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ブラックホールの向こうは400年前の沖縄でした〜現代の道具と知識で始める琉球王国改革〜  作者: gere


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第9話 1600年1月4日


俺は朝早く目を覚ますと、すぐに現代へ戻った。


理由は単純だ。


昨日、タルガニたちに約束していた米の給与を渡せなかった。


「昨日の分、まだだったな」


財布を持ち、そのまま近くのスーパーへ向かう。


さすがに毎回コシヒカリを買っていては金がかかる。


売り場を見ながら少し悩んだ末、今回はアメリカ産の米にした。


10キロを2袋。


合計20キロで1万2,000円。


「これでしばらく持つだろ」


会計を済ませ、そのままアパートへ戻る。


時計を見る。


PM3時40分。


「まあ、スーパーすぐそこだし、そんな時間かかってないな」


俺は米を持ってブラックホールの前へ立った。


中を覗く。


静止画は4枚に増えていた。


1600年1月1日。


1600年1月2日。


1600年1月3日。


そして、


1600年1月4日。


「ちゃんと増えてるな」


もちろん選ぶのは一番新しい最終ポイントだ。


静止画に触れる。


パッ。


視界が切り替わり、村へ戻った。


米を置くと、すぐにタルガニたち5人を呼ぶ。


「昨日の分、まだ渡してなかったな」


俺は米を量り始めた。


昨日の作業分が一人4合。


それに今日の分も前払いで4合。


一人8合。


5人分だから合計40合だ。


「昨日の分と今日の分な」


タルガニが米を見て目を丸くする。


「今日の分も先にもらっていいのか?」


「ああ。ちゃんと働いてくれればな」


「もちろんだ」


他の男たちも嬉しそうに米を受け取っていく。


「タルガニ!」


「なんだ?」


「それじゃ今日も海水運びよろしくな」


タルガニが少し苦笑する。


「またあれか」


「今日で終わらせよう笑」


男たちから笑い声が上がった。


「今日までは昼ご飯も作ってやるよ」


「本当か?」


「本当、本当」


タルガニたちはバケツを持って海へ向かっていった。


俺は残った米を見る。


今日買ってきた10キロ袋の方は、もう3キロも残っていない。


「結構減ったな」


俺はこれまで使っていた米の残りも持ってくる。


「これと合わせて全部使うか」


今日の残りと、これまでの残りをまとめて100リットルの寸胴鍋へ入れた。


今日作るのはフーチバーじゅうしー。


ただし、昨日とまったく同じでは面白くない。


「今日はカレー風味にするか」


フーチバーを集め、調味料も準備する。


まだ昼ご飯には少し早い。


「火つけるのはもう少し後でいいな」


俺はいったん手を止め、コーヒーを淹れた。


カップを持って腰を下ろしたところで、ふと現代側の残金が気になった。


「そういえば、今いくら残ってるんだ?」


前回確認した残金は3,520,403円。


昨日買った雨よけ用の防水ブルーシートと杭が13,500円。


今日買ったアメリカ産の米20キロが12,000円。


「合わせて2万5,500円か」


俺はスマホの電卓を開く。


3,520,403円-25,500円。


3,494,903円。


「残金349万4,903円か」


まだすぐに困る金額ではない。


ただ、1600年へ来てから道具や食料をかなりの勢いで買っている。


このままずっと現代の金を使い続けるわけにもいかない。


コーヒーを飲みながら、目の前の蒸発池を見る。


「……いや、計画変更だな」


最初は蒸発池を3つ作るつもりだった。


でも、よく考えればこの村の規模なら、いきなりそこまで増やす必要はない。


今作っている1つだけでも、うまくいけば月に150キロ前後の塩が取れる。


村人は40人ちょっと。


自分たちで使う分を差し引いても、かなり余るはずだ。


「これを村全体の仕事にすればいいか」


海水を運ぶ。


池を管理する。


濃くなった海水を煮る。


完成した塩を乾かして保管する。


それを町へ持っていって、粟や芋、豆なんかと交換する。


最初にやり方さえ教えてしまえば、俺がずっと付きっきりでやる必要もない。


「月150キロ作れれば、結構潤うだろ」


これなら残り2つの池は、必要になってから増やせばいい。


村の方はこれでいい。


問題は俺だ。


村が塩で豊かになるのはいいが、物々交換で芋や粟を手に入れても、現代の俺の口座残高は増えない。


「物々交換だけじゃ、俺の金にはならないんだよな」


俺はコーヒーを一口飲んだ。


現代で換金できる物。


できれば小さくて、持ち運びやすくて、価値が高い物。


「まずは金を狙いたいな」


金なら現代へ持ち帰って換金できる。


でも、1600年の沖縄で誰が金を持っているのかなんて俺には分からない。


王様なのか。


役人なのか。


商人なのか。


「……こういう時はChatGPTだな」


俺は立ち上がった。


周囲を確認してから心の中で念じる。


――現在に戻りたい。


目の前にブラックホールが現れる。


俺はそのまま中へ入り、アパートへ戻った。


部屋へ戻ると、早速ラップトップを立ち上げた。


「さて……1600年の沖縄で金持ってる奴は誰だ?」


ChatGPTを開き、そのまま入力する。


1600年の沖縄で金を持っているのは誰?


少しして、ChatGPTから回答が返ってきた。


1600年ごろの琉球王国で、金や銀を持っている可能性が高いのは、まず首里王府や王族、高位の役人です。


ただし、個人で直接取引する相手としては少しハードルが高いでしょう。


現実的なのは那覇の商人です。


特に久米村には、中国との外交や交易に関わる人々が集まっていて、中国から来る船や商人とも接点があります。


金そのものより銀や銭貨の方が流通している可能性は高いですが、富裕な商人や海外交易に関わる人物なら、金を保有している可能性もあります。


もし現代から持ち込んだ物を売って金や銀に換えたいという目的なら、首里王府へ直接行くより、まず那覇で海外交易に関わる商人を探す方が現実的です。


「やっぱり那覇か」


俺は画面を見ながらタバコに火をつけた。


首里王府にいきなり乗り込むのは、さすがに面倒そうだ。


それより、まず商人。


しかも海外交易に関わっている金持ちなら話が早い。


「問題は……何を売るかだな」


俺は煙を吐きながら、もう一度ラップトップの画面に目を向けた。


そのまま続けてChatGPTに入力する。


100均の商品で1600年に持っていったら価値が高いものは?


少しして回答が返ってきた。


100円ショップの商品でも、1600年の琉球へ持ち込めば、当時では非常に珍しい物や、品質の高い物があります。


特に価値が出やすいのは、鏡、透明なガラス製品、金属製のハサミや針、ライター、虫眼鏡、ステンレス製の小物などです。


ただし、実用品として便利な物と、富裕層が高値を払う物は少し違います。


商人や裕福な人物へ高く売る目的なら、見た瞬間に価値が伝わる物の方が向いています。


例えば、歪みの少ない鏡。


透明度が高く、形が揃ったガラスのコップや小瓶。


細工の細かいガラス製品。


こういった物は、現代では安価でも、1600年では同じ品質の物を簡単には作れません。


特に交易商人相手なら、実用品より「珍しくて見栄えがする物」の方が高値になる可能性があります。


俺は画面を見ながら呟いた。


「鏡か……ガラスも面白いな」


100円や200円で買える物が、向こうでは珍品になる。


もしそれを金や銀に換えられるなら、かなり効率がいい。


「これ、試してみる価値あるな」


俺はタバコを吸いながら少し考えた。


「それじゃ、早速100均行って揃えておくか」


俺はラップトップを閉じ、財布を持って部屋を出た。


店に着くと、まずグラスを10個。


これは5個ずつに分けて売るつもりだ。


次に鏡を10枚。


そして調味料売り場で瓶入りの胡椒を10本。


最後はライター。


4個入りで100円の物を5袋。


全部で20個だ。


「最初から大量に持っていく必要はないな。小出しでいいか」


向こうでどのくらいの値段になるかも分からない。


まずは少量を見せて、商人の反応を見る。


売れそうなら追加で持っていけばいい。


俺はそのまま会計へ向かった。


グラス10個で1,100円。


鏡10枚で1,100円。


瓶入り胡椒10本で1,100円。


ライター5袋で550円。


合計3,850円。


「安っ」


これが1600年で金や銀に変わるなら、とんでもない話だ。


俺は買い揃えた商品を袋に入れ、そのままアパートへ戻った。


買い物袋をテーブルの上に置く。


「そうだ、残金も計算しとくか」


さっき確認した残金は3,494,903円。


そこから今回100均で使った3,850円を引く。


俺はスマホの電卓を開いた。


3,494,903円-3,850円。


表示された数字は、


3,491,053円。


「残金349万1,053円か」


まだ余裕はある。


とはいえ、1600年へ行き始めてから少しずつ確実に減っている。


俺はテーブルに並べたグラスや鏡、胡椒、ライターを見る。


「まあ、これが金に変われば一気に取り返せるんだけどな」


問題は、本当に1600年の商人がどれだけの値段をつけるかだ。


「まずは試してみるしかないか」


少し考えたが、今すぐ那覇へ行くわけでもない。


「まあ、とりあえず時が来るまで置いておくか」


グラスも鏡も胡椒もライターも、まとめて部屋の隅へ置いた。


「必要になったら持っていけばいいな」


ふと時計を見る。


PM4時ちょうど。


「もう4時か」


現代に戻ってからChatGPTに聞いたり、100均へ買い物に行ったりして、それなりに時間を使ったらしい。


俺は立ち上がり、ブラックホールの前へ向かった。


「さて、戻るか」


中を覗く。


静止画は4枚。


俺は迷わず1600年1月4日の最終ポイントを選んだ。


静止画に触れる。


パッ。


視界が切り替わった。


村へ戻った俺は、しばらくその場に立ったまま考え込んだ。


現代は確か、2026年1月1日の午後4時だったはずだ。


「仕事始まるの、1月5日からだよな」


ということは、現代側ではあと4日しかない。


その間に、できるだけ村を自立させたい。


塩作りも、俺がいなくても続けられる形にしないといけない。


それと同時に、俺自身もここで金を生み出す方法を作らないといけない。


正直、この先何がしたいのかはまだ分からない。


国を作りたいとか、何か大きなことをやりたいとか、そんなところまでは全然考えていない。


「まず金だな」


金がなければ何もできない。


現代で使える金さえ作れれば、その後のことはいくらでも考えられる。


俺は地面に座り込み、ポケットからタバコを取り出した。


火をつけて、一口吸う。


「でも、こっちにいる間は現代の時間進まないんだよな……」


少なくとも、今まで見た限りではそう見える。


1600年で何時間過ごしても、何日過ごしても、現代へ戻れば俺が出ていった時刻の続きから始まる。


だったら、無理に何度も現代へ戻る必要はない。


こっちでしっかり考えてから、一度戻った時にまとめて動けばいい。


「質問も全部まとめとくか」


そう思ったところで、俺は手元を見る。


「……ノートもペンも持ってきてないな」


頭の中だけで覚えておくには、聞きたいことが多すぎる。


1600年の琉球で金を持っている人間。


那覇までの行き方。


商人に売れそうな現代品。


金や銀の価値。


当時の物価。


船。


食料。


農業。


塩。


他にもまだまだ出てきそうだ。


「一回取りに戻るか。すぐ戻ればほとんど時間使わないだろ」


それならついでに、今後必要になりそうな物も少し確認できる。


現代へ戻ったらChatGPTに質問をまとめてぶつける。


回答はUSBに入れて、コンビニで紙に出す。


紙で持っていれば、1600年でもいつでも読める。


スマホやラップトップみたいに電池も気にしなくていい。


買い物リストも作っておく。


一度現代へ戻ったら、必要な物を短時間でまとめて買って、アパートに積んでおけばいい。


「俺がこっちにいる間、現代の時間が進まないなら、食い物置いといても腐らないしな」


そう口にしたところで、俺は止まった。


「……ん?」


タバコを持ったまま少し考える。


「いや、待てよ」


本当に時間が止まっているのか?


今まで俺は、そう思い込んでいた。


でも別の可能性もある。


俺が1600年へ行っている間も、現代の時間そのものは普通に進んでいる。


ただ、俺が現代へ戻る時だけ、必ず自分が消えた時間へ戻っている。


だから俺から見れば、時間が止まっているように見えるだけ。


「それもありえるな……」


もしそうなら、俺がいない間もアパートの中では普通に時間が流れていることになる。


食べ物だって腐る。


冷蔵庫も動き続ける。


電気も使われる。


現代では何日も何年も経っているのに、俺だけが同じ時刻へ戻っている可能性もある。


俺はしばらく考えてから、首を傾げた。


「……まあ、どっちにしろ同じ時間帯に戻るなら、俺にはあんまり関係ないか」


現代側の時間そのものが止まっているのか。


それとも時間は進んでいて、俺だけが消えた時刻へ戻されているのか。


仕組みは分からない。


でも、俺が戻った時に2026年1月1日の午後4時台から再開できるなら、少なくとも仕事が始まる1月5日までの時間を削らずに、こっちで考える時間はいくらでも取れる。


「なら、今はそれでいいな」


俺はタバコを消して立ち上がった。


「まずノートとペン取ってくるか」


周囲を確認してから心の中で念じる。


――現在に戻りたい。


短時間だけアパートへ戻って、ノートとペンを取ってくることにした。


俺は素早くアパートへ戻ると、机の上にあったノートとペンを掴んだ。


「よし、これだけでいい」


時計を見る余裕もほとんどない。


そのまますぐブラックホールへ戻る。


「1分も滞在してないはずだな」


村へ戻ると、さっそく適当な場所に腰を下ろしてノートを開いた。


「さて、何聞くかな」


思いつくまま質問を書いていく。


一つ書いては、また別のことを思いつく。


それを書いたら、さらに新しい疑問が出てくる。


どうせ現代へ戻ればChatGPTに聞ける。


だったら、こっちで時間をかけて質問をまとめておいた方がいい。


気がつけば、太陽はかなり高いところまで上がっていた。


「もう昼前か」


俺はノートを閉じて立ち上がる。


そろそろ昼飯を作らないといけない。


朝のうちに準備しておいた100リットルの寸胴鍋を見る。


中には米と水が入っている。


俺はフーチバーを刻み、カレーのルーも加えて火にかけた。


ロケットストーブから勢いよく火が上がる。


「今日はカレー風味の雑炊だな」


しばらく煮込むと、辺りにカレーの匂いが広がり始めた。


「うん、いい匂いだ」


俺は近くにいたマカトを呼んだ。


「マカト!」


「なに?」


「みんなに言ってきて。昼飯できるから、椀持って集まってって」


「わかった!」


マカトは嬉しそうに走っていった。


俺は今度は池の方へ顔を向ける。


タルガニたちは、相変わらず海水を運んでいる。


「タルガニー!」


遠くにいるタルガニがこちらを見る。


「昼飯!」


俺が大きな声で叫ぶと、タルガニたちが一斉に作業の手を止めた。


みんな、うまそうに雑炊を食べている。


カレーの匂いが気に入ったのか、子供たちも夢中だ。


俺は自分の分を食べながら、タルガニの方を見る。


「タルガニ、池の方どうだ?」


タルガニは椀を持ったまま答えた。


「もう少しで終わる」


「今日中にはいけそうか?」


「ああ。あと少しだ」


「よし。じゃあ飯食ったら続き頼むな」


「分かった」


俺は雑炊を食べ終えると、そのまま長老のところへ向かった。


ウシマルは小屋の前に座っていた。


「ウシマル、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


「なんだ?」


「この村の畑って、収穫はどうなんだ?」


ウシマルは少し考えてから答えた。


「昔より良くないな」


「何が原因?」


「土地が痩せてきている。作っても、あまり取れん」


「やっぱりか……」


村人たちが痩せているのを見れば、食料事情が良くないのは分かっていた。


俺はもう少し聞いてみる。


「肥料は何使ってる?」


「人の糞だ」


「人糞?」


「ああ。そのまま畑へ撒いている」


俺は少し顔をしかめた。


「そのままか……」


肥料として使う考え自体は間違っていない。


ただ、やり方はかなり荒い。


「ウシマル」


「なんだ?」


「俺の故郷には、畑の収穫を増やすやり方がある」


ウシマルが俺を見る。


「本当か?」


「ああ。今より土地を弱らせにくくして、うまくいけば収穫も増やせると思う」


「そんなことができるのか?」


「絶対とは言えないけど、今のやり方よりは良くできると思う」


俺は少し間を置いて続けた。


「畑のやり方、俺に任せてもらえないか?」


ウシマルはすぐには答えなかった。


しばらく考えてから、ゆっくり口を開く。


「だが……こちらには、お前へ払えるものがない」


「ああ、それならいいよ」


「いい?」


「当分ここに住まわせてもらえれば、それで十分」


ウシマルは俺の顔をじっと見た。


「本当にそれだけでいいのか?」


「うん。俺もここでやりたいことがあるから」


少しの沈黙。


やがてウシマルが頷いた。


「分かった。任せよう」


「ありがとう」


これで畑にも手を入れられる。


塩だけじゃなく、食料そのものが増えれば、この村はかなり変わる。


俺はそのままテントへ戻った。


中へ入り、さっき持ってきたノートを開く。


「さて……やること増えたな」


俺はペンを持ち、今後必要になりそうな質問と買い出しの内容を、思いつくまま書き始めた。


一つ書いては、また思いつく。


それを書いたら、さらに別の問題が浮かぶ。


気づけばノートのページはかなり埋まっていた。


「まあ、これだけあれば十分だろ」


俺はノートを閉じた。


次に現代へ戻った時は、これを全部まとめて片づけるつもりだ。


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