第47話 2026年4月1日
俺は清々しい朝を迎えた。
昨日までは有給消化中だったが、今日から晴れて無職だ。
今、犯罪を犯して捕まったら、ニュースでは「大城悠真容疑者、25歳、無職」と報道されるんだろうな。
そんなくだらないことを考えながら、コーヒーを飲んで一服している。
まあ、無職といっても金には困っていない。むしろ、これからやることが多すぎて、仕事なんかしている暇がない。
とりあえず、今後の計画を実行するために必要な物を現代で揃えなければならない。
まずは米だ。
塩屋村では1ヘクタールの水田で田植えを終えた。今後はさらに水田を広げ、大量生産するつもりでいる。
だが、米は収穫したらそのまま食べられるわけじゃない。
稲刈りから精米まで、いくつもの工程があるはずだ。
俺はラップトップを開き、ChatGPTに質問した。
「米の収穫から精米までの過程を教えて」
しばらくすると、画面に回答が表示された。
ChatGPTの回答
米の収穫から精米までの基本工程は、次のとおりです。
稲刈り → 脱穀 → 乾燥 → 選別 → 籾すり → 玄米選別 → 精米 → 最終選別・保管
※稲束を天日干しする「はさ掛け」の場合は、乾燥してから脱穀します。
電気を使わず、人力で大量処理する場合は、次の3種類の機械を導入すると作業効率が向上します。
・足踏み式脱穀機
・人力式籾すり機
・人力式精米機
籾すりは籾殻を取り除いて玄米にする工程、精米は玄米から糠層を削って白米にする工程です。
また、長期保存する場合は籾または玄米の状態で保管し、必要な分だけ精米する方法を推奨します。
俺は画面を眺めながら、コーヒーを一口飲んだ。
なるほど、思っていたより工程が多いな。
特に脱穀、籾すり、精米。この三つは機械化しないと、大量生産したところで加工が追いつかなくなる。
俺は回答を読み返しながら、次に何を調べるべきか考え始めた。
俺はとりあえず沖縄県内の特注機械製作会社を探してみた。検索すると、対応できそうな会社が3社見つかった。
それぞれのホームページを確認し、設計から製造、組立まで一貫して対応している会社を選んで電話をかけた。
「すみません、特注の機械を3種類ほど製作していただきたいんですが、相談できますか?」
電話に出た女性が担当者に取り次いでくれた。
「お電話代わりました。技術営業の者です。どういった機械でしょうか?」
「農業用の機械です。脱穀機、籾すり機、精米機の3種類なんですが、すべて人力で動かしたいんです」
「人力ですか?」
「はい。電気もエンジンも使わない仕様です」
少し間があった。
「なるほど。詳しいお話を伺いたいので、一度ご来社いただけますか?」
俺は今日の午後に伺いたいと伝え、住所を確認して電話を切った。
昼食を済ませ、愛車のハイラックスで会社へ向かった。
到着したのは、工場と事務所が隣接した建物だった。駐車場には作業用のトラックが数台停まっている。
受付で名前を告げると、40代くらいの男性が出てきた。
「お電話いただいた大城様ですね。営業技術担当の者です。本日はよろしくお願いします」
案内された会議室で名刺を受け取り、早速本題に入った。
「今回お願いしたいのは、脱穀機、籾すり機、精米機の3種類です。すべて人力で動くように設計してほしいんです」
担当者はノートを開きながら尋ねた。
「失礼ですが、なぜ電気を使わないのでしょうか? 電動式なら既製品もありますし、製作費も抑えられると思いますが」
当然の質問だ。
まさか1600年の琉球王国で使うとは言えない。
「実は、電気の届かない海外の村に農業機械を寄付する活動をしていまして。現地では燃料の確保も難しいので、人力で動かせる機械が必要なんです」
「なるほど。海外支援ですか。それなら電気を使わない理由も分かります」
担当者は納得したように頷いた。
「ちなみに、どのくらいの処理能力をお考えですか?」
「籾すりは毎時50キロを目標にしています。脱穀機と精米機も、できるだけそれに合わせてください」
「50キロですか。人力ですと、かなり負荷がかかりますね」
「必要なら自転車のペダルみたいなものを使っても構いません。複数人で動かす方式でもいいです」
「なるほど。フライホイールや減速機構を組み合わせる方法もありますね。ただ、実際にどこまで処理できるかは試作してみないと分かりません」
「それで構いません。無理に50キロに合わせて、壊れやすい機械になる方が困りますから」
担当者は何かを書き込みながら頷いた。
「ほかに条件はございますか?」
「あります。これが一番重要なんですが、完成した機械と一緒に、設計図と部品の規格表を全部いただきたいんです」
「設計図もですか?」
「はい。現地で故障した場合、日本に送り返すわけにはいきません。将来的には現地の職人が部品を作って修理できるようにしたいんです」
「なるほど。そういう目的でしたら、特殊な専用品をなるべく避けて、一般的な規格のベアリングやボルトを使用する設計がいいですね」
「そうしてください。それと、各部品の寸法、材質、組立図、分解手順もお願いします」
「承知しました。ただし、弊社で設計した図面の権利関係については、契約時に取り決めが必要になります」
「もちろんです。図面の作成費用も含めて見積もってください。現地での修理や部品製作に使える権利も必要です」
「分かりました。その条件で検討いたします」
俺はさらに、工具だけで分解できる構造にすること、消耗部品の予備を用意すること、完成後は実際に籾や玄米を使って試験することを伝えた。
担当者は一通り話を聞くと、少し考え込んだ。
「ちなみに、ご予算はどのくらいをお考えでしょうか?」
「正直、相場が分からないんです。大体でいいので、いくらくらいになりますか?」
「そうですね……既製品の改造で済む部分もあると思いますが、今回は3台とも人力仕様で、設計図一式も必要ですからね。設計、試作、性能試験まで含めると、数百万円では収まらない可能性があります」
「1,000万円くらいですか?」
「現段階では何とも言えません。要求される処理能力や構造によっては、それ以上になることもあります。まずは仕様を整理して、概算見積もりをお出しする形になります」
なるほど。まあ、安い買い物ではないだろう。
「分かりました。それじゃ、まず200万円を手付金としてお支払いしたいんですが」
担当者が驚いた顔をした。
「えっ、200万円ですか?」
「はい。設計の検討を進めてもらうための費用です。もちろん正式な契約を結んでからで構いません」
「ありがとうございます。ただ、まだ仕様も金額も決まっておりませんので、現時点でお預かりするわけにはいきません。社内で確認して、設計検討費の契約書と請求書を用意させてください」
「それでお願いします。200万円を上限に、まず設計を進めてもらえればと思います」
「承知しました。正式なお見積もりと契約内容をご案内いたします」
担当者は立ち上がり、工場も見学していきませんかと声をかけてくれた。
せっかくなので案内してもらうことにした。
工場の中には大型の旋盤やフライス盤が並び、作業員が金属部品を加工していた。
鉄の削れる音が響き、機械油の匂いが漂っている。
俺はしばらくその光景を眺めていた。
1600年の塩屋村にも足踏み式の旋盤があるが、目の前の機械とは比較にならない。
いつか琉球の職人たちも、こんな工場を自分たちの手で作れるようになるんだろうか。
いや、作れるようにしなければならない。
俺は担当者に礼を言い、会社を後にした。
まずは3種類の機械の発注に向けて、一歩前進した。
さて、次は何を準備するかな。
特注機械製作会社を出た俺は、次に鉄材のことを考えた。
今後、農具や工具だけでなく、さまざまな機械を作ることになる。そうなれば大量の鉄が必要になるはずだ。
ただ、今のところ何をどれだけ作るかは決まっていない。
とりあえず、鋼材会社に話だけでも聞いてみるか。
俺はラップトップで調べておいた沖縄県内の鋼材会社に電話をかけ、相談したいことがあると伝えた。
幸い、今日でも対応できるというので、そのままハイラックスで向かうことにした。
会社に到着すると、営業担当の男性が応接室へ案内してくれた。
「本日はどういったご相談でしょうか?」
「実は、今後まとまった量の鉄材を購入したいと考えているんですが、こちらでは大量注文にも対応できますか?」
「はい。もちろん数量や鋼材の種類にもよりますが、どのくらいをお考えでしょうか?」
「年間100トンくらいです」
担当者は少し驚いた様子だった。
「年間100トンですか。それなら十分対応を検討できる数量ですね。ちなみに、どのような用途でしょうか?」
「海外で農業機械や工作機械を製造する計画がありまして、その材料として使いたいんです」
「なるほど。鋼板、丸棒、角鋼など、必要な種類はお決まりですか?」
「それが、まだ具体的には決まっていないんです。今日は価格や購入方法について教えていただきたくて」
「承知しました。一般的な構造用鋼材でしたら、数量によってはメーカーから取り寄せることも可能です。ただし、特殊鋼や厚板などは価格も納期も変わります」
「ちなみに、普通の鉄材なら1トンいくらくらいでしょうか?」
「種類や相場によりますが、一般的な鋼材でしたら材料代で十数万円から二十数万円程度を一つの目安にしていただければ。ただ、加工費や運賃は別になります」
「ということは、年間100トンなら1,500万円から2,500万円くらいですか?」
「材料の種類によっては、その程度になる可能性はあります。ただ、正式なお見積もりは品目と寸法が決まってからですね」
なるほど。思ったほど高くないな。
「あと、5キロくらいの大きさに切断して納品してもらうことはできますか?」
「可能ですよ。ただ、5キロという重量だけでは切断寸法を決められませんので、鋼材の形状を指定していただく必要があります」
「分かりました。それと、年間100トンを一度に購入する必要はないですよね?」
「もちろんです。月ごとに必要な数量を発注していただく方法もありますし、年間契約についてもご相談いただけます」
「なるほど。ちなみに、沖縄県内に在庫がない場合はどうなるんですか?」
「本土から船便で取り寄せます。数量がまとまっていれば、その都度手配することもできますよ」
俺は担当者の説明を聞きながら、必要なことをメモしていった。
年間100トンでも購入できる。切断加工も可能。本土からの取り寄せにも対応している。
これだけ分かれば十分だ。
「ありがとうございます。具体的な種類と数量が決まったら、改めて相談させてください」
「はい。いつでもご連絡ください。必要でしたら、その際に詳しいお見積もりをお出しします」
俺は名刺を受け取り、会社を後にした。
鉄材の調達先にも目処がついた。
今すぐ買う必要はない。必要になったときに発注すればいい。
それにしても、年間100トンか。
1600年の琉球にこれだけの鉄を持ち込んだら、いったい何が作れるようになるんだろうな。
そんなことを考えながら、俺はハイラックスのエンジンをかけた。
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