第40話 1600年3月15日
朝。
俺はいつものように湯を沸かし、コーヒーを飲みながら一服する。新しく買ったベッドのマットの硬さもちょうどよく、起きた時にも疲れが残っていない。
「やっぱりベッドはいいな」
今日はこれから船で那覇へ向かう予定だ。漁師三人組とタルガニにはすでに声をかけてあり、報酬は本人たちの希望で泡盛一・八リットルを一人一パックずつにしている。
今回の目的は、雄ヤギ二頭、雌ヤギ二頭、それに雄鶏二羽を買うことだ。
鶏はこのまま同じ雄を使い続けると近親交配が心配なので、二回から三回孵化させたら雄鶏を新しい雄に入れ替え、最初の雄二羽は食用に回すつもりでいる。
ヤギも今後数が増えてきたら、別の村と雄を交換するなり、新しい雄を買うなりして血が濃くならないようにした方がいいだろう。
そのための交換材料として、塩は百キロ用意してある。
前に那覇で取引した時は、塩一斤で米三合だった。百キロなら約百六十七斤だから、米にすれば約五百合分になる。
念のため、交渉材料として陶器入りの泡盛も一本持っていくことにした。値段がどれくらいになるか分からないので、塩だけで足りなかった時に使えばいい。
それと、那覇ではサンラーにもいろいろ案内してもらうつもりなので、サンラー用にも泡盛一・八リットルを一本用意してある。
昨日のうちに準備したのは、泡盛一・八リットルパックが五本。それから陶器入りの泡盛が一本だ。
一・八リットルの泡盛は一本1,738円。
五本で8,690円。
陶器入りの泡盛は一本3,600円。
合計、12,290円。
前回の残金は4,128,829円。
そこから12,290円を引いて、残金は4,116,539円になった。
「よし、これで準備はできたな」
俺はコーヒーを飲み干し、出発の準備を始めることにした。
俺は倉庫を出ると、出発前にシンガを探して第一畑へ向かった。
畑に入ると、琉球芋は前に見た時よりさらに勢いよくつるを伸ばしていた。植えてからもう二か月ほど経っているので、畝の上だけでなく横へ広がるつるもかなり増えている。
俺は何本か手に取って長さを確認した。
「これならもう苗取れるな」
ちょうど近くにいたシンガを呼ぶ。
「シンガさん、第二畑にも琉球芋を増やしたいから、今日からこのつるを苗に使おう」
シンガは俺が持っているつるを見る。
「これを切るのか?」
「うん。ただ根元から全部切るんじゃなくて、よく伸びてるつるの先を使う」
俺はつるを一本持ち上げ、先端から二十五センチから三十センチくらいのところを示した。
「このくらいの長さで切って。葉が六枚か七枚くらい付いてるやつがいいかな」
病気っぽいものや、虫に食われて弱っているつるは避け、勢いよく伸びているものだけを苗にする。
「それを第二畑に持っていって、畝に斜めに挿す」
俺は地面を指でなぞりながら説明する。
「全部埋めるんじゃなくて、下の三つか四つくらいの節を土の中に入れる。先の葉っぱは外に出しておいて」
土の中へ入った節から根が出て、そこから新しい琉球芋が育っていく。
「植えたあとは水をやって、しばらく乾かさないようにしてくれればいい」
シンガは何度か頷きながら、俺が持っているつるを見ていた。
「第一畑の芋はそのまま残すのか?」
「残すよ。一株から一気に取りすぎないで、伸びたつるから少しずつ取っていこう。また伸びてくるから」
これなら第一畑を潰すことなく、そこを親株にして苗を増やしていける。
「第二畑は、琉球芋を三つ、ゴーヤーを一つ、ヘチマを一つくらいの割合で植えていこうと思ってる」
ゴーヤーとヘチマの種は、すでに準備してある。
俺はシンガに種の入った袋を見せた。
「琉球芋を三苗植えたら、その次にゴーヤーを一苗、その次にヘチマを一苗。この割合で植えていって」
「分かった」
「堆肥も出来てる分から使って。植える前に畝へ混ぜておいて」
二か月以上前から作り始めた堆肥も、最初に仕込んだ分はかなり出来上がっている。全部使う必要はないので、古いものから第二畑へ入れていけばいい。
シンガは第一畑と第二畑を見比べながら頷いた。
「みんなにも教えておく」
「お願い」
これで第二畑の作付けも始められる。
俺はシンガにあとは任せ、そのまま広場へ戻ることにした。
広場では、タルガニと漁師三人組がすでに待っていた。全員朝飯も食べ終わっていて、あとは出発するだけという状態だ。
「準備できてる?」
「ああ。いつでも行けるぞ」
俺たちは以前作った双胴船を四人で持ち上げ、そのまま海まで運んで浮かべた。
続いて、用意しておいた塩の入ったプラスチックボックス三個を荷台へ積み込む。合計で百キロほどあるので一つずつ運び、船のバランスが崩れないように並べて置いた。
今回は念のため、海賊に遭った時のことも考えてナタも持ち込んでいる。前回みたいなことが絶対にないとは言い切れない。
そのほかに、キャンプ用品を入れたリュックとルアー一式も積み込む。那覇までの往復で何があるか分からないので、最低限の道具は持っていった方がいい。
荷物を全部確認すると、俺も船へ乗り込んだ。
「よし、それじゃ出発しよう」
タルガニたちもそれぞれ持ち場につき、双胴船はゆっくりと岸を離れていった。
俺はマストを調整して風を捕まえる。帆が大きく膨らみ、双胴船は順調に南へ進み始めた。
今回の旅程もいつも通りだ。夕方前まで進んで、前回使った中継地点の浜で一泊。それから翌朝、また那覇へ向かう。
風も悪くなく、海も比較的穏やかだった。タルガニたちは時々オールを使いながら進路を微調整し、俺は帆の向きを変えながら船を走らせていく。
しばらく進むと、見慣れた海岸線が少しずつ近づいてきた。
「今日は順調だな」
前回と同じくらいの時間で着けそうだ。
日がだいぶ傾き、空が少し赤くなり始めた頃、前回と同じ中継地点の浜が見えてきた。
「今日はここまでだな」
俺たちは船を浜へ向け、そのままゆっくりと砂浜へ乗り上げる。
全員で船から降りると、波に持っていかれないところまで双胴船を引き上げた。塩の入ったボックスはそのまま船に載せておき、必要な荷物だけを降ろす。
「さて、夕飯にするか」
俺はキャンプ用品の入ったリュックとルアー一式を持って、野営の準備を始めた。
今日はここで魚を釣り、人数分確保できたらカップラーメンと一緒に食べるつもりだ。
まずは船を固定し、夕飯の準備を始めることにした。
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