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ブラックホールの向こうは400年前の沖縄でした〜現代の道具と知識で始める琉球王国改革〜  作者: gere


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第83話 1600年8月3日

今回長いです

朝食を終えた俺は、浦添親方と一緒に首里城を出た。


今日は以前から準備を進めていた研究所を開設する日だ。鍛冶、木工、陶器の三つの研究所を開き、職人たちに神様から借りてきた道具や機械を使ってもらう。


「浦添親方、お願いしていた建物はどうなりましたか?」


「はい。首里城の近くに使っていない倉庫が三棟ございましたので、すべて片付けさせました」


「三棟もあったんですか。それはちょうどいいですね」


七月に研究場所をお願いした時は、空いている建物が一棟あるという話だった。それが三棟も見つかったのなら、研究所を分けて設けることができる。


城から少し歩くと、広い敷地の中に三棟の倉庫が並んでいた。


いずれも大きな木造の建物で、前には荷物を運び込めるだけの空き地がある。ここなら機械の搬入にも困らなさそうだ。


倉庫の前には、職人と研究者たちが集まっていた。


鍛冶の職人二十人と研究者二十人、木工も同じく四十人、陶器が職人六人と研究者六人。合わせて九十二人だ。


七月五日から勉強を始めた彼らは、数字や長さの単位、図面の読み方を覚え、これまで水田の開墾などにも参加してきた。


今日は、その勉強を実際の仕事につなげる最初の日になる。


「みなさん、おはようございます」


俺が声をかけると、九十二人が一斉に頭を下げた。


「今日から、この三つの倉庫を研究所として使います。一番大きな建物を鍛冶研究所、隣を木工研究所、最後の一棟を陶器研究所にします」


俺は三棟を順番に指さした。


「今日は全員で三つの研究所を回ります。自分の担当する仕事だけではなく、ほかの研究所が何をするのかも覚えてください」


職人たちが顔を見合わせた。


「例えば、木工の道具を造るのに鉄の部品が必要になることがあります。逆に鍛冶の道具を造るために、木工の技術が必要になることもあります」


俺は全員を見渡した。


「三つの研究所は別々の仕事をしますが、互いに協力してもらいます。そのためにも、今日は全員で説明を聞いてください」


まず一番大きな倉庫の扉を開けた。


中は広い土間になっており、天井も高い。柱もしっかりしているので、重い金床や機械を置くには都合がいい。


「ここが鍛冶研究所です」


俺は奥の土間を指さした。


「ここには鉄を熱する炉も造ります。ただし、柱や壁から十分に離し、煙を外へ逃がす設備を整えてから使います」


浦添親方が頷いた。


「必要な工事があれば、こちらで人を手配いたしましょう」


「ありがとうございます。まずは道具を持ってきますので、少し待っていてください」


俺は倉庫の前に出て、現代の倉庫へ戻った。


現代側には、これまで購入してきた研究用の道具や機械を保管してある。


俺は七トンクラスのフォークリフトを動かし、鍛冶研究所へ持っていく荷物を積んでいった。


工具箱、金床、万力、研究用の機械。それに足踏み旋盤と耐火レンガ、ふいごも必要だ。


荷物を固定したところで、フォークリフトごと1600年へ戻った。


倉庫の前にフォークリフトが現れると、職人たちから声が上がった。


「おお、また大きな機械が!」


「荷物を持ち上げる車ですな」


重機を見たことのある者も多いが、フォークリフトを間近で見るのは初めての者もいるようだ。


俺はフォークリフトをゆっくり動かし、倉庫の入口に荷物を降ろした。


「これはフォークリフトといいます。重い荷物を持ち上げて運ぶための機械です。今日は三つの研究所へ道具を運ぶのに使います」


俺はエンジンを止め、職人たちに声をかけた。


「それでは、道具を一つずつ紹介していきます」


最初に運び込んだのは、金床五台と万力十台だった。


「金床はみなさんも使っていますね。こちらは神様から借りてきたものです」


鍛冶職人の一人が金床を撫でた。


「表面がずいぶん平らですな」


「そうですね。金床の表面が傷んでいたり、傾いていたりすると、加工する鉄にも影響します。まずは自分たちの使っている金床と比べてみてください」


続いて万力を作業台に固定した。


「こちらは万力です。材料を挟んで固定するために使います」


俺は鉄の棒を挟み、ハンドルを回して締め付けた。


「こうして固定すれば、材料を押さえる人がいなくても、両手を使って作業できます」


職人が鉄棒を引っ張ってみた。


「これは動かぬ。ずいぶん強く挟むのですな」


「ただし、薄い鉄板などは強く締めすぎると曲がります。材料によって締め方を変えてください」


俺は万力を緩め、次の工具箱を開いた。


片手ハンマー十本、両手ハンマー五本、金属用ヤスリ二十組、金切りノコギリ十本、タガネ十組。


「こちらは、みなさんにも馴染みのある道具が多いと思います」


俺は片手ハンマーを渡した。


「握ってみてください。柄の形や重さの違いが分かると思います」


職人たちは順番に手に取り、軽く振って重さを確かめた。


「柄が手に馴染むな」


「頭の形がきれいに揃っておる」


「同じ道具を何本も造る時は、形や重さを揃えることも大切です。今日はその違いをよく見てください」


続いて金属用ヤスリを取り出した。


「ヤスリは、鉄を少しずつ削って形を整える道具です。粗く削るものから、細かく仕上げるものまであります」


俺は万力に鉄の棒を固定し、ヤスリを当てた。


数回動かしてから、削った部分を見せる。


「大きく形を変える時は金槌やタガネを使い、最後の細かな調整にヤスリを使います」


鍛冶職人が頷いた。


「これなら刃物の仕上げにも使えそうですな」


「使えます。ただし、材料の硬さに合ったものを選んでください」


金切りノコギリとタガネも手渡した。


「ノコギリは金属を切断するためのものです。タガネは金槌で叩いて鉄を切ったり、溝を入れたりする時に使います」


職人たちは刃の形や厚みを見比べ、互いに意見を交わしていた。


次に俺は、手回しドリル五台とドリル刃十組を取り出した。


「これは穴を開ける道具です」


万力に固定した木片にドリルを当て、ハンドルを回して穴を開けて見せた。


「木だけでなく、金属にも穴を開けられます。ただし、材料に合った刃を使い、無理に力をかけないことが大切です」


若い鍛冶職人が尋ねてきた。


「穴の大きさは変えられるのですか?」


「はい。刃を交換すれば、いろいろな大きさの穴を開けられます」


俺は太さの違うドリル刃を並べた。


「これから機械を造るようになると、決められた場所に、決められた大きさの穴を開ける必要があります。その練習にも使ってください」


さらに、ノギス十本とマイクロメーター五本を取り出した。


「こちらは寸法を測る道具です」


俺はノギスを使って鉄棒の太さを測った。


「外側の寸法だけでなく、穴の内側や深さも測れます」


研究者たちが近づき、目盛りをのぞき込んだ。


「こんなに細かく測れるのですか」


「はい。そして、もっと細かい寸法を測る時には、こちらのマイクロメーターを使います」


俺は二つの測定器を並べた。


「これからは、目で見て同じ大きさにするだけでは足りません。十ミリと決めたら、できるだけ正確に十ミリに仕上げてください」


職人の一人が首を傾げた。


「そこまで細かく揃える必要があるのですか?」


「あります。機械の部品は、ほんの少し寸法が違うだけで、うまく動かなくなることがあるんです」


俺は用意していたボルトとナットを取り出した。


「例えば、これです」


ボルトにナットを取り付け、指で回して見せた。


「この溝をネジ山といいます。寸法が合っているから、こうして滑らかに回るんです」


職人たちはボルトを受け取り、何度もナットを回していた。


「釘とは違い、外すこともできるのですな」


「そうです。機械を組み立てたり、修理したりする時には、とても便利です」


俺はタップとダイス五組を取り出した。


「こちらが、そのネジを造るための道具です。タップは穴の内側に、ダイスは棒の外側にネジ山を刻みます」


研究者の一人がダイスを持ち上げた。


「この中に刃があるのですか?」


「そうです。棒の太さを合わせ、少しずつ回しながらネジ山を造ります。途中で無理に回すと刃が傷むので、使い方をよく覚えてください」


俺は分解用工具十組も並べた。


「こちらは機械を分解したり、組み立てたりするための道具です。これから見せる機械の研究に使います」


続いてフォークリフトから、手動ジャッキ二台、手押しポンプ二台、手動ウインチ二台、研究用の手回しドリル二台を降ろした。


「ここからは、道具そのものの仕組みを研究してもらいます」


まずジャッキを床に置いた。


「これは重い物を持ち上げる機械です」


俺がハンドルを操作すると、ジャッキの上部がゆっくりと上がっていった。


「これだけの力で持ち上がるのですか?」


「そうです。中の仕組みによって、小さな力でも重い物を持ち上げられるようになっています」


俺は操作を止めた。


「二台あるうち、一台は使える状態で残します。もう一台は分解して、どういう仕組みで動いているのか調べてください」


次に手押しポンプを見せた。


「こちらは水を汲み上げたり、別の場所へ送ったりする道具です」


俺はハンドルを動かしながら説明した。


「中には、水を一方向に流すための仕組みがあります。将来、井戸や水路で使えるものを自分たちで造れるようになれば便利でしょう」


「それは村でも役立ちますな」


「ええ。だから、動く仕組みをよく調べてほしいんです」


最後にウインチを見せた。


「こちらは綱を巻き取る機械です。重い荷物を引いたり、持ち上げたりする時に使います」


俺はハンドルを回し、綱が巻き取られる様子を見せた。


「歯車を組み合わせることで、力の伝わり方を変えています。これも分解して、歯車の形や数を調べてください」


研究者たちがノートを開き、機械の形を描き始めた。


「分解する時は、外した部品に番号を付けてください。寸法を測り、どこに付いていたのかも記録します」


「最後には元に戻すのですな」


「そうです。元どおりに組み立てられるところまでが最初の勉強です」



俺は続いて、耐火レンガとふいごを降ろした。


「さて、ここからは鍛冶炉の話です」


俺は倉庫の奥の土間を指さした。


「ここに、鉄を熱する炉を一基造ります」


鍛冶職人たちが集まってきた。


「このレンガは耐火レンガといって、高い熱に耐えられるように造られています」


俺は一個を手渡した。


職人たちは表面を触り、重さを確かめている。


「普通のレンガとは違うのですか?」


「そうです。特に熱くなる部分に使います。ただし、数には限りがありますので、炉の全部をこれだけで造るわけではありません」


俺は炉を設ける位置を示した。


「土間の奥に炉を造り、熱が柱や壁に伝わらないようにします。煙を外へ逃がす設備も必要です」


浦添親方が口を開いた。


「煙を逃がすために、屋根にも手を入れましょうか」


「そうですね。ただし、屋根の木材に熱が伝わらないようにしなければなりません。炉の位置と煙の通り道を決めてから工事しましょう」


俺はふいごを一個取り出した。


「これは炉に風を送るための道具です。炭火に風を送り込むことで、鉄を熱するための強い火を造ります」


鍛冶職人の一人が頷いた。


「我々の使うふいごより、造りがしっかりしておりますな」


「ぜひ比べてみてください。どこが違うのか、どちらが使いやすいのかも研究になります」


購入しておいたふいごは二個ある。


一個はこの鍛冶炉で使い、もう一個は木工研究所に渡す予定だ。木工職人には構造を調べてもらい、同じものを自作する研究をしてもらう。


「耐火レンガも、いずれは自分たちで造れるようにしたいんです」


俺は陶器職人たちへ目を向けた。


「残りの耐火レンガは陶器研究所へ持っていきます。向こうでは試験窯を造り、耐火レンガそのものを研究してもらいます」


陶器職人たちが頷いた。


「鍛冶炉で使ってみて、どれくらい熱に耐えるかも教えてください。陶器班の研究に役立ちますから」


こうしておけば、鍛冶班と陶器班が協力する理由もはっきりする。


俺は最後に、フォークリフトに積んでいた足踏み旋盤を降ろした。


「それでは、鍛冶班に特に研究してもらいたい機械を紹介します」


職人たちの視線が集まった。


「これは旋盤といいます」


俺は機械を安定した場所に設置した。


「材料を回転させながら刃物で削り、丸い棒や軸などを正確に造るための機械です」


職人たちは初めて見る形の機械を囲み、興味深そうに眺めている。


「まずは動くところを見てください」


俺は足踏みの部分をゆっくり動かした。


踏む動きが機械に伝わり、材料を取り付ける軸が回転する。


「足で踏むだけで回るのですか?」


「そうです。足の動きを使って材料を回転させます」


俺は回転を止め、用意した真鍮の丸棒を固定した。


「こちらに材料を取り付け、ここの刃物で削ります。刃物はこのハンドルを回すことで、少しずつ動かせます」


俺はハンドルを操作し、刃物台が移動する様子を見せた。


「回転している材料には手を近づけないでください。寸法を測ったり、刃物を調整したりする時は、必ず機械を止めます」


周囲の職人たちが頷いたのを確認し、俺は足を動かした。


真鍮の棒が回転し始める。


刃物を少しずつ近づけると、細い削りくずが出始めた。


「おおっ!」


「削れておる!」


「丸いまま細くなっていくぞ」


俺は短い距離だけ削り、機械を止めた。


「見てください。こちらが削った部分です」


職人の一人が近づき、真鍮の表面を確かめた。


「ずいぶん滑らかですな」


「そうでしょう。こうして同じ太さの軸を造れるようになると、機械の製作に役立ちます」


俺はノギスで削った部分を測って見せた。


「ただ削るだけではなく、決められた寸法に仕上げることが大切です」


そこで年配の鍛冶職人に声をかけた。


「少し動かしてみますか?」


「私がですか?」


「はい。最初は足を動かすだけで構いません」


職人は旋盤の前に立ち、慎重に足を踏み始めた。


最初は回転が速くなったり遅くなったりしたが、何度か繰り返すうちに安定してきた。


「これは思ったより難しいですな」


「慣れれば一定の速さで回せるようになります。まずはその練習からです」


俺は機械を止め、刃物の位置を確認した。


「それでは、少し削ってみましょう」


職人は緊張した様子で操作を始めた。


真鍮の棒が回転し、刃物を近づけると細い削りくずが出た。


「おお、削れた!」


周囲の職人たちから笑い声が上がった。


「いいですね。ただし、刃物を急に動かさないでください」


短い距離を削ったところで機械を止めた。


俺が寸法を測ると、まだ均一には仕上がっていなかった。


「最初はこれで十分です。何度も練習すれば、もっと正確に削れるようになります」


職人は自分が削った部分を眺めながら、嬉しそうに笑っていた。


そこで研究者の一人が尋ねてきた。


「ユウマ殿、この機械は、なぜ刃物がまっすぐ動くのですか?」


「ここにネジを使った仕組みがあるからです」


俺は刃物台の下を指さした。


「ハンドルを回すとネジが回り、刃物台が少しずつ移動します。手で刃物を持つより、正確に動かせるんです」


俺は旋盤の軸や支えの部分も見せた。


「ただし、軸が曲がっていたり、支える部分がずれていたりすると、正確には削れません。いろいろな部品が、きちんと組み合わさって初めて動く機械です」


研究者たちは、旋盤の構造を熱心に観察していた。


「まずは鍛冶班の全員が使い方を覚えてください。その後、構造を調べて図面を描き、簡単な部品から造ってみます」


俺は四十人の鍛冶班を見渡した。


「そして、最終的にはこの旋盤そのものを、みなさんの手で造れるようになってほしいんです」


職人たちがざわついた。


「このような機械を、我々が造るのですか?」


「そうです。すぐにできるとは思っていません。でも、旋盤を自分たちで造れるようになれば、今度はその旋盤を使って別の機械の部品を造れます」


年配の職人が、しばらく旋盤を見つめていた。


「なるほど。一台造れるようになれば、二台、三台と増やせるのですな」


「そのとおりです。俺が持ってくる機械だけに頼らず、ここで必要な機械を造れるようになる。それが、この研究所の一番大きな目標です」


俺はそこで、もう一つ大切な話をすることにした。


「それから、みなさんにもう一つ、大切な目標があります」


俺は倉庫に並んだ道具や機械を見渡した。


「今日、神様から借りてきた道具や機械は、いずれすべて自分たちの手で造れるようになってください」


職人たちが驚いた顔をした。


「これだけの道具を、すべてでございますか?」


「そうです。ただし、最初から全部造ろうとは思っていません。金槌や金床、万力、ノコギリ、ヤスリなど、造れそうなものから始めてください」


俺はノギスとマイクロメーターを手に取った。


「ただし、こうした精密な測定器は別です。非常に高い技術が必要なので、当面は神様から借りたものを使ってください」


「では、こちらは造らなくてもよろしいのですか?」


「いいえ。いずれは挑戦してもらいます。ただ、まずは正確に寸法を測る技術を身につけることが先です。物差しのような簡単な測定具から造り、少しずつ精度を高めていきましょう」


俺は足踏み旋盤を指さした。


「旋盤も同じです。まずは使い方と仕組みを覚え、簡単な部品から造ってください。最終的には旋盤そのものを造れるようになってほしいんです」


年配の鍛冶職人が頷いた。


「一つずつ技を覚え、造れるものを増やしていくのですな」


「そうです。そして、造れるようになった道具は、どんどん数を増やしてください。十個、百個と造って、島中の職人や農民たちに行き渡らせます」


俺は四十人の鍛冶班を見渡した。


「首里だけでなく、どこの村でも同じ道具が使えるようにしたいんです。壊れたら修理でき、新しい道具も自分たちで造れる。そんな琉球にしていきましょう」


職人たちは、並べられた道具を改めて眺めていた。


俺は最後の荷物を取り出した。


「それから、もう一つ。こちらは早速試作してもらいたい道具です」


机の上に千歯扱きの設計図を広げた。


「これは千歯扱きといって、刈り取った稲から籾を落とすための道具です」


俺は鉄の歯が並んだ部分を指さした。


「稲穂をこの歯の間に通して引っ張ると、籾が落ちます。木製の台と枠は木工班に、鉄の歯と固定金具は鍛冶班に造ってもらいます」


鍛冶職人だけでなく、木工職人たちも図面をのぞき込んだ。


「この歯は、すべて同じ形にするのですか?」


「そうです。太さや間隔が揃っていないと、うまく籾を落とせません。まずは図面に合わせて造ってみてください」


俺は購入しておいた鋼材と固定用金具を取り出した。


「材料は用意してあります。最初は一台だけ試作して、実際に稲を使って試しましょう」


木工職人の一人が手を挙げた。


「我々は、この台を造ればよろしいのですか?」


「はい。ただし、鉄の歯を取り付ける部分は鍛冶班と寸法を合わせてください。どちらかが勝手に造ると、組み立てられなくなりますから」


「承知しました」


「こういう共同作業を、これから増やしていきたいんです。三つの研究所は、必要な時には協力してください」


俺は鍛冶班の十班に、最初の研究課題を伝えることにした。


「それでは、鍛冶班の仕事を決めます」


俺は紙を広げ、順番に説明した。


「第一班と第二班は旋盤の操作を覚えてください。第三班と第四班は旋盤の構造を調べ、寸法を測って図面を描いてください」


研究者たちが頷いた。


「第五班はネジの研究です。タップとダイスを使い、同じ寸法のボルトとナットを造る練習をしてください」


「第六班はジャッキ、第七班は手押しポンプ、第八班はウインチを担当します。それぞれ動かし方を覚えた後、一台を分解して構造を調べてください」


俺は残る二班へ目を向けた。


「第九班は精密な寸法を測る練習です。ノギスやマイクロメーターを使い、同じ寸法の部品を何個も造ってみてください」


「第十班は千歯扱きです。鉄の歯と固定金具を造り、木工班と協力して一台完成させてください」


十班の代表者たちが返事をした。


「それと、班ごとに仕事を決めましたが、ほかの道具を覚えなくていいわけではありません。順番に使い方を教え合ってください」


俺はノートを一冊持ち上げた。


「もう一つ、必ず守ってほしいことがあります。研究した内容は、成功も失敗も記録してください」


「失敗したこともでございますか?」


「もちろんです。何を造ろうとしたのか、どんな材料を使ったのか、どこがうまくいかなかったのか。記録があれば、次に同じ失敗をせずに済みます」


研究者の一人が尋ねた。


「その記録は、ほかの班にも見せるのですか?」


「はい。ここでは技術を隠す必要はありません。誰かが新しい方法を見つけたら、全員で共有してください」


俺は倉庫の中を見渡した。


金床や万力が並び、作業台の上には測定器や工具が置かれている。奥の土間には鍛冶炉を造る場所も決まった。


そして中央には、これから職人たちが学ぶ足踏み旋盤が置かれていた。


まだ研究は始まったばかりだ。


それでも、この場所から琉球で造られる新しい道具や機械が生まれるかもしれない。


俺は職人たちへ声をかけた。


「それでは、次は木工研究所です。みなさん、一緒に移動しましょう」


九十二人を連れ、俺は隣の倉庫へ向かった。



隣の倉庫は、先ほどの鍛冶研究所より少し小さかったが、それでも四十人が作業するには十分な広さがあった。


中には作業台がいくつも並べられ、壁際には木材を置く場所も確保されていた。


「浦添親方、こちらも準備していただいたんですね」


「はい。木工職人たちに相談し、必要なものを揃えさせました」


「ありがとうございます。これならすぐに使えますね」


俺は九十二人が倉庫の中に入ったのを確認した。


「ここが木工研究所になります。木工班の四十人には、これから神様から借りてくる道具や機械を使い、研究してもらいます」


「鍛冶研究所でも説明しましたが、木工と鍛冶は協力してもらいます。木製の部品は木工班、鉄の部品は鍛冶班というように、仕事を分けてください」


職人たちが頷いた。


「それでは、道具を持ってきますので、少し待っていてください」


俺は現代の倉庫へ戻った。


フォークリフトを動かし、木工用の工具や研究用の機械を積み込んでいく。


今回の大きな荷物は、機織り機と足踏みミシンだ。


それに、鍛冶研究所で使わなかった二個目のふいごも持っていく。


荷物を固定すると、フォークリフトごと1600年へ戻った。


倉庫の前に荷物を降ろし、職人たちに手伝ってもらいながら中へ運び込んだ。


「それでは、まず木工用の道具から紹介します」


俺は工具箱を開いた。


中にはノコギリ、カンナ、ノミ、木槌、手回しドリル、各種の定規や締め付け金具などが入っている。


「これらは、みなさんが普段から使っている道具と同じようなものです。神様から借りてきました」


木工職人たちは興味深そうに道具を手に取った。


「ノコギリの刃がずいぶん薄いですな」


「こちらのカンナも、我々のものとは造りが違います」


「そうですね。形や材質が違うところもありますので、実際に使って比べてみてください」


俺は木材を一本、作業台の上に置いた。


「誰か切ってみますか?」


年配の木工職人が前に出た。


「では、私が」


職人は木材を押さえ、ノコギリを動かした。


数回引いただけで、滑らかに刃が進んでいく。


「ほう、これはよく切れますな」


周囲の職人たちも切り口をのぞき込んだ。


「切り口もきれいだ」


「そうでしょう。こういう道具があれば、仕事も速くなります」


俺はカンナとノミも手渡した。


「こちらも順番に使ってみてください。使いやすいところや、改良できそうなところを見つけてください」


木工職人たちは道具を手に取り、刃の形や柄の造りを確かめていた。


「ただし、これらの道具を一つずつ研究課題にするつもりはありません」


俺は鍛冶職人たちにも声をかけた。


「工具類については、木工班と鍛冶班で協力して製作を進めてください。鉄の刃や金具は鍛冶班、木製の柄や台は木工班というように分担すればいいでしょう」


「承知しました」


両方の職人たちが頷いた。


「使いやすいものができたら、同じ形で数を増やしていきます。ここにいる人だけでなく、ほかの村の職人にも使ってもらいたいんです」


俺は工具箱を閉じた。


「続いて、大きな機械を紹介します」


俺は倉庫の中央に置いた大きな木製の機械を示した。


「これは機織り機です」


職人たちが集まってきた。


「布を織るための機械でございますか?」


「そうです。琉球でも布は織っていますが、今日はこの機械の仕組みを研究してもらいます」


俺は縦糸が張られている部分を指さした。


「こちらに縦糸を並べ、上下に分けます。その間に横糸を通し、織り進めていきます」


俺は足踏みの部分を動かした。


縦糸が上下に分かれ、横糸を通す隙間ができた。


「おお、糸が動いた!」


「足で動かすのですな」


「そうです。足を使って糸を上下させれば、両手で別の作業ができます」


俺はもう一度足踏みを動かした。


「見てほしいのは、足の動きがどうやって糸を動かしているかです」


木工職人たちは機械の下をのぞき込んだ。


「紐と木の棒がつながっておりますな」


「そうですね。木製の部品を組み合わせることで、離れた場所へ動きを伝えています」


俺は機織り機の枠を指さした。


「この機械の大部分は木でできています。みなさんの技術があれば、枠や台を造ることはそれほど難しくないと思います」


年配の職人が頷いた。


「木の組み方は分かります。ただ、糸を動かす仕組みは調べる必要がございますな」


「そうです。そこを研究してほしいんです」


俺は機械の横に回った。


「まずは寸法を測り、図面を描いてください。その後、実際に布を織る人にも協力してもらい、試作品を造ります」


浦添親方が口を開いた。


「布を織る者なら首里にもおります。何人か呼びましょう」


「ありがとうございます。実際に使う人の意見は大切ですからね」


「最終的には、ここで機織り機を何台も造れるようになってほしいんです。首里だけでなく、村々にも配れるようにします」


職人たちが頷いた。


「次はこちらです」


俺は足踏みミシンを倉庫の中央に据えた。


「これはミシンといいます。布を縫い合わせるための機械です」


「布を縫う機械でございますか?」


「はい。針と糸を使い、手で縫うより速く縫い進めることができます」


俺は用意していた布を二枚重ね、押さえの下に置いた。


「まずは動かしてみます」


足踏みを始めると、針が上下に動き始めた。


「おおっ!」


「針が動いておる!」


俺はゆっくり布を送り、短い距離を縫ってから足を止めた。


「見てください」


職人たちに縫い合わせた布を渡した。


「縫い目が揃っておりますな」


「これなら衣服を仕立てるのも速そうだ」


「そうですね。ただし、使いこなすには練習が必要です」


俺はミシンの下を指さした。


「木工班に研究してもらいたいのは、まずこの台と足踏みの仕組みです」


俺は足をゆっくり動かした。


「足の動きが車輪に伝わり、さらに別の部品を動かしています」


木工職人たちは機械の下をのぞき込んだ。


「なるほど。足の動きで車輪が回るのですな」


「そうです。そして、その回転が針の上下運動につながっています」


鍛冶職人の一人が尋ねてきた。


「金属の部品も多いようですが、こちらは我々が造るのでございますか?」


「そうです。木製の台や枠は木工班、金属の軸や部品は鍛冶班で研究してください」


俺は針の部分を指さした。


「ただし、この細い針や内部の仕組みは簡単には造れないと思います。最初から全部を再現しようとせず、できるところから始めましょう」


年配の木工職人が頷いた。


「まずは台と足踏みを造り、動きを確かめるのですな」


「そのとおりです」


俺は機織り機とミシンを並べて見せた。


「この二つが自分たちで造れるようになれば、布を織る仕事と衣服を仕立てる仕事の両方を助けられます」


浦添親方が頷いた。


「衣服を造る仕事も、今よりずいぶん進みそうですな」


「はい。機械を造れるようになったら、実際に布を扱う人たちに使ってもらい、改良していきます」


俺は次の荷物を取り出した。


「それから、こちらです」


作業台の上にふいごを置いた。


「先ほど鍛冶研究所で紹介したものと同じふいごです」


木工職人たちが集まってきた。


「こちらも炉で使うのでございますか?」


「いいえ。こちらは研究用です。構造を調べ、同じものを造ってもらいます」


俺はふいごを動かした。


「鍛冶研究所には一個置いてきました。あちらは実際に使います。こちらは分解しても構いません」


年配の職人がふいごの木製部分を見つめた。


「木の部分は我々でも造れそうですな」


「そうですね。ただし、空気が漏れないようにする必要があります。継ぎ目や内部の仕組みをよく調べてください」


俺はふいごをゆっくり動かした。


「どこから空気を吸い込み、どこから送り出しているのか。弁の動きも確かめてください」


職人たちは顔を寄せて観察していた。


「まずは寸法を測って図面を描き、その後で分解します。外した部品には番号を付けてください」


「承知しました」


「ふいごが造れるようになれば、鍛冶炉を増やす時にも役立ちます。首里だけでなく、各地の鍛冶職人にも使ってもらえるようにしたいんです」


俺は木工班の四十人を見渡した。


「それでは、十班に分かれて研究してもらいます。鍛冶班と同じく、一班四人です」


俺は紙を広げた。


「第一班と第二班は機織り機を担当してください。第一班は木製の枠と台、第二班は足踏みや糸を動かす仕組みを研究します」


職人たちが頷いた。


「第三班と第四班は、機織り機の試作を担当します。第一班と第二班が描いた図面をもとに、実際に動くものを造ってください」


俺はミシンを指さした。


「第五班と第六班はミシンです。第五班は台と足踏みの構造、第六班は動力を伝える仕組みを研究してください」


「第七班と第八班はミシンの試作です。鍛冶班と協力しながら、造れる部品から試してもらいます」


俺はふいごを指さした。


「第九班はふいごを担当してください。構造を調べ、同じものを一個造ることを最初の目標にします」


最後に十班目へ目を向けた。


「第十班は千歯扱きの木製部分を担当してください。鍛冶班の第十班と協力して、試作品を完成させてもらいます」


十班の代表者たちが返事をした。


「研究の記録は、鍛冶班と同じやり方でお願いします」


俺は机の上のノートを持ち上げた。


「特に、機械の寸法と改良した部分は図面に残してください」


研究者たちが頷いた。


「工具類の製作については、特定の班だけに任せるつもりはありません。必要なものがあれば、木工班と鍛冶班で相談して造ってください」


俺は並べられた道具を見渡した。


「今は神様から借りてきた道具ばかりですが、いずれはここで造った道具を使って、新しい道具や機械を造れるようになってほしいんです」


年配の木工職人が口を開いた。


「そのためには、まず一台を完成させることですな」


「そうです。まず一台を完成させ、その造り方をほかの職人にも伝えていきましょう」


俺は四十人を見渡した。


「ここでは機械を研究するだけでなく、その技術を次の職人に教えられるようになってください」


浦添親方が頷いた。


「首里だけでなく、各地に技を持つ者が増えるわけですな」


「はい。それが最終的な目標です」


俺は倉庫の中を見渡した。


作業台には神様から借りてきた木工道具が並び、中央には機織り機と足踏みミシンが置かれている。


今はまだ、これらを自分たちで造ることはできない。


それでも、ここにいる四十人が技術を覚えれば、やがて同じ機械を何台も造れるようになるはずだ。


俺は職人たちに声をかけた。


「それでは、最後は陶器研究所です。みなさん、一緒に移動しましょう」


九十二人を連れ、俺は三棟目の倉庫へ向かった。



三棟目の倉庫は、これまでの二棟と比べると少し小さかった。


それでも陶器班は十二人なので、作業するには十分な広さがある。


中に入ると、作業台が並べられ、壁際には土や材料を置く場所も確保されていた。


「浦添親方、こちらもきれいに片付いていますね」


「はい。陶器職人たちに必要な場所を確認し、準備させました」


「ありがとうございます」


俺は九十二人が倉庫の中に入ったのを確認した。


「ここが最後の陶器研究所です。陶器班は職人六人と研究者六人の十二人になります」


俺は陶器職人たちに目を向けた。


「みなさんには、これまでの焼き物の技術を使って、新しい陶器や耐火レンガを研究してもらいます」


年配の陶器職人が尋ねてきた。


「耐火レンガというのは、先ほど鍛冶研究所で見せていただいたものでございますな?」


「そうです。あれと同じものを、いずれは自分たちで造れるようになってほしいんです」


俺は倉庫の入口へ向かった。


「それでは、こちらにも道具を持ってきます」


現代の倉庫へ戻ると、フォークリフトを動かした。


陶芸用のろくろ、成形道具、釉薬を扱うための道具、温度を測る機器などを積んでいく。


それに、鍛冶研究所へ持っていかなかった耐火レンガも忘れずに積み込んだ。


今回は試験窯を造るための材料も用意してある。


荷物を固定し、フォークリフトごと1600年へ戻った。


倉庫の前に荷物を降ろし、職人たちに手伝ってもらいながら中へ運び込んだ。


「それでは、まずはこちらから紹介します」


俺は陶芸用のろくろを作業台の近くに置いた。


「これはろくろです。みなさんも使ったことがあると思いますが、神様から借りてきたものです」


陶器職人たちが集まってきた。


「ほう、我々のものとは少し造りが違いますな」


「そうですね。まずは動かしてみましょう」


俺はろくろの上に粘土を置き、回転させた。


両手で粘土を押さえながら、少しずつ形を整えていく。


「このように、回転させながら形を造ります」


年配の職人が笑った。


「それなら我々の得意な仕事でございます」


「そうでしょう。では、少しお願いします」


俺は場所を譲った。


職人は粘土を置き直し、ろくろを回し始めた。


慣れた手つきで粘土を押さえ、中央にくぼみを造ると、あっという間に小さな器の形になった。


「おお、さすがですね」


俺が声をかけると、職人は少し照れたように笑った。


「こればかりは長年の仕事でございますから」


周囲からも感心した声が上がった。


俺は出来上がった器を眺めた。


「こういう技術は、みなさんの方がずっと上です。俺が教えることはありません」


職人たちが顔を見合わせた。


「ただし、これからは形を揃えることも考えてください」


俺は用意していた見本の器を取り出した。


「例えば、同じ大きさの椀を百個造るとします。大きさがばらばらでは、使いにくいこともあります」


俺は二つの器を並べた。


「口の広さ、高さ、底の大きさを揃えれば、重ねて運ぶ時にも便利です」


陶器職人の一人が頷いた。


「同じ寸法の器を造るのでございますな」


「そうです。これからは図面や寸法を使って、同じ形のものを何個も造れるようになってください」


俺は次に、成形用の道具を並べた。


木べら、金属べら、切り糸、スポンジ、各種の型などだ。


「こちらも神様から借りてきたものです。みなさんが使っている道具と比べてみてください」


職人たちは順番に手に取り、形を確かめていた。


「この金属のへらは薄いですな」


「こちらの型は、同じ形を造るためのものでございますか?」


「そうです。型を使えば、同じ形のものを繰り返し造りやすくなります」


俺は簡単な型を手に取り、粘土を押し当てて見せた。


「こういう道具は、木工班や鍛冶班に協力してもらえば造れると思います」


「なるほど。型を造ってもらえば、我々は成形に専念できますな」


「そういうことです」


俺は工具を片付け、次の荷物を取り出した。


「次は耐火レンガです」


俺は耐火レンガを作業台の上に並べた。


「これは先ほど鍛冶研究所でも紹介した耐火レンガです」


陶器職人たちが近づいてきた。


「普通のレンガとは違うのでございますな?」


「はい。高い熱に耐えられるように造られています」


俺は一個を手渡した。


職人は表面を触り、重さを確かめていた。


「ずいぶん硬そうですな」


「そうですね。ただし、硬いだけでは駄目です。高い熱を受けても割れにくく、形が崩れにくいことが大切です」


俺は倉庫の外を指さした。


「鍛冶研究所では鉄を熱する炉に使います。こちらでは陶器を焼くための試験窯を造り、耐火レンガそのものも研究してもらいます」


年配の職人が頷いた。


「我々の窯とは違う造りになるのでございますか?」


「基本的な考え方は同じです。ただし、今回は小さな試験窯を造ります」


俺は用意していた図面を広げた。


「大きな窯を最初から造ると、失敗した時に材料も燃料も無駄になります。まずは少量の焼き物を試せる窯から始めましょう」


陶器職人たちが図面をのぞき込んだ。


「この窯では、どれくらいの器を焼くのでございますか?」


「最初は小さな試験片を焼くことが中心です。器を大量に焼くための窯ではありません」


俺は図面の焚き口を指さした。


「ここから燃料を入れ、熱い空気が窯の中を通って、煙突から抜けるようにします」


職人の一人が尋ねた。


「ふいごは使わないのでございますか?」


「使いません。陶器の試験窯は、自然に空気が流れるように造ります」


俺は煙突の部分を指さした。


「熱い空気が上へ抜けると、焚き口から新しい空気が入ります。その流れを利用します」


年配の職人が頷いた。


「なるほど。我々の窯と同じように、火の通り道が大切なのですな」


「そうです。みなさんは窯の扱いに慣れていますから、実際の造り方については相談しながら進めましょう」


俺は耐火レンガをもう一個持ち上げた。


「それから、このレンガは数に限りがあります。最初は熱が特に強く当たる部分に使い、ほかの部分は手に入る材料で造ることを考えます」


陶器職人が尋ねた。


「同じレンガを我々が造るには、どうすればよろしいのでしょうか?」


「それを研究してもらいたいんです」


俺は用意していた粘土の見本を並べた。


「耐火レンガには、高い熱に耐えられる材料が必要です。普通の粘土を焼けば必ずできるというものではありません」


俺は一つずつ指さした。


「まずは手に入る粘土を調べ、砂や焼いた粘土を砕いたものなどを混ぜ、配合を変えて試してください」


研究者たちがノートを開いた。


「混ぜる量も記録するのでございますか?」


「もちろんです。例えば、粘土を十に対して砂を一混ぜたもの、二混ぜたものというように、配合を変えて試します」


俺は紙に簡単な表を描いた。


「材料の種類、混ぜた量、成形した時の状態、乾燥後のひび割れ、焼いた後の変化。全部記録してください」


陶器職人たちが頷いた。


「ただし、いきなり大きなレンガを造る必要はありません。まずは小さな試験片で確かめましょう」


俺は手のひらほどの大きさを示した。


「同じ大きさの試験片をいくつも造り、乾燥させてから焼きます」


「焼き上がったものを比べるのですな」


「そうです。割れたり、形が崩れたりしたものは、何が原因だったのか考えてください」


俺は続けた。


「それから、一度焼いて割れなかったからといって、すぐに炉で使えるとは限りません。何度も熱したり冷ましたりして、変化を調べる必要があります」


年配の職人が頷いた。


「長く火に当てた時の様子も確かめるのでございますな」


「はい。鍛冶研究所で実際に使ったレンガの状態も、こちらに伝えてもらいます」


俺は鍛冶職人たちへ目を向けた。


「炉で使ってみて、ひび割れや欠けが出たら陶器班に教えてください。どの部分が傷みやすいのかも大切な情報です」


鍛冶職人の代表が返事をした。


「承知しました」


「こうして協力すれば、鍛冶班は使いやすい炉を造れますし、陶器班はよりよい耐火レンガを研究できます」


俺は次に、温度を測る機器を取り出した。


「それから、こちらも紹介します」


俺は表示部分を見せた。


「これは温度を測るための道具です。窯の温度を調べる時に使います」


陶器職人たちが集まってきた。


「火の熱さが分かるのでございますか?」


「はい。ただし、測れる温度には限りがあります。窯の中の温度に合ったものを使わなければなりません」


俺は測定用の部分を指さした。


「これを使えば、何度くらいの温度で焼いたのか記録できます」


年配の職人が口を開いた。


「我々は火の色や焼き物の様子を見ておりますが、それを数字で表すのでございますな」


「そうです。みなさんの経験は大切です。その経験に温度の記録が加われば、同じ焼き方を再現しやすくなります」


俺はノートを開いた。


「例えば、ある粘土を焼いてうまくいった時、その温度と焼いた時間を記録しておけば、次も同じ条件を目指せます」


研究者の一人が尋ねた。


「窯の中は、どこでも同じ温度なのでございますか?」


「いいえ。焚き口に近い場所と奥では、温度が違うことがあります」


俺は試験窯の図面を指さした。


「だから、試験片を置いた場所も記録してください。同じ材料でも、置く場所によって結果が変わるかもしれません」


研究者たちが頷いた。


「ただし、この温度を測る道具は、すぐに自作できるものではありません。当面は神様から借りたものを使ってください」


俺は測定器を箱に戻した。


「大切なのは、測った数字を使って、よりよい焼き方を見つけることです」


次に、釉薬を扱うための道具を取り出した。


「こちらは釉薬の研究に使います」


俺は小さな容器や計量用の道具を並べた。


「陶器の表面にかける釉薬も、材料や配合によって色や仕上がりが変わります」


陶器職人の一人が頷いた。


「灰などを使っておりますが、焼くたびに色が違うこともございます」


「そうでしょう。だからこそ、材料の量を揃えて記録してほしいんです」


俺は計量用の道具を手に取った。


「同じ材料でも、量が違えば結果が変わります。少しずつ配合を変えて試験し、どの組み合わせがよかったのか調べてください」


「それなら、我々にもできそうでございますな」


「はい。みなさんの経験が一番役立つ研究だと思います」


俺は釉薬の見本を並べた。


「ただし、見た目がきれいでも、食器に使って安全とは限りません。材料が分からない釉薬や、新しく試した配合のものは、すぐに食器として使わないでください」


職人たちが頷いた。


「まずは試験片で色や表面の状態を確かめ、問題がないか調べます。食器に使うものは、特に慎重に進めましょう」


俺は陶器班の十二人を見渡した。


「それでは、陶器班の研究課題を決めます」


俺は紙を広げた。


「陶器班は十二人なので、四人ずつ三班に分けます。各班は職人二人と研究者二人です」


全員が頷いた。


「第一班は耐火レンガの研究です。材料の配合を変え、小さな試験片を造ってください」


俺は耐火レンガを指さした。


「最終的には、鍛冶炉や陶器窯に使える耐火レンガを自分たちで造ることが目標です」


第一班の代表が返事をした。


「承知しました」


「第二班は試験窯の製作と焼成の研究です。窯の造り方、燃料の使い方、温度と焼く時間を調べてください」


俺は図面を示した。


「第一班が造った試験片も、この窯で焼いてもらいます。どちらの班も協力してください」


第二班の代表が頷いた。


「第三班は陶器の成形と釉薬の研究です。同じ寸法の器を造る方法や、釉薬の配合を調べてください」


俺は成形用の型を指さした。


「必要な型や道具があれば、木工班と鍛冶班に相談してください」


第三班の代表も返事をした。


「研究の記録は、ほかの二つの研究所と同じようにお願いします」


俺はノートを持ち上げた。


「使った材料、配合、寸法、乾燥させた日数、焼いた温度と時間、完成後の状態。分かる範囲で構いませんので、できるだけ詳しく残してください」


年配の陶器職人が尋ねてきた。


「失敗したものも残しておくのでございますか?」


「はい。失敗した条件が分かれば、次に何を変えるべきか考えられます」


俺は割れた焼き物を例に挙げた。


「例えば、焼いたら割れてしまったとします。その時の材料や焼き方を記録しておけば、次は条件を変えて試せます」


「なるほど。同じ失敗を繰り返さぬためでございますな」


「そうです」


俺は三つの研究所が並ぶ方角へ目を向けた。


「鍛冶研究所では鉄を加工し、木工研究所では木材を加工します。そして、ここでは土や粘土を使ったものを造ります」


俺は十二人を見渡した。


「この三つが協力すれば、いろいろな道具や機械を造れるようになります」


浦添親方が頷いた。


「一つの研究所だけではできぬことも、力を合わせればできるわけですな」


「はい。だから、今日の説明は九十二人全員に聞いてもらいました」


俺は倉庫の中を見渡した。


作業台には神様から借りてきた道具が並び、壁際には耐火レンガが積まれている。


試験窯はこれから造る。必要な材料を確かめながら、窯の構造と設置場所を決めていくことになる。


「まずは三つの研究所で、今日決めた仕事を進めてください。分からないことや足りないものがあれば、浦添親方を通して知らせてください」


「承知しました」


三つの研究所の代表者たちが返事をした。


俺は九十二人を見渡した。


今日ここへ持ってきた道具や機械は、まだほとんどが神様から借りてきたものだ。


だが、いつまでも借り物に頼るつもりはない。


いつか、この研究所で造られた道具や機械が琉球中の村へ広まり、人々の暮らしを支えるようになってほしい。


そのための第一歩が、今日ようやく始まったのだ。


「それでは、みなさん。よろしくお願いします」


俺が頭を下げると、九十二人が一斉に頭を下げた。


読んでいただきありがとうございます。

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