表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/20

危険な近道4

 曲がりくねった小路を最大限速足で歩く。なんとなく走ってはいけないような気がして。

 さっきの分かれ道からはずっと一本道を進んでいるだけなのに、なかなか出口が見えてこない。


「もう! 京都の道は碁盤の目だからわかりやすいなんて、絶対嘘!」


 実際、目の前の道は真っすぐではないし、二日連続で迷子にもなっている。当面スマホは無理そうなので、地図くらいは持っておくべきかもしれない。


「次にあったコンビニで、絶対マップを買うんだから!」


 気を抜くと足が止まりそうになる自分を鼓舞するため、声に出してそう意気込んだときだった。


「お嬢さん、道に迷ったのかな?」


 突然かけられた声にビクリと肩が跳ねた。振り向くと年配の男女ふたり組がいる。

 さっきまではどこにも見当たらなかったはずなのにいったいどこから? と思っていたら、男性の方が口を開いた。


「私たちも道に迷っていてね。どこか別の道がないかと見てきたんだが……」


 そう言って木が生い茂る藪の方をさしたため、なるほどそれで、と思う。


 ふたりは夫婦で京都観光に来たそうだ。スマホはあるけれど買ったばかりで使い方がよくわからず、地図アプリも入れていないらしい。


『せっかくなので大通りに出るまで一緒に行こう』という夫婦の提案に、璃世はうなずいた。ひとりで心細い思いをしていたため、少しホッとする。


 女性は、隣を歩く夫が手に持っている観光雑誌をのぞきこみながら、時々なにかを口にする。きっと地図を見て道を確かめているのだろう。

 両親が生きていればこんなふうに仲良く旅行に行ったりしていたのかもしれないと、ほんのりせつない気持ちになってしまう。


 ふたりの後ろ姿をぼんやりと見ながら歩いていたら、突然ふたりが道を逸れて木々の茂る方へと入っていった。


「え! そっちは道じゃないですよ⁉」


 慌ててそう言うと、男性が顔を半分振り向かせ、「地図に書いてあるから」と言う。女性の方も「そうなの」と微笑んだ。

 戸惑った璃世が足を止めているうちに、男性の方はどんどん森の中へ入っていく。


「ほら早く。置いていかれちゃうわ」


 女性の言葉に急き立てられ、璃世はふたりの後をついていった。



「あの……本当にこっちで合っているんですか?」


 さっきから、行けども行けども道らしきものは見当たらない。草木に囲まれてかろうじて歩ける程度の場所を進んでいるうち、璃世は不安になってきたのだ。


 そういえばアリスとはぐれてかれこれ三十分以上はたつ。それなのにこの夫婦以外には誰とも出会っていない。

 山で遭難したわけでなし、まったくだれともすれ違わないなんてあり得ない。いくら繁華街ではないとはいえ、ここは京都市街なのだ。


 そのことに思い至った瞬間、璃世の全身からサーっと血の気が引いた。


 嫌な予感がする。それがなんなのか具体的にはわからないけれども、とにかくこのままではまずいと感じた。


「あのっ、私……」


 急に声を上げた璃世に、数メートル先を歩いていた夫婦が足を止める。その背中に早口で言葉を投げる。


「忘れ物を思い出して、ちょっと取りに戻りま――!」


 言い終わる直前、こちらを振り返った夫婦の顔を見た瞬間、息をのんだ。


 のっぺりとした顔にくり抜かれたような黒い目。さっきまではこんな顔ではなかったと思うのに、その顔は思い出せない。


「あら。一緒に戻りましょうか?」


 妻の方は言う。優しげな物言いとは逆に、口をへの字に下げて。


「忘れ物はまたにしなさい。もうすぐ通りに出るのだから」


 夫の方が言う。唇の隙間から真っ赤な舌をチロリと出して。


(お……おばけっ!)


 心の中では大絶叫だが、実際は喉が「ひゅうっ」と音を立てただけ。けれどこのままではまずいと思い足をジリリと後ろに引いたら、夫婦の姿が黒っぽくグニャリと歪んだ。


「け、けっこうですっ!」


 そう叫ぶと同時にきびすを返し、全速力で駆けだした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ