第59話 2026年6月3日
とりあえず読んだらブックマークついでに評価もお願いします
俺は現在の自分の部屋に戻ってきた。とりあえず椅子に腰を下ろし、煙草に火をつけて一服する。
ふう……。
さて、陳さんが来たわけだが、今回の目玉商品は何にしようかな。
前回は文房具がずいぶん好評だった。グラスや手鏡、ライターも売れているようだし、今回もある程度の注文は期待できそうだ。だが、せっかく2か月ぶりに来てくれたんだ。何か新しい商品を見せてやりたい。
もっとも、何でも持ち込めばいいというわけではない。便利すぎる機械や、向こうで簡単に複製できるものを渡すのは避けたい。俺としては、現代で安く手に入り、1600年では高い価値がつくものが理想だ。
しばらく考えてみたが、これといったものが思い浮かばない。
こういう時は、ChatGPTに聞いてみるか。
俺はスマートフォンを取り出し、画面を開いた。
『1600年の明で高い価値が出そうな商品を教えて。ただし、製造に使う機械は除外する』
そう打ち込んで送信すると、ほどなくしてAIから返事が表示された。
『1600年頃の明では、富裕層や高官向けの高級装飾品に需要が見込まれます。特におすすめなのは真珠です』
真珠?
俺は思わず画面を見直した。
『当時も真珠は珍重されていましたが、大粒で形が整い、光沢の強いものは希少でした。現代の養殖真珠であれば、品質の揃った商品を調達できます。とくに南洋白蝶真珠の大粒ネックレスは、高級品としての価値を期待できます』
なるほど。確かに真珠なら機械でもないし、使い方を説明する必要もない。見れば美しいことは誰にでも分かる。
だが、真珠なんて現代でも高いんじゃないか?
俺は続けて質問した。
『本物の真珠は高いだろう? もっと安いものはないのか?』
AIはすぐに答えた。
『安価な選択肢として、貝パールがあります。貝殻などを加工した芯に真珠風のコーティングを施した模造真珠で、本物に似た光沢があります。粒の大きさや形を揃えやすく、ネックレスとして大量に調達することも可能です』
ほう、偽物の真珠か。
俺は少し興味が湧いてきた。
『本物と偽物を両方売るのはどうだ?』
『有効な販売方法です。本物の大粒真珠は富裕層や高官向け、模造真珠は比較的裕福な商家などに向けた装飾品として販売できます。ただし、模造品であることは明確に説明した方が、継続的な取引で信用を保てます』
確かにそうだな。陳さんとはこれからも長く付き合っていくつもりだ。偽物を本物と偽って売る必要なんてない。それに、値段を大きく変えれば、陳さんも売り先を分けやすいだろう。
俺はさらに質問を続けた。
『本物は直径15ミリくらいの大粒真珠を使ったネックレス。偽物は6ミリから8ミリくらいの小粒のネックレスにしたい。日本でいくらくらいで買える?』
画面に商品の説明と価格が並び始めた。
本物の15ミリ級南洋真珠ネックレスは、品質によっては数1,000,000。一方、貝パールのネックレスなら数千円程度で買えるものもあるらしい。
ずいぶんな価格差だな。
だが、これなら商売になるかもしれない。
俺は頭の中で計算を始めた。
貝パールのネックレスを一本、金1匁。本物の大粒南洋真珠ネックレスを一本、金100匁。
金100匁は375グラム。現代の金価格で換算すれば8,000,000円以上になる。
本物のネックレスを2,000,000円から3,000,000円ほどで仕入れられれば、十分利益が出る計算だ。
もちろん、陳さんがその値段で買ってくれるかどうかは分からない。だが、前回は高級な姿見一枚を金100匁で買ってくれた。今回も興味を持ってくれる可能性はある。
よし、決めた。
本物の南洋真珠ネックレスを一本。それから貝パールのネックレスを100本。
本物は大粒で豪華なものを選び、模造品は小粒で上品なものを揃える。
陳さんがどんな顔をするか、今から楽しみだ。
俺は煙草を灰皿に押しつけ、スマートフォンで真珠を扱う店を調べ始めた。
何軒か調べているうちに、真珠と貝パールの両方を扱っている店が見つかった。南洋真珠の高級ネックレスも販売しているらしい。俺は車のキーを手に取り、部屋を出た。
車を走らせながら、今回の買い物について考える。前回は高級な姿見が金100匁で売れた。今回も本物の真珠を同じ金100匁で売るつもりだが、問題は陳さんがどう評価するかだ。もっとも、貝パールの方は一本金1匁なら十分に商売になるだろう。100本全部買ってくれれば、それだけで金100匁になる。
しばらく走って目的の店に到着した。駐車場に車を停め、店内へ入る。
「いらっしゃいませ」
落ち着いた雰囲気の店内には、ガラスケースに真珠のネックレスや指輪、イヤリングなどが綺麗に並べられていた。普段こういう店には縁がないので少々場違いな気もするが、今日はれっきとした買い物客だ。
「南洋真珠のネックレスを見せてもらいたいんですが。できれば15ミリくらいの大粒のものを」
店員は少し驚いたようだったが、すぐに笑顔で応対してくれた。
「15ミリ級ですと、かなり大粒になります。こちらにございますので、ご案内いたします」
案内されたショーケースには、ひと目で高級品と分かるネックレスが飾られていた。大きな白い真珠が連なっていて、照明を受けて柔らかく輝いている。
「こちらは南洋白蝶真珠のネックレスでございます。お値段は1,980,000円です」
1,980,000円か。予想していた範囲内だな。
「ちょっと手に取って見てもいいですか?」
店員が手袋をはめ、ケースからネックレスを取り出してくれた。実際に手にすると、写真で見るよりずっと迫力がある。大粒の真珠が並んでいるだけで、これほど豪華に見えるものなのか。
俺は一粒ずつ眺めてみた。真円に近いものもあれば、よく見るとわずかに形の違うものもある。それでも全体の色合いと光沢が揃っていて、十分に美しい。
「これをください」
「ありがとうございます。こちらでよろしいでしょうか?」
「はい。これでお願いします」
店員は一瞬驚いた様子だった。1,980,000円のネックレスを、ほとんど迷わず購入する客はそう多くないのだろう。
支払いを済ませ、専用ケースに収めてもらう。続いて俺は、もう一つの目的を切り出した。
「それと、貝パールのネックレスも見せてもらえますか? 6ミリから8ミリくらいの、小粒のものがいいんですが」
「はい。こちらの商品はいかがでしょうか」
店員が持ってきたのは、白い貝パールを綺麗に連ねたネックレスだった。値札を見ると、一本3,980円。
本物と並べれば粒の大きさも輝きも違うが、これだけを見れば十分に綺麗だ。少なくとも俺には、安物のアクセサリーには見えない。
「これ、在庫は何本ありますか?」
「少々お待ちください。確認いたします」
店員は奥へ行き、しばらくして戻ってきた。
「現在、300本ほど在庫がございます」
300本もあるのか。それなら話が早い。
「じゃあ、100本ください」
「ひゃ、100本ですか?」
「はい。100本お願いします」
店員は驚いた顔をしたが、すぐに在庫の確認と商品の準備を始めてくれた。どうやらまとまった在庫があるらしい。俺としては、何軒も店を回らずに済んで助かった。
貝パールは一本3,980円だから、100本で398,000円。本物の真珠と合わせると、2,378,000円だ。
これで真珠の仕入れは完了だな。
しばらく待って、用意された100本のネックレスを受け取った。数が多いので段ボール箱にまとめてもらい、車まで運ぶ。高級な南洋真珠のケースだけは、ほかの荷物と混ざらないように助手席へ置いた。
さて、次はいつもの百円ショップだ。
店に着くと、買い物かごを手に取り、まずグラスの売り場へ向かった。いつもの透明なグラスを10個選び、続いて手鏡を10個、ライターを20個、それから小さなガラス瓶も10本揃える。
前回の取引では、グラスと手鏡、それにライターが好評だった。今回はとりあえずいつもの数量だけ用意しておけばいいだろう。陳さんがもっと欲しいと言えば、追加で買ってくればいい。
レジで会計を済ませ、荷物を車に積み込む。
文房具については、今回はまだ買わないことにした。前回は二十セットも注文されたが、コピー用紙だけでも40,000枚になる。あれだけの量を先に買っておくのは、さすがに大変だ。陳さんに必要な数量を聞いてから、改めて調達すればいい。
買い物を終えて部屋に戻った頃には、すっかり疲れていた。
俺は荷物を部屋へ運び込み、まず本物の真珠のケースをテーブルの上に置いた。それから貝パールの入った段ボール箱を並べ、百円ショップで買ってきた商品も種類ごとに分けていく。
よし、買い忘れはなさそうだな。
最後に財布からレシートを取り出し、机に並べた。
まず、本物の南洋真珠ネックレスが1,980,000円。貝パールのネックレスが3,980円の100本で398,000円。合わせて2,378,000円。
次に百円ショップのレシートを確認する。透明グラス10個で1,100円、手鏡10個で1,100円、ライター20個で2,200円、小瓶10本で1,100円。合計5,500円。
今日の買い物は、全部で2,383,500円か。
俺はノートを開き、前回までの残金を確認した。
15,948,392円。
そこから今日の支出を差し引くと、残金は13,564,892円。
うん、まだ十分に余裕はある。
それにしても、真珠だけで2,000,000円以上使ったのか。以前の俺なら、こんな買い物は考えられなかっただろう。
俺はテーブルに置いた二種類のネックレスを見比べた。
片方は1,980,000円。もう片方は3,980円。
これを陳さんに見せたら、どんな反応をするだろう。
俺は思わず笑みを浮かべた。
買ってきた商品を整理し終えた俺は、椅子に腰を下ろしてもう一本煙草に火をつけた。今日もずいぶん買い物をしたな。テーブルには1,980,000円の南洋真珠のネックレス、床には貝パール100本の入った段ボール箱が置かれている。
煙草を吸いながら、これから先のことを考えた。
今はまだいい。真珠やグラス、手鏡程度なら車で運べるし、ガレージにも収まる。だが、これから塩屋村が発展していけば、必要になる物資もどんどん増えていくだろう。農機具や建築資材、肥料、それに大型の機械まで運び込むようになれば、今のガレージでは到底対応できない。
そもそも、あのガレージは普通の乗用車を停めるためのものだ。ハイラックスやおーはちーを出し入れするだけでも、それなりに気を使う。これ以上大きな重機を購入したところで、置き場所がない。
「うーん、どうしたもんかな……」
俺は煙草の煙を吐き出しながら考えた。
これから先、塩屋村だけでなく周辺の村まで開発することになれば、トラクターや小型重機だけでは済まなくなるかもしれない。大型の油圧ショベルやダンプカーが必要になる可能性だってある。
そうなった時、今のガレージではどうにもならない。
そこで、ふと思いついた。
「そうだ、倉庫を借りればいいんじゃないか」
何も今のガレージにこだわる必要はない。広い貸し倉庫を借りて、そこを物資の保管場所にすればいいんだ。
俺はスマートフォンを手に取り、必要な条件を考え始めた。
まず、広さは最低でも50坪以上。50坪なら約165平方メートルだから、今のガレージとは比べものにならない。できれば100坪くらいあれば理想的だ。
それから、出入口が重要だ。
俺が行き来できるブラックホールは最大5メートル四方。せっかく大きな倉庫を借りても、出入口が狭ければ大型重機やダンプカーを入れられない。
間口は最低でも5メートル、高さも5メートル以上は欲しい。しかも、電動シャッター付きだ。大型のシャッターを毎回手動で開け閉めするのは面倒だからな。
もちろん、倉庫の天井も高くなければ意味がない。床は重量のある車両に耐えられるコンクリートで、できれば柱の少ない建物がいい。大型車が出入りできる道路に面していて、敷地内に十分な転回スペースがあればなおいい。
俺は頭の中で条件を整理した。
50坪以上、できれば100坪。間口5メートル以上、高さ5メートル以上の電動シャッター。大型車両の出入りが可能で、重機を置いても問題のない頑丈な床。
これだけ条件が揃えば、大型の油圧ショベルやダンプカーだって保管できるはずだ。
それに、倉庫なら大量の米や肥料、建築資材をまとめて仕入れることもできる。今までは買い物のたびに何度も車を往復させていたが、大きな倉庫があれば物流の効率もずいぶん変わるだろう。
「よし、探してみるか」
俺はスマートフォンで貸し倉庫の検索を始めた。
『沖縄 貸し倉庫 50坪以上 大型電動シャッター 大型車進入可能』
検索ボタンを押すと、不動産会社の物件情報が次々と表示された。
思っていたより貸し倉庫の数は多い。だが、よく見るとシャッターの高さが3メートル程度しかなかったり、出入口が狭かったり、大型トラックが進入できなかったりする物件もある。
「なかなか条件に合うものがないな……」
俺は一件ずつ物件情報を確認していった。
広さだけなら十分な倉庫もある。だが、俺にとって重要なのは、単に荷物を置けることではない。将来的に大型重機やダンプカーを丸ごと運び込めることだ。
そのためには、建物の広さだけでなく、シャッターの寸法や床の耐荷重まで確認しなければならない。
俺は検索条件を少しずつ変えながら、さらに物件を探し続けた。
検索結果を一件ずつ確認していると、ようやく条件に合いそうな物件が目に留まった。
「おっ、これはいいんじゃないか?」
所在地は、うるま市江洲。倉庫の広さは100坪、敷地は300坪。天井高7メートルで、電動シャッターは幅6メートル、高さ5.5メートル。大型トラックの出入りも可能で、床は重量物に対応したコンクリート造りになっている。
そして気になる家賃は、月額500,000円。
「500,000か……まあ、これだけ広ければ仕方ないな」
年間にすれば6,000,000円。決して安くはないが、これから先のことを考えれば十分に価値はある。何より、今のガレージでは到底入らない大型重機やダンプカーまで収納できるのが魅力だった。
俺は掲載されている写真を一枚ずつ確認した。建物は元々建設会社が資材置き場として使っていたらしく、外観は飾り気のない大きな鉄骨倉庫だ。正面には巨大な電動シャッターがあり、その前には大型車が余裕を持って方向転換できそうなコンクリート敷きの敷地が広がっている。
内部の写真を見ると、柱の少ない広々とした空間が写っていた。壁際にはエアコン付きの事務所とトイレがあり、水道と電気も使えるようだ。
「これなら住めるな」
俺は思わず笑ってしまった。
今の一軒家は確かに快適だが、これから物資の搬入が増えるたびに、ガレージの狭さに悩まされるのは目に見えている。それなら、いっそのこと倉庫に引っ越してしまえばいい。
幸い、倉庫にはエアコン付きの事務所がある。ここにベッドや机、冷蔵庫、テレビを運び込めば、そのまま生活スペースとして使えそうだ。わざわざエアコンを購入する必要もない。
問題は風呂だが、これも大したことではない。倉庫には水道とトイレがある。電気温水器と据え置き型の浴槽を購入して、簡単な給排水工事をすればいい。シャワーは浴槽の中で使えばいいし、わざわざ浴室を囲う必要もない。
「なんだ、十分じゃないか」
それに、江洲ならメイクマンもドン・キホーテも近い。工具や建築資材、日用品の買い出しにも困らない。沖縄市にも近いから、普段の生活にも便利そうだ。
俺は改めて倉庫の写真を眺めた。
ここを現代側の拠点にすれば、物資の保管だけでなく、大型重機の整備や資材の仕分けもできる。将来、大型の油圧ショベルやダンプカーを購入することになっても、置き場所に困ることはない。
しかも、倉庫の中なら人目を気にせずブラックホールを出現させられる。今までのようにガレージの広さを気にする必要もなくなるわけだ。
もっとも、ブラックホールの大きさは最大5メートル四方だから、それを超える機械は通せない。そこだけは注意しなければならないが、一般的なダンプカーや重機なら、寸法を確認して選べば何とかなるだろう。
俺は物件情報の下にある問い合わせ先を確認した。
不動産会社の電話番号が載っている。
「よし、ここにしよう」
俺はスマートフォンを手に取り、その番号を押した。
数回の呼び出し音の後、女性の声が聞こえてきた。
「はい、〇〇不動産でございます」
「あの、インターネットに掲載されている、うるま市江洲の貸し倉庫についてお聞きしたいんですが」
「はい、江洲の100坪の倉庫ですね。現在も募集中でございます」
よかった。まだ空いているらしい。
「できれば今日、内見させてもらいたいんですが」
「本日ですね。少々お待ちください。担当者に確認いたします」
俺は煙草を灰皿に押しつけ、返事を待った。
「お待たせいたしました。担当者に確認したところ、本日これからでもご案内できるそうです」
「それは助かります。何時頃なら大丈夫ですか?」
「午後3時に現地でお待ち合わせはいかがでしょうか?」
俺は時刻を確認した。まだ十分に間に合う。
「分かりました。3時に現地へ伺います」
電話を切った俺は財布と車のキーを持って家を出た。午後2時50分、指定された江洲の倉庫に到着した。道路から敷地へ入ると、まずその広さに驚いた。建物の前には大きなコンクリート敷きのスペースがあり、奥には巨大な鉄骨倉庫が建っている。
「おお、写真で見るより大きいな」
車を停めると、ちょうど一台の乗用車が入ってきた。中から四十代くらいの男性が降りてくる。
「大城様でしょうか?」
「はい、そうです」
「本日ご案内する比嘉と申します。よろしくお願いいたします」
名刺を受け取り、軽く挨拶を交わした。
「こちらは以前、建設会社が資材倉庫として使用していた物件です。まずはシャッターをご覧ください」
比嘉さんがスイッチを押すと、低いモーター音とともに巨大なシャッターがゆっくり上がり始めた。幅6メートル、高さ5.5メートル。これなら大型の重機でも十分に出入りできそうだ。
「内部の天井高は約7メートルございます」
倉庫の中へ足を踏み入れた。
広い。
100坪という数字は分かっていたが、実際に見ると想像以上だった。柱が少なく、奥まで見通せる。床は頑丈そうなコンクリートで、以前は重機や建築資材を置いていたらしい。
「普通のダンプカーや油圧ショベルも置けそうですね」
「以前の借主様も建設機械を保管されていました。ただ、特に重い機械は車種ごとに確認してください」
俺は奥まで歩いて振り返った。ハイラックスやおーはちーを置いても、まだ十分余裕がある。米や肥料、建築資材も大量に保管できるだろう。
「こちらが事務所です」
壁際の扉を開けると、机と椅子のある明るい部屋が現れた。壁にはエアコンも付いている。
「このエアコンは使えますか?」
「はい、設備として付いています」
試しに動かしてもらうと、冷たい風が吹き出してきた。よし、問題なし。トイレと水道も確認した。風呂こそないが、浴槽と電気温水器を買って簡単な排水工事をすればいい。シャワーは浴槽の中で使うつもりだ。
「ここに浴槽と給湯設備を設置したいんですが、大丈夫ですか? それと事務所を生活スペースとして使いたいんです」
「貸主様に確認しますが、工事内容を事前にお知らせいただければ相談できます」
事務所にベッドと冷蔵庫、テレビを運べば暮らせる。今の一軒家は快適だが、物資の運び込みを考えればこちらの方がずっと都合がいい。
倉庫の外へ出て敷地も見て回った。大型車の出入りに支障はなさそうだし、シャッターを閉めれば内部は外から見えない。江洲ならメイクマンもドン・キホーテも近い。日用品や工具の調達にも便利だ。
「比嘉さん、家賃は月500,000円でしたよね?」
「はい」
「契約時の費用はいくらになりますか?」
比嘉さんが資料を開いた。
「敷金が2か月分で1,000,000、礼金が1か月分で500,000円、仲介手数料が税込550,000円、保証会社の初回保証料が500,000円です」
「今日契約したら、いつから使えます?」
「貸主様の了承が取れれば、本日からでもお引き渡しできます。六月分の家賃は三日から三十日まで、28日分の日割りで466,667円です」
合計すると3,016,667円。安くはないが、これだけの倉庫を確保できるなら悪くない。
「分かりました。ここを借ります」
「えっ、もうお決めになりますか?」
「はい。気に入りました。今日契約できるなら、今から手続きしたいです」
比嘉さんは驚きながらも、すぐに貸主へ電話をかけた。しばらく話したあと、こちらを向いて笑顔を見せた。
「了承をいただけました。事務所の利用と浴槽の設置についても、工事内容を確認する条件で問題ないそうです」
「それならお願いします」
俺は比嘉さんの車について不動産会社へ向かった。事務所では契約書が用意され、物件の所在地、面積、賃料、諸費用について説明を受けた。内容を確認し、署名する。
「お支払いは銀行振込でもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。こちらが振込先になります」
俺はスマートフォンでネット銀行のアプリを開き、振込先と金額を入力した。3,016,667円。間違いがないか確認して、振込ボタンを押す。
しばらくすると、比嘉さんがパソコンを確認した。
「はい、入金が確認できました。ありがとうございます」
その場で領収書と契約書の控え、それから倉庫の鍵を受け取った。
「これで今日から使えるんですね?」
「はい。本日からご利用いただけます」
よし、決まりだ。
今日の買い物を終えた時点で残金は13,564,892円。そこから契約費用3,016,667円を引くと、10,548,225円になる。
一日でずいぶん金を使ったが、これで現代側の物資搬入拠点ができた。
倉庫の契約を終えた俺は、その足で今住んでいる一軒家を借りている不動産会社へ向かった。どうせ引っ越すことが決まったんだ。解約の手続きも早めに済ませておこう。
「すみません、今借りている一軒家を解約したいんですが」
「かしこまりました。ご退去はいつ頃をご予定でしょうか?」
「できれば今月中に引っ越そうと思っています。新しいところが今日決まったもので」
担当者は契約内容を確認した。
「大城様のご契約ですと、解約は1か月前までにお申し出いただくことになっております。本日のお申し出ですので、最短で七月二日の解約になります」
「そうですか。じゃあ、それでお願いします」
「七月分は二日間の日割り家賃になります。六月分は通常どおりのお支払いです」
まあ、しょうがないな。まさか今日、倉庫を借りて引っ越すことになるとは俺自身も思っていなかったんだから。
俺は解約届に必要事項を記入して署名した。退去時には室内の確認と鍵の返却が必要になるらしい。
「引っ越しが終わりましたら、ご連絡ください。退去の立ち会い日を調整いたします」
「分かりました。よろしくお願いします」
これで一軒家の解約手続きも済んだ。残るのは引っ越しだけだが、七月二日までには十分片付くだろう。七月の二日分の家賃は余計にかかるが、急に決めたんだから仕方ない。
俺は一度自宅へ戻り、今日買ってきた商品を確認した。南洋真珠のネックレスが一本、貝パールのネックレスが100本。それにグラス10個、手鏡10個、ライター20個、小瓶10本。忘れ物はなさそうだ。
荷物をまとめ、いつものようにブラックホールを出現させた。荷物を持ってくぐり、塩屋村へ戻る。現代では一日中動き回っていたが、こちらでは出発した時から時間が進んでいない。
俺は腕時計に目を落とした。
2026年6月3日、午後5時半。
「もうこんな時間か……」
俺は荷物を持ち直し、陳さんとの商談に向けて歩き始めた。
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