第10話 1600年1月4日 その2
俺はテントの中で、ChatGPTに聞くことと買い出しする物をノートに書き出していた。
すると外から声がした。
「悠真ー! 海水入れ終わったけど、次どうしようか?」
タルガニだ。
俺はノートとペンを置いて、テントの外へ出た。
「見に行こう」
タルガニと一緒に蒸発池へ向かう。
今日はそこまで寒くなく、空もよく晴れている。
池を見ると、俺が指示した深さまで海水が入っていた。
「うん、これでいい」
「次はどうする?」
「このまま置いておく。今日みたいな天気が続けば、二週間くらいで半分くらいまで減ると思う」
「二週間?」
「ああ。そこまで減ったら、今度は鍋で煮詰める」
俺は池の周りを見回した。
「それまでは村のみんなで管理してくれ。雨が降りそうなら雨よけをかける。ゴミや葉っぱが入ったら取る。それだけでいい」
タルガニが頷く。
「分かった」
「それと、出来た塩はまず村のみんなが必要な分を取ってくれ。残った分は村のものにしよう」
「村の?」
「ああ。俺のものじゃない」
タルガニが少し驚いた顔をする。
「本当にいいのか?」
「いいよ。ウシマルにも、この村を良くする手伝いをする代わりに、しばらく住ませてもらうって話したからな」
俺は笑った。
「家賃代わりみたいなもんだよ」
タルガニはよく分からないという顔をしながらも笑った。
俺はそのまま聞いてみる。
「ところで、この村の畑って、一人一人が自分の畑を持ってるの?」
「ああ。家ごとに畑がある」
「収穫した作物は、全部自分のもの?」
「いや、全部じゃない。納める分がある」
「どこに、どれだけ納めればいいの?」
「国頭間切に納める。量は村ごとに決められてる」
「収穫が少ない時はどうなる?」
「少なくても、納める分はある。だから出来が悪い年は、残るものが少なくなる」
「逆に、収穫が多い時は?」
「納める分を出した後は、残った分は自分たちのものだ」
なるほど。
だったら単純だ。
決められた分を納めた後に残る量を増やせば、村はその分だけ豊かになる。
「タルガニ、村の大人を全員集められる?」
「全員?」
「ああ。これからのことを話したい」
しばらくすると、村の大人たちが集まってきた。
男が16人、女が14人。
大人は全部で30人。
子供が14人いるから、この村は全部で44人だ。
猟師が3人、漁師が3人。
それ以外は基本的に畑仕事をしているらしい。
もっとも、猟師や漁師も自分たちの畑は持っている。
俺は集まったみんなの前に立った。
「まず塩のことから話します」
村人たちがこちらを見る。
「今作っている塩は、出来たらまず村のみんなが必要な分を分けます。残った塩は村のものにします」
一人の男が手を上げた。
「余った塩はどうするんだ?」
「町に持っていって売る。そこで村に必要な物と交換する。だから余った塩も誰か一人のものじゃなくて、村の財産にしよう」
女性たちの表情が少し明るくなった。
「ただし、池の管理はみんなでお願いします。雨が降りそうなら雨よけをする。ゴミが入ったら取る。俺がいなくても出来るようにしてほしい」
何人かが頷いた。
「次は畑です」
俺は少し間を置いた。
「新しく、村みんなで使う畑を作りたい」
ざわっと声が上がる。
「そこで作った作物は、まず国頭間切に納める分に使う。それだけじゃない」
俺は村人たちを見回した。
「みんなが毎日、腹いっぱい食べられるくらい作りたい」
その瞬間、子供たちの方から声が飛んできた。
「ユウマー!」
マカトだ。
「毎日お腹いっぱいになれるのー?」
俺は笑った。
「マカトも畑頑張ったら、毎日お腹いっぱいになれるよ」
「やったー!」
周りの子供たちも一緒になって喜び始める。
だが、大人たちはまだ半信半疑という顔をしている。
俺は続けた。
「ただ、今までと同じやり方じゃ無理だと思う。俺の故郷のやり方で畑を作る。うまくいけば、今より何倍も採れるようになる」
一人の男が腕を組んだ。
「本当かー? 到底信じらんねぇな」
「まあ、そう思うよな」
俺は苦笑した。
いきなり現れた俺が、何倍も収穫出来ると言っても普通は信じない。
「でも今のままでいいと思う?」
男は少し黙ったあと答えた。
「そりゃ、良くなった方がいいさ」
「それじゃ、少しだけ俺を信じて、ついてきてくれないか?」
村人たちは互いの顔を見合わせた。
俺は集まった村人たちを見回した。
「じゃあ、役割を決めよう」
まず猟師と漁師の方を見る。
「猟師と漁師は、今まで通り猟と漁を続けてくれ。獲った物も今まで通り村の中で物々交換でいい」
猟師の一人が頷く。
「ただ、毎日猟や漁に出るわけじゃないだろ?」
「ああ。天気が悪い時もあるしな」
「そういう日は畑を手伝ってほしい」
「分かった」
俺は次に、残った男たちを見る。
「それ以外の男は開墾をお願いします」
「開墾?」
「ああ。新しい畑を作る」
俺は地面に四角を描く。
「俺が持ってきたスコップと、これからツルハシも持ってくる。それを使って、まず50メートル×50メートルの土地を2週間で畑にしたい」
村人たちが顔を見合わせる。
当然、50メートルと言われても分からない。
「あー……50メートルって言っても分からないよな。広さは後で俺が実際に測って教えるよ」
男たちが頷いた。
今度は女性たちの方を見る。
「女性陣には堆肥を作ってもらいたい」
「たいひ?」
「畑の肥料みたいなものです」
俺は説明を続ける。
「今使ってる肥溜めの人糞を、そのまま畑に撒くのはやめます。人糞と落ち葉、残飯、それに灰を一か所に集めて置いてください」
女性たちは少し不思議そうな顔をしている。
「それをしばらく寝かせてから畑に使います。やり方は俺が教えます」
「分かった」
「それと畑が出来たら、種蒔きもお願いします」
何人かの女性が頷く。
最後に俺は子供たちを見る。
「子供たちにも仕事あるぞ」
「なにー?」
真っ先にマカトが反応した。
俺は蒸発池を指さす。
「雨が降りそうになったら、池に雨よけをかけるの手伝ってくれ」
「できる!」
「私も!」
「俺もやる!」
子供たちが一斉に騒ぎ始めた。
「よし。じゃあ頼んだぞ」
これで、とりあえず村全体の役割は決まった。
「じゃあ今日はここまで。明日から始めよう」
俺がそう言うと、集まっていた村人たちはそれぞれの家へ戻っていった。
俺もテントへ戻る。
中に入ると、途中まで書いていたノートを開いた。
まだ聞いておきたいことも、現代で買ってくる物も残っている。
俺は座り込み、残りのメモを仕上げることにした。
「よし、大体の準備はできたな」
俺は書き終えたノートを見ながら、一つ頷いた。
あとは現代へ戻って買い物をして、分からないことをChatGPTにまとめて聞けばいい。
最後に現代へ戻った時は、午後4時だった。
「まだホームセンターもスーパーも開いてるな」
買う物は結構ある。
ツルハシに種、防鳥ネット。他にもメモに書いた物を揃えていけば、それなりの金額になるはずだ。
「結構金使うな……」
思わず笑ってしまう。
ただ、ここで一つ残金の管理方法を決めておくことにした。
現代で買ってアパートに置いてあるだけの物まで、1600年側の費用として計算すると分かりにくい。
だから今後は、アパートに置いてある物は在庫扱い。
実際に1600年へ持ち込んだ時点で使用分として計算し、その分を残金から引くことにしよう。
「これなら在庫と、実際にこっちで使った金が分けられるな」
買い物に2時間くらい。
その後、ChatGPTへの質問と回答整理、USBに保存してコンビニで紙に印刷するところまで含めれば、全部で3時間くらいだろう。
「まあ、夜9時くらいには終わるか」
俺はノートを閉じて立ち上がった。
「それじゃ、行ってくるか」
頭の中で念じる。
――現在に戻りたい!
◇
そして、すべての用事を終えて俺は再び1600年へ戻ってきた。
テントの前に立ち、周囲を見回す。
こちらはまだ午後3時くらい。
太陽もまだ高く、さっきまでとほとんど変わらない景色が広がっている。
「ちゃんと時間通り戻れたな」
現代では、最後に時計を確認した時はちょうど午後9時だった。
買い物をして、ChatGPTに質問して、回答をUSBに入れ、コンビニで必要な分を紙に出す。
予定していたことは全部終わった。
「よし」
俺は荷物を持ち直し、テントへ入った。
俺は荷物をテントの中に置くと、そのまま腰を下ろした。
「今日はもう疲れた……」
現代では5時間ほど動き回っていた。
こっちはまだ午後3時くらいだが、俺の体内時計はもう夜8時だ。
「時間は戻っても、俺の疲れまでは戻らないんだよな……」
買い物して、ChatGPTに質問して、コンビニで紙に出して。
さすがに今日はもう何もする気になれない。
「とりあえず明日の準備だけして終わりにするか」
俺は持ってきた荷物の中からツルハシを取り出した。
開墾用に買ってきたのは5本。
「いくらだったかな……5本で」
レシートを取り出して確認する。
「5本で12,540円か。そんなにかからなかったな」
俺はノートを開いて、残金を書き直した。
3,491,053円から12,540円を引いて――
「残り、3,478,513円」
まだ十分ある。
俺はノートを閉じると、そのまま横になった。
「今日はもうこれでおしまい」
こっちはまだ明るいけど、さすがに疲れた。
明日から本格的に開墾開始だ。




