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ブラックホールの向こうは400年前の沖縄でした〜現代の道具と知識で始める琉球王国改革〜  作者: gere


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第81話 1600年8月1日

今回は会話中心です



昨日は水田二十面の完成を祝って、ずいぶん遅くまで飲んでしまった。


朝食を済ませ、首里城の客間でコーヒーを飲んでいると、王府の者が訪ねてきた。


「ユウマ殿、王様がお呼びです。お時間をいただけますでしょうか」


「分かりました。すぐに行きます」


昨日も遅くまで一緒だったのに、何かあったのだろうか。


案内されたのは、いつもの会議の間ではなく、城の奥にある小さな部屋だった。


中に入ると、尚寧王が一人で座っていた。


「ユウマ殿、朝からすまぬな。まあ、そこへ座ってくれ」


「おはようございます。昨日はお疲れさまでした」


俺は王の向かいに腰を下ろした。


「昨日はよい宴であった。農民たちも、あれほど喜んでおるとはな」


「四十一日間、休まず働いてくれましたからね。皆さん、本当に頑張りましたよ」


「うむ。余も嬉しく思う」


王は笑みを浮かべたが、すぐに真剣な表情になった。


「ところでユウマ殿。以前から、そなたに聞きたいことがあった」


「何でしょう?」


「そなたは、なぜこれほどまでに琉球のために尽くすのだ?」


俺は少し考えた。


いつかは話さなければならないと思っていたことがある。


王様との信頼関係もできてきた。今なら、聞いてもらえるかもしれない。


「王様。少し長い話になりますが、聞いていただけますか?」


「無論だ」


「実は俺、この琉球がこれからたどる歴史を知っているんです」


王は眉を寄せた。


「歴史とな? これから起こることを歴史と申すのか?」


「はい。およそ四百年先までです」


「四百年……」


王は俺の顔をじっと見つめた。


「それも、神より授かった知識なのか?」


「どうして知っているのかは、今はお話しできません。ただ、知っていることはお伝えできます」


「そうか……。聞かせてくれ」


俺は姿勢を正した。


「以前にもお話ししましたが、九年後の1609年、薩摩が琉球へ攻めてきます」


「うむ。その話は覚えておる」


「琉球は敗れ、王様は薩摩へ連れて行かれます。その後、江戸という場所にも連れて行かれることになります」


「江戸?」


「今の日本で、これから政治の中心になる場所です」


王は黙って続きを待っていた。


「王様はその後、琉球へ戻ることができます。ただし、それまでと同じように国を治めることはできなくなります」


「薩摩に従うことになるのだな」


「はい。奄美の島々も薩摩の直接支配下に置かれます。琉球王国は残りますが、政治や貿易には薩摩が口を出すようになります」


「明との関係はどうなる?」


「続きます。薩摩も琉球と明との交易を利用したいので、王国そのものは残すんです」


「国は残るが、自由は失うということか……」


王は小さく息を吐いた。


「それで、四百年後まで薩摩に従い続けるのか?」


「いいえ。途中で日本の政治も大きく変わります」


俺は、薩摩の支配を受けながらも琉球王国が長く存続することを説明した。


そして、1879年の出来事を話した。


「今から二百七十九年後、琉球王国はなくなります」


「……なくなる?」


「はい。日本の政府によって王国が廃止され、沖縄県という地域になります。最後の王様は尚泰王という方です」


「王家は、そこまで続くのか」


「そうです。ただ、その時に王国としての歴史は終わります」


尚寧王は目を伏せた。


「余の代で失われるわけではないとしても、王国がなくなるとはな……」


しばらく沈黙が続いた。


やがて王が口を開いた。


「その先はどうなる?」


「日本の一部として時代が進みます。暮らしも少しずつ変わっていきますが、さらに大きな出来事が起こります」


俺は言葉を選んだ。


「1945年、世界を巻き込んだ大きな戦争の末に、沖縄で激しい地上戦が行われます」


「地上戦とは?」


「海から大軍が上陸してきて、沖縄の島々が戦場になるということです。兵士だけでなく、普通に暮らしていた人々まで戦いに巻き込まれます」


「どれほどの者が死ぬのだ?」


「沖縄戦全体では、日本軍やアメリカ軍も含めて、およそ二十万人が亡くなったとされています。そのうち沖縄の人々は十二万人ほどです」


「……十二万?」


王は信じられないという顔で俺を見た。


「それほどの民が、この島で死ぬというのか?」


「はい。村も町も、ひどく破壊されます」


尚寧王は何も言わなかった。


俺も、すぐには次の言葉が出てこなかった。


やがて王が低い声で尋ねた。


「その戦は、琉球が起こすのか?」


「いいえ。その頃には琉球王国はありません。日本とアメリカという国が戦い、沖縄がその戦場になるんです」


「王国がなくなった後も、この地の民は戦に巻き込まれるのだな……」


「そうです」


俺は、戦争が終わった後のことも説明した。


沖縄がアメリカの統治下に置かれ、長い年月を経て、1972年に日本へ復帰したこと。


そして、俺の知る2026年の沖縄について話した。


「俺の知っている時代の沖縄は平和です。道路が整い、病院や学校もあり、遠くの国から観光客もやって来ます。昔とは比べものにならないほど暮らしは豊かになっています」


「そうか。それはよかった」


王の表情が少し和らいだ。


「ただ、日本の中心部と比べると、所得や産業にはまだ格差があります。それに、戦争が終わって長い時間が経っても、沖縄には多くのアメリカ軍の基地が残っています」


「戦が終わっても、他国の兵がいるのか」


「はい」


王はしばらく考え込んでいた。


「薩摩に攻められ、国を失い、大きな戦に巻き込まれ、その後も他国の兵が残る……。そなたの知る琉球の歴史とは、そういうものなのだな」


「はい。ですが、それだけではありません。人々は何度も立ち上がって、暮らしを立て直してきました」


俺は王の目を見た。


「ただ、その平和な時代にたどり着くまでに、あまりにも多くの人が犠牲になりました」


王は黙って俺の話を聞いていた。


「俺は、これから起こる戦争や、多くの人が犠牲になる歴史を少しでも変えたいんです。知っているのに、何もしないで見ていることはできません」


「そうか……。それが、そなたが琉球のために尽くす理由なのだな」


「はい」


王はしばらく考えていた。


「しかし、そなたの話が真実ならば、未来はすでに決まっておるのではないか?」


「それは分かりません。ただ、俺が知っている歴史には、今の琉球にあるような大きな水田も、あの機械も出てきません」


王はうなずいた。


「なるほど。すでに歴史とは違うことが起きておるわけだな」


「そうです。だから、変えられる可能性はあると思っています」


「ならば、何から始めればよい?」


俺は少し身を乗り出した。


「まず、これからの三十年間です。特に、薩摩が攻めてくるまでの九年間が重要になります」


「三十年か……。聞かせてくれ」


「はい。まずは、これから日本で起こることからお話しします」


俺は、以前に王様へ伝えた関ヶ原の戦いについて話し始めた。


「今年の十月、日本では関ヶ原という場所で大きな戦いが起こります。以前お伝えしたとおり、徳川家康が勝利します」


「うむ。覚えておる」


「その勝利によって徳川家康は日本で最も大きな力を持つようになります。そして1603年、征夷大将軍となり、江戸に幕府を開きます」


「その徳川の下に、薩摩も従うのか?」


「はい。ただし、薩摩の島津家は関ヶ原で敗れた側にいます。それでも戦いの後の交渉で領地を失わずに済むんです」


「敗れたのに、領地を失わぬのか」


「島津家にはまだ大きな力がありました。徳川も簡単には手を出せなかったのでしょう」


王はうなずいた。


「その島津が、九年後に琉球へ攻めてくるわけだな」


「はい。ただ、いきなり攻めてくるわけではありません」


俺は、徳川家康が明との交易を望み、そのために琉球との関係を利用しようとすることを説明した。


「日本は明との正式な交易を望むようになります。そこで、明と交易している琉球が重要になるんです」


「我が国を通じて明とつながろうとするのか」


「そうです。そして薩摩は、その仲介役になろうとします」


「なるほど。琉球と明との関係を利用しようというわけだな」


「はい。これから薩摩を通じて、徳川からの要求が届くようになります」


王は腕を組んだ。


「その要求を断ったために、薩摩が攻めてくるのか?」


「それだけが理由ではありません。薩摩には琉球の交易から利益を得たいという思惑もあります。幕府との関係を強めるためにも、琉球を支配下に置くことは都合がよかったんです」


「つまり、我が国は薩摩と徳川、双方の都合で狙われるということか」


「そう考えていいと思います」


王はしばらく黙っていた。


「では、要求を受け入れれば戦を避けられるのか?」


「可能性はあります。ただし、それで薩摩が琉球を諦めるかどうかは分かりません」


「そうであろうな。利益を求めておるなら、こちらが譲ったところで次の要求が来るかもしれぬ」


「はい。ですから、外交だけに頼るのは危険だと思います」


王は深くうなずいた。


「それで、薩摩が実際に動くのはいつなのだ?」


「1609年です。薩摩はおよそ三千人の兵を船に乗せ、琉球へ向かわせます」


「三千人か……。船は何隻ほどになる?」


「俺の知る記録では、百隻ほどの船が使われたとされています」


「百隻……」


王は驚いた様子だった。


「それほどの船が動けば、隠し通せるものではあるまい」


「そうなんです。だからこそ、事前に情報を集めることが重要になります」


俺は、薩摩軍が奄美の島々を経由して沖縄本島へ向かうことを説明した。


「最初に奄美の島々が攻められます。その後、沖縄本島の北部へ上陸し、今帰仁城などを攻略して首里へ向かいます」


「北から攻めてくるのか」


「はい。ですが、俺たちが歴史を変えれば、同じ道を通るとは限りません」


「なるほど。相手もこちらの備えを見て動きを変えるであろうな」


王は少し考えてから尋ねた。


「薩摩の兵は、それほど強いのか?」


「はい。日本では長い間、各地の大名が戦を繰り返してきました。薩摩の兵も戦いに慣れていますし、鉄砲も使います」


「琉球にも武器はある。だが、三千の兵を相手にするとなれば……」


「今のままでは厳しいと思います」


俺は正直に答えた。


「ただし、こちらには九年あります。今から準備すれば、俺の知っている歴史とは違う結果にできるかもしれません」


「長いようで、短いものだな」


王はしばらく考えた後、口を開いた。


「先ほど、琉球王国はその後も続くと申したな。余の後は誰が王になるのだ?」


「俺の知る歴史では、尚豊王が即位します」


「尚豊が余の跡を継ぐのか?」


王は驚いた様子で俺を見た。


「はい。このまま歴史が進めば、何十年か先に尚豊王が王位に就くことになります」


「余の子ではなく、尚豊が……」


王は腕を組み、しばらく考え込んだ。


「ユウマ殿。余は、いつまで生きるのだ?」


俺は首を横に振った。


「申し訳ありません。人の寿命については、神様から話すことを禁じられています」


「神が……」


「はい。それだけはお答えできません」


王は残念そうな顔をしたが、それ以上は尋ねなかった。


「そうか。ならば仕方あるまい」


しばらく沈黙が続いた。


やがて王が、何かを思いついたように顔を上げた。


「だが、そなたの話では歴史は変えられるのであったな?」


「はい。その可能性はあると思っています」


「ならば、余の跡を継ぐ者も変わるかもしれぬということか」


「そうですね。今後のことは誰にも分かりません」


王は小さくうなずいた。


「余にはまだ跡を継がせる実子がおらぬ。尚豊が跡を継ぐということは、この先も実子に恵まれぬということなのであろう」


俺は何も言わず、王の言葉を待った。


「ならば、余も考えねばならぬな」


「何をですか?」


「側室を増やすことだ。できれば余の実子に王位を継がせたいからな」


「王様、側室を増やさなくてもいい考えがあります」


「ほう。そのような方法があるのか?」


「はい。これも後日、詳しくお伝えします」


荻野式でも教えようかな。まあ、童貞の俺が言うのもなんだけど。


「そうか。では、その話も楽しみにしておこう」


王様は少し表情を和らげた。


「それより、今は薩摩への備えだな」


「はい。まずは食料です。戦になれば交易が止まるかもしれません。島々に十分な備蓄を持たせたいと思っています」


「昨日完成した水田も、そのために役立つわけだな」


「はい。今後は水田を増やすだけでなく、収穫した米を長く保管できる倉庫も必要になります」


「うむ」


「それから船と港の整備です。琉球は島国ですから、海を自由に行き来できなければ困ります」


「確かにな。船がなければ、離れた島を守ることもできぬ」


「軍備に関しては、俺にいい案があります。後日、詳しく説明します」


「ほう。それは楽しみだな」


「ただ、その前に、どうしても手をつけたいことがあるんです」


「何だ?」


「情報を集める仕組みです」


「情報?」


「薩摩が何を考え、どんな準備をしているのか。それを知らなければ、こちらは何もできません」


「商人や使者から話を聞くのでは足りぬのか?」


「もちろん、それも大切です。ただ、商人が知っていることには限りがあります。薩摩の内部で何が話し合われているのかまでは、なかなか分かりません」


「それはそうであろうな」


「そこで、日本から人を雇おうと思っています」


「日本から?」


「はい。日本には忍びと呼ばれる者たちがいます。人に知られず動き、相手の様子を調べたり、情報を集めたりすることを得意とする人たちです」


「忍びか。その名は聞いたことがある」


「関ヶ原の戦いが終われば、主君を失う武士も出てきます。その中には、仕える先を探す忍びもいるかもしれません」


「その者たちを琉球へ迎えるというのか?」


「そうです。どこの忍びでも構いません。腕が確かで、信用できる者なら、日本へ渡って探してこようと思っています」


王は少し眉を寄せた。


「だが、他国の者を信用できるのか?」


「そこは慎重に見極める必要があります。報酬を払えば誰でもいいというわけではありません」


「うむ。薩摩の間者を招き入れては元も子もないからな」


「そのとおりです」


俺は続けた。


「それに、忍びを雇ったからといって、すぐに薩摩の秘密が分かるわけではありません。最初は日本の情勢を調べてもらい、少しずつ情報を集める仕組みを作っていきたいんです」


「琉球の者にも、その技を覚えさせるのか?」


「はい。何年もかかるでしょうが、今から始めれば九年後には大きな力になると思います」


王は腕を組んだまま、しばらく考えていた。


「なるほど。兵を集めるだけではなく、相手の動きを知る者も必要ということか」


「そうです。薩摩が攻めてくると分かっていても、実際にいつ動くのかを知らなければ意味がありませんから」


「確かにな」


王はゆっくりとうなずいた。


「関ヶ原の戦いが終わってから、日本へ行くつもりなのだな?」


「はい。戦が終わって少し落ち着いた頃に、探しに行こうと思っています」


「よかろう。必要な費用は王府で用意しよう」


「ありがとうございます」


「ただし、この話は当分、余とそなたの間だけにしておこう」


「俺もその方がいいと思います」


王は立ち上がり、窓の外へ目を向けた。


「昨日、余は二十面の水田が完成したことを喜んでおった。あれだけの田があれば、琉球の民は今より豊かになると思ってな」


「はい」


「だが、今日そなたの話を聞いて、考えが変わった」


王は振り返った。


「豊かになったところで、他国に奪われては何にもならぬ」


俺は黙ってうなずいた。


「ユウマ殿。そなたの知る歴史が必ず起こるものなのか、余には分からぬ。だが、九年後に薩摩が攻めてくると知りながら、何もせぬわけにはいかぬ」


「俺も同じ考えです」


「関ヶ原の戦が終われば、日本の情勢を詳しく調べさせよう」


「はい。それがいいと思います」


「そして、忍びを探す。薩摩の動きを知るためにな」


王はゆっくりとうなずいた。


「三十年先のことまで聞いたが、まずはこの一年をどう過ごすかだな」


「そうですね。一つずつ進めていきましょう」


王に礼をして部屋を出ると、すでに昼を過ぎていた。


朝から始まった話し合いは、思った以上に長くなってしまった。


俺は関ヶ原の戦いが終わった後、どうやって忍びを探すか考えながら、客間へ戻った。


読んでいただきありがとうございます。

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