第73話 1600年6月16日
俺は首里城の客間で目を覚ました。窓から差し込む朝日が眩しく、外からは鳥の鳴き声が聞こえてくる。
昨日は現代から戻ってきたばかりだったが、久しぶりにゆっくり眠れた気がする。現代では注文した道具や機械が揃うまで10日間かかったので、随分長いことこちらを留守にしていたような気分だった。
顔を洗って着替えを済ませると、俺は今日の予定を頭の中で整理した。王府の水田工事が始まるのは20日。それまでに準備しておかなければならないことが山ほどある。
まずは塩屋村だ。
今回、首里の近くに造る水田は100メートル四方が20面。収穫した米を保管するため、高床式の倉庫を2棟建てる予定になっている。
建築に必要な木材や屋根材、釘などは現代で揃えてきた。あとは首里の大工たちに、塩屋村で造った高床式住居の建築方法を教える必要がある。
そこで、塩屋村から猟師のシルー、カナグシ、マチューと、漁師のウミトゥ、サブロウ、タルーの6人を連れてくることにした。
この6人は塩屋村で高床式住居を建てた経験がある。最初は慣れない作業に苦労していたが、最後の方には俺が細かく指示しなくても建てられるようになっていた。
そういえば、現代で購入した道具や機械の金額をまだ整理していなかった。
俺はスマホに保存してある購入明細を開いた。
まずは鍛冶職人用の工具だ。
片手ハンマー2,480円×10本=24,800円、両手ハンマー5,980円×5本=29,900円。
金床89,800円×5台=449,000円、万力18,800円×10台=188,000円。
金属用ヤスリ4,980円×20組=99,600円、金切りノコギリ2,980円×10本=29,800円。
タガネ5,980円×10組=59,800円、手回しドリル12,800円×5台=64,000円。
ドリル刃6,980円×10組=69,800円、ノギス8,980円×10本=89,800円。
マイクロメーター12,800円×5本=64,000円、タップ・ダイス19,800円×5組=99,000円。
分解用工具15,800円×10組=158,000円。
鍛冶職人用工具の合計は1,425,500円。
次は研究用の機械だ。
手動ジャッキ12,800円×2台=25,600円、手押しポンプ9,800円×2台=19,600円。
手動ウインチ24,800円×2台=49,600円、手回しドリル12,800円×2台=25,600円。
研究用機械の合計は120,400円。
続いて木工職人用の工具と機械だ。
ノコギリ4,980円×10本=49,800円、カンナ12,800円×10台=128,000円。
ノミ19,800円×10組=198,000円、木槌2,480円×10本=24,800円。
差し金2,980円×10本=29,800円、巻尺1,980円×10個=19,800円。
木工用万力9,800円×10台=98,000円、手回しドリル12,800円×5台=64,000円。
木工作業台39,800円×10台=398,000円、機織り機298,000円×2台=596,000円。
足踏みミシン148,000円×2台=296,000円。
木工職人用工具と機械の合計は1,902,200円。
次は陶器職人用の道具だ。
土ふるい4,980円×3組=14,940円、デジタルはかり9,800円×3台=29,400円。
高温用温度計39,800円×3台=119,400円、ゼーゲルコーン12,800円×3組=38,400円。
スコップ3,980円×6本=23,880円、混練桶7,980円×3個=23,940円。
耐熱手袋4,980円×12組=59,760円。
陶器職人用工具の合計は309,720円。
続いて、王府で使用する基準器と精密測定器だ。
1メートル標準尺98,000円×3本=294,000円、30センチ精密金属直尺8,980円×20本=179,600円。
1キログラム基準分銅89,800円×3個=269,400円、100グラム基準分銅29,800円×3個=89,400円。
1リットル標準容器49,800円×3個=149,400円、精密天秤198,000円×3台=594,000円。
基準器保管用ケース39,800円×3組=119,400円。
基準器と精密測定器の合計は1,695,200円。
最後に、文具や安全用品などの共通用品だ。
ノート198円×100冊=19,800円、鉛筆88円×200本=17,600円。
消しゴム98円×100個=9,800円、定規198円×50本=9,900円。
保護メガネ1,980円×100個=198,000円、作業用手袋980円×100組=98,000円。
工具収納箱5,980円×20個=119,600円、コピー用紙798円×2包=1,596円。
共通用品の合計は474,296円。
さらに、千歯扱きの試作材料も購入した。
鋼材9,800円×1組=9,800円、木材12,800円×1組=12,800円。
固定用金具2,980円×1組=2,980円、図面印刷500円×2枚=1,000円。
千歯扱き試作材料の合計は26,580円。
ここまでの工具、機械、教材などの購入総額は5,953,896円になった。
それとは別に、南蛮人が注文したティアラが出来上がったので、受け取りに行ってきた。
製作費の支払いは2,000,000円だった。
さらに、王府の米を保管するため、高床式倉庫2棟分の建築資材も購入した。
倉庫は1棟が幅10メートル、奥行き20メートル。2棟合わせて床面積400平方メートルになる。
柱や梁、床材、壁材、屋根材、金具などをまとめて購入し、建築資材費は2棟分で3,500,000円。
俺は電卓を取り出し、すべての金額を合計した。
工具・機械・教材など5,953,896円、ティアラ製作費2,000,000円。
高床式倉庫2棟の建築資材費3,500,000円。総合計11,453,896円。
「うわ……1,100万円を超えたか」
思わず苦笑いしてしまった。
銀行の残高91,539,240円から今回の支出を差し引くと、残金は80,085,344円になった。
「まだ8,000万円以上あるな」
俺は購入明細を保存して、スマホを閉じた。
朝食の席には尚寧王と浦添親方、名護親方、城間親方が揃っていた。
俺は食事をしながら、今日の予定を伝えることにした。
「今日は塩屋村へ行って、倉庫の建築を教えてもらうために6人ほど連れてこようと思います」
俺がそう伝えると、尚寧王が頷いた。
「塩屋村で見せてもらった、あの高床式の建物じゃな」
「はい。今回は米を保管する大きな倉庫を2棟建てます。首里の大工たちにも造り方を覚えてもらうつもりです」
すると浦添親方が口を開いた。
「こちらでも大工たちを集めておきましょう」
「お願いします。それと、20日から水田の工事を始めますので、人夫200人の準備もよろしくお願いします」
名護親方が頷いた。
「人夫の手配は進めております。20日には揃うようにいたします」
「ありがとうございます。それでは夕方までには戻ってきます」
朝食を終えた俺は4人に挨拶をして、ハイラックスに乗り込んだ。
首里城を出発したのは朝7時頃だった。
俺にとって塩屋村へ帰るのは12日ぶりだが、村人たちにとってはたった2日ぶりになる。
それでも、俺には久しぶりに帰るような感覚があった。
それに、かなさんにも会っておきたかった。
これから首里での仕事が本格的に始まれば、そう簡単には塩屋村へ戻れなくなる。次に帰るのは、おそらく8月頃の米の刈り取りになるだろう。
しばらく会えなくなることくらいは、ちゃんと伝えておこうと思った。
塩屋村に着いたのは昼頃だった。
見慣れた高床式住居が並ぶ村にハイラックスを乗り入れると、遊んでいた子どもたちがこちらに気づいた。
「ユウマが帰ってきた!」
その声を聞いて、あちこちの家から村人たちが顔を出した。
俺は車を止め、集まってきた子どもたちに声をかけた。マカトも嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ユウマ、お帰り!」
「ああ、ただいま。元気にしてたか?」
「うん!」
満面の笑みを浮かべるマカトを見て、俺も自然と笑顔になった。
「マカト、実は今日は仕事で来たんだ。もう少ししたら、また首里へ戻らないといけない」
「えっ、また行っちゃうの?」
さっきまで嬉しそうにしていたマカトの顔が曇った。
「ごめんな。でも、8月の米の刈り取りには帰ってくるから」
「そんなに先なの?」
「ああ。でも、必ず帰ってくるよ」
マカトは残念そうに俯いたが、やがて小さく頷いた。
俺はマカトの頭を軽く撫でた。
「約束だからな」
「うん。待ってる!」
それから俺は、ウシマルのところへ向かった。
ウシマルとタルガニに会い、首里で始まる水田工事のことを説明した。王府が20面もの大きな水田を造ると聞いて、二人とも驚いていた。
「それでな、収穫した米を入れる高床式の倉庫も建てることになったんだ。首里の大工たちに造り方を教えたいから、シルー、カナグシ、マチュー、それからウミトゥ、サブロウ、タルーの6人をしばらく借りたい」
俺がそう頼むと、タルガニは少し考えてから頷いた。
「今なら畑の仕事も落ち着いている。あの6人なら家を建てるのも慣れているから大丈夫だろう」
「助かる。倉庫は2棟造る予定だから、少し時間がかかるかもしれない」
「それなら、向こうの大工たちにしっかり教えてこさせよう」
ウシマルも笑いながら頷いていた。
「それと、今日はこのまま6人を連れて首里へ戻りたいんだ。夕方までに戻るつもりだから、すぐに準備してもらえるかな」
「分かった。わしが声をかけてこよう」
タルガニが6人を呼びに行ってくれたので、俺はその間に畑の様子を見て回ることにした。
水田では稲が順調に育っていた。田植えをした頃には小さかった苗も、今ではずいぶん背丈が伸びている。
この調子なら、8月頃には予定どおり収穫できそうだ。
畑の方も芋や野菜がよく育っていた。ゴーヤーやヘチマは以前から収穫しているが、今日も村人たちが大きく育った実を採っている。
村が少しずつ豊かになっているのを見ると、やっぱり嬉しくなる。
一通り見て回った俺は、炊事場へ向かった。
かなさんは昼食の片付けをしていた。俺に気づくと、手を止めて嬉しそうに微笑んだ。
「かなさん、ただいま」
「お帰りなさい、ユウマ。首里はどうだった?」
「いろいろあったよ。王様とも話ができたし、これから大きな仕事が始まるんだ」
「そうなの? あとでゆっくり聞かせてね」
「ああ、それなんだけど、今日はもう首里へ戻らないといけないんだ」
「えっ、もう行くの?」
かなさんは驚いた顔をした。
「うん。首里まで5時間かかるから、そろそろ出発しないと。今日は倉庫を建てるために、村の6人を迎えに来たんだ」
「そう……。せっかく帰ってきたのにね」
かなさんは少し寂しそうに笑った。
俺は炊事場の端に腰を下ろした。
「今度は王様の水田を造ることになったんだ。100メートル四方の水田を20面も造るんだよ」
「そんなにたくさん?」
「ああ。そこで採れた米を王府が買い上げて、島の人たちに行き渡るようにするんだ。うまくいけば、食べ物に困る人も減ると思う」
かなさんは俺の話を黙って聞いていた。
「ユウマは、本当にすごいことをしているのね」
「いや、まだ始まったばかりだよ。これからやることが山ほどあるんだ」
「でも、ユウマが来てから、この村もずいぶん変わったもの。みんなお腹いっぱい食べられるようになったし、家も新しくなったし……」
かなさんはそこで一度言葉を切った。
「今度は、この島のみんなのために頑張るのね」
「ああ。そのつもりだよ」
「それじゃ、しばらく帰ってこられないの?」
「たぶんね。でも、8月の米の刈り取りには帰ってくるつもりだよ」
「8月……。まだ2ヶ月もあるのね」
かなさんは小さく呟いた。
俺は何と言えばいいのか分からず、しばらく黙っていた。
「ごめんね。ユウマが頑張っているのは分かっているのに、こんなこと言って」
「いや、俺もできればもっと村にいたいんだけどね」
そう言うと、かなさんは少し嬉しそうに笑った。
「じゃあ、8月にはちゃんと帰ってきてね」
「ああ、約束するよ」
かなさんは頷くと、立ち上がって俺の作務衣の襟元を軽く直してくれた。
「体に気をつけてね。ちゃんとご飯も食べるのよ」
「分かってるよ。かなさんも元気で」
俺が立ち上がると、かなさんも炊事場の外まで見送りに出てくれた。
「ユウマ」
振り返ると、かなさんが微笑んでいた。
「島のみんなのために、頑張ってね」
「ああ。頑張ってくるよ」
かなさんは最後まで笑顔で見送ってくれた。
俺はハイラックスへ向かいながら、もう少し話していたかったなと思った。
俺は6人を車に乗せて首里へ向かった




