それに、悪い奴は魔物狩りに出かけるふりをして、そのまま宿代を踏み倒して逃げることもあるからな。一日ごとに宿代を払う習慣は宿と客の両方の需要で出来上がったのだ」
「ふうん。人魚にも悪い奴っているんだね」
「そこは人間と同じだ」
そう話しながら、私とノアタムは朝の町の中を泳いでいった。
朝日が町に降り注ぎ、道行く人々、ではなく町並みを泳ぐ人魚達がちらほらと見える。私のように食事に行く人だろうか。確かに、すでに営業している飲食店がいくつもあった。
「あ、あれが時計塔かな?」
店を選ぶために町を眺めていると、遠くに背の高い塔が見えた。とはいえ他の建物より頭一つ分高いぐらいの大きさだった。
「そうだな。あの隣に鑑定屋もある。今は朝の六刻過ぎ、日本で言う朝の八時ぐらいだから、朝食を食べて休憩して向かうぐらいがちょうどいいな」
「へえ、この距離から時間がわかる?」
私は時計塔に目をこらす。文字盤らしき物があるのはわかるが、針がどこを指しているかまでは見えなかった。
「わしの目は人魚よりよく見えるのだ。神だからな」
「あっそう」
ノアタムの自慢を聞き流し、私は朝食を食べる店を探した。
やがて、おいしそうな絵と共に『朝食セット 焼きギーム・小エビのスープ・海藻サラダ・ドリンク 50テニエル』と書いた看板を出している店を見つけた。
私はノアタムを肩にとまらせ、その店に入る。
そこはモーニングをやっている喫茶店のような雰囲気で、すでに人魚が何人か席について食事をしていた。私も席に着き、朝食セットを頼む。ドリンクはジュースかお茶の選択制だったので私はジュースを頼んだ。
今日はノアタムと会話せず、静かに待っていると、やがて料理が運ばれてきた。
焼きギームは小麦粉で作った団子を焼いたような味がした。スープは、むき身の小エビと刻んだ野菜、いや海草が入っていた。海藻サラダは海藻サラダだった。ジュースはどことなくミカンに似た味がした。
日本でも喫茶店のモーニングセットは五百円前後でこのぐらいの食事ができたはずだ。私は満足し、休憩をして店を出た。
宿に戻るとカウンターに受付の人魚がいたので、今日も泊まることを頼み、500テニエルを支払う。今日は宿帳に名前を書く必要は無く、受付の彼女が宿帳に何か追記しただけだった。
部屋でしばらくゆっくりしていると、やがてノアタムが「そろそろ鑑定屋が開くだろう」と言った。
私は目覚まし時計を腰のポーチに入れ、ノアタムと共にもう一度宿を出た。




