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デスゲーム業界に菩薩が来た〜菩薩系インフルエンサーの迷惑で慈悲深いダンジョン救済配信〜  作者: ランダムアクセス


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第13話 奇跡の完全救済と神速論破 〜第1部完:光輪は止まらない〜

 ズドォォォォンッ……!!


 数十トンに及ぶ岩盤の塊が、頭上から叩きつけられた瞬間――ダンジョンを揺るがしたのは、破壊の轟音ではなかった。

 まるで満開の桜が舞い散るような、柔らかく澄み渡った鈴の音だった。


「ひ、光の手が……岩を受け止めてる……!?」


 瓦礫の下で転倒していた配信スタッフが、震える声で叫んだ。

 カノンの背後に現れた無数の巨大な白金の腕は、降り注ぐ巨岩の群れを両手で包み込むようにキャッチしていた。

 それだけではない。

 亀裂が走っていたセリカの氷の防壁をそっと包み、崩れかけた天井の亀裂へと、パズルのピースをはめ直すように巨岩を押し戻していく。


 メキメキ、ピキッ……フッ。

 信じがたいことに、崩落しかけていたダンジョンの岩盤が、継ぎ目すら消え去って元の形に修復されていた。


「そして――お怪我をなさった迷い子さんたちへ」


 カノンが微笑み、両手をふわりと差し伸べる。

 【千光慈救掌】から放たれた極上の黄金粒子が、足を挟まれて骨折していたカメラマンや、擦り傷だらけのスタッフたちを優しく包み込んだ。


 音もなく骨が繋がり、裂けた皮膚が再生し、服の汚れまで浄化されていく。


「痛みが……消えた……? 骨折どころか、長年の腰痛まで治ってるんだが!?」

「全身が軽すぎる……温泉から上がったみたいだ……!」


 呆然と立ち上がるスタッフたちを見て、自らを盾にしていたセリカが、へたり込むように膝をついた。


「ダンジョンを修復して……一瞬で全員完治させた……? そんなの、魔法体系の理屈が崩壊してるわよ……」


 銀髪を汗で濡らし、肩で息をするセリカ。

 そんな彼女の前に、カノンが歩み寄り、冷え切ったその細い手を両手でそっと包み込んだ。


「セリカさん」


「……な、何よ。私を笑いに来たの? 格好つけて飛び込んで、結局あなたに助けられて――」


「なんて美しく、尊い魂なのでしょう」


 セリカの言葉を遮ったのは、溢れんばかりの涙を瞳に浮かべたカノンの感嘆だった。


「自分の命も、築き上げてきた名声もかなぐり捨てて、仲間のために真っ先に盾になる……! その張り詰めた覚悟、泥臭いまでの優しさに、私の胸は震えております! これぞまさに、人間のエモさの極致です!」


「……え?」


「寒かったですね。よく頑張りました」


 カノンが優しく抱きしめると、セリカの瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。

 臙脂色のちゃんちゃんこを着た絶対女王が、カノンの腕の中で、子供のように嗚咽を漏らす。


「私……ずっと怖かったのよ……! 一度でもミスしたら、誰かが死んだら、数字が落ちたら終わりだって……! ずっと一人で背負わなきゃいけないと思ってたのに……!」


「もう大丈夫ですよ。あなたは一人ではありません」


 コメント欄が、信じられない速度で流れていく。


《セリカ様が泣いてる……》

《ずっと一人で背負ってたんだな》

《ちゃんちゃんこ着た聖母と女王、絵面が尊すぎて涙出る》

《ダンジョンごと直すのは相変わらず頭おかしいけどwww》

《でもこれ、外がヤバいことになってるぞ!?》


 チャットの不穏な空気に、俺は即座にサブ端末を開いた。

 案の定だった。

 大手悪質まとめサイト『DANDAN速報』が、落盤の瞬間だけの切り抜きを悪用し、ネット上に爆弾を投下していたのだ。


『【緊急速報】カノン救済チャンネルの無謀な先導で大崩落事故! 氷堂セリカのスタッフが生き埋めで重傷か!? 現場は大パニック!』


 アクセス数は数十万に膨れ上がり、SNSでは「カノン逮捕しろ」「素人をトップの現場に入れるな」と炎上が燃え広がり始めていた。

 現場の真実などどうでもいい。ただ最速でPVを稼ぎ、人を社会的に引きずり下ろそうとするハイエナの常套手段だ。


「……人の現場で命がけで戦ってる人間をダシにして、よくも好き勝手やってくれたな」


 俺の奥歯が、ギリリと音を立てた。

 借金まみれの底辺時代、こういう無責任なデマや悪意にどれだけ踏みにじられてきたか。

 だが――今の俺は、ただ搾取されるだけの負け犬じゃない。


「おいセリカ。泣いてるところ悪いが、顔を上げろ。お前のプライドと現場の誇り、今から俺が全部守ってやる」


 俺は即座に携帯用の神速編集端末を開き、指先をキーボードの上で走らせた。


 俺が仕掛けていたのは、カノン救済チャンネルの定点4Kドローンカメラ四台と、セリカ側スタッフのバックアップ回線ログ、そしてダンジョン協会公式の『リアルタイム地殻変動地震計データ』だ。


 タターンッ!

 エンターキーを一撃叩き込み、DANDAN動画とSNS、そして合同生配信の画面上に、作成したばかりの『検証速報映像』を同時オーバーレイで叩きつけた。


「合同配信の視聴者の皆さん、そして外野で騒いでるハイエナども、よく見ろ!」


 俺はマイクの音量を上げ、全国六十万人のリスナーに向けて叩きつけるように叫んだ。


「これが地震計ログとタイムスタンプの完全一致データだ! 今回の落盤は中層全体の経年疲労による自然地殻変動であり、事前の安全確認ログも全てクリアされている! そして――これが事故発生から三秒後のマルチアングル元映像だ!」


 画面に映し出されたのは、スタッフの前に身を投げ出して防壁を張ったセリカの勇姿と、岩盤を元の形に修復し、怪我人全員を一瞬で全快させたカノンの奇跡だった。


「ご覧の通り、重傷者はゼロ! それどころかスタッフ全員がピンピンして現場の安全も完全に確保されている! 『DANDAN速報』、お前らの発信した記事は完全なる虚偽の風説流布だ。すでに魚拓とアクセスログの証拠保全は完了した。探索者協会法務部と連携して、業務妨害と名誉毀損で徹底的に法的措置を取らせてもらう!」


 一分の隙もない、ノーカット元データによる秒殺の公開処刑。

 コメント欄が、地鳴りのような弾幕で埋め尽くされた。


《うおおおおレイPの仕事が早すぎる!!》

《地震計ログまで突合してんの草www》

《DANDAN速報、完全論破されて記事消して逃亡したぞwww》

《魚拓取られてるから逃げられませーんwww》

《はい成仏!! まとめサイト公開成仏RTA!!》


 鼻をすすり、涙を拭ったセリカが、ゆっくりと立ち上がった。

 その顔には、もう迷いも張り詰めた孤独もなかった。

 セリカはカメラを真っ直ぐに見据え、凛とした声で宣言した。


「……私の完敗よ。カノン救済チャンネル、あなたたち最高にイカれてて、最高に温かいわ。本日をもって、私・氷堂セリカは、カノン救済チャンネルと正式な包括アライアンスを締結します!」


 絶対女王の完全降伏と同盟宣言。

 その瞬間、端末の画面上でけたたましいファンファーレが鳴り響いた。


 ――【カノン救済チャンネル:チャンネル登録者数 1,000,000人 突破】


《金盾きたああああああああああ!!》

《登録者100万人達成おめでとう!!》

《このコラボ神回すぎるだろ!!》


「まあ! 数字が丸くてとても可愛らしいですね、レイさん!」

「可愛いとか言うな! 登録者100万人の金盾だぞ……!?」


 俺は膝から崩れ落ちそうになりながら、天を仰いだ。

 二千万円の借金地獄から始まったこの配信が、まさかここまで来るとは思いもしなかった。


     *


 ダンジョンを無事に脱出し、都内の事務所で打ち上げを終えた夜のことだった。


 ピピッ、ピピッ、ピピッ――!!


 突如として、俺の端末から探索者協会の最高警戒アラートが鳴り響いた。

 画面を見ると、都内全域の管理ダンジョンマップが、真っ赤な警告色で激しく明滅している。


『緊急警告:都内複数ダンジョンにて未曾有の魔力共鳴を検知。大規模スタンピードの兆候あり――』


「……な、なんだこれ……!? 全域で同時にスタンピードの前兆……!?」


 俺が青ざめる中、夜風に金髪を揺らしたカノンが、月を見上げながら神々しく微笑んだ。


「ふふ、レイさん。次はもう少し、大きな救済になりそうですね」


 光輪を柔らかく灯す怪物を前に、俺の胃は、明日からも休まる気配が微塵もなかった。

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