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ブラックホールの向こうは400年前の沖縄でした〜現代の道具と知識で始める琉球王国改革〜  作者: gere


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第38話 1600年3月5日

朝。


目を覚ました俺は湯を沸かし、いつものようにコーヒーを淹れた。椅子に座って一服しながら、今日の段取りを考える。


昨日で、ようやく倉庫兼住宅が完成した。


建物自体は間口四メートル、奥行き十四メートル。そのうち手前の四メートル×十メートルを倉庫にして、奥の四メートル×四メートルを俺の居住スペースにしてある。


倉庫は高床式にして、地面から少し離してある。床は今までの家より頑丈にするため、太めの大引きと根太を組み、その上に厚い構造用合板を張った。測量機器やチェーンブロック、足踏み旋盤みたいな重い物を置いても簡単には沈まないようにしてある。


壁も村人たちの家よりしっかり作った。柱の間に筋交いを入れ、その上から板材を張ってあるので、外から見ても普通の木造倉庫にしか見えない。


屋根はいつもの茅葺きだが、その下には厚手のブルーシートを張ってある。多少の雨なら茅だけでも問題ないが、ここには大事な物資や食料を置くつもりなので、雨漏りだけは絶対に避けたい。


倉庫の正面には大きな扉を二枚付けて、観音開きにした。両方開けば間口をかなり広く取れるので、大きな木材や足踏み旋盤なんかもそのまま運び込める。扉には金具と南京錠も付けたので、俺がいない時でも簡単には開けられない。


それと、倉庫の横にはおーはちー用の簡単な車庫も作ってある。


車庫といっても大げさな物ではない。倉庫の壁をそのまま背面に使い、そこから屋根を伸ばしただけの簡単な造りだ。横から雨が吹き込まないよう、左右には厚手のブルーシートを張ってある。


これなら雨の日でもおーはちーを濡らさずに置いておけるし、荷台も一緒に横へ寄せておける。倉庫のすぐ横なので、資材を積んだり降ろしたりする時にも都合がいい。


中には壁際に棚も作った。小さな道具や種、金物なんかは棚へ置き、床には大きな荷物をまとめている。測量機器、チェーンブロック、足踏み旋盤、コシヒカリの種籾、それから今まで四人の家に分けて置かせてもらっていた物資も、昨日のうちに全部ここへ運び込んだ。


四メートル×十メートルあるので、今のところはかなり余裕がある。


「まだ全然置けるな」


そう思いながら中を見回したが、この先、大根や琉球芋みたいに日持ちする作物が大量に収穫されるようになれば、ここもすぐ手狭になってくるかもしれない。


まあ、その時はその時だ。


倉庫と俺の部屋の間には壁を作り、完全に仕切ってある。倉庫からそのまま入れる扉は付けたが、居住部分は一応ちゃんとした個室だ。


そして部屋の隅には、待望の洋式トイレも設置した。


もちろん水洗ではない。床に穴を開け、その上に簡易汲み取り式の洋式便器を固定してある。真下の床下には汚物を受ける容器を置き、いっぱいになる前に外から取り出して処理する仕組みだ。


トイレ部分だけは部屋の中でも壁で囲い、小さな個室にした。共同のポットン便所に比べれば、これだけでもかなり快適になった。


「やっぱり洋式はいいな……」


ただ、肝心の部屋の中はまだ何もない。


四メートル四方の部屋に洋式トイレがあるだけで、あとは本当に空っぽだ。床と壁しかないので、さすがに殺風景だった。


「せっかく家作ったんだし、少しくらい住めるようにするか」


俺はコーヒーを飲みながら、買い物リストを作り始めた。


まず一番大事なのはベッドだ。組み立て式なら分解してブラックホールを通せるだろう。


次にテーブルと椅子。部屋で簡単な料理くらいできるように、カセットコンロも欲しい。


それから冷蔵庫代わりのクーラーボックス。


「これがあれば冷え冷えのビール飲めるな」


思わず少し嬉しくなる。


そして明かりも必要だ。


今まではランタンで済ませていたが、せっかく部屋を作ったなら、もう少しまともな明かりが欲しい。


「ソーラー発電のLEDランプでいいか」


昼間に太陽で充電して、夜になれば点けられる。電気のないこの時代にはちょうどいい。


そこでふと思った。


「どうせなら、みんなにも一個ずつ配るか」


一世帯に一個。


今の村だけでなく、これから増える分も考えて二十五個くらい買っておけばいい。残った分は炊事場、倉庫、俺の部屋に置き、それでも余れば予備にしておけばいい。


最後に、この前作った五冊の攻略本を置く棚も欲しい。


「これはカラーボックスでいいか」


俺は買い物リストの最後に、カラーボックスと書き加えた。


俺は長いこと張りっぱなしにしていたテントを片付けることにした。寝袋や細かい荷物もまとめ、何度か往復しながら新しくできた倉庫兼住宅へ運び込んでいく。


これでようやく、あのテント暮らしも終わりだ。


最後の荷物を抱えて広場の前を通ると、炊事場ではカナさんと何人かの女性たちが朝飯を作っていた。鍋から湯気が上がり、いつものように朝の支度が始まっている。


「カナさん、おはよう」


「おはよう、ユウマ」


「今日も朝からご苦労さん」


軽く挨拶を交わして、そのまま倉庫へ向かった。


倉庫の観音開きの扉を開けて中へ入り、持ってきた荷物を壁際に置く。まだ中はかなり余裕があるので、テント一式を置いてもほとんど場所を取らなかった。


俺はそのまま倉庫と自分の部屋を仕切っている壁の前まで行った。


「現在に戻りたい」


そう念じると、目の前にブラックホールが現れた。


これなら今後、現代から持ってきた荷物をそのまま倉庫へ入れられる。わざわざテントまで運び、そこからさらに広場へ運ぶ必要もなくなるのでかなり楽になった。


俺はブラックホールを抜け、現在のガレージハウスへ戻った。


そのまま車に乗り込み、ホームセンターへ向かう。


沖縄市へ引っ越してからは、以前通っていた店とは違うホームセンターを使うようになった。まだ店内の配置までは完全に頭に入っていないが、必要な物を探すくらいなら問題ない。


駐車場に車を停め、買い物リストを確認してから店内へ入った。


今回は家造りの材料や村人に配る道具ではない。ほとんどが自分のための買い物だ。


「なんかちょっと楽しいな」


新しい部屋に何を置こうか考えながら商品を見て回るのは、いつもの資材集めとは全然違った。


まず向かったのはアウトドア用品の売り場だ。


クーラーボックスはどうせなら大きい方がいい。飲み物だけでなく肉や魚も入れられるし、祭りや宴会をする時にも使える。


いくつか見比べ、コールマンの大型ホイールクーラーを選んだ。かなり容量があるうえ、底には車輪まで付いている。持ち手を伸ばせば、そのまま転がして運べるタイプだ。


「これなら部屋から広場まで運ぶのも楽だな」


中いっぱいに飲み物を入れればかなり重くなるが、車輪付きなら一人でも問題ない。


次はベッドだ。


寝る物だけはあまり妥協したくないので、マットレスは少し厚めでしっかりした物を選んだ。横向きにすればブラックホールの入口も通せる大きさだ。


ベッドの枠は当然、組み立て式。箱の状態なら問題なく持ち込めるし、向こうで組み立てればいい。


「これでようやく地面に近いところで寝なくて済むな」


テント生活も嫌いではなかったが、毎日となれば話は別だ。


続いて照明売り場へ向かう。


ソーラー充電式のLEDランタンを探し、その中でも防水性があって多少落としても壊れにくそうな丈夫な物を選んだ。


今回は一個ではない。


村の各世帯に配る分も含めて、まとめて二十五個購入することにした。


これなら夜になっても家の中で明かりが使える。火を使う灯りと違って、倒して火事になる心配がほとんどないのも大きい。


その次はカセットコンロ。


部屋で湯を沸かしたり、簡単な料理を作ったりするくらいならこれで十分だ。替えのカセットガス三本セットも一緒に入れる。


最後にテーブルと椅子を探した。


最初は普通のテーブルと椅子を買うつもりだったが、売り場を見ているうちにちょうどいい物を見つけた。


公園や庭なんかによく置いてある、テーブルの左右に長椅子がくっついた木製のピクニックテーブルだ。


「これ一個でいいな」


食事も出来るし、攻略本を広げて調べ物も出来る。誰かが部屋に来ても、そのまま向かい合って座れる。


しかも組み立て式なので、天板と長椅子、脚の部分まで分解出来る。これならブラックホールを通すのも問題ない。


四メートル四方の部屋なら、ベッドを置いても十分収まりそうだった。


俺はそのままピクニックテーブルを一台、買い物に追加した。


残っているのは、攻略本を置くためのカラーボックスだけだった。


売り場を探して三段のカラーボックスを一つカートに載せたところで、俺はふと気づいた。


「……寝具買ってないな」


ベッドとマットレスだけ買って満足していたが、シーツも枕も掛け布団もない。


「危ない危ない」


そのまま寝具売り場へ向かい、シングル用の寝具セットも一式追加した。


これで必要な物は全部揃った。


俺はレジへ向かって会計を済ませ、そのままガレージハウスへ戻った。シャッターを閉めると、買ってきた物を何度かに分けてブラックホールの向こうへ運び、全部倉庫の中へ入れていく。


最後の荷物を置くと、俺は財布からレシートを取り出した。


「今日も結構買ったな……」


一つずつ金額を確認していく。


コールマンの大型ホイールクーラー、27,280円。


組み立て式ベッドフレーム、12,800円。


厚めのシングルマットレス、14,800円。


丈夫なソーラー充電式LEDランタン、1個4,980円を25個で124,500円。


カセットコンロ、3,058円。


カセットガス3本セット、767円。


木製の組み立て式ピクニックテーブル、19,800円。


三段カラーボックス、1,958円。


寝具6点セット、6,980円。


合計、211,943円。


「やっぱりランタンが結構するな」


二十五個も買えば、それだけで十二万円を超える。ただ、村では壊れても簡単に買い替えられない。多少高くても、丈夫な物を選んだ方がいいだろう。


前の残金は4,406,790円。


4,406,790円 − 211,943円 = 4,194,847円。


残金、4,194,847円。


俺はレシートを折りたたんで財布へ戻した。


俺は倉庫に運び込んだ荷物を一通り確認すると、まずベッドから組み立てることにした。


箱を開けて部品を並べ、説明書を見ながらフレームを組んでいく。向こうへ持ち込むことを考えて組み立て式を選んだだけあって、構造自体はそれほど複雑ではない。脚を取り付け、フレームを固定し、その上にマットレスを載せる。


最後に寝具を広げ、枕を置いた。


「おお……」


それだけで、さっきまで何もなかった部屋が一気に生活する場所らしく見えてくる。


今までずっとテントと寝袋だったことを考えると、ちゃんとしたベッドがあるだけでもかなり違う。これからは雨の音を気にしながらテントで寝る必要もないし、地面の湿気を感じることもない。


次は木製のピクニックテーブルだ。


箱から天板、左右の長椅子、脚の部品を取り出して床に並べる。公園や庭によく置いてある、テーブルの両側に長椅子がくっついた一体型のやつだ。


脚を組み、天板を固定し、最後に左右の長椅子を取り付ける。


組み上がった物を部屋の中央寄りに置いてみると、思っていた以上にしっくりきた。


「これいいな」


一人で飯を食うには十分すぎるし、攻略本を何冊か広げても余裕がある。誰かが来ても向かい側に座れるし、ちょっとした作業台としても使える。


四メートル四方の部屋なので、ベッドとピクニックテーブルを置いてもまだ歩けるだけの空間は十分残っていた。


最後に三段のカラーボックスを組み立てる。


板を順番に合わせ、ネジで固定していく。出来上がったカラーボックスは壁際に置き、あとで五冊の攻略本を並べる場所にすることにした。


一通り組み終え、俺は部屋の真ん中に立って見回した。


壁際にはベッド。


中央には木製のピクニックテーブル。


その横にはカラーボックス。


隅には壁で囲った洋式トイレがある。


さらに大きなクーラーボックスとLEDランタンも置いてある。


「うん。少しは部屋らしくなったな」


さっきまで床と壁しかなかった殺風景な空間が、ようやく自分の部屋らしくなってきた。


豪華な物は何もない。


それでも、寝る場所があって、座って飯を食える場所があって、物を置く棚があって、トイレまである。


1600年の塩屋で暮らす部屋として考えれば、俺にはこれで十分すぎるくらいだった。


俺はピクニックテーブルの上にカセットコンロを置き、ガスボンベをセットする。


カチッとつまみを回すと青い火が点いた。


その上に小さなやかんを置いて湯を沸かす。


しばらくすると湯気が上がり始めた。


俺はコーヒーを淹れ、長椅子に腰掛ける。


「ふぅ……」


一口飲んでから煙草に火を点け、ゆっくり煙を吐いた。


改めて部屋の中を見回す。


新しいベッド。


大きな木のテーブル。


壁際の棚。


トイレ。


倉庫へ続く扉。


何より、自分だけの空間だ。


外へ出れば、いつもの村がある。


だが、この壁一枚の内側だけは、少しだけ現代の生活に近い。


俺はコーヒーをもう一口飲んだ。


「これなら問題ないな」


そう呟きながら、しばらく新しく出来た自分の部屋を眺めていた。


読んでいただきありがとうございます。

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