第66話 1600年6月12日
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朝
俺は目を覚ますと湯を沸かし、コーヒーを飲みながら一服していた。
ここ1週間、畑の作業も落ち着き、毎日ゴーヤーやヘチマが収穫できるようになった。おかげで村の食事も、見た目にもずいぶん良くなってきた。
ゴーヤーが収穫できるようになったので、俺は現代からでかい中華鍋を買ってきて、村のみんなにゴーヤーチャンプルーを作ってやった。ところが、みんな初めて食べる料理だったようだ。てっきりこの時代にもゴーヤーチャンプルーはあると思っていたのだが、どうやらまだなかったらしい。
肝心の評判はというと、大人たちにはまあまあだったが、子供たちには不評だった。卵を絡めて苦味を抑えたつもりだったが、それでも子供たちには苦かったようだ。豚肉の代わりにポークランチョンミートを入れてみたのだが、子供たちはそればかり選んで食べていた。
そんなことを思い出しているうちに朝食の時間になったので、俺はかなさんのところへ行き、雑炊を一杯もらった。今日の雑炊には琉球芋が入っていて、すごくおいしくできている。
「かなさん、今日の雑炊もおいしいね」
「そうですね。琉球芋も入って、おいしくなっていますね」
食事が終わると、村のみんなはそれぞれの仕事へ散っていった。俺も今日はゆっくり過ごそうかと思っていたのだが、午後になって、ようやく待っていたものがやって来た。
国頭間切から、王府の小役人がやって来たのだ。
小役人は長老のウシマルの家に向かい、何やら話をしているらしい。俺もタルガニに呼ばれ、ウシマルの家へ向かった。
中に入ると、ウシマルと小役人が向かい合って座っていた。俺もその場に同席し、話を聞くことにした。
どうやら、今年の税を徴収しに来たようだ。
やっと来たかぁ!
実は俺、この日を待っていたのだ。
ウシマルが申し訳なさそうに口を開いた。
「お役人様、今年は粟が不作でしてな。つい最近まで食べるものにも困り、難儀しておりました」
すると小役人は、あっさりとうなずいた。
「そうか、そうか。それは難儀であったな。では、次はしっかり納めてくれよ」
「ははっ、ありがとうございます」
そう言うと、小役人は立ち上がり、帰る支度を始めた。
えっ!?
いやいや、ちょっと待て!
ここはもう少し粘るところじゃないのか? 税を取りに来たんだろ? そんな簡単に帰っていいのかよ!
俺は拍子抜けしてしまった。しかし、そこで以前、現代に戻ったときにChatGPTで当時の税について調べたことを思い出した。
そういえば、1600年頃の琉球王国では、まだ税の取り立てがそこまで厳しくないという話だったな。もっとも、税の取り立てが緩くても、王府から命じられる道路や橋などの工事は別だ。そうした賦役は断れず、村から人手を出さなければならない。
それにしても、わざわざここまで来て、手ぶらで帰るとはなかなか気前のいい役人だ。
俺は帰ろうとしている小役人を呼び止めた。
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「ん? 何だ、お前は?」
「悠真と申します」
「悠真? 聞かぬ名だな。わしは国頭間切の役人、金城三良という」
「金城様ですね。よろしくお願いします」
俺が頭を下げると、金城様は不思議そうな顔でこちらを見ていた。
せっかくなので、俺は今回の税の集まり具合を尋ねてみた。
「金城様、今回の税の集まりはどうですか?」
「うむ、あまりよろしくないな。今年はどこの村も苦しいようだ。それに、この村は規模も小さいからな。もともとそれほど期待はしておらんかった」
なるほど、やはり税の集まりはあまり良くないらしい。俺は金城様の話を聞きながら、横に座っているウシマルとタルガニをちらりと見た。
「そうですか。ところで金城様、この村には税として納める粟はありませんが、米ならありますよ」
「何? 米があるのか?」
その瞬間、ウシマルとタルガニが驚いた顔で俺を見た。二人とも、こいつはいったい何を言い出すんだという顔をしている。
俺はそんな二人を気にせず、金城様に尋ねた。
「ちなみに、この村が粟で税を納めるとしたら、どれくらい必要なんですか?」
「そうだな。この村は規模も小さいから、五十貫ほど納めてもらえればよい」
五十貫か。米に換算すると、およそ十七貫だな。
「それでは、米なら十七貫でよろしいですか?」
「米で十七貫だと? それだけあれば何の問題もないぞ」
金城様は少し驚いた様子だったが、すぐにうなずいた。
「分かりました。それでは、ここで少しお待ちいただけますか?」
俺がそう言うと、金城様は不思議そうな顔をしていた。
俺は現代に戻ると、いつもの米問屋へ向かい、業務用米を300キロ購入した。今回の代金は15万円。これで銀行の残高は約9,174万円になった。
購入した米をブラックホールに運び込み、俺は再び塩屋村へ戻った。米を倉庫の前に積み終えると、ウシマルの家へ向かった。
「金城様、お待たせしました。ちょっとこちらへ来ていただけますか?」
俺は金城様と、お供の役人二人を倉庫の前へ案内した。そこには、現代から運んできた米が積んである。
「ところで金城様、隣の二つの村と、その奥にある村にはもう行かれましたか?」
「いや、まだだ。ここが済んだら順に回るつもりだが」
「そうですか。それなら、行っても無駄ですよ。あちらの三つの村は、この村よりも食料事情が悪いんです」
「何? そうなのか?」
「ええ。つい最近まで食べるものにも困っていたくらいですから、税を納める余裕なんてありませんよ」
金城様は困ったような顔をした。俺は倉庫の前に積んである米を指さした。
「そこで金城様、ここに米が三百キロ、八十貫あります。この村と、残りの三つの村の分としてお納めください」
「…………」
金城様は口を開けたまま、米の山を見つめていた。お供の役人二人も、そろってポカーンとしている。
しばらくして、金城様がハッと我に返った。
「ま、待て! なぜこれほどの米が、このような小さな村にあるのだ!?」
そりゃそう思うよな。さっきまで粟すら納められないと言っていた村に、いきなり大量の米が出てきたんだから。
俺が何と答えようか考えていると、横から元気な声が飛んできた。
「悠真は神様なんだよ!」
マカトだった。
「ちょっ、マカト!」
隣にいたかなさんが驚いて、慌ててマカトの口を塞いだ。しかし、もう遅い。金城様とお供の役人二人が、一斉に俺の顔をまじまじと見つめている。
「いやいや、神様なんかじゃありませんよ」
俺は笑いながら否定した。
しかし、これは思わぬ展開だな。せっかくだし、この話に乗っかってみるか。
すると、今度はウシマルが口を開いた。
「実はな、金城様。悠真殿は神様からのお使いなのじゃ」
そうだった。村では以前から、俺は神様の使いということになっている。マカトはまだ子供だから、神様と神様の使いの区別がついていないのだろう。
「神様から、この島を豊かにするようにと言われて、わしらの村に来てくださったのじゃ」
ウシマルは真剣な顔で金城様に説明している。俺は黙ってその様子を見ていた。
ところが、ウシマルの言葉を聞いた金城様たちの反応は、俺の予想をはるかに超えていた。
「な、なんと! 神様のお使いでございましたか!」
金城様が突然、その場にひれ伏した。すると、お供の役人二人も慌てて地面に額をつけた。
「「ははーっ!」」
おいおい、マジかよ!
さっきまで俺のことを「お前」と呼んでいた役人が、今では地面にひれ伏している。
俺は三人を見下ろしながら思った。
さすが神様パワーだな。
金城様たちがようやく顔を上げたところで、俺は三人を倉庫へ案内することにした。
「金城さん、ちょっと見てもらいたいものがあるんですよ」
俺が倉庫の扉を開けると、そこには先日収穫した琉球芋が山のように積まれていた。その量、なんと3トン。金城様とお供の二人は、倉庫の中を見た途端、目を丸くした。
「こ、これは……全部、芋なのですか!?」
「そうですよ。先日収穫したばかりです」
「これほど大量の芋を、一体どこで……」
金城様は驚いたまま、芋の山を見つめている。
俺は朝の雑炊に使った芋の残りを持ってきてもらい、三人に差し出した。
「まあ、とりあえず食べてみてください」
三人は芋を受け取ると、恐る恐る口に運んだ。
「こ、これは!」
「甘い! 何という甘さだ!」
「こんなにおいしい芋は初めて食べました!」
三人とも、さっきまでの驚きとはまた違う顔をしている。
そりゃそうだ。現代で品種改良された安納芋だからな。400年前の人間が食べたら、そりゃ驚くだろう。
「それじゃ、次は畑を見に行きましょうか」
俺は金城様たちを連れて第二畑へ向かった。畑には琉球芋が青々と葉を広げ、その横ではゴーヤーやヘチマが実をつけている。
「金城さん、この畑を見てください。あと数か月もすれば、さっき倉庫で見た芋よりも、もっとたくさんの芋がここから収穫できるんですよ」
「な、何と……あれほどの芋が、さらに収穫できると申されるのですか?」
「そうですよ。それに、ほら、あちらにはゴーヤーとヘチマもあります。毎日収穫できるようになりました」
金城様は畑を見渡しながら、何度もうなずいていた。お供の二人も、ゴーヤーやヘチマを珍しそうに眺めている。
「それじゃ、次は水田です」
俺は三人を連れて水田へ向かった。
水田には稲がきれいに整列して植えられている。30センチ間隔でまっすぐに並んだ稲は、見ていて気持ちがいいくらいだ。
「金城さん、この水田からは、およそ千三百貫の米が収穫できる予定なんですよ」
「せ、千三百貫……?」
金城様は俺の顔をまじまじと見つめたまま、何も言わなくなった。お供の二人も、ただ水田を見つめている。
「金城さん、考えてみてください。もし、これだけの米が島中の村で収穫できるようになったら、どうなります?」
「…………」
「みんなが毎日、白い米を腹いっぱい食べられるようになるんですよ」
金城様は何も答えなかった。ただ、目の前に広がる水田をじっと見つめていた。
一通り案内を終えた俺たちは、再び倉庫へ戻ってきた。
「それじゃ金城さん、先ほどの米八十貫、持って帰ってください」
すると金城様は、困ったような顔をした。
「悠真様、ありがたいお話なのですが、さすがにこれほどの米を、今すぐ全部持ち帰ることはできませぬ……」
そうか、そうか。
俺は思わずニヤリとした。
実は、その言葉を待っていたんだよな。
「それなら、明日、俺が王府まで運ぶのを手伝いますよ。今からだと遅いですし、今日はここに泊まっていってください」
「い、いえ、しかし……」
「遠慮しなくていいですよ。せっかくですから、ゆっくりしていってください」
金城様はお供の二人と顔を見合わせていた。神様の使いだと聞かされた相手からの誘いだけに、断るに断れないようだ。
「で、では、お言葉に甘えまして……」
「はい、それじゃ決まりですね」
俺はタルガニを呼び、三人を来客用の家へ案内してもらうことにした。
まだ日は高い。せっかく王府の役人が来たんだから、今日は少し賑やかにしてもいいだろう。
俺はウシマルに声をかけた。
「ウシマル、今日は間切りからお役人さんが来てくれたことだし、今から宴会でもしようか!」
すると、ウシマルが返事をするより先に、横にいたタルガニが飛び上がった。
「宴会だー!」
おいおい、まだウシマルが何も言ってないだろ。
ところが、その声を聞きつけた目ざとい村人たちが、あっという間に集まってきた。
「宴会だってよ!」
「宴会! 宴会!」
「今日はごちそうだ!」
あちこちから歓声が上がり、子供たちまで大喜びで走り回り始めた。ウシマルはそんな村人たちを見て、苦笑いしている。
「まったく、お前たちは宴会となると元気になるのう……」
俺も思わず笑ってしまった。
「それじゃ、かなさん。女の人たちで宴会の準備をお願いします。俺は食材を用意してきますから」
「はい、分かりました。みんなにも声をかけておきますね」
かなさんがうなずくと、俺はさっそく現代へ戻った。
今回買ってきたのは、水割り済みの泡盛12度、1.8リットル入りを25パック。レモンティー2リットルを30本、それにバーベキュー用のチキン20キロだ。
泡盛が2万8,550円、レモンティーが5,940円、チキンが2万3,600円。今回の買い物は合計5万8,090円だった。
これで銀行の残高は9,168万1,910円。
俺は買ってきた酒と食材をブラックホールに運び込み、再び塩屋村へ戻った。
俺が村に戻ると、宴会の準備が着々と進んでいた。俺は買ってきた酒とレモンティーをみんなに配り、食事ができるのを待つことにした。
金城さんとお供の二人にも、泡盛を一パックずつ渡した。三人には予備のコップも用意してやった。
「金城さん、これをどうぞ。水で割ってありますから、そのまま飲めますよ」
「おお、これはかたじけない。悠真様、ありがとうございます」
金城さんは珍しそうに紙パックを眺めている。お供の二人も、初めて見る容器が気になるようだ。
周りを見渡すと、男どもはみんな酒を手にしたまま、そわそわしていた。料理ができるまで待つつもりらしいが、どう見ても早く飲みたくて仕方がないという顔をしている。
「もう飲んでいいよ!」
俺がそう言った途端、男どもから歓声が上がった。
「よっしゃー!」
「それじゃ、いただくぞ!」
まったく、酒となると元気な連中だ。
男どもがさっそく酒を飲み始めたので、俺はバーベキュー用のチキンを焼くことにした。20キロもあるから、焼くのもなかなか大変だ。
かなさんと他の女たちは、大きな鍋で雑炊を作りながら、焼き芋の準備も進めていた。焚き火の周りでは芋が焼かれ、あたりにはいい匂いが漂い始めている。
俺もチキンを焼き始めると、肉の焼ける音と香ばしい匂いが広がっていった。
ふと金城さんの方を見ると、さっそく泡盛をコップに注いで飲んでいた。
「こ、これは! 何といううまい酒じゃ!」
金城さんは目を丸くすると、もう一口飲んだ。
「いやはや、これほど飲みやすく、うまい酒は初めてですぞ!」
すっかりご機嫌になった金城さんは、満面の笑みを浮かべている。お供の二人も酒を口にして、うれしそうに顔を見合わせていた。
そりゃそうだ。現代の水割り泡盛だからな。
俺はご機嫌な三人を横目に、チキンをひっくり返した。
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