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日除けの下から店舗へと入り、慣れるまでふわふわと視線をさまよわせる。
店舗の柔らかい光の下に立つと、朝の光と言ってもそれなりの強さだったのを改めて感じながら店全体をゆっくりと見回す。
外のものはやはりお土産的要素が高い。
店の中のものは一つ一つが余裕を持って並べられ、おざなりに見るのとは違う。
きゅっと気持ちを引き締める。
ハロルドはと顔を見上げれば「待てよ、ブレスレットやネックレスはいざって時に気が散るよな」と独り言ともとれるような言い方をしながら難しい顔をしている。
その視線の先にはネックレスのケースがあった。
ちらりと俺へと視線を向け「かといって指輪ってのもなんだし」そう言ってまた別のところへと視線を走らせているようだ。
改めて考えてみれば俺は宝飾品とは今まで縁がない。
身につけるといえば仕事のときにつける腕時計くらいなもので、それは社会人になった長兄が進学祝にと俺にくれたものだ。
──ネックレスやブレスレットをアクセントとしてさらりと見につける次兄だったらば、こういう時にもすぐに「これ」と決められるのだろう。
そんなことを思いながらさまよわせた視線に青い色が目に入る。
他のものに比べて輝いていたとかではないのだが、目を引いたのでそばに寄って見る。
それは青い球体をしていて、その1ヶ所から細い金具が出ている。──簡単に言えばピアスだった。
この辺りの遺跡では、水や植物を思わせる青や緑の石が貴石としてもてはやされていた。
だからここにこの石があるのは当然と言えば当然なのだが。
見れば色違いの緑色のピアスや、それぞれの石を金──それは太陽をあらわしている──で縁取ったピアスなどもある。
でも、一番初めに目にした、そのシンプルさと色の青さにまた目が戻ってしまう。
『でもなぁ』
耳に孔はあいていないし、イヤリングタイプへと加工すればまた印象が変わってしまうだろう。
惹かれる気持ちを残しつつ、せめてこの青い石を使ったものをチェックしてみようかと顔を上げた。
と、ハロルドと視線が合う。
しばらく前から俺のことを見ていたらしい。
なんとなしに照れくさくて「へへっ」と意味もなく笑ってしまう。
「どれが良かったんだ?」
そんな俺の頭を小突きながらハロルドがケースをのぞき込む。
「いや、その。ピアスだったし。ハロルドも俺も孔あいてないし」
我ながらワタワタとしている自覚を持ちながら答えたが「どれだ?」と再度問われ「そこの青いの。丸いやつ」と結局は答えてしまった。
青いのも丸いのもいくつかあったからすぐにはわからないと思ったのだが、「ああこれか」とハロルドは言う。
「うん。品質もいいようだな。邪魔にならないし。ピアスか」
──品質もいい??
残念ながら俺は良い悪いの目の肥えていない。
『本当に俺が言ったやつ見ている?』と首をひねっているうちにハロルドは店主に声をかけて何事かを確認している。
店主がケースを開けてピアスを取り出す。ちゃんと俺が目をつけたものだった。
「ほら、こっちむけ」
「え?え?」
合っていたのにびっくりしているところに、ぐいと体の向きを変えられる。
戸惑いの声をあげている間に、髪の毛を耳にかけられた。
「この辺りかな」
ふにふにと耳たぶを軽くもみながらハロルドが間近で言う。
『これって、もしかして』そう思い、それを口にしようとしたとき耳元でプシュンと小さな音がした。
「ええっ!?」
思わずハロルドの方へと顔を向けようとすれば「こら動くな」と言われてぐいと戻される。
──どうやったって、この流れとこれは・・・
もぞもぞと耳元でハロルドの手が動く。
認めたくないけれど、やっぱりこれは。
「ほらできたぞ」
差し出された鏡をのぞけば、想像通り俺の左耳には青い石が光っていた。




