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ブラックホールの向こうは400年前の沖縄でした〜現代の道具と知識で始める琉球王国改革〜  作者: gere


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第44話 1600年3月23日その2

俺は倉庫の外にいたタルガニに、陳さんとサンラーが来たら倉庫の奥にある俺の部屋へ通してくれるよう頼んだ。


それからしばらくすると、倉庫の入り口の方から何やら大きな声が聞こえてきた。どうやら陳さんたちが到着したようだが、ずいぶん騒がしい。


何かあったのか?


俺は部屋のドアを開け、倉庫の中を覗いてみた。すると、陳さんが何かを手に持ち、興奮した様子でサンラーに話しかけている。


よく見ると、手にしているのはソーラー充電式のLEDランプだった。


「あちゃー、電気つけっぱなしだった」


そういえば、倉庫の中は薄暗いので、天井からLEDランプをいくつも吊るして明かりをつけていたんだった。すっかり忘れていた。


陳さんはランプを顔の近くまで持ち上げたり、角度を変えて眺めたりしている。どうやら火も使わずに光っていることが不思議で仕方ないらしい。


「陳さん、いらっしゃい。とりあえず、こちらの部屋へどうぞ」


俺が声をかけると、陳さんはこちらを振り向いた。しかし、手にはしっかりとランプを握ったままだ。


二人を部屋に案内して席に着いてもらったが、陳さんは挨拶もそこそこに、さっそくランプについて質問してきた。


「ユウマさん! これはいったい何なのですか!? 火もないのに、どうしてこんなに明るく光るのですか!」


「これはランプといって、明かりをつける道具なんですよ」


「ランプ? 油も使っていないではありませんか! いったいどういう仕組みなのですか?」


陳さんはランプをテーブルの上に置き、目を輝かせながら俺の顔を見つめている。どうやら、並べてある商品などまったく目に入っていないようだ。


「陳さん、申し訳ないんですが、それは売り物じゃないんですよ」


「そんなことをおっしゃらずに! ぜひ私に譲ってください!」


「いやいや、これは倉庫で使っているものですから」


そう説明しても、陳さんはまったく諦める様子がない。サンラーまで興味深そうにランプを覗き込んでいる。


仕方がないので、俺はランプの仕組みを簡単に説明することにした。


「陳さん、人間はご飯を食べますよね?」


「ええ、もちろんです。それが何か?」


「ご飯を食べないと、どうなりますか?」


「それは……腹が減って、やがて動けなくなりますな」


「そうですよね。このランプも同じなんですよ」


「同じ?」


陳さんが不思議そうに首を傾げた。


「人間はご飯を食べて動きますよね。このランプも、ご飯を食べないと光らなくなるんです」


「ランプがご飯を食べるのですか!?」


陳さんとサンラーが顔を見合わせた。


「そうです。ただし、このランプが食べるのは米や魚じゃありません。太陽の光なんです」


「太陽の光!?」


「ええ。昼間、太陽の光が当たる場所に置いておくと、このランプは光を食べて、体の中に力を蓄えるんです。そして夜になると、その蓄えた力を使って明るく光るわけです」


俺はランプを手に取り、裏側にある太陽光パネルを指差した。


「ここがご飯を食べる口みたいなものです。ここに太陽の光を当ててやるんですよ」


「ほう……この黒い板が口なのですか」


陳さんは顔を近づけ、太陽光パネルをじっと眺めている。


「ただし、人間と同じで、いつまでもご飯を食べずに働くことはできません。蓄えた力を使い切ると、明かりが消えてしまいます」


「なるほど! それでは、また太陽の光を食べさせればよいのですな!」


「そういうことです」


俺はランプのスイッチを押し、一度明かりを消してみせた。そして、もう一度スイッチを押す。


パッ。


「おおおっ!」


陳さんが思わず声を上げた。サンラーも驚いたように身を乗り出している。


「太陽の光を食べて、夜に光る……。しかも、好きなときに明かりをつけたり消したりできるとは!」


陳さんはランプを両手で持ち、しばらく見つめていた。


「ユウマさん! これはぜひとも私に売っていただきたい!」


「いや、ですから、これは売り物じゃないんですよ」


「そんなことをおっしゃらずに! どうかお願いします!」


うーん、困ったな。


「陳さん、これは本当に売る予定じゃなかったんです」


「しかし、先ほど倉庫の中に同じものがいくつもありました! 一つくらい譲っていただけるでしょう?」


あちゃー、そこまで見ていたのか。


さすが商人だ。倉庫に入ってきた短い時間で、ランプが何個もあることまで確認していたらしい。


「どうかお願いします! これほど素晴らしい品物を見せられて、諦めるわけにはいきません!」


陳さんはランプを両手で大事そうに抱え、こちらをじっと見つめている。どうやら、何を言っても引き下がりそうにない。


まあ、一個くらいならいいか。必要になれば現代でまた買えばいいしな。


俺は小さくため息をついた。


「分かりました、陳さん。それじゃ、一個だけお譲りします」


「本当ですか!?」


陳さんの顔がぱっと明るくなった。


「ええ。ただし、一個だけですよ」


俺が念を押すと、陳さんは何度も大きく頷いた。


「陳さん、それでは、このランプは金十匁でどうでしょうか?」


俺が値段を提示すると、陳さんは少しも迷わず頷いた。


「金十匁ですな。もちろん、それで結構です!」


まるで当然の値段だと言わんばかりの返事だった。値切るどころか、金額を聞いて安心したようにも見える。


あれ? もう少し高くてもよかったのかな。


まあ、いいか。現代で買えば数千円のランプだ。それが金十匁になるんだから十分だろう。


「では、このランプは陳さんにお譲りします」


「ありがとうございます! これは大切に使わせていただきます!」


陳さんは嬉しそうにランプを自分のそばへ置いた。ようやく気が済んだのか、先ほどまでの興奮も収まり、落ち着いて話ができる雰囲気になった。


ところが、今度は部屋の中をくまなく見回し始めた。


壁や棚、それからテーブルの上に並べられた商品へと視線を移している。何かを見つけるたびに目がキラキラしているので、こちらとしては少々落ち着かない。


まったく、商人というのは目ざといものだ。


とりあえず、新しい商品を見せる前に聞いておきたいことがあった。


「陳さん、前回お渡しした品物ですが、売れ行きはどうでしたか? 評判も聞かせてもらえませんか?」


俺がサンラーに頼んで伝えてもらうと、陳さんは待っていましたとばかりに笑顔になった。


「それはもう、大変な評判でしたよ!」


サンラーが通訳する声にも、どこか楽しそうな響きがある。


「まず、火をつける道具ですが、あれには本当に驚かされました」


ライターのことだな。


「火打ち石も火口も必要なく、指先一つで火がつく。最初は皆、何かの術ではないかと疑っておりました」


陳さんは笑いながら、指でライターを押す仕草をしてみせた。


「特に商人や裕福な家の主人たちが興味を示しました。蝋燭や灯火に火をつける際、いちいち火種を用意する必要がありませんからな。客人の前で使ってみせると、それだけで人が集まるのです」


「なるほど。便利なだけじゃなく、見せびらかす道具にもなるわけですね」


「まさにそのとおりです。ただ、使い続けると火が出なくなると説明したところ、残念がる者もおりました。それでも珍しさと便利さから、欲しがる者は多かったですな」


やっぱり使い捨てというのが弱点か。それでも十分に商品価値はあるらしい。


「次に、胡椒です」


陳さんは嬉しそうに話を続けた。


「こちらは料理人たちの評判がよろしかった。胡椒そのものは明でも知られておりますが、あれほど細かく砕かれ、しかも小さな容器から必要な分だけ振りかけられる品は珍しいのです」


なるほど。胡椒そのものより、容器も含めた使いやすさが評価されたのか。


「富裕な家の料理人に使わせたところ、肉料理の香りがよくなると喜ばれました。食卓にそのまま置いて使えることも好評でしたな」


「胡椒は使えばなくなりますから、また欲しいという人もいるでしょうね」


「ええ。実際に、次はいつ手に入るのかと尋ねられております」


これはいい話だ。消耗品だから、一度気に入ってもらえれば継続して売れる可能性がある。


「それから、グラスですな」


陳さんは今度は両手で杯を持つような仕草をした。


「透明な杯というものは、それだけで人の目を引きます。酒を注げば中の色がそのまま見え、杯を持ち上げれば向こう側まで透けて見える。宴席で使うと、客人たちがたいそう驚いたそうです」


「割れやすいのは問題になりませんでしたか?」


「もちろん、そこは注意して扱うよう伝えました。しかし、裕福な者にとっては、むしろ大切に扱う特別な器ということになるようです」


陳さんはニコニコしながら続けた。


「特に酒好きの富裕層には評判がよく、客人をもてなすために揃えたいという声もありました。陶器や磁器とは違った美しさがあると、喜ばれております」


なるほど。普段使いの食器ではなく、客をもてなすための高級品として売れているわけだ。


「そして、何といっても一番評判がよかったのは、あの小さな鏡です!」


陳さんの声が一段と大きくなった。


手鏡か。


「最初に見せたのは、裕福な商家の奥方でした。ご自分の顔があまりにも鮮明に映るので、しばらく言葉もなく眺めておられましたよ」


陳さんはその時の様子を思い出したのか、楽しそうに笑っている。


「明にも銅鏡はございます。しかし、磨いた銅鏡とは映り方がまるで違います。顔の細かなところまで、はっきりと見えるのですからな」


「女性に人気があったんですか?」


「ええ、それはもう。特に富裕な家の奥方や娘たちに大変な人気でした。化粧をする時にも便利ですし、小さいので手元に置いて使える。しかも、これほど鮮明に顔が映る鏡を持っているというだけで、周囲の者に自慢できるのです」


陳さんは身を乗り出して話を続けた。


「ある商家では、奥方が手に入れた鏡を客人に見せたところ、居合わせた女性たちが次々と欲しがったそうです。どこで買えるのか、いくら出せば譲ってもらえるのかと、ずいぶん尋ねられました」


「へえ、それはすごいですね」


「しかも、あの鏡は贈り物にも向いております。商人が大切な取引先の奥方へ贈ったところ、たいそう喜ばれたという話も聞きました」


なるほどな。


手鏡は単なる日用品じゃない。富裕層の女性にとっては、化粧道具であり、贅沢品であり、他人に自慢できる品物でもあるわけだ。


「それで陳さん、四つの商品の中では、手鏡が一番高く売れたんですか?」


「ええ。一個当たりの値段では、手鏡が最も高く売れました。それでも欲しがる者が多く、数が足りませんでした」


陳さんは満足そうに頷いた。


「正直に申し上げますと、あれほどの評判になるとは私も思っておりませんでした。ユウマさん、今回もぜひ手鏡を譲っていただきたい」


俺は思わず笑みを浮かべた。


ライター、胡椒、グラス、そして手鏡。どうやら前回の商品は、どれも期待以上の反応だったらしい。


特に手鏡が中国の富裕層に受けたというのは大きい。


これは今後の取引も楽しみになってきたな。


俺はテーブルの上に並べておいた商品を陳さんの方へ差し出した。


「陳さん、今回も前と同じ品物を揃えてきました。まずはこちらをご覧ください」


テーブルには、透明なグラスが十個、手鏡が十個、胡椒の小瓶が十本、そして四個入りのライターが五セット、合計二十個並んでいる。


グラスは光を受けてきらきらと輝き、手鏡には部屋の様子がくっきりと映っている。胡椒の小瓶はきれいに一列に並べ、ライターも包装されたまま手前に置いてあった。


「おおっ! これは前回と同じ品物ではありませんか!」


陳さんは嬉しそうに身を乗り出し、まず手鏡を一つ手に取った。


「手鏡が十個も! これはありがたい!」


続いてグラスや胡椒、ライターへと目を移し、一つ一つ数を確かめている。


「グラスが十個、胡椒が十本、火をつける道具が二十個……。いやはや、これだけ揃えていただけるとは!」


陳さんは満面の笑みを浮かべていた。


「前回はどれも数が少なく、欲しいという方々すべてにはお渡しできませんでした。これだけあれば、またよい商売ができそうです」


俺は陳さんが商品を一通り確認したところで、改めて話を切り出した。


「陳さん、今回は二度目のお取引ですから、前回よりお安くしておきますね」


サンラーが通訳すると、陳さんは嬉しそうに頷いた。


「それはありがたいお話です!」


「今回は特別に、前回の半額にします。ただし、次回からもこの値段で固定です。これ以上の値下げはしませんので、そのつもりでお願いします」


「なるほど。今後は同じ値段で仕入れられるということですな」


「ええ。毎回値段が変わるより、陳さんも商売の計画が立てやすいでしょう?」


陳さんは何度も頷き、満足そうな笑みを浮かべた。


「それは助かります! 仕入れ値が決まっていれば、売り先との話も進めやすくなりますからな」


俺は前回の取引金額を思い出しながら、今回の価格を一つずつ伝えることにした。


「まずグラス十個ですが、前回は金八匁でしたよね。今回は半額の金四匁です」


サンラーが伝えると、陳さんは嬉しそうに頷いた。


「次に手鏡十個。前回は金十五匁でしたから、今回は金七匁五分です」


「おおっ! あれほど人気のある鏡を、その値段で譲っていただけるのですか!」


陳さんは思わず身を乗り出した。どうやら手鏡の値下げが一番嬉しいらしい。


「それからライター二十個。前回は金五十匁でしたので、今回は金二十五匁です」


「なるほど、火をつける道具も半額ですな!」


「最後に胡椒十本。前回は金二十匁でしたから、今回は金十匁です」


俺は指を折りながら合計を確認した。


「グラスが四匁、手鏡が七匁五分、ライターが二十五匁、胡椒が十匁。全部合わせて金四十六匁五分です」


サンラーが通訳すると、陳さんは驚いたように俺を見た。


「本当に半額でよろしいのですか?」


「ええ。ただし、先ほどお話ししたとおり、次回からもこの単価で固定です。数量が増えても、これ以上は値下げしませんよ」


陳さんは満面の笑みを浮かべ、深々と頭を下げた。


「ありがとうございます、ユウマさん! これなら明での販売先も、さらに広げられそうです!」


俺としても、これで今後は毎回値段の交渉をする必要がなくなる。お互いに悪くない取引だろう。


先ほどのLEDランプが金十匁だから、ここまでの取引額は金五十六匁五分。


さて、次はいよいよ新しい商品だ。


俺は次の商品を紹介するため、テーブルの下にしまっておいた箱を取り出した。


「陳さん、次は少し変わった品物をお見せします。商人の陳さんなら、きっと気に入っていただけると思いますよ」


箱の中から取り出したのは、A4のコピー用紙五百枚、バインダー一個、HBの鉛筆十二本、消しゴム一個、そして鉛筆削り一個だ。


陳さんは並べられた品物を不思議そうに眺めている。特に真っ白な紙の束が気になるらしく、何度も視線を向けていた。


「まずはこちらをご覧ください」


俺はコピー用紙を一枚取り出し、陳さんの前に置いた。


「これは紙です。見てのとおり、表も裏も真っ白で、文字を書くために作られています」


陳さんは紙を手に取り、光にかざしたり、指先で表面を撫でたりしている。


「これは……ずいぶん薄く、しかも滑らかな紙ですな。それに、これほど白いとは」


「大きさも厚さも全部揃っています。こちらの束には、同じ紙が五百枚入っています」


「五百枚!?」


陳さんは驚いたように紙の束を見た。


「これほど均一な紙が五百枚も……。しかも、すべて同じ大きさなのですか?」


「ええ、そうです」


陳さんは一枚、また一枚と紙をめくり、端を揃えて確かめている。どうやら紙の品質と均一さだけで、すでに商品価値を理解し始めたらしい。


「では、次はこちらです」


俺は鉛筆を一本取り出した。


「これは文字を書く道具です。ただし、使う前に少し準備が必要なんですよ」


俺は鉛筆削りを手に取り、小さな穴に鉛筆の先を差し込んだ。


「こうして鉛筆を回すと、先が削れるんです」


シャリシャリと小さな音を立てながら、薄い木の削りかすが落ちていく。何度か回して鉛筆を引き抜くと、黒い芯がきれいに尖っていた。


「ほう……これは何ですかな?」


陳さんは鉛筆と削りかすを交互に眺めている。


「こちらが鉛筆、そして今使ったのが鉛筆削りです。この黒い先端を使って文字を書くんですよ」


俺は紙の上に鉛筆で大きく『陳永福』と書いてみせた。


「おおっ!」


陳さんが身を乗り出した。


「墨をつけていないのに、文字が書けるのですか!」


「ええ。しかも、これなら持ち歩いて、いつでもどこでも書けます」


俺は鉛筆を陳さんに渡した。


「試してみてください」


陳さんは恐る恐る鉛筆を握り、紙の上に文字を書き始めた。筆とは勝手が違うようで、最初は少しぎこちなかったが、すぐに要領を掴んだらしい。


「なるほど……これは便利ですな」


陳さんは何度か線を引き、今度は数字を書き始めた。


「船の積荷を書き留める時にも、取引の数量を控える時にも使えます。墨を用意する必要がないというのは大きい」


さすが大商人だ。俺が説明するまでもなく、すぐに実際の商売へ結びつけて考えている。


「それだけじゃありません。書き間違えた時には、こちらを使います」


俺は消しゴムを手に取り、陳さんが書いた文字の一部を軽く擦った。すると、鉛筆で書いた文字がきれいに消えた。


「なっ!?」


陳さんが目を丸くした。


「文字が消えたではありませんか!」


「ええ。鉛筆で書いた文字なら、こうして消して書き直せるんです」


俺は消した場所に、もう一度鉛筆で文字を書いてみせた。


陳さんはしばらく黙って紙を見つめていたが、やがて大きく頷いた。


「これは素晴らしい。商売では数量や金額を書き間違えることもあります。そのたびに紙を無駄にせずに済むということですな」


「そういうことです。ただし、何度も消すと紙が傷みますから、そこは注意してください」


「いや、それでも十分です!」


陳さんはすっかり感心した様子だった。


「それに、鉛筆の先が丸くなったら、先ほどの道具でまた削ればいいんです。短くなるまでは繰り返し使えますよ」


陳さんは鉛筆削りを手に取り、内部の小さな刃を興味深そうに覗き込んだ。


「なるほど。鉛筆と、この削る道具は一緒に売るべきですな」


「そのつもりです」


俺は最後にバインダーを取り出した。


「そして、最後はこちらです。これがあると、さらに便利になりますよ」


俺が取り出したのは、上部に金属製のクリップが付いた、平たい板状のバインダーだった。


陳さんは首を傾げている。


「これは……何に使うものですかな?」


「まあ、見ていてください」


俺はコピー用紙を五枚ほど重ね、バインダーの上に置いた。そして上部の金属クリップを開き、紙を挟んで固定する。


「こうして紙を留めておけば、簡単にはずれません」


俺はバインダーを片手に持ち、椅子から立ち上がった。


「陳さん、ここからが大事なんです」


そう言って、俺はバインダーを左手で支え、右手に鉛筆を持った。そして立ったまま、バインダーの上に留めた紙へ文字を書き始めた。


「ほら、こうすれば机がなくても文字が書けるんですよ」


「おおっ!」


陳さんが勢いよく立ち上がった。


「立ったまま書けるのですか!」


「ええ。紙の下に硬い板があるので、机の上で書くのと同じように使えます」


俺はそのまま部屋の中を少し歩き、別の場所で立ち止まって、もう一度文字を書いてみせた。


「例えば、船の荷物を確認する時です。積荷を一つずつ見ながら、数量や品物の名前をその場で書き込めます」


陳さんは俺の手元を食い入るように見つめている。


「倉庫でも同じです。荷物を数えながら記録できますし、港で船から荷物を降ろす時にも使えます。いちいち机まで戻る必要がありません」


「なるほど! なるほど!」


陳さんは何度も頷いた。


「しかも墨も筆もいらない! 紙と鉛筆、それにこの板さえあれば、どこでも記録ができるわけですな!」


「そういうことです。陳さんも試してみますか?」


俺がバインダーと鉛筆を差し出すと、陳さんはすぐに受け取った。左手でバインダーを支え、右手で鉛筆を握る。そして立ったまま、紙に文字を書き始めた。


「おお……これは実に書きやすい!」


陳さんはそのまま部屋の中を数歩歩き、立ち止まってまた文字を書いた。


「素晴らしい! これなら船倉でも、港でも、商家の倉庫でも使えますぞ!」


どうやら相当気に入ったらしい。


「ユウマさん、我々商人は、荷物の数量を確認するために何度も帳簿と現物を照らし合わせます。しかし、これがあれば荷物のそばで直接記録できる。しかも書き間違えれば消して直せる!」


陳さんは興奮した様子でバインダーを持ち上げた。


「船の荷役を監督する者にも持たせたいですな。荷物を積み込むたびに数量を書き留めれば、確認もずっと楽になります!」


さすが大商人だ。俺が説明した以上の使い道を、次々と思いついている。


「陳さん、この五つの品物は、組み合わせて使うことで本当の便利さが分かるんです」


「まったくそのとおりです!」


陳さんはバインダーをテーブルへ戻し、改めて商品を一つずつ眺めた。


「白く滑らかな紙、墨を使わずに書ける鉛筆、書き間違いを消す道具、鉛筆の先を整える道具、そして立ったまま文字を書けるこの板……」


陳さんは満面の笑みを浮かべた。


「ユウマさん、これは一つの組として売るべきですな! 商家の番頭や船の積荷を管理する者なら、必ず欲しがるでしょう」


俺も同じことを考えていた。


単なる珍しい文房具としてではなく、商売の仕事を便利にする道具として売る。陳さんなら、その価値を十分に理解してくれそうだ。


どうやら今回の新商品も、期待できそうだな。


俺は陳さんが文房具を一通り確認したところで、具体的な取引の話を切り出した。


「陳さん、実はこの商品、まとめて販売しようと考えているんです」


「ほう、まとめてですか?」


「ええ。コピー用紙二千枚、バインダー五個、鉛筆十ダース、つまり百二十本ですね。それに鉛筆削り五個と消しゴム十個。これを一まとめにして販売しようと思っています」


陳さんは俺の説明を聞きながら、指を折って数量を確認している。特に紙二千枚と鉛筆百二十本という数には驚いた様子だった。


「それほどの数を一まとめにするのですか! それで、お値段はいかほどでしょう?」


「金二匁でどうでしょうか?」


サンラーが通訳すると、陳さんは一瞬きょとんとした顔になった。


「……二匁? 本当にその金額でよろしいのですか?」


「ええ、金二匁です」


「ユウマさん、あれほど上質な紙が二千枚もあり、鉛筆が百二十本、それに便利な道具まで付いているのですよ! いくら何でも安すぎませんか?」


陳さんは信じられないという表情で俺を見ている。どうやら、相当安いと感じているらしい。


「陳さん、これらは使えばなくなるものなんですよ。紙は書けば減りますし、鉛筆も削って使えば短くなります。消しゴムだって同じです」


俺はテーブルに並んだ文房具を指差しながら説明を続けた。


「つまり、一度買って終わりではありません。便利だと思ってもらえれば、また買っていただけるでしょう? だから、この値段でいいんです」


サンラーが伝えると、陳さんはしばらく考え込み、やがて大きく頷いた。


「なるほど……確かにそのとおりですな。商家で使えば紙も鉛筆も減っていく。便利であればあるほど、次の注文が必要になるわけですか」


さすが大商人だ。俺が説明すると、すぐにこちらの考えを理解してくれた。


「ユウマさん、それでしたら、まずは二十まとめお願いできますかな?」


「二十まとめですか?」


「ええ。この金額なら、まずは明の取引先に使ってもらいたい。実際に便利さを知ってもらえれば、その後の注文にもつながるでしょう」


「分かりました。それでは二十まとめ、金四十匁ですね」


「ええ、それでお願いします!」


「ただし、今ここには見本しかありませんので、明日までには揃えておきます。それでよろしいですか?」


「もちろんです! 明日また受け取りに参ります」


よし、文房具の商談も成立だ。二十まとめとなると、コピー用紙四万枚、鉛筆二千四百本、バインダー百個、鉛筆削り百個、消しゴム二百個になる。


現代で揃えるのは大変そうだが、金四十匁なら十分に割に合うだろう。


さて、次の商品だ。


俺はテーブルの下から、用意しておいた虫眼鏡を十個取り出した。


「陳さん、次はこちらをご覧ください」


「ほう? これは何ですかな?」


陳さんは虫眼鏡を一つ手に取り、丸いレンズを不思議そうに眺めている。


「これは虫眼鏡といって、小さなものを大きく見るための道具なんです」


「小さなものを大きく?」


「ええ。例えば、こちらをご覧ください」


俺は先ほど鉛筆で文字を書いた紙を取り出し、虫眼鏡をその上にかざしてみせた。


「こうして覗いてみてください」


陳さんは言われたとおり、虫眼鏡を通して紙を見た。


「おおっ!?」


突然声を上げ、慌てて虫眼鏡を目から離した。


「文字が大きくなったではありませんか!」


「そうでしょう? レンズと紙の距離を変えると、見え方も変わるんですよ」


俺は虫眼鏡を少し上下させ、文字が大きく見える位置を教えた。陳さんはもう一度覗き込み、今度はゆっくりと距離を変えながら文字を眺めている。


「これは面白い! 小さな文字が、こんなにはっきり見えるとは!」


陳さんは虫眼鏡を使って、紙の文字だけでなく、自分の手のひらや衣服の織り目まで眺め始めた。


「ほう……布の糸まで大きく見えますな!」


「ええ。細かい細工を確認したり、小さな文字を読んだりする時にも便利です」


陳さんは何度も頷きながら、今度はサンラーにも虫眼鏡を渡した。サンラーも覗き込んだ途端、驚いたように声を上げ、2人で交互に虫眼鏡を使い始めた。


どうやら2人とも、すっかり気に入ったようだ。


「それじゃ陳さん、この虫眼鏡ですが、1個いくらなら買っていただけますか?」


サンラーが通訳すると、陳さんは虫眼鏡を手に取り、しばらく考え込んだ。


「金2匁ではいかがでしょうか?」


おっ、金2匁か。実は俺もそのくらいを考えていたんだよな。


「分かりました。その値段でお譲りします」


「本当ですか! ありがとうございます!」


陳さんは嬉しそうに頭を下げた。


「全部で10個ありますから、金20匁ですね」


「ええ、10個すべて買わせていただきます!」


俺も満足して頷いた。


そして、いよいよ今回の本命だ。


「陳さん、実は今日、ぜひ見ていただきたいものがあるんです」


俺は立ち上がり、部屋の奥に布をかけて置いてあった大きな品物の前へ移動した。


「これは、そう簡単には手に入らない貴重な品物です」


陳さんは興味深そうに身を乗り出した。


「ほう、それはいったい何ですかな?」


「まあ、見ていてください」


俺はまず、普通の姿見にかけてあった布をゆっくりと取り払った。


「こちらです!」


布が落ちると、大きな鏡が姿を現した。


「なっ……!?」


陳さんは目を見開き、その場で固まってしまった。


鏡の中には、頭から足元まで自分の姿がはっきりと映っている。


「こ、これは……!」


陳さんは恐る恐る鏡に近づき、正面に立った。


右へ動けば鏡の中の自分も右へ動き、左へ動けば同じようについてくる。


「なんと……全身が映っているではありませんか!」


陳さんは鏡に顔を近づけたり、少し離れたりしながら、何度も自分の姿を確かめている。


サンラーも隣に立ち、2人揃って鏡の中を覗き込んでいた。


「どうですか? これほど大きく、綺麗に映る鏡は珍しいでしょう?」


「珍しいどころではありません! 南蛮人が持ち込む鏡の話は聞いたことがありますが、これほど大きなものは初めて見ました!」


陳さんは鏡の表面をじっと眺め、横から厚みを確かめ、さらに裏側まで回り込んでいる。


どうやら、どういう仕組みでこれほど鮮明に映るのか、不思議で仕方ないらしい。


「ユウマさん……これは、おいくらで譲っていただけるのでしょうか?」


陳さんは少し緊張した様子で尋ねてきた。


「こちらは金20匁です」


サンラーが通訳すると、陳さんはすぐに頷いた。


「金20匁ですな。ぜひ買わせてください!」


おっ、即決か。


俺としても想定していた金額だったので、文句はない。


「ありがとうございます。では、こちらは金20匁で」


陳さんは嬉しそうに鏡を見つめている。


しかし、まだ本命は残っている。


「陳さん、実はもう1枚あるんです」


「な、なんですと!?」


俺は隣に置いてあった、もう1枚の姿見へ移動した。


「こちらは、先ほどの鏡よりもさらに上等な品物です」


そう言って、ゆっくりと布を取り払った。


現れたのは、美しい装飾が施された高級な姿見だった。


「おおおっ……!」


陳さんは思わず息を呑んだ。


先ほどの鏡も十分に立派だったが、こちらは周囲の装飾が一段と豪華で、明らかに特別な品物に見える。


「陳さん、こちらなら明の皇帝への贈り物としても、十分にふさわしいのではないでしょうか?」


サンラーが通訳すると、陳さんの表情が変わった。


「皇帝陛下への……贈り物……」


陳さんはゆっくりと鏡に近づいた。


正面から映り具合を確かめ、周囲の装飾を細かく観察し、さらに横や裏側まで回り込んでいる。


「なんと美しい……。これほどの鏡は、明でもそう簡単には手に入りますまい」


陳さんはしばらく鏡を眺めたあと、真剣な表情で俺に向き直った。


「ユウマさん、こちらは……おいくらでしょうか?」


「金100匁です」


サンラーが通訳すると、陳さんは黙り込んだ。


さすがに金100匁ともなると、すぐには返事ができないらしい。


俺は何も言わず、陳さんの返事を待った。


しばらくして、陳さんがゆっくりと口を開いた。


「……買わせていただきます」


「ありがとうございます!」


よし、売れた!


陳さんはもう一度鏡を見つめ、満足そうに頷いた。


皇帝への献上品にするのか、それとも明の有力者への贈り物にするのか、まだ考えているようだ。


いずれにしても、これほど珍しい品物なら、相当な価値があるのだろう。


俺は2枚の姿見を眺めながら、今回の本命が無事に売れたことに満足していた。


陳さんとの商談がすべて終わり、2人を見送った俺は、倉庫の奥にある自分の部屋へ戻った。


テーブルの上に今日受け取った金を並べ、ノートと電卓を取り出した。


「さて、今日はいったいいくら売れたんだ?」


まず、LEDランプが金10匁。グラス10個が4匁、手鏡10個が7匁5分、ライター20個が25匁、胡椒10本が10匁。


続いて虫眼鏡10個が20匁。普通の姿見が20匁、高級な姿見が100匁。


そして明日引き渡す予定の文房具20セットが、金40匁だ。


「全部合わせると……236匁5分か!」


俺は電卓を叩き、今度は金の重さに換算した。


金1匁は3.75グラムだから、236.5匁で886.875グラム。


「うわっ! もう少しで金1キロじゃないか!」


さらに、前回と同じ1グラム24,050円で日本円に換算してみる。


「21,323,343円……!」


思わず電卓を2度見した。


「たった2日間の取引で2,100万円超えかよ!」


もちろん、文房具の金40匁は明日の引き渡し時に受け取る予定だから、今ここにある金には含まれていない。


それでも、すでに商談は成立している。


俺はテーブルに並んだ金を眺めながら、思わず笑みを浮かべた。


「いやあ……陳さん、本当にいいお客さんだな」


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