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目覚めたら異世界で人魚だった  作者: 御餅屋ハコ
目覚めたら異世界で人魚だった 第二章
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第二章 02 人魚の身支度用品

02 人魚の身支度用品


「こまごました道具が一揃い入っている袋があるはずだ」

 私はリュックを開き、それらしき物を探す。すぐに、アメニティグッズが入っていそうな巾着袋が見つかった。

 軽く小さな道具がいくつも入っている感触の袋を取り出し、ベッドの上に中身を広げる。

 櫛、手鏡、ちり紙、耳かき、爪切り、小型のはさみ、カミソリなどが出てきた。

「だいたいは人間が使うのと同じなんだね」

 私はそれらを手に取って眺める。櫛と手鏡のフレームは木のようだ。ちり紙は、海藻で作られた紙だろう。私はまず櫛と手鏡で髪を整える。

「ノアタムアの人魚の上半身は人間と同じだからな。人間と同じ道具の方が使いやすいだろう」

「そういえば全く同じだね。人魚の絵だと、耳が魚のひれみたいになってたり、手に水かきがあったりするパターンも多いけど」

 私は手鏡で自分の耳を見たり手の指を広げたりし、人間と変わらないことを確認した。

「ノアタムアには人間の文化をかなり取り入れることにしたので、上半身が人間の形状と異なって、人間と同じ道具が使えなくなっては困るからな。耳がひれ状ではベッドで眠りにくいし、手に水かきがあっては字が書きづらい。

 だからノアタムアの人魚は人間と同じ上半身を持っているという設定にしたのだ。魚はまばたきせんが、人魚は人間のようにまぶたを閉じて眠るのもそのためだ」

「あんたが設定作りで楽したいからそうしたのか」

「すでに問題なく運用されているシステムならばわざわざ不便になるリスクを冒してまで変更する必要は無いと判断して導入したまでだ」

「はいはい。で、これが耳かきと爪切りね」

 私はノアタムの弁明を聞き流してそれらを手に取る。耳かきは細い木の棒で、先端が曲がっている定番の形だった。爪切りも、金属製の、日本でよく見かける形状の物だった。やすりを裏返すとIの字からVの字になり、上下の歯をかみ合わせて爪を切り落とす奴だ。

「あれ? でも、あんたが導入する人間のシステムって、中世ヨーロッパの世界観だよね? こんな形の爪切りって中世にあったっけ?」

「地球の中世にあるかどうかではなく、ノアタムアの世界観で不自然で無ければ良いのだと、前にも言っただろう。この爪切りもそれほど複雑な構造ではないから、がま口の財布のように、誰かが発明すれば普及してもおかしくない。地上も中世ヨーロッパ風の世界だが、この形の爪切りは存在しているのだ」

「ふうん。便利だねえ」

 それから私は小型のはさみとカミソリを手にする。

「これは……化粧用のやつってこと?」

「そうだ。人魚は水中にいるので保湿液は必要ないし、おしろいなどを塗っても流れてしまう。だから化粧文化は発達していない。

 とはいえ、眉の形を整えるぐらいは行う者もいるからな。身支度用品の中に入れておいた。眉毛は汗が目に入らないように生えるものだから、人魚に必要ないと言えば必要ない。だが、眉毛は感情を表すのにも使うし、眉の形を変えることで、顔の印象を変えられるからな」

「そっか、水中にいるんだから汗はかかないよね。でも人魚に眉毛があって良かった。みんな眉毛が無かったら怖いもん」

「そうか。上半身は人間と同じという設定にした甲斐があったな。

 ……あ、だが、ワキ毛は人魚に生えない設定にしてあるのだ。人魚は基本的に女ばかりなので、人間のようにワキ汗のフェロモンをワキ毛で拡散して異性を引きつける必要がないのでな。

 それとも、完全に上半身は人間と同じにするため、今からでも人魚にワキ毛が生える設定にするか? シンは剃っているから目立たないと言うことで」

「いや、いいよ。必要ないんなら。ていうか人間だって、日本じゃワキのフェロモンなんてもう邪魔者扱いで、ワキ毛は除去すべき、って感じになってたよ。人魚にワキ毛が生えないならその方が楽でいいよ」

 私は腕を上げて自分のワキを見た。毛は生えていない。ワキ毛が生える体でタンクトップを着るなら、毎日剃らないといけない。想像するだけでめんどくさい。

「で、いろいろ回り道したけど、歯ブラシは……」

 ベッドに並べた、見覚えのある形の道具の検分は終わった。日本で見たことのない道具というと、残りは一つだった。

 それは、歯ブラシと同じぐらいの大きさで、ブラシのような部分を持っていた。だが木の枝で、先端をほぐして繊維にし、房にしている、という形の物だった。房の反対側はややとがった形に削られている。

「それは『房楊枝』と言ってな、見ての通り、木の先端を房状に加工した楊枝だ。これで歯を磨く。日本の江戸時代でも、こういった物を使っていたのだぞ」

「へー。でも、日本の現代の歯ブラシとは違うから、異世界に来た!って感じがする。爪切りとか、あの形は便利だけど、異世界感はなくなるもん」

 私はその『房楊枝』を手に取って眺め回す。

「ブラシ部分で歯を磨くとして、水中でうがいとかはどうやんの? てか、どこでやんの? トイレに洗面所とか無かったよね?」

「質問攻めだな。いいぞ。

 人魚は水中にいるので、もちろん洗面所は必要ない。歯磨きは、自室で身支度の一環として行うのが一般的だな。

 まず、ちり紙を何枚か用意しろ。そして房楊枝で歯を磨く」

 私は言われるまま道具を手にする。

「歯磨き粉は?」

「人間は昔から塩で歯を磨いていた。ここは海の中だし、房楊枝で口の中を掃除すれば歯磨き粉無しでも十分綺麗になる。

 房楊枝の房部分は歯を磨くのに使う。房楊枝の楊枝部分は歯にはさまった物を取ったり、舌をこすって掃除したりするのに使う。

 汚れた口中の水は、ちり紙を口に当てて吐き出し、そのままちり紙で汚れを包む。それを何回か繰り返し、最後に房楊枝の汚れを取ってちり紙に包んで終了だ」

 私はその通りに口の掃除をしてみた。最初は戸惑ったが、すぐに慣れた。

「部屋で歯磨き?って最初は思ったけど、人間が耳掃除をしてゴミをティッシュで包んだり、くしゃみをするときにティッシュを口に当てるようなもんだね。で、ゴミ箱はどこにあるの?」

 私は部屋を見回すが、それらしい物は見当たらなかった。

「この価格帯の宿だと各部屋にゴミ箱は無いな。トイレの前に共用の物があるはずだからそこに捨てるといい」

「そんなのあったかなあ? まあいいや、行ってくるよ」

 私はゴミをまとめ、部屋を施錠してトイレに向かった。トイレの個室の手前、鏡のある小部屋の床にゴミ箱はあった。低い位置なので今までは気づかなかったようだ。

 部屋に戻り、身支度用品を片付ける。

「口の中もさっぱりしたし、起きてしばらく経ったから頭も体も目覚めたし、朝ご飯食べたいよ。どこで食べればいいの?」

「うむ、では朝食を食べに行くか」

 ノアタムは長いひれで泳ぎ始めた。

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