第61話 1600年5月28日
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朝、俺は目を覚ますと湯を沸かし、コーヒーを飲みながら煙草に火をつけた。今日は陳さんとサンラーが、昨日約束した文具20組を受け取りに来ることになっている。
昨日、陳さんたちが帰った後、俺は現代に戻って大急ぎでホームセンターへ文具を仕入れに行った。すでに夕方の5時半だったので、のんびり買い物をしている暇はなかった。
必要なものを急いで買い揃え、塩屋村へ戻る前に時計を確認すると20時ちょうどだった。そのまま倉庫に運び込んでから休んだ。
文具20組はすでに倉庫の中に揃っている。あとは陳さんたちが来るのを待つだけだ。
程なくして、陳さんとサンラーがやって来た。俺は二人を迎えると、倉庫に用意しておいた文具20組を見せた。
「約束どおり20組です。確認してください」
サンラーが通訳すると、陳さんは一組ずつ中身を確かめ、満足そうに何度もうなずいた。
「ユウマ殿、陳殿は大変満足しておられます」
「それはよかった」
俺は文具20組を引き渡し、代金の金40匁を受け取った。これで昨日からの取引はすべて終了だ。
昨日の売上が金246匁5分、今日が金40匁。合わせて金286匁5分になる。二日間でずいぶん稼いだものだ。
陳さんは帰り支度を済ませると、サンラーを通して次の訪問について話してきた。
「次はまた二か月後ですね」
「はい。陳殿も、その頃にまた参りたいと申しております」
「分かりました。次は文具も40組くらい用意しておきますよ」
サンラーが訳すと、陳さんは嬉しそうに笑った。そして何かを話しながら、俺の手を両手で握ってきた。
「ユウマ殿、陳殿は、次にお会いするのが今から楽しみだと申しております。それから、昨日お譲りいただいた真珠と首飾りも、きっとよい値で売れるだろうと」
「そう言ってもらえると嬉しいですね。俺も次までに、何か面白い商品を探しておきますよ」
サンラーが訳すと、陳さんは声を上げて笑った。昨日からずっと上機嫌だったが、最後までその笑顔が絶えることはなかった。
俺たちはもう一度握手を交わし、二か月後の再会を約束した。陳さんとサンラーは何度も振り返りながら帰っていった。
俺は二人の姿が見えなくなるまで見送った。最初に陳さんと取引した頃は、ここまで大きな商売になるとは思ってもいなかった。
それが今では、向こうから商品を求めて塩屋村まで来てくれる。しかも、こちらの言い値で買ってくれるんだから、ありがたい話だ。
昨日売った南洋真珠と貝パールも、明の国へ持ち帰れば相当な値段で売れるんだろう。陳さんが儲かれば、また次の取引にもつながる。
俺だけが儲けるより、陳さんにも十分な利益が出た方が長く商売を続けられる。そう考えると、今回の取引はなかなかよかったんじゃないだろうか。
部屋に戻った俺は、受け取った金を改めて眺めた。金286匁5分。これだけあれば、現代で売却してもかなりの金額になるはずだ。
もちろん、全部を自分のために使うつもりはない。これから村の農地を広げ、道を造り、必要な機械や資材を買い揃えていくには、まだまだ金が必要になる。
それでも、こうして商売が順調に進んでいるのは心強い。二か月後には、もっと大きな取引ができるかもしれないな。
俺は残っていたコーヒーを飲み干し、煙草に火をつけた。しばらく今日の取引を思い返していたが、ふと、もう一つやっておきたいことを思い出した。
そうだ。今日は引っ越しを済ませてしまおう。
俺は今日のうちに、現代側の引っ越しを終わらせようと思っていた。
まず現代に戻り、ガレージに置いてある資材や機械を片っ端から1600年へ運び込んだ。中には以前、特殊機械の製作会社に依頼していた脱穀機、籾摺り機、精米機もある。
これらは電気を使わず、人力で動かせるように特別に作ってもらったものだ。ようやく完成した機械を眺めながら、今年の米の収穫が楽しみになってきた。
ガレージの中がほぼ空になったところで、俺はブラックホールの前に立った。
「移動」
そう告げると、目の前にあったブラックホールが消えた。これで現代側の入口は一度解除されたことになる。
俺は今回借りた倉庫へ向かった。倉庫の中に入り、設置する場所を確認してから声を出した。
「設置」
すると、目の前に幅5メートル、高さ5メートルのブラックホールが現れた。これで現代側の入口の移設は完了だ。
俺は再び1600年へ戻ると、先ほど運び込んだ機械や資材を、今度は新しい倉庫へ移し始めた。
何度か往復して、ようやくすべての荷物を運び終えた。これで引っ越しはほぼ完了だ。
それにしても、本当にブラックホールは便利だ。普通ならトラックを何台も使って運ぶような荷物でも、こうして時代をまたいで移動させることができる。
俺は片付いた倉庫を眺めながら、思わず笑みを浮かべた。
さて、引っ越しも済んだことだし、これからのことを考えよう。俺は倉庫の中を見渡しながら、今後そろえたい機械を頭の中で並べてみた。
フォークリフト、10トンダンプ、20トンのパワーショベル、2万リットルの給油車、それにもう一台トラクターも欲しい。これだけあれば、村の開墾や道路工事も今よりずっとはかどるはずだ。
ただし、どれも安い買い物ではない。今回、陳さんとの取引で金286匁5分を手に入れたとはいえ、これから必要になる機械や燃料のことを考えると、まだまだ足りない。
どうやって稼ごうか。しばらく考えてみたが、やはり現代の商品をこの時代で売って金に換えるのが、一番手っ取り早い気がする。
では、次は何を売るか。前にChatGPTで相談した時、明の商人には真珠、南蛮人にはブリリアントカットのダイヤモンドが面白いんじゃないかという話になったのを思い出した。
現代のように細かく面をそろえて磨かれたダイヤモンドは、この時代では珍しいらしい。石そのものの価値だけでなく、その輝きや加工技術にも価値を見いだしてもらえるかもしれない。
もっとも、天然ダイヤモンドは仕入れ値が高い。そこで俺が考えたのは、人工ダイヤモンドだ。現代で手に入る人工ダイヤを仕入れ、南蛮人に見せてみようと思う。
もちろん、いくらで売れるかは実際に交渉してみなければ分からない。それでも、試してみる価値はありそうだ。うまくいけば、次の機械を買う資金になる。
そんなことを考えているうちに、少しやる気が湧いてきた。どうせなら、ここから数日間は1600年の仕事に集中して、できるだけ作業を進めてしまおう。
現代の時間は、さっき確認した時点で夜8時を過ぎたところだった。こちらで数日頑張ってから現代へ戻り、ゆっくり風呂に入って、うまいものでも食べに行こう。
温かい湯に浸かって、好きなものを腹いっぱい食べる。そんなささやかな楽しみを考えるだけで、何だかもうひと頑張りできそうな気がした。
俺は漁師たちとタルガニを探すため、広場へ向かった。明日から那覇へ行くつもりなので、船を出してもらわなければならない。
広場に出ると、ちょうどマカトがいた。何人かの村人と話をしていたが、俺に気づくとこちらへ歩いてきた。
「ユウマ、どうした?」
「マカト、悪いけどタルガニと漁師の三人を呼んできてもらえるかな。明日のことで少し話があるんだ」
「分かった。ここに呼べばいいんだな」
「ああ、頼むよ」
マカトが人を呼びに行ってくれたので、俺は塩の煮炊き場へ向かった。中をのぞくと、かなさんがいつものように大きな鍋の前で働いていた。
「かなさん、お疲れさま」
「あら、ユウマさん。今日はもうお仕事は終わったんですか?」
「いや、まだ少し残ってるんだけどね。実は明日から那覇へ行こうと思ってるんだ」
かなさんは鍋をかき混ぜる手を止め、こちらを見た。
「那覇ですか。また商いのお話ですか?」
「そう。今度は南蛮人を探してみようと思ってね。うまく会えるか分からないけど、ちょっと行ってくるよ」
「そうなんですね。気をつけて行ってきてくださいね」
「ありがとう。なるべく早く帰ってくるよ」
かなさんは微笑むと、再び鍋に向き直った。俺はしばらくその様子を眺めてから、広場へ戻ることにした。
広場に戻って少し待っていると、タルガニと漁師三人がやって来た。マカトも一緒だ。
「ユウマ、呼ばれたと聞いたが、何かあったのか?」
タルガニが尋ねてきたので、俺は明日の予定を話した。
「明日から那覇へ行こうと思ってるんだ。悪いけど、また船を出すのを手伝ってもらえないかな」
「那覇か。もちろん構わんぞ」
漁師たちもうなずいている。何度か那覇へ行っているので、船を出すこと自体は慣れたものだ。
「報酬はいつもどおり、泡盛を一人一本ずつでどうかな。あの一升入りの紙パックのやつだ」
そう言うと、漁師たちの顔がぱっと明るくなった。
「おお、あの酒か!」
「あれはうまいからな」
三人が嬉しそうに顔を見合わせている。タルガニも笑いながら口を開いた。
「ところでユウマ、今度の那覇は何をしに行くんだ?」
「南蛮人を探して、また商売でもしてみようかと思ってるんだ」
「南蛮人?」
「ああ。前に一度取引しただろう。今度は別の商品を持っていって、また商売ができないかと思ってね」
タルガニは腕を組み、しばらく考えるような顔をした。
「なるほどな。ユウマの持ってくる品なら、南蛮人も驚くだろう」
「そうだといいんだけどね。そもそも会えるかどうかも分からないし」
俺が笑うと、タルガニたちも笑った。
「それじゃ、明日の朝に出発でいいかな?」
「ああ、それでいい」
「俺たちも大丈夫だ」
全員の返事を聞いて、俺はうなずいた。
「ありがとう。じゃあ明日の朝、よろしく頼むよ」
船の手配が済んだので、俺は第一畑へ向かうことにした。
畑では村人たちが、カラシナと小松菜の最後の収穫をしていた。畝の間には収穫した野菜が積まれ、何人かが葉をそろえて束ねている。
「お疲れさま。今日で全部終わりそう?」
俺が声をかけると、作業をしていた村人が顔を上げた。
「ああ、ユウマ。もう少しで終わるよ」
「それじゃ俺も手伝うよ」
俺は空いている畝に入り、カラシナを収穫し始めた。葉を傷めないように気をつけながら刈り取り、土を落として束ねていく。
隣では小松菜の収穫も進んでいた。村人たちはすっかり作業に慣れたようで、手際よく野菜を集めている。
最初の頃は、畑を作ることから何もかも手探りだった。それが今では、こうして村人たちだけで収穫を進められるようになったんだから、大したものだ。
畑を見渡すと、ところどころに収穫せず残してある株があった。カラシナと小松菜、それに大根の種を採るためのものだ。
種取り用の株はそのまま育てている。次の栽培に使う種を確保するためで、全部を食べてしまうわけにはいかない。
それでも、今回収穫できた野菜はかなりの量になった。村で食べる分だけでなく、保存や物々交換にも十分使えそうだ。
俺は腰を伸ばし、畑を見渡した。
これでカラシナと小松菜の収穫も終わりか。あとは六月に入ってから芋を掘り終えれば、第一畑はしばらく休ませることになる。
ずいぶん働いてもらった畑だ。次の作付けまで土を休ませ、その間に堆肥を入れて地力を回復させておきたい。
村人たちと一緒に残りの野菜を収穫し、束ねたものを運び出す頃には、畑もずいぶんすっきりしていた。
俺は最後にもう一度、第一畑を眺めた。
この畑から始まった村の農業も、今では水田や第二畑にまで広がっている。少しずつではあるけれど、塩屋村は確実に変わってきているんだな。
俺は第一畑での作業を終えると、部屋に戻り、現代へ帰った。
とりあえず風呂に入ろう。今日は久しぶりに焼き鳥が食べたい。居酒屋にでも行って、ゆっくり食事をするのもいいな。
それなら、今夜はそのまま現代に泊まろう。店が開くのは朝からだから、明日の朝から人工ダイヤモンドを仕入れて、それから塩屋村へ戻ればいい。
今日は泊まって、時間を進めようかな。
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