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ブラックホールの向こうは400年前の沖縄でした〜現代の道具と知識で始める琉球王国改革〜  作者: gere


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第69話 1600年6月13日 その3

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「九年後、琉球は薩摩に支配されます」


俺がそう告げた瞬間、正殿内が静まり返った。尚寧王も三司官たちも、突然の言葉に驚いた様子で俺を見つめている。


「何を、貴様ぁっ!」


突然、城間親方が声を荒らげて立ち上がった。顔を真っ赤にして俺をにらみつけ、腰に差した刀の柄に手をかける。


「我が琉球が薩摩に支配されるだと! 王の御前で、よくもそのような無礼を!」


今にも刀を抜きそうな勢いだったが、そのとき尚寧王の鋭い声が響いた。


「控えろ、城間!」


城間親方の動きが止まった。


尚寧王はゆっくりと立ち上がり、一歩前へ出た。俺の顔をじっと見つめ、静かな声で問いかけてきた。


「悠真よ、その証拠はあるのか?」


俺は少し間を置いてから答えた。


「今すぐに証拠を出せと言われても、すぐには出せません。ただ、日本では三か月後に天下分け目の戦いが起こります。それでよろしければ、勝つのは徳川家康です」


「そんなふざけたことを! それが証拠になるわけがないだろう!」


城間親方が再び激昂した。尚寧王に制止されたばかりだというのに、怒りは収まっていないようだった。


俺は慌てることなく、尚寧王に向き直った。


「神の使いだという証拠なら、お見せできますが」


その言葉に、尚寧王の表情が変わった。


「ほう。それならば、見せてもらおうか」


「それでは、御庭(うなー)まで来ていただけますか?」


俺たちは正殿を出て、御庭へと移動した。尚寧王と三司官たちが見守る中、俺は何もない空間にブラックホールを出現させた。


大きさは縦3メートル、横2メートル。先ほどハイラックスを出し入れするために開いた大きさのままだった。


突然現れた真っ黒な空間に、尚寧王も親方たちも驚いている。


「今から神様の祠に行って、神様の道具を借りてきますので、少し下がっていただけますか?」


尚寧王と親方たちが後ろへ下がったのを確認し、俺はブラックホールの中へ入った。


現代の倉庫に戻った俺は、とりあえず煙草に火をつけて一服した。


さて、何から出すかな。


俺は倉庫に並んだ車両を眺めながら、思わずニヤリとした。やっぱり最初はインパクトのある20トンのパワーショベルだろう。


煙草を吸い終えた俺は、ブラックホールに向かって声をかけた。


「移動」


目の前のブラックホールが消えた。


「5×5、設置」


今度は縦5メートル、横5メートル。最大の大きさのブラックホールが現れた。


俺はパワーショベルの操縦席に乗り込み、エンジンをかけた。そのままブラックホールを通り、ゆっくりと御庭へ進んでいく。


パワーショベルがブラックホールから姿を現した瞬間、尚寧王をはじめ、三司官たちが目を見開いた。巨大な鉄の塊が大きな音を立てながら動いているのだから、驚くのも無理はない。


俺は御庭の端にパワーショベルを停めてエンジンを切り、操縦席から降りた。


「まだありますので、もう少しお待ちください」


そう言って再びブラックホールへ入ると、今度は10トンダンプを運転して出てきた。続いて大型トラクター、最後にハイラックスを持ってくる。


一台出すたびに尚寧王たちの視線が動くが、誰も言葉を発しない。三司官たちも先ほどまでの勢いはどこへやら、口をぽかんと開けたまま立ち尽くしていた。


俺は四台の車両が並んでいるのを確認すると、尚寧王の前へ戻った。


「まだまだありますが、とりあえずこれが神様から借りてきた道具です」


尚寧王は並んだ車両を見つめたまま、動こうとしない。


「これで信用していただけたでしょうか?」


俺は尚寧王に尋ねた。


尚寧王はぐっと息を飲み、目の前に並んだ四台の車両を見つめていた。しばらくして、俺の方へ顔を向けた。


「道具と言うからには、この者たちは何をする道具なのだ?」


「それでは、一つずつ説明します」


俺はまず、20トンのパワーショベルを指さした。


「これはパワーショベルと言います。地面を掘ったり、大きな石を動かしたりする道具です。人間が何十人もかけて行う作業を、これ一台で短時間に終わらせることができます。例えば、水路を掘ったり、ため池を造ったり、山を切り開いて道を造ることもできます」


続いて10トンダンプを指さした。


「こちらはダンプと言います。土や石、砂などを大量に運ぶための道具です。一度に一万斤ほどの重さを運ぶことができ、荷台を持ち上げれば積んだ土砂を一気に降ろせます。先ほどのパワーショベルと組み合わせれば、大規模な土木工事ができます」


次に大型トラクターの前へ移動した。


「これはトラクターと言います。主に畑を耕すための道具です。牛や馬に犂を引かせる代わりに、この道具を使えば、広い畑を短時間で耕せます。人の手では何日もかかる畑仕事を、わずかな時間で終わらせることができます」


最後にハイラックスを指さした。


「こちらは先ほど金城さんたちを乗せてきた道具です。人や荷物を運ぶためのもので、馬よりも速く、長い距離を移動することができます」


俺は一呼吸置いて、尚寧王に向き直った。


「実は、神様から尚寧王にお伝えするよう、お言葉を預かっています」


「ほう、神から余にか?」


尚寧王は少し驚いた表情を見せたが、神様から直々に言葉を預かっていると聞いて、まんざらでもなさそうだった。


「はい。『富国強兵せよ』とのことです」


「富国強兵……それはどういう意味なのだ?」


「国を豊かにし、兵を強くするという意味です」


俺は少し間を置いてから説明を続けた。


「今の琉球には貧しい民が大勢います。毎日の食事にも困り、腹いっぱい食べることさえできない者もいます。まずは、そうした民をなくすことです」


「田畑を増やして米や芋、野菜を作り、誰もが十分に食べられるようにする。水路やため池を造り、日照りが続いても作物が育つようにする。そして余った作物や琉球で作った品物を他国へ売り、その利益で国をさらに豊かにする。これが富国です」


俺は一度言葉を区切り、尚寧王の顔を見た。


「しかし、いくら国が豊かになっても、他国に攻め込まれて奪われてしまっては意味がありません。そこで必要になるのが強兵です」


「兵士を鍛え、武器を整え、敵が攻めてきても国を守れるだけの力を持つことです。ただし、こちらから他国を攻めるためではありません。琉球の民と、この国を守るためです」


俺は最後にこう付け加えた。


「民が豊かになれば国も豊かになります。そして、その豊かさを守るために強い兵を持つ。それが富国強兵です。神様は尚寧王に、それを成し遂げるようお命じになったのです」


尚寧王はしばらく黙ったまま、俺の話を聞いていた。やがて御庭に並んだ四台の車両へ目を向け、ゆっくりとうなずいた。


「富国強兵か……。確かに、民が飢えていては国は豊かにならぬ。国が豊かになっても、それを守る力がなければ奪われる。道理にかなっておる」


尚寧王は三司官たちを見渡した。先ほどまで激昂していた城間親方も、今度は黙って話を聞いている。


「余とて、民の暮らしが苦しいことは承知しておる。しかし、田畑を広げるにも、水路を造るにも、多くの人手と年月が必要じゃ。王府にもできることと、できぬことがある」


尚寧王は再び俺に向き直った。


「だが、そなたの持ってきた道具を見れば、これまで不可能と思っていたことも、可能になるのやもしれぬ」


そう言うと、尚寧王は一歩近づき、真剣な表情で俺を見つめた。


「悠真よ。神が余に富国強兵を命じられたというのであれば、そなたはそのために何をしてくれるのだ?」


「俺は神様から授かった道具と知恵を使って、琉球を豊かにし、強い国を造るお手伝いができますが、いかがでしょうか? 今後九年間でやり遂げなければ、琉球という国はなくなってしまいます。九年なんて、あっという間ですよ」


俺は尚寧王の返事を待った。


「どうしますか?」


尚寧王はすぐには答えなかった。三司官たちの顔を順に見てから、俺に向き直った。


「少し時間をくれ。三司官たちと話し合いたい」


「いいでしょう。ああ、それから、神様からのお米を献上します」


俺はハイラックスの荷台に積んである米を指さした。


「こちらに八十貫ほどありますので、運んでいただけますか?」


尚寧王が命じると、警備の兵士たちが何人も集まり、次々と米袋を荷台から下ろしていった。袋の口から米をのぞいた親方の一人が、驚いた声を上げた。


「なんと、真っ白な米だ!」


「今の琉球のお米とは比べ物にならないくらいうまいですよ。後で炊いてみせますね」


俺は尚寧王たちに笑いかけた。


「とりあえず、皆さんは相談してきてください。俺はその間にご飯を炊いておきますので」


尚寧王と三司官たちが正殿へ戻っていくのを見送ると、俺はブラックホールを通って現代の倉庫へ戻った。せっかくだから、白米だけでなく琉球芋もご馳走しようと思ったのだ。


俺はキャンプ道具一式を用意した。カセットガスコンロ、飯盒、焚き火台、炭、アルミホイルなどを持ち、再び御庭へ戻る。


まずはカセットガスコンロを設置し、飯盒で米を炊き始めた。続いて焚き火台を組み立て、炭に火をつける。


琉球芋はきれいに洗ってアルミホイルで包み、炭火の上に並べた。あとは火加減を見ながら、ときどき向きを変えてじっくり焼けばいい。


さて、王様たちの話し合いが終わるまでに、うまく焼けるかな。


ご飯と琉球芋が出来上がった頃、尚寧王の使いの者がやって来た。話し合いが終わったので、正殿へ来てほしいとのことだった。


俺は熱々の飯盒と焼き上がった琉球芋を持ち、使いの者について正殿へ向かった。


まあ、答えはもう決まっているだろう。神様からの伝言を断れるわけがない。俺はそんなことを考えながら、謁見の場へ通された。


尚寧王は三司官たちを従え、俺を待っていた。


「悠真よ。三司官たちとも話し合った。そなたの申し出を受けよう」


そう言うと、尚寧王は俺に向かって自ら頭を下げた。


「どうか、琉球の富国強兵に力を貸してほしい」


国王が頭を下げたものだから、三司官たちも慌てて頭を下げた。


やはり、この時代は神様最強だわ。


「もちろんです。俺も琉球のために精いっぱい頑張ります」


俺はそう答えると、持ってきた飯盒と琉球芋を見せた。


「それでは、さっそくですが、こちらをご覧ください。このご飯と琉球芋こそ、今後数年間の琉球にとって重要な戦略物資になります」


尚寧王も三司官たちも、不思議そうな顔で俺の持っている飯盒を見つめている。


「まずは食べてみてください」


俺は飯盒の蓋を開けた。炊きたての白米から湯気が立ち上り、辺りにいい香りが広がる。


しまった、お茶碗を忘れていた。


俺は使いの者に頼んで、人数分のお茶碗を持ってきてもらった。さっそく熱々のご飯をよそい、尚寧王と三司官たちの前に並べる。


「どうぞ、召し上がってください」


ところが、誰も手をつけようとしない。尚寧王はもちろん、三司官たちもご飯を見つめたままだった。


ああ、そうか。毒味か。


俺は使いの者にもう一つ茶碗を持ってきてもらい、自分の分をよそった。


「それじゃ、お先にいただきます」


俺は箸を取って、炊きたてのご飯を口に運んだ。


うん、うまい。


俺が普通に食べているのを見て、ようやく親方の一人が箸を取った。白米を一口食べた途端、その動きがぴたりと止まった。


「な、なんと……この米のうまいことか!」


親方は驚いた表情で茶碗の中を見つめ、もう一口食べた。


「これほど甘く、柔らかく、香りのよい米があろうとは……。今まで食べてきた米など、まるで泥水で炊いた米のようじゃ!」


その言葉を聞いて、ほかの親方たちも次々と箸を取った。


その様子を見ていた尚寧王も箸を取り、白米を一口食べた。その瞬間、驚いたように目を見開き、ゆっくりと米を噛みしめた。


「なんと、これが米なのか! 先ほど親方が申した、今まで食べてきた米は泥水で炊いた米のようだという言葉も頷ける。ああ、噛めば噛むほど甘みが口の中に広がってくるではないか!」


尚寧王は感心した様子で、何度も白米を口に運んでいる。いや、それ業務用の安い米なんだけどな……。


「それでは、次はこちらの芋を食べてみてください。俺が琉球芋と名付けたものです」


俺はアルミホイルで包んだ琉球芋を取り出し、包みを開いた。中から湯気が立ち上り、甘い香りが広がる。


尚寧王はもう毒味など気にする様子もなく、さっそく芋を手に取った。ふうふうと息を吹きかけながら、そのままかぶりつく。


その瞬間、尚寧王の動きが止まった。まるで脳に電気ショックでも受けたかのように目を見開き、口の中の芋をゆっくりと噛みしめている。


「な、なんじゃ、この甘さは! 砂糖も使っておらぬのに、これほど甘いとは……。このような芋が、この世にあったのか!」


三司官たちも次々と芋を口に運び、驚きの声を上げている。この時代にこの甘さは反則だ。悪魔の食べ物と言ってもいいくらいだろう。


俺は皆が夢中になって食べているのを眺めながら、尚寧王に問いかけた。


「尚寧王、もし琉球の民が、この米と芋を毎日腹いっぱい食べられるようになったら、どうなると思いますか?」


尚寧王は手に持った琉球芋を見つめながら、ゆっくりとうなずいた。


「これぞ、そなたの申した富国強兵の一つというわけじゃな。これほど旨い米と芋を毎日腹いっぱい食えるようになれば、民も強くなるのう」


その言葉に、浦添親方朝師、名護親方良豊、城間親方盛久の三人も大きくうなずいている。先ほどまで怒鳴っていた城間親方も、今ではすっかり感心した様子だった。


「はい。まずは琉球全土で、この米と芋を民が毎日腹いっぱい食べても、なお余るくらい生産できるようにします」


俺はここで一つ提案をした。


「まずは実際に目にしていただかないと、なかなか分からないこともあると思います。実は、俺が支援して村の人たちと一緒に作り上げた村があるんです。一度そこを見ていただきたいのですが、どうでしょうか? 明日、皆さんで塩屋村とその近辺の村を見に行きませんか? あの神様の道具に乗って」


すると、浦添親方朝師が驚いた顔で俺に尋ねた。


「なんと、そなたはすでに村を作り上げておるのか?」


「それならば、ぜひ見てみたいものじゃな」


名護親方良豊も興味を示している。すると、尚寧王が少し嬉しそうな顔で口を開いた。


「余も、あの神の道具とやらに一度乗ってみたいものじゃ!」


いや、王様、そこかよ……。


最後に、城間親方盛久が俺に向かって頭を下げた。


「悠真殿、先ほどはすまなんだ。そなたの話を疑い、無礼な態度を取ってしまった。そのような村がすでにあるというのなら、わしもぜひ見てみたい」


先ほどまで刀に手をかけて怒鳴っていた城間親方が、今ではすっかり態度を変えていた。


「それでは、明日は四人で行きましょうか」


こうして明日の塩屋村視察が決まった。話もまとまったことだし、ここは一つ宴会でも開こうと思い、俺は尚寧王たちに声をかけた。


「それでは、少し待っていてください。実は神様から、話がまとまったら酒を出すようにと言われているんです。今から祠に戻って持ってきますね」


俺はそう告げると、ブラックホールを通って現代へ戻った。


そのまま酒屋へ向かい、泡盛の売り場を見て回った。今日は奮発しよう。せっかく王様と飲むんだから、安い酒じゃつまらない。


俺が選んだのは、五升入りの甕に入った古酒だった。値段は12万円。なかなかの金額だが、尚寧王たちがどんな反応をするのか楽しみだ。


あとはミネラルウォーターとグラスも買っておこう。今回は100均のグラスではなく、ちゃんとした陶器の泡盛グラスを五つ選んだ。


会計は、五升甕入りの古酒が120,000円、ミネラルウォーター2リットル6本で1,200円、陶器の泡盛グラス5個で12,500円。合計133,700円だった。


支払いを済ませて倉庫に戻り、銀行の残高を確認した。


前回の残高は91,681,910円。今回の133,700円を差し引くと、残金は91,548,210円。


まだ9,000万円以上ある。俺は買ってきた酒とグラスを確認し、1600年へ戻る準備をした。


俺は五升入りの古酒の甕と、ミネラルウォーター、陶器の酒杯を持ってブラックホールを通り、首里城へ戻った。


「お待たせしました。神様から預かってきたお酒です」


俺が甕を見せると、尚寧王が興味深そうに近づいてきた。


「ほう、見事な甕じゃな。中には何が入っておるのだ?」


「古酒です。長い年月をかけて熟成させた、とっておきのお酒ですよ」


「古酒とな。それは楽しみじゃ」


尚寧王は嬉しそうに笑うと、三司官たちに声をかけた。


「それでは南殿へ移ろう。皆でいただくとするか」


俺たちは南殿へ移動し、用意された座敷に腰を下ろした。俺が甕の蓋を開けると、ふわりと酒の香りが広がった。


「おお、これはよい香りじゃ」


浦添親方朝師が思わず声を上げた。


俺は持ってきた陶器の酒杯を五つ並べ、それぞれに古酒を注いだ。


「それでは、琉球の新たな門出を祝おうではないか」


尚寧王の言葉に合わせ、俺たち五人は酒杯を掲げた。


まず一口飲んだ尚寧王が、驚いたように目を見開いた。すぐには飲み込まず、口の中でゆっくりと味わっている。


「なんじゃ、この古酒は……。これほどまろやかな酒があろうとは!」


尚寧王はもう一度酒杯を鼻に近づけ、香りを確かめた。


「余もこれまで数々の古酒を飲んできたが、これほど香り高く、旨い酒は初めてじゃ!」


続いて浦添親方朝師が一口飲んだ。


「これは驚いた。酒の強さはしっかりとあるのに、口当たりが実に柔らかい。いったい何年寝かせれば、このような味になるのじゃ?」


名護親方良豊も酒を口に含み、目を細めた。


「うむ、旨い! 飲み込んだ後も、なんともよい香りが残っておる。これなら何杯でも飲めそうじゃな」


「名護親方、かなり強い酒ですから、飲みすぎには気をつけてくださいね」


俺がそう言うと、名護親方は声を上げて笑った。


最後に城間親方盛久が酒杯を口に運んだ。一口飲むと、しばらく黙ったまま酒杯を見つめていた。


「……参った。わしも古酒には少々うるさいつもりでおったが、このような酒は飲んだことがない。これは見事じゃ」


俺も自分の酒杯を傾け、一口飲んだ。


うん、旨い。さすが十二万円もする古酒だ。


尚寧王はあっという間に一杯目を飲み干すと、空になった酒杯を俺に差し出した。


「悠真よ、もう一杯もらえるか?」


「もちろんです。でも、明日は塩屋村まで行きますから、ほどほどにしてくださいよ」


俺が酒を注ぐと、尚寧王は楽しそうに笑った。


俺は尚寧王に二杯目を注ぎながら、ふと思いついた。


「そうだ。皆さん、このお酒は水で割って飲んでも美味しいんですよ。少し飲みやすくなりますから、試してみませんか?」


「水で割るじゃと? せっかくの上等な古酒を薄めてしまうのか?」


尚寧王が不思議そうな顔をした。


「まあ、一度飲んでみてください」


俺は自分の酒杯に古酒を注ぎ、持ってきたミネラルウォーターを加えた。軽く混ぜて一口飲む。


うん、これも旨い。


「こんな感じです。酒の強さが和らいで、香りも楽しめますよ」


俺は尚寧王と三司官たちの酒杯にも水を加えた。


尚寧王は半信半疑の様子で一口飲んだが、すぐに表情が変わった。


「おお、これは飲みやすい! なるほど、水を加えても旨さは変わらぬのじゃな」


浦添親方朝師も感心したようにうなずいた。


「確かに、先ほどより柔らかい味わいじゃ。これは面白い飲み方じゃな」


「わしはこちらの方が好みじゃ。いくらでも飲めそうじゃぞ!」


名護親方良豊が嬉しそうに笑うと、城間親方盛久も酒杯を傾けた。


「うむ。古酒を水で割るとは考えもしなかったが、これも悪くない」


俺は四人の様子を見ながら、思わず笑ってしまった。


「皆さん、飲みやすくなったからといって、飲みすぎないでくださいよ。明日は朝から出発するんですから」


すると尚寧王が酒杯を掲げた。


「なに、心配はいらぬ! 明日の楽しみが一つ増えたわ!」


南殿には五人の笑い声が響いた。


読んでいただきありがとうございます。

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