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第18話 圧倒

ちょっと長めです。

 展覧試合前夜。


 ギネス・ムシュー・アビアドロの姿は、【亜人騎】が格納されている騎渠(バンカー)にあった。


 中では、明日の展覧試合の騎体を整備している整備員が、まだ働いていた。

 その1人が軍靴に気付いて振り返る。カイゼル髭をはやしたベテランの騎操者(ベンター)を見て、慌てて立ち上がった。


「ご苦労。展覧試合に使う【亜人騎】は万全かね」

「は、はい。ギネス隊士」

「そう畏まらなくていい。君たちの整備は信頼している」

「あ、ありがとうございます」


 ギネスは笑みを浮かべる。

 それが余計、不気味だった。


 騎渠(バンカー)の中でも、ギネスの“癇癪”は有名だ。

 ちょっと遠征先で活躍出来なかっただけで、すぐに整備に文句を言ってくる。

 隊士の中で年長で、しかも貴族。

 平民出身者が多い整備班は、ただ黙って聞いていることしか出来なかった。


 出来れば、ギネスの騎体には触りたくない。

 そんな言葉が囁かれるほど、関わりたくない人物だった。


 ギネスは隣の【亜人騎】を見つめた。

 展覧試合に使う同型騎だ。


「あっちの【亜人騎】は?」

「今、魔導伝達繊維(ナーブ)の初期化をしているところです。もうすぐ終わります」

「あれがカイル・バレッドとかいう小ぞ――教習生が乗る騎体だな」

「ええ。そうです」

「よろしい。しかし、見たところ重芯器(ベイル)の調子が悪そうだ」

重芯器(ベイル)ですか?」


 【亜人騎】の重心安定器である重芯器(ベイル)は腰の装甲の裏に隠れている。

 つまり、装甲をがさないことには、整備はおろか確認もできないはずだ。

 つまり、ギネスは見もしないで重芯器(ベイル)の調子を見抜いたことになる。


「では、あの重芯器(ベイル)に取り替えたまえ」


 ギネスが指し示したのは、明らかに破損した重芯器(ベイル)だった。


「お、言葉ですが、ギネス隊士。その重芯器(ベイル)は修理中です。今、載せるわけにはいきません」

「勘違いしないでくれたまえ」

「は?」


 ギネスの紫色の瞳が光る。

 目の前の整備員を睨んだ。


「これはお願いではないのだよ。……命令だ」

「しょ、承伏しかねます!」


 ギネスは猫のように目を細めた。


「君、名前は?」

「レムール・ミダロットです」

「なるほど。平民の出か?」

「はい」

「ならば、さぞかしお金に困っているだろうな」

「わ、私を買収するつもりですか!」


 さすがのレムールも反撃に転じた。

 平民の出だが、整備に対しては誇りを持っている。

 いくら王国を守る隊士の命令とはいえ、壊れた重芯器(ベイル)を騎体に乗せる愚行を犯すわけにはいかなかった。


「そういうわけではない。君がここを辞めた時に、家族や両親がどう思うか。わからない君ではないだろう?」


 ギネスの影が迫る。

 口を裂き、歯茎を見せ、悪魔のように笑った。


 レムールはただ怯えることしか出来なかった。



 ★



 修練場は2騎の【亜人騎】を囲み、盛り上がっていた。


 カイルは少し気になって、【鑑定眼】を使う。

 相手の状況を見つめた。


 ファースドバッド

 Lv 80

 DP 650

 MP 450

 保有スキル

 なし


 特に異常はない。


 実地講習でのことを聞いたアミニジアはこう言っていた。


『そういう輩は何をしてくるかわからないよ。用心しておいて損はないぞ、カイル君』


 何か騎体に仕掛けてくると疑ったが、杞憂に終わったらしい。


 カイルは外部音声を使って、ギネスに話しかけた。


『正々堂々戦いましょう』

『むろんだ。だが、君が卑怯な手を使っても、私は一向にかまわんよ。最終的に勝つのは私だ』


 厚い装甲に覆われ、姿を見ることは出来ない。

 だが、ギネスの笑った顔が脳裏に浮かんだ。


 両騎体は獲物を手に取った。

 カイルは長剣。

 ギネスは細剣だった。


 やがて構えを取る。


「はじめぇ!」


 展覧試合は開始された。


 ノースキル状態での戦い。

 必然と白兵戦が主体となる。

 となれば、騎操者(ベンター)の操縦技術が、勝敗を分けることになる。


 カイルとギネスは、踏み板を押し込んだ。

 最初から全力全開。

 あっという間に、2騎の距離は縮まる。


 激しい金属音が鳴り響いた。

 風圧が巻き起こり、紳士淑女が被った帽子や、傘が飛ばされる。


 騎体のパワーは互角。

 力比べはなんの益もないと悟ったギネスが一旦引く。

 追いかけてきたカイル騎を華麗に交わし、ギネスは側面に回り込んだ。


 カイルにはちゃんと見えていた。

 2つの操縦桿の一方を前へ、一方を後ろに引く。

 軽く制動をかけながら、動力をオンにした。


 カイルが乗る【亜人騎】はクルッと回る。

 騎首をギネスの騎体に向けた。

 伸びてきた細剣を捌く。

 そのまま懐に入ると、当て身を食らわせた。


 ギネス騎は吹っ飛ばされる。

 バランスが取れず、教練場に倒れた。

 すかさずカイルは距離を詰める。


 ギネス騎は素早く起き上がると、間一髪のところで堪えた。


『ほう。やるじゃないか、小僧』

『あんたもね。けど――』


 カイルは激しく打ち込む。

 負けじと、ギネスも細剣を振るった。

 が、徐々に押される。


『くっそ! こうなれば』


 ギネスは特攻をしかけた。

 振り下ろされた長剣を回避も受けもせず、カイル騎の懐に潜り込もうとする。

 当然、剣はギネス騎の左肩を貫いた。

 会心の一撃は、魔導伝達繊維(ナーブ)にまで届く。


 逆流した魔力が騎手室(ヤード)を襲った。

 身体中がピリッとしたが、ギネスは気合いで堪える。


 目指すはカイル騎の腰部。


『しゃらくさいわああああ!!』


 肩に剣が刺さった状態で、ギネス騎は突撃する。

 腰にヘッドバッドするような形で、カイル騎を倒した。


 ピリッ!


「?」


 カイルは騎手室(ヤード)で顔を上げる。

 その時、何か装甲が軋む音とは違う異音が聞こえたような気がした。


 今は気にしている場合ではない。

 精晶窓(グリッド)には四つん這いになって、カイル騎を見つめるギネス騎が大きく映されていた。


 細剣を逆手に持ち、突き刺そうとするギネス。

 カイルはまだ手に長剣を持っていることを確認すると、寝ころんだ状態で刃をギネス騎の脇に滑り込ませた。


 鐘を打ちならしたような音が、修練場に突き刺さる。


 横からの衝撃に耐えきれず、ギネス騎は横に倒れた。

 装甲の硬い騎手室(ヤード)周辺への打撃だったことが、災いした。


 両者ダウン。

 ここから仕切直しだ。


 ギネス騎は立ち上がる。

 カイルも立ち上がろうと、操縦桿を倒した。

 しかし――。


「あれ?」


 カイル騎は立ち上がろうとした瞬間、再びひっくり返ってしまった。


『ふはははは。どうした、小僧。立ち上がれんのか?』


 ギネスの声はカイルには聞こえていなかった。


 ただ――まずい……と思った。

 おそらく【亜人騎】の重芯器(ベイル)が故障したのだろう。


 だが重芯器(ベイル)は硬い装甲の中にある。

 早々、衝撃で壊れるものではない。


 カイルは目を細めた。

 精晶窓(グリッド)越しに敵機を睨む。


『あんた……。まさか――』

『どうしたどうした? 小僧。よちよち歩きもできんのか。いかんなあ。そんなことでは免許はやれんぞ。』


 ギネスは細剣を突き立てる。

 カイルは地面を転がって、かわすしかなかった。

 修練場の端まで来ると、それも不可能になる。


『もう1回、座学からはじめるかね、ええ? これだから平民は馬鹿なのだ。講習で教わったことを、栓を抜いた水瓶のように忘れてしまう。脳味噌をついてるのか! ええ!? 小僧!!』


 そこからはめった打ちだった。

 カイル騎の装甲に嵐のように細剣が突き刺さっていく。


『どうだ、惨めだろ! だが、お前たちにはお似合いだ。それが平民のレベルなのだ。そうやって惨めに底辺で這い蹲っておればいい!!』

『違う!』


 細剣が止まる。

 ギネスは息を呑んだ。

 カイル騎が細剣の刃をがっしり掴んでいたのだ。


『人は――いや、亜種もエルフも……。みんな生きている。命にレベルなんてない。必要もない。それが世界だというなら。俺はそんな世界を否定して、救ってやる!』

『世迷い言――』


 反吐が出るほどくだらない文言に、ギネスは顔をしかめる。


 カイルの言葉に反応したのは、彼だけではなかった。


「頑張れ!!」


 子供の声だった。

 平民の子供だ。父親に肩車され、一生懸命手を振って応援している。


「頼む。勝ってくれ!」


 別の方向からも聞こえた。

 男の声だ。精晶窓(グリッド)で確認すると、整備服を纏っている。

 【亜人騎】を整備してくれた人だろうか。

 その隣には、一緒に講習を受けた仲間たちが見つめていた。


「カイル、勝って! 勝ちなさい! 私とデートする約束でしょうが!!」


 ニールの声が聞こえた。

 思わず微笑みながら、「デートってそんなこと言ったっけ?」と疑問を呈した。


 そして――。


「カイルさん!!」


 カイルは大きく目を見開く。

 聞き覚えのある声。忘れるはずもない。

 どんなに人がいたって、この声を聞き分けられる自信があるほど、耳に慣れてしまった。


 聞こえてきた方向に、映水晶(テーフ)を動かす。

 そこに立っていたのは猫耳の少女だ。


 アイーナ――。


 カイルは一気に操縦桿を押し込んだ。

 魔力の残滓が排気口から一気に吹き上がる。


『なにぃ!!』


 細剣の刃を持ったまま押し込む。

 ゆっくりとカイル騎が立ち上がろうとしていた。


 さて――。


 もしスキルイーターの精霊ミリオがこの場にいたら、どう言っただろうか。

 細かく制動を入れながら、カイルは想像する。


 きっと皮肉たっぷりにこういうはずだ。


『そんなの当たり前だろ? カイル。何せスキルイーターには――』



 そもそも重芯器(ベイル)なんて甘え(ヽヽ)は存在しないからな。



 いつの間にか、カイルは笑っていた。


『絶対いうな。きっと――』


 そしてカイル騎は立ち上がっていた。

 重芯器(ベイル)を破壊された状態で、さらにギネス騎を押し込んでいく。


「馬鹿な! あの整備士! 整備をミスったな!!」


 恨み言を騎手室(ヤード)内で叫ぶ。


 カイルはまずギネス騎を突きだした。

 距離を取ると、長剣が落ちているところまで戻る。

 そして構えた。


 一部の隙もない。

 重芯器(ベイル)が機能していた頃よりも、流麗だった。

 普段から、安定器なしで動いているカイルにとっては、慣れてくればこっちの方が動きやすい。


「行くぞ!」


 剣を振り上げ、カイルは突進する。

 ギネスもまた突進した。


 耳をつんざくような金属音が響く。


 両者の居場所は正対していた。

 すると、カイル騎の肩装甲が落ちる。

 細剣が穿たれた穴が、生々しく残っていた。


 対してギネス騎は無傷だった。


『どうした、小僧……。威勢がいいのは口だけか。やはり、下等な平民は――』


 途中で言葉が途切れる。

 ギネス騎が突然、膝をついたのだ。


『な、なにぃ!』


 操縦桿を動かし、踏み板を踏む。

 が、ギネスの意志に反して、【亜人騎】は立ち上がるどころか、倒れてしまった。


『どうしたのだ? 故障か?』

『わからないか? おっさん! あんたの腰の辺りを見てみろよ』


 言われて、映水晶(テーフ)を腰に向ける。

 精晶窓(グリッド)に映し出されたのは、装甲の隙間を縫うように薙ぎ払われたと思われる剣痕だった。

 深く食い込んだそれは、中の重芯器(ベイル)まで届き、損傷させている。


『さて、教官殿。お手本を見せてもらおうか。重芯器(ベイル)なしでどうやって、【亜人騎】を操るか』

『馬鹿な! ふざけるな! 重芯器(ベイル)なしで騎体を制御するなど』

『おいおい。教官ともあろうものが、その程度の騎体制御ができないのか』


 カイルの口調は、馬鹿にしているものではなかった。

 どこか冷たい。氷のような怒りを含んでいた。


『残念だけど、試合はまだ終わっていない。決着はつけさせてもらうよ』

『わ! バカバカ! 馬鹿者! ちょっと待て!』


 ギネスは必死に立ち上がろうとする。

 だが、すってんころりん、という感じで、すぐに倒れてしまう。

 その姿は滑稽で、ギャラリーの笑いを誘った。


 仲間である隊士たちも、失笑を禁じ得ない。

 中には腹を抱えて笑っているものもいた。


 カイルはギネスの前に立ちはだかった。

 大きく剣を振り上げる。

 上段に構えた。


『敗北を認めるかい!』

『ふざけるな! 貴族である私が何故、お前ら平民に負けを認めねばならん!』


 強情で、あくまで不遜。

 だが、ギネスらしい言葉だった。


『じゃあ、トドメを刺すよ!』


 渾身の力を込めて、カイルは長剣を振り下げた。

 瞬間――。


『うわあああ! 待て待て! 私の負けだ。負けだああああアアアアア!!」


 ギネスの断末魔に似た悲鳴は、遠く市街の方まで聞こえたという。


明日もよろしくお願いします。


ブクマ・評価いただいた方ありがとうございます!

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