第62話 1600年5月30日
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海上。
船の先に、那覇港が見えてきた。昨日の朝、塩屋村を出発してから丸一日以上が経っている。昨夜は途中の海岸に船を引き上げ、そこで一泊した。
今朝は夜明けとともに出発し、ようやく那覇までやってきた。
俺は船の上で潮風に当たりながら、今回持ってきた商品のことを考えていた。
一昨日、現代へ戻った俺は、久しぶりに居酒屋で焼き鳥を食べ、そのまま一泊した。
翌朝は風呂に入ってから、いつもの貴金属買取店A店とB店へ向かった。
今回換金するのは、陳さんとの取引で受け取った金286匁5分だ。金1匁は3.75グラムだから、全部で1,074.375グラムになる。
これだけの金を一度に持ち込むと目立つので、いつものようにA店とB店に分けて売却した。
今回の金の買取価格は1グラム23,187円。合計で24,911,533円、約2,491万円になった。
換金を終えた俺は、そのまま銀を購入することにした。以前から考えていた金と銀の交換を試してみたかったからだ。
1600年頃の中国では銀の需要が高く、南蛮商人も銀を扱っている。もし現代で購入した銀を向こうで金と交換できれば、かなり面白い商売になる。
もちろん、実際にどの程度の比率で交換してくれるのかは分からない。今回は試しに10キロだけ持っていくことにした。
銀の購入価格は1グラム337.04円。1キロの銀地金を10本購入して、合計3,370,400円になった。
ずっしりと重い銀の延べ棒を見ながら、俺は思わず笑ってしまった。
現代では約337万円の銀だが、もし1600年で金200匁と交換できれば、金の重さは750グラムになる。
現代の買取価格なら約1,739万円。差額は約1,400万円だ。
もっとも、これは俺の計算どおりに交換してもらえた場合の話だ。南蛮商人がどんな条件を出してくるのか、実際に交渉してみなければ分からない。
銀の購入を終えた俺は、次に宝石店へ向かった。今回の目玉商品は人工ダイヤモンドだ。
人工といってもガラス玉ではない。天然ダイヤモンドと同じ炭素からできた、本物のダイヤモンドだ。
しかも現代の技術で精密に加工されたラウンドブリリアントカット。1600年の宝石職人には、まず再現できないだろう。
俺が購入したのは、2カラット、3カラット、4カラット、5カラットの4個だ。すべて無色透明に近い品質の良いものを選んだ。
店員に頼んで一つずつ専用の宝石箱に入れてもらい、鑑定書も付けてもらった。
ただし、鑑定書は現代での購入記録として保管しておく。1600年の南蛮商人に見せても、書かれている内容が理解できるとは思えない。
2カラットが10万円、3カラットが18万円、4カラットが25万円、5カラットが40万円。4個合わせて93万円になった。
宝石箱を開けて確認すると、どれも見事な輝きだった。特に5カラットは迫力がある。直径は約11ミリ。指先に載せると、その大きさがよく分かる。
これを1600年の南蛮商人が見たら、どんな顔をするだろう。
前回は鏡を見せただけでも驚いていた。今回のダイヤモンドは、それ以上の反応が期待できそうだ。
俺は宝石箱を丁寧にしまい、今回の支出を計算した。
金286匁5分の売却額が24,911,533円。そこから銀10キロの購入費用3,370,400円と、人工ダイヤモンド4個の購入費用930,000円を差し引くと、残りは20,611,133円になる。
銀10キロとダイヤモンド4個を購入しても、約2,061万円が残った。
これだけあれば、当分の間は現代での買い物にも困らないだろう。
俺は購入した銀と宝石をブラックホールから塩屋村へ運び込み、翌日の船旅に備えた。
そして昨日、タルガニと漁師3人を連れて塩屋村を出発した。
銀10キロは重いが、船で運ぶ分には大した荷物ではない。宝石箱は水に濡れないよう、しっかり包んである。
今回は南蛮商人にダイヤモンドを売り、できれば銀も金に交換してもらうつもりだ。
前回、あれだけ鏡に興味を示した商人だ。再び琉球へ来ているなら、何か珍しい商品を探しているかもしれない。
もっとも、まだ那覇にいるかどうかも分からない。
俺は船の前方へ目を向けた。那覇港が少しずつ近づいてくる。
港には大小さまざまな船が停泊していた。帆柱が何本も立ち並び、海岸沿いには倉庫らしい建物が見える。
「ユウマ、もうすぐ那覇だ」
タルガニが声をかけてきた。
「ああ。ようやく着いたな」
俺は立ち上がり、港の様子を眺めた。今回の交易がうまくいけば、塩屋村の発展に使える資金がさらに増える。
さて、南蛮人はまだいるだろうか。
俺は期待を胸に、近づいてくる那覇港を見つめていた。
俺たちの船は、ゆっくりと那覇港へ入っていった。港には大小さまざまな船が停泊しており、荷物を運ぶ人々や商人たちで賑わっている。
船を岸に寄せると、タルガニたちが手際よく綱を結び、船を固定した。
今回持ってきた銀10キロは、さすがに重い。とりあえず銀は船に置いたまま、漁師3人に留守番を頼むことにした。
宝石箱だけを持ち、俺はタルガニと一緒に上陸した。
「俺たちは商人を探してくる。銀はそのまま船に置いておいてくれ。誰にも見せないようにな」
漁師たちはうなずき、船の上で荷物の整理を始めた。
港を歩きながら、俺は一昨日、塩屋村で別れたサンラーのことを考えていた。
陳さんとの取引を終えたサンラーは、その日のうちに村を出ている。昨日には那覇へ帰っているはずだ。
俺はタルガニと一緒に、以前サンラーと会った場所へ向かった。港から少し歩くと、見覚えのある建物や店が並んでいる。
人々の話し声が飛び交う中、辺りを見回していると、すぐにサンラーの姿を見つけた。
「サンラー!」
俺が声をかけると、サンラーはこちらを振り向き、驚いたような顔をした。
「ユウマさん! もう那覇に来たんですか」
「ああ。昨日、塩屋村を出て、途中の海岸で一泊してきたんだ」
「それはお疲れさまでした。今日は何かお買い物ですか?」
「いや、今回は南蛮商人に会いたいんだ。また案内を頼めるかな」
サンラーはすぐにうなずいた。
「もちろんです。前にお会いした南蛮人ですね」
「ああ。まだ那覇にいるか分からないけど、まずは探してみたい」
「分かりました。では、行ってみましょう」
俺たちはサンラーの案内で歩き始めた。
その途中、俺は以前から気になっていたことを聞いてみることにした。
「そうだ、サンラー。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「何でしょう?」
「この辺りでは、金と銀はどれくらいの割合で交換されているんだ?」
サンラーは少し考えるような顔をした。
「金と銀ですか?」
「ああ。例えば、銀を持っていたら、金はどれくらいもらえるんだろう」
サンラーはうなずいて答えた。
「金一匁に対して銀十匁から十一匁ほどですね。手数料も含めて、そのくらいが相場だと思います」
「なるほど。金一匁を手に入れるには、銀が十匁から十一匁必要なのか」
「はい。銀の品質や取引する相手によっても変わります」
俺は頭の中で計算した。銀10キロなら、金は約909グラムから1キロになる。
現代で売れば2,100万円から2,300万円以上。銀の購入費用337万円を差し引いても、相当な利益が出る計算だ。
これは予想以上だ。
もっとも、実際にその条件で交換してくれる相手がいるかどうかは、これから確かめることになる。
俺はサンラーに礼を言い、再び歩き始めた。
まずは南蛮商人を探そう。話はそれからだ。
サンラーは港に停泊している船を一隻ずつ確かめながら歩いていた。前回の南蛮商人は華人の船に乗っていたからだ。
聞けば、この辺りに来る南蛮人のほとんどは、華人の商船に同乗しているらしい。
「南蛮人だけで来ることは少ないのか?」
俺が尋ねると、サンラーはうなずいた。
「はい。華人の商人と一緒に来ることが多いですね。ですから、まずは華人の船を探しましょう」
俺たちは岸沿いを歩きながら、何隻ものジャンク船を見て回った。
荷物を積み込んでいる船もあれば、船員たちが甲板で休んでいる船もある。港は人の声と荷車の音で賑わっていた。
しばらく歩いたところで、サンラーが一際大きなジャンク船を指さした。
「あの船、もしかすると前にお会いした華人の船かもしれません」
俺はサンラーが指さす方へ目を向けた。
ほかの船より一回り大きく、甲板には何人もの船員が見える。船体の形にも、どこか見覚えがあった。
「近づいてみよう」
俺たちはそのジャンク船へ向かった。
船の近くまで来ると、甲板にいた華人の一人がこちらに気づき、何かを叫んだ。
すると、船の奥から見覚えのある男が姿を現した。
前回、南蛮商人と一緒にいた華人だった。
「あっ、あの人です! 間違いありません!」
サンラーが嬉しそうに声を上げた。
華人も俺たちに気づいたらしく、驚いた顔をした後、大きく手を振ってきた。
サンラーが明語で何かを話しかけると、華人は笑顔で何度もうなずいている。
「ユウマさん、向こうも驚いています。ちょうどあなたを探していたそうですよ」
「俺を?」
「はい。二日前に那覇へ着いたばかりで、南蛮人も一緒だそうです」
どうやら、こちらが探していた相手も、俺たちを探していたらしい。
サンラーが華人としばらく話をすると、前回の鏡の話が出てきた。
あの後、彼らはマカオへ戻り、購入した鏡をポルトガル本国へ向かう船に託したそうだ。
「鏡はもう本国へ送ったのか?」
俺が尋ねると、サンラーは華人に確認してから答えた。
「はい。マカオで本国行きの船に預けたそうです。南蛮人は、あの鏡なら本国で高く売れると考えているようですね」
「なるほど。それでまた琉球へ来たわけか」
「そうです。ほかにも珍しい品物がないか、ぜひユウマさんに会いたかったそうです」
俺は思わず笑ってしまった。
こちらも新しい商品を持ってきたところだ。
しかも、今回は鏡以上に珍しいものを用意している。
華人は俺たちを船に招き入れようと、甲板から手招きをした。
どうやら、南蛮商人も船の中にいるらしい。
俺はタルガニと顔を見合わせた。
「よし、行ってみよう」
サンラーを先頭に、俺たちはジャンク船へ乗り込んだ。
船の中へ案内されると、前回会った南蛮商人が俺たちを出迎えてくれた。俺の顔を見るなり満面の笑みを浮かべ、何やら興奮した様子で話しかけてきた。
華人がその言葉を明語に訳し、サンラーが俺に伝えてくれる。
「ユウマさん、またお会いできて嬉しいそうです。今日は何か珍しい品物を持ってきたのかと聞いています」
「ああ、もちろん持ってきたよ。ただ、その前に一つ聞きたいことがあるんだ」
俺はサンラーを通して、銀を大量に持っていることを伝えた。
「銀がかなりあるんだけど、金と交換してもらうことはできるかな?」
すると、南蛮商人が答えるより早く、隣にいた華人が身を乗り出した。
「銀ですか。それなら私が欲しい。どれほどお持ちなのですか?」
俺は頭の中で計算した。銀10キロだから、中国の重さに直すと約268両になる。
「二百六十八両ほどある。金と交換してもらいたいんだけど、どうかな?」
華人は少し驚いた顔をしたが、すぐにうなずいた。
「それだけの銀なら、ぜひ拝見したい。品質が良ければ、喜んで取引いたしましょう」
俺はタルガニに声をかけた。
「タルガニ、船に戻って銀を持ってきてくれ。漁師たちにも手伝ってもらっていいから」
「分かった。すぐに戻る」
タルガニはそう言うと、船を降りて港へ向かった。
南蛮商人は俺が持っている荷物を気にしているようだった。何度も宝石箱を入れた包みへ視線を向け、華人に何かを話しかけている。
サンラーが笑いながら通訳してくれた。
「ユウマさん、前回の鏡のような珍しい品物は、今回はないのかと聞いています」
「あるよ。前回の鏡より、もっと珍しいものを持ってきた」
その言葉を聞いた南蛮商人は、目を大きく見開いた。
すぐに見せてほしいと言っているらしい。
「まあ、楽しみにしていてくれ。まずは銀の取引を終わらせてからだ」
俺はわざとそれ以上説明しなかった。
南蛮商人は気になって仕方がない様子だったが、俺は知らないふりをして茶を飲んだ。
少しくらい焦らした方が、商談も面白くなるだろう。
それから10分ほど経った頃、タルガニが漁師3人を連れて戻ってきた。
手には布で包んだ銀の延べ棒を持っている。
「ユウマ、持ってきたぞ」
「ありがとう。そこに並べてくれ」
俺が指さした卓の上に、銀の延べ棒が一本、また一本と並べられていく。
全部で10本。一本1キロ、合計10キロだ。
布を取り払うと、磨き上げられた銀色の表面が姿を現した。
窓から差し込む光を受けて、延べ棒が鈍く輝いている。
華人は最初の一本を見た瞬間、目を見開いた。
そして10本すべてが並ぶと、思わず席から立ち上がった。
「これが全部、銀なのですか?」
サンラーが驚いた様子で通訳した。
「ああ。全部で二百六十八両ほどある」
俺が答えると、華人は一本を手に取り、重さを確かめた。
表面をじっくり眺め、指でなぞり、何度も角度を変えて光にかざしている。
やがて華人は、銀の表面に刻まれた純度表示に目を留めた。
「これは何と書いてあるのですか?」
「銀の純度を表している。ほとんど混じり物のない銀だよ」
華人は信じられないという顔をした。
「これほど美しく、形も重さも揃った銀は、今まで見たことがありません」
華人はほかの延べ棒も次々に手に取り、表面を確かめ始めた。
その目つきは、先ほどまでとは明らかに違っていた。
やがて華人は銀の延べ棒を一本手に取ると、サンラーに何かを話しかけた。
「ユウマさん、銀の純度を確かめたいそうです。少し削り取ってもよろしいでしょうか?」
「もちろん構わないよ。納得するまで調べてくれ」
サンラーが伝えると、華人は船員を呼び、試金の道具を持ってくるよう命じた。
しばらくすると、小さな秤や砥石、刃物などが運ばれてきた。
華人はまず銀の延べ棒を秤に載せ、重さを確かめた。続いて表面を砥石にこすりつけ、残った銀色の筋を注意深く観察している。
さらに刃物で端を少し削り、削り取った銀を小さな皿に集めた。
「これから銀を溶かして調べるそうです」
サンラーが説明してくれた。
華人は船員に指示を出し、削り取った銀を試験用の小さな容器に入れさせた。
どうやら、火を使って品質を確かめるらしい。
俺はその様子を興味深く眺めていた。1600年でも、こうして金属の品質を調べる技術があるんだな。
しばらくして、華人は試験を終えた銀を確認すると、驚いたように顔を上げた。
そして、もう一度延べ棒を手に取り、何度も表面を眺めている。
「どうだった?」
俺が尋ねると、サンラーが華人の言葉を伝えてくれた。
「非常に純度の高い銀だそうです。これほど不純物の少ない銀は、めったに見られないと言っています」
華人は興奮した様子で、残りの延べ棒も調べたいと言い出した。
俺は笑ってうなずいた。
「全部調べてもいいよ。同じ銀だから」
華人は数本を選び、同じように重さと品質を確かめていった。
やがて満足したのか、道具を片付けさせると、俺に向き直った。
「ユウマさん、ぜひこの銀をすべて買い取りたいそうです」
サンラーがそう伝えると、華人は大きくうなずいた。
「それじゃ、金との交換比率を決めようか」
俺がそう言うと、華人は少し考えてから口を開いた。
サンラーが通訳してくれた。
「金一匁に対して銀十匁ではいかがでしょうか。手数料も含めた条件だそうです」
十対一か。さっきサンラーから聞いた相場は十から十一だから、十分に良い条件だ。
ただ、これからも取引を続けるつもりなら、相手にも少し利益を残しておいた方がいいだろう。
「十匁五分でいいよ」
俺がそう言うと、華人は驚いたように顔を上げた。
「十匁五分でよろしいのですか?」
「ああ。これから長い付き合いになるはずだからね。お互いに利益になるようにしたいんだ」
サンラーが通訳すると、華人は満面の笑みを浮かべた。
そして何度もうなずきながら、俺に礼を言ってきた。
「ありがとうございます。ぜひ、これからもお取引をお願いいたします」
「こちらこそ。今後も銀を持ってくるつもりだから、その時はよろしく頼むよ」
華人は嬉しそうにうなずいた。
どうやら、今回の取引で少しは信用を得られたようだ。
銀10キロを十・五対一で交換すると、受け取る金は約952グラム。匁に直すと約254匁になる。
現代の買取価格なら約2,208万円。銀の購入費用337万円を差し引いても、約1,871万円の利益だ。
十分すぎるほどの利益になる。
俺は目先の数十グラムの金より、これから先の取引を大切にしたかった。
華人は船員に声をかけ、交換する金を用意するよう命じた。
俺はようやく一つ目の商談がまとまったことに満足しながら、茶を一口飲んだ。
華人との取引がまとまり、交換する金の準備が始まったところで、俺は南蛮商人に目を向けた。
先ほどから俺の持っている包みが気になって仕方がないらしく、何度もこちらをちらちらと見ている。
「さて、お待たせしたね。今度はあなたとの商談だ」
サンラーが通訳すると、南蛮商人は待っていましたとばかりに身を乗り出した。
俺は包みの中から小さな宝石箱を二つ取り出し、卓の上に並べた。
一つは2カラット、もう一つは3カラットのダイヤモンドだ。
「まずは、これを見てもらおうかな」
俺はそう言って、2カラットの宝石箱をゆっくりと開けた。
窓から差し込む光を受けたダイヤモンドが、白く鋭い輝きを放った。
細かく磨かれた無数の面が光を反射し、角度によって虹色の光がちらちらと浮かび上がる。
南蛮商人は一瞬、何が出てきたのか分からなかったようだ。
しかし、箱の中をのぞき込んだ途端、目を大きく見開き、椅子から勢いよく立ち上がった。
「おおっ!」
大きな声を上げると、何やら早口でまくしたて始めた。
華人も驚いた様子で宝石箱をのぞき込み、二人で興奮したように話し合っている。
「何て言ってるんだ?」
俺がサンラーに尋ねると、サンラーも少し興奮した様子で答えた。
「ダイヤモンドだと言っています。それも、こんなに美しく磨かれたものは見たことがないそうです」
「そうか。ちゃんと分かるんだな」
南蛮商人は俺に何かを尋ね、サンラーが通訳した。
「手に取って確かめてもよろしいでしょうか、と聞いています」
「もちろん。ただし、落とさないように気をつけてくれよ」
俺が許可すると、南蛮商人は慎重にダイヤモンドをつまみ上げた。
窓の近くまで移動し、光にかざして何度も角度を変えている。
そのたびに小さな石の内部から強い輝きが生まれ、南蛮商人は感嘆の声を漏らした。
当時のヨーロッパにもダイヤモンドは存在しているが、現代のラウンドブリリアントカットはまだ生まれていない。
この58面に磨き上げられたダイヤモンドは、彼にとって初めて見るものだろう。
南蛮商人は華人に向かって何かを熱心に説明している。
サンラーによると、これほど均整の取れた研磨は見たことがなく、どこの職人が作ったのか知りたがっているらしい。
「それは秘密だよ。ただ、ほかでは手に入らないと思う」
俺が笑って答えると、南蛮商人はますます興味を示した。
俺は2カラットのダイヤモンドを箱に戻してもらい、今度は隣の宝石箱に手を伸ばした。
「実は、もう一つあるんだ」
南蛮商人は驚いた顔で俺の手元を見つめた。
俺はゆっくりと二つ目の箱を開けた。
中に収められているのは、3カラットのダイヤモンドだ。
先ほどのものより一回り大きく、同じように精密なカットが施されている。
「おおおっ!」
今度は南蛮商人だけでなく、華人まで大きな声を上げた。
二人は卓に顔を近づけ、二つのダイヤモンドを交互に見比べている。
南蛮商人はしばらく言葉を失っていた。
やがて我に返ると、華人の腕をつかみ、興奮した様子で何度も何かを繰り返した。
「どうしたんだ?」
俺が尋ねると、サンラーが少し困ったように笑った。
「これほど大きく、美しいダイヤモンドを二つも持っていることが信じられないそうです。特に大きい方は、王侯貴族が欲しがる品だと言っています」
南蛮商人は宝石箱から目を離そうとしなかった。
前回の鏡を見せた時も相当驚いていたが、今回はそれ以上の反応だ。
俺はその様子を眺めながら、心の中で笑っていた。
実は、まだ4カラットと5カラットが残っている。
だが、今は見せない。
まずはこの二つに、どれほどの値を付けるのか聞いてみよう。
南蛮商人は二つのダイヤモンドを何度も見比べながら、華人と熱心に話し合っていた。時折こちらに視線を向けては、また小声で相談を始める。
しばらくして、南蛮商人が顔を上げた。
「ユウマさん、二つとも買いたいそうです。値段を提示してもよろしいかと聞いています」
サンラーが通訳してくれた。
「もちろん。いくらで買ってくれるんだ?」
南蛮商人は少し考えてから、ゆっくりと金額を告げた。
「小さい方が金30匁、大きい方が金70匁。合わせて金100匁でいかがでしょうか、とのことです」
金100匁か。重さにすれば375グラム。現代で換金すれば約869万円になる。
仕入れ値は二つ合わせて28万円だから、これでも十分すぎる利益だ。
だが、南蛮商人の反応を見る限り、もう少し高くても買ってくれそうだ。
「小さい方は金50匁、大きい方は金100匁。それなら譲ってもいいよ」
サンラーが通訳すると、南蛮商人は華人と顔を見合わせた。
二人はしばらく相談していたが、やがて南蛮商人が大きくうなずいた。
「その値段で買うそうです」
「ありがとう。いい取引ができたね」
俺が笑うと、南蛮商人も嬉しそうに笑った。
「それから、もう一つ聞いてもらえるかな。この二つの大きさなら、今後も一年に十個ずつくらいは用意できると思う」
サンラーが訳すと、南蛮商人は驚いたように身を乗り出した。
「本当ですか?」
「必ずとは約束できないけどね。用意できたら、また持ってくるよ」
南蛮商人は何度もうなずき、ぜひお願いしたいと言ってきた。
どうやら、今後の取引にも期待しているらしい。
さて、そろそろ本命を見せるか。
俺は包みの中から、残りの宝石箱を一つ取り出した。
「実は、もう少し大きなものもあるんだ」
南蛮商人が不思議そうな顔をした。
俺は3カラットの宝石箱の隣に新しい箱を置き、ゆっくりと蓋を開けた。
中に収められているのは、4カラットのダイヤモンドだ。
「おおっ!」
南蛮商人が再び声を上げた。
華人も身を乗り出し、箱の中を食い入るように見つめている。
先ほどの3カラットでも相当驚いていたのに、今度はさらに大きい。
南蛮商人は何かを話そうとしていたが、なかなか言葉が出てこないようだった。
俺はその様子を見ながら、最後の宝石箱を取り出した。
「それから、これが今日持ってきた中で一番大きなものだよ」
そう言って、5カラットのダイヤモンドを見せた。
南蛮商人は完全に固まってしまった。
華人も口を開けたまま、宝石箱を見つめている。
窓から差し込む光を受け、5カラットのダイヤモンドが強烈な輝きを放っていた。
直径は約11ミリ。先ほどまでの石とは明らかに存在感が違う。
南蛮商人は恐る恐る手を伸ばし、俺の顔を見た。
「手に取ってもいいよ」
俺がうなずくと、南蛮商人は慎重に石を持ち上げた。
窓際に移動し、光にかざした途端、何かを叫んだ。
華人が慌てて駆け寄り、二人で石を見つめながら興奮した様子で話し始めた。
「何て言ってるんだ?」
俺がサンラーに尋ねると、サンラーは笑いながら答えた。
「王様でも、これほどのダイヤモンドを持っている方は少ないだろうと言っています。特に最後の石は、王家の宝物にふさわしいそうです」
なるほど。そこまで気に入ってくれたのか。
「この二つは、先ほどのものよりずっと珍しい。用意できるとしても、一年に一個ずつくらいだと思う」
サンラーが訳すと、南蛮商人は真剣な顔でうなずいた。
そして、値段を尋ねてきた。
「4カラットは金350匁。5カラットは金500匁。それなら譲るよ」
サンラーが通訳すると、南蛮商人は華人と何やら相談を始めた。
金350匁と500匁。合わせて850匁だ。
先ほどの二つを加えれば、四つで金1,000匁になる。
重さにすれば3.75キロ。現代の買取価格なら約8,695万円だ。
俺は平静を装いながら、二人の返事を待った。
しばらくして、南蛮商人が顔を上げた。
「その値段で、すべて買いたいそうです」
よし。
俺は思わず笑みを浮かべた。
「ありがとう。それじゃ、四つともお譲りするよ」
南蛮商人は嬉しそうに立ち上がり、俺の手を握ってきた。
どうやら、今回の商談も大成功だ。
2カラットが金50匁、3カラットが金100匁、4カラットが金350匁、5カラットが金500匁。
合わせて金1,000匁。
現代で93万円で仕入れたダイヤモンドが、約8,695万円分の金に変わったことになる。
俺は南蛮商人に、今後も同じようなダイヤモンドを用意できる可能性があると伝えた。
2カラットと3カラットは、それぞれ一年に十個程度。4カラットと5カラットは、それぞれ一年に一個程度だ。
もちろん、必ず用意できるとは約束しなかった。
それでも南蛮商人は、ぜひ今後も取引を続けたいと言ってきた。
この条件なら、一年間で金2,350匁の取引になる。
現代の重さにすれば約8.8キロ。金額に換算すれば、2億円を超える。
もっとも、相手が毎年それだけの金を用意できるかは分からない。
今は、目の前の取引を大切にしよう。
南蛮商人は華人に声をかけ、金1,000匁を用意するよう頼んだ。
華人はうなずいたが、少し困ったような顔をした。
サンラーが事情を聞いてくれた。
「ユウマさん、今回持ってきた金は、これでほとんど使い切ってしまうそうです」
「そうか。それなら仕方ないね」
今回の取引だけでも十分な金額だ。
俺は満足していたが、ふと一つのことを思いついた。
「そうだ。もう一つ、面白い品物があるんだけど」
南蛮商人が顔を上げた。
「今度は何でしょう?」
「王妃が身に着けるような宝冠だよ。ティアラというんだけどね」
サンラーが通訳すると、南蛮商人は興味深そうな顔をした。
「宝冠ですか?」
「ああ。ダイヤモンドをたくさん使った、とても美しいものだよ」
南蛮商人は少し考えてから答えた。
「どのような宝冠なのか、見てみなければ分からないそうです」
「それなら、絵を見せようか」
俺はそう言って立ち上がった。
「少し待っていてくれ。すぐに戻るよ」
南蛮商人たちは不思議そうな顔をしていたが、俺はサンラーに説明を頼み、一度船を降りた。
港から少し離れ、人目につかない場所を探す。
周囲に誰もいないことを確認すると、俺はブラックホールを開き、現代へ戻った。
倉庫に入ると、パソコンを立ち上げた。
さて、どんなティアラにしようか。
せっかく王妃に売るなら、どこにでもあるようなデザインでは面白くない。
俺はAIを使い、豪華なティアラの画像を作ることにした。
中心には1カラットのダイヤモンドを配置し、その周囲に0.1カラットから0.5カラットほどの小さなダイヤモンドを何十個も散りばめる。
台座はプラチナ製。花や葉を思わせる繊細な曲線を組み合わせ、上品さと華やかさを兼ね備えたデザインにした。
まず、王妃がそのティアラを身に着けている姿を作成した。
画面に現れたのは、美しいドレスをまとった王妃の頭上で、無数のダイヤモンドが輝いている画像だった。
「おお、これはいいな」
俺は思わず声を上げた。
続いて、ティアラだけを大きく写した画像も作成した。
細部まで分かるように、正面からの姿を中心にしたものだ。
二枚ともカラー印刷し、仕上がりを確認する。
これなら南蛮商人にも、どんな品物なのか十分伝わるだろう。
俺は印刷した二枚の絵を持ち、再び1600年へ戻った。
港へ戻り、ジャンク船に乗り込む。
南蛮商人たちは、まだ先ほどの場所で待っていた。
「お待たせ。これを見てくれ」
俺は二枚の絵を卓の上に広げた。
まず、王妃がティアラを身に着けている絵を見せる。
南蛮商人は絵を見た瞬間、言葉を失った。
華人も身を乗り出し、食い入るように眺めている。
「これは……」
サンラーも驚いた様子だった。
1600年の人間にとって、現代のカラー印刷はそれだけでも珍しいだろう。
しかも、描かれているのは本物の人間と見間違えるほど精密な王妃の姿だ。
南蛮商人は絵を手に取り、顔を近づけて何度も確かめていた。
「これは絵なのですか?」
サンラーが通訳した。
「ああ。完成した時の姿を描いたものだよ」
俺はもう一枚の絵を広げた。
今度はティアラそのものを大きく写したものだ。
中心の大きなダイヤモンドを囲むように、小さな石が美しく並んでいる。
プラチナの曲線が花や葉のように広がり、王冠とは違った優雅さがあった。
南蛮商人は二枚の絵を何度も見比べていた。
やがて華人と何かを話し合い、サンラーに質問してきた。
「この宝冠は、実際に作ることができるのですか?」
「もちろん。注文してもらえれば作るよ」
南蛮商人はさらに興奮した様子で話し始めた。
どうやら、この宝冠をヨーロッパの王妃に売りたいと考えているらしい。
「ただし、これは一つしか作らない。まったく同じものは二度と作らないつもりだ」
サンラーが訳すと、南蛮商人は大きくうなずいた。
王妃のための特別な宝冠なら、世界に一つしかない方が価値も高いだろう。
「それで、お値段はいかほどでしょうか?」
俺は少し考えてから答えた。
「金600匁だよ」
南蛮商人は一瞬黙り込んだ。
金600匁。重さにすれば2.25キロ。
現代の買取価格なら約5,217万円になる。
ティアラの製作費用は、現代なら200万円ほどを見込んでいる。
もちろん、実際に注文してみなければ正確な金額は分からないが、それでも十分な利益が出るはずだ。
南蛮商人はしばらく考えた後、華人と相談を始めた。
二人は二枚の絵を何度も見比べながら、真剣な表情で話し合っている。
やがて南蛮商人が顔を上げた。
「ぜひ、その宝冠を一つ注文したいそうです」
「分かった。用意しておくよ」
ただし、南蛮商人には一つ問題があった。
先ほどのダイヤモンド四つで金1,000匁を使ってしまったため、今は追加の金600匁を持っていないらしい。
「それなら、次に来た時で構わないよ」
俺がそう言うと、南蛮商人はほっとしたような顔をした。
サンラーを通して、次の予定を聞いてみた。
「マカオへ戻って金を用意し、三か月後に再び那覇へ来たいそうです」
「三か月後か。それなら八月の終わり頃だね」
俺はうなずいた。
現代でティアラを注文し、完成品を受け取るまでには時間がかかるだろう。
三か月あれば、十分に準備できるはずだ。
「分かった。それじゃ三か月後、ここで会おう。その時に宝冠を渡すよ」
サンラーが訳すと、南蛮商人は嬉しそうに立ち上がった。
俺は二枚の絵を南蛮商人に差し出した。
「これは持っていっていいよ。マカオで準備する時に、誰かに見せても構わないから」
南蛮商人は驚いた顔をした。
「本当によろしいのですか?」
「ああ。完成するまでの楽しみにしておいてくれ」
南蛮商人は二枚の絵を大切そうに受け取り、何度も礼を言ってきた。
これでティアラの注文も決まった。
三か月後には、さらに金600匁が手に入る予定だ。
俺は南蛮商人と握手を交わし、再会を約束した。
今回の那覇での商談は、予想以上の成果になった。
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