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ブラックホールの向こうは400年前の沖縄でした〜現代の道具と知識で始める琉球王国改革〜  作者: gere


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第6話 1600年1月2日 その3


ウシマルの小屋を出たあと、俺はタルガニに連れられて集落の人たちへ順番に紹介された。

朝はいなかった男たちも仕事から戻ってきていて、改めて見ると村人は全部で四十数人くらいいそうだった。

ただ、気になることがある。

みんな着ている物はボロボロで、男も女も子供も一様に痩せている。

「……やっぱり、かなり食えてないな」

顔色もあまり良くない。どう見ても栄養が足りているようには見えなかった。

俺は少し考えてからタルガニに声をかけた。

「ちょっと待ってて」

集落から少し離れた草むらへ入り、人目がないことを確認する。

――現在に戻りたい。

すぐにブラックホールが現れ、俺は現代へ戻った。

部屋に戻ると、必要な物を急いで準備する。

大鍋。カレーの材料。そして米二十キロ。

何度かに分けて運び込み、全部を草むらに置く。

「よし」

俺は荷物を持って、もう一度みんなの前へ姿を現した。

「今日、ここに泊まらせてもらえることになったので、そのお礼に皆さんへご馳走したいと思います」

村人たちが不思議そうに俺を見る。

「俺の故郷の料理です」

まず米を各家庭へ分けて渡した。

「これを炊いてください」

白い米を見た瞬間、何人かの表情が変わった。

「白い……」

「こんな米が……」

あちこちから驚いた声が上がる。

どうやら白米だけでも相当珍しいらしい。

その間に俺は大鍋を準備した。

肉、野菜、カレールーを次々に入れ、五十人前くらいを一気に作っていく。

カレーの匂いが集落に広がり始めると、子供たちが次々に集まってきた。

「いい匂いする!」

「なんだこれ?」

「もう少し待って」

しばらくすると、各家庭で炊いてもらった白米も集まってきた。

もちろん、ちゃんとした皿なんてない。

俺が現代から持ってきた銀色の簡易皿を配り、そこへご飯を盛っていく。

そして、その上からカレーをかけた。

「はい、どうぞ」

最初はみんな恐る恐るだった。

だが、一人が食べ始めると、その反応を見て次々に口へ運び始める。

「……うまい!」

「これ、なんだ!」

あちこちから声が上がった。

子供たちは夢中で食べている。

タルガニも一口食べた瞬間、目を見開いた。

「ユウマ……これは本当にお前の故郷の料理なのか?」

「そうですよ」

タルガニはもう一口、大きく食べる。

「うまい……」

そのまま何度も頷きながら、皿のカレーを夢中で食べ始めた。

俺はカレーを食べ終えると、少し離れたところに腰を下ろし、タバコに火をつけた。

一口吸って、ゆっくり煙を吐く。

すると、周りにいた村人たちが一斉に俺を見た。

「……?」

「何で口から煙を吐いてるんだ?」

タルガニまで不思議そうな顔をしている。

「ああ、これ?」

俺はタバコを指で挟んで見せた。

「タバコっていうんだ。吸うとうまいんだよ」

試しに一本差し出してみる。

「吸ってみる?」

だが、誰も手を出さない。

そりゃそうか。見たこともない物を燃やして、その煙を吸えと言われても普通は嫌だろう。

俺は笑いながら自分で吸い続けた。

「ところでタルガニ」

「なんだ?」

「タルガニたちは普段、何を食べて生きてるんだ?」

タルガニは少し考えてから答えた。

「米も作るが、あまり取れん。粟や黍、麦、豆、それに芋も食うな」

タルガニは海の方を指さした。

「魚や貝も取る。山に入れば猪や鳥も取れる」

「なるほどな……」

畑だけじゃなく、漁と狩りも合わせて何とか食いつないでいるらしい。

俺はタバコを吸いながら、痩せた村人たちをもう一度見回した。

食い物が全くないわけじゃない。

ただ、明らかに量が足りていない。

「そうか。今、何か困ってることないか?」

俺が聞くと、タルガニは少し考え込んだ。

「そうだな……色々あるが、塩が足りん」

「塩?」

「ああ。猪や魚が取れても、塩が少ないと長く置いておけん。腐らせることも多い」

「なるほどな……」

確かに保存ができなければ、せっかく獲物が取れても一気に食べるしかない。

「今はどうやって塩を作ってるんだ?」

「海の水を鍋に入れて、ひたすら煮るだけだ」

「それだけ?」

タルガニは頷いた。

俺は海の方を見ながら、思わず小さく呟いた。

「……効率悪いな」

海水を最初から全部煮るとなると、かなりの薪が必要になる。

塩か。

これは少し考えれば、改善できそうだった。

「もし大量に塩が取れたら、どうする?」

俺が聞くと、タルガニは少し考えたあと答えた。

「村で使う分より多く取れたなら、町に持っていけばいい」

「町?」

「ああ。塩なら欲しがる者は多い。粟や芋、それに他の物とも交換できる」

「なるほど」

塩がただの保存用じゃなく、物々交換にも使えるなら話は早い。

俺は少し考えてから、タルガニを見る。

「それなら、いい考えがある」

「いい考え?」

「ああ。明日から俺の手伝いをしてくれないか?」

タルガニは少し驚いた顔をした。

俺は続ける。

「もちろん、タダでとは言わない」

その言葉に、タルガニの表情が少し変わった。

「それじゃ、やっぱり男手が必要だな」

俺はタルガニを見る。

「一日働いて、米四合でどうだ?」

タルガニは一瞬、目を丸くした。

「そんなにもらえるのか?」

「ちゃんと働いてくれればな」

「分かった。すぐ集める」

そう言うと、タルガニはその場を離れていった。

しばらくすると、タルガニを含めて五人の男が集まった。

みんな痩せてはいるが、仕事をする体力はありそうだ。

「じゃあ、明日から海辺に池を作ってもらいたい」

男たちは俺を見る。

「三つほど作る。大きさは明日、俺が決める。深さはそんなになくていい」

俺は地面に簡単な図を描きながら説明した。

「そこに海水を入れる。今までみたいに、最初から全部鍋で煮るんじゃない」

タルガニが首を傾げる。

「どうするんだ?」

「海水を浅い池に広げておく。そうすると太陽の熱と風で、水だけが少しずつ空に逃げていく」

俺は手で水面を示す。

「水が減れば、その分だけ海水はどんどん濃くなる。最後に、その濃くなった海水だけを鍋で煮るんだ」

「なるほど……」

「そうすれば、今までより少ない薪で、もっとたくさん塩が作れる」

男たちは顔を見合わせた。

まだ完全には分かっていないようだが、タルガニは興味深そうに頷いている。

俺は続けた。

「塩がたくさん作れれば、魚や猪の肉も塩漬けにできる。干物や燻製にもできるし、余った分は町に持っていけばいい」

タルガニの表情が明るくなった。

「町で粟や芋と交換できるな」

「ああ」

俺は笑った。

「うまくいけば、塩だけじゃなくて保存した魚や肉まで売りに行けるな」

タルガニたちも、少しずつ話が見えてきたのか、嬉しそうに笑い始めた。

俺は集落から少し離れた草むらへ入り、周りに誰もいないことを確認した。

「よし」

――現在に戻りたい。

目の前にブラックホールが現れ、そのまま中へ入る。

部屋に戻ると、すぐに財布を持ってホームセンターへ向かった。

買う物は決まっている。

蒸発池三つ分の防水シート、スコップ五本。それにシートを固定するための杭やロープなどの資材。そして、100リットルの寸胴鍋を載せられるロケットストーブを作るため、耐火レンガを六十個。

必要な物を一通り買い揃え、アパートへ戻る。

荷物を部屋へ運び込んでから時計を見る。

12時15分。

日付も確認する。

2026年1月1日。

「やっぱり、こっちで動いた時間だけ進むんだな」

さっきまで11時10分だったから、買い物に使った時間がそのまま進んでいる。

俺は休む間もなく、持てるだけの荷物を抱えた。

――1600年1月2日。

ブラックホールを開き、そのまま向こう側へ戻った。

向こうへ戻った俺は、荷物を何度かに分けて集落へ運び込んだ。

タルガニが防水シートやスコップ、レンガの山を見て首を傾げる。

「ユウマ、こんな物どこから持ってきた?」

「まあ、あんまりそういうことは気にしないで笑」

俺がそう言うと、タルガニは少し考えてから笑った。

「そうだな笑」

どうやら、あまり深く考えない男らしい。

荷物を広場へ持っていくと、集まってきた男たちは特にスコップに興味津々だった。

「これはこう使うんだ」

俺が地面に刃先を入れ、足で踏み込んで土を掘ってみせる。

すると男たちの目が一気に輝いた。

「すごいぞ、これ!」

「畑を耕すのにも使える!」

「土を掘るのが早い!」

一気に騒ぎ始めたので、俺は笑いながら手を上げた。

「分かった分かった。池作りが終わったら貸すから」

その言葉で、なんとか興奮を抑える。

明日からいよいよ蒸発池作りだ。

この日はそこで作業を切り上げた。

俺はテントの中に入り、ランタンを点けた。

今日、現代で買い物をした時のレシートを全部取り出し、寝袋の横に並べていく。

「……結構使ったな」

一枚ずつスマホの電卓に打ち込んでいく。

まず、村のみんなに作ったカレー。

肉、玉ねぎ、じゃがいも、にんじん、カレールー、油、それに簡易皿などを合わせて、8,742円。

さらに、村へ持ってきた米20キロ。

13,800円。

「米、高いな……」

次は、カレーを作った100リットルの大寸胴鍋。

これは今後、濃くした海水を煮詰めて塩を作るのにも使う。

39,800円。

そして今日ホームセンターで買った、蒸発池を作るための資材。

池三つ分の防水シートが49,500円。

シートを固定する杭やロープなどが8,746円。

スコップ五本が14,900円。

合わせて池作り関係だけで、73,146円。

最後がロケットストーブ用の耐火レンガ。

一個300円を60個だから、18,000円。

俺は電卓を叩きながら合計する。

カレー材料など――8,742円。

米20キロ――13,800円。

100リットル寸胴鍋――39,800円。

蒸発池資材――73,146円。

耐火レンガ――18,000円。

合計153,488円。

「十五万か……」

前回の残高は、3,673,891円。

そこから今日使った153,488円を引く。

3,673,891円-153,488円=3,520,403円。

俺はスマホに表示された数字を見ながらため息をついた。

「残り352万403円……」

まだ余裕はある。

とはいえ、この世界に来て数日も経っていないのに、キャンプ用品まで含めれば結構な勢いで金を使っている。

「まあ、これは投資だな」

俺はそう自分に言い聞かせながら、レシートをまとめた。

明日から塩を作る。

それがうまくいけば、魚や肉を保存できるようになる。さらに余った塩や干物を町へ持っていけば、今度はこの時代で物を手に入れられる。

「まずは蒸発池だな」

俺はランタンを消して寝袋に入った。


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