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ブラックホールの向こうは400年前の沖縄でした〜現代の道具と知識で始める琉球王国改革〜  作者: gere


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第32話 1600年2月28日

朝。


俺は目を覚ますと、いつも通り湯を沸かした。コーヒーを淹れ、まだ静かな村を眺めながら一服する。煙を吐きながら、今日の段取りを頭の中で整理していく。


昨日で5軒目の家が完成した。その家を誰が使うかについては、漁師と猟師の中で話し合ってもらい、まずシルーが入ることに決まった。その次がウミトゥ、カナグシ、サブロウの順だ。今建てている並びが全部完成すれば、広場の片側の家造りはいったん終了になる。


今日も6軒目の資材を8人に渡して、そのまま建築を進めてもらうつもりだった。


だが、そこで俺は気づいた。


「……もう資材ないな」


家1軒分を作るための木材や金具は、昨日まででほとんど使い切っている。どうしようかと考えたが、考えるまでもなかった。


確か2026年の時間は、1月2日の夜8時30分くらいだったはずだ。


もうホームセンターは閉まっている。つまり、次の資材を買うためには、現代側の時間を進めるしかない。


俺は残っていたコーヒーを飲み干し、煙草の火を消した。


「仕方ないな」


今日はまず、現在の時間を進めることにしよう。


そう決めた俺はテントへ戻り、そのままアパートへ戻った。


1600年ではまだ朝飯前の時間に起きたばかりだったので、現代へ戻ってきても当然眠くはない。それより腹が減っていた。


最近は朝も夜も雑炊ばかり食べている。村の食事は以前よりかなり良くなってきたとはいえ、毎日続けばさすがに違う物が食べたくなる。


急にジャンクフードが食べたくなった。


「マック行くか」


どうせ朝まで時間はたっぷりある。俺は車に乗り込み、ドライブがてら那覇から宜野湾のコンベンションセンター近くのマクドナルドへ向かった。


夜の街を走りながら、流れていく景色を眺める。


信号、街灯、コンビニ、マンション、車の列。ついさっきまでいた1600年の塩屋村とは何もかもが違う。同じ沖縄にいるはずなのに、400年以上離れた世界を行き来しているせいか、見慣れているはずの街並みに妙な違和感があった。


程なくしてマクドナルドへ到着した。


店に入り、倍ビッグマックセットをコーラで注文する。値段は1,030円。


席に着き、トレーの上を見た瞬間、それだけで少しテンションが上がった。


まずポテトをつまむ。


表面はカリッと揚がり、中はほくっと柔らかい。熱いうちに噛めば塩気と油の味が一気に広がる。ここ最近、米と野菜中心の食事ばかりだったせいか、この単純な塩と油の味がやたらとうまい。


続いてコーラを一口飲む。


冷たさと強い炭酸が喉を一気に刺激する。甘さが口の中に広がり、油っぽくなった口の中を炭酸が洗い流していく。


「これだよ、これ」


そして倍ビッグマックにかぶりついた。


柔らかいバンズの間から肉の味が一気に押し寄せ、その後からチーズ、レタス、ピクルス、ソースの酸味と甘みが重なる。パティが増えている分、普通のビッグマックより肉の存在感が強い。


1600年では絶対に食べられない味だ。


肉、チーズ、ソース、パン。それぞれがどうこうというより、全部をまとめて口に入れた瞬間に完成する味だった。


「現代文明、最高だな」


俺は久しぶりのジャンクフードをじっくり味わい、ポテトまできれいに食べ切った。


食べ終わると、コーラを飲みながらこれからどうするか考える。


朝になってホームセンターが開くまでには、まだ相当時間が残っている。1600年では起きたばかりなので、眠気もまったくない。


このままアパートで時間を潰すのももったいない。


「とりあえず、持ち込めそうな物でも見て回るか」


近くのドン・キホーテへ向かうことにした。


車を走らせながら、ふと思い出した。


そういえば、村のみんなに月に1回くらい祭りをやろうと話していたのに、まだ1度もやっていない。


「ちょうどいい。祭りの物も買っておくか」


ドン・キホーテに着くと、俺はカートを押して店内へ入った。


まずは酒だ。


泡盛1.8L紙パックを20本カートへ入れる。酒が飲めない人もいるので、レモンティーの2Lボトルも20本。


それだけでカートの上下がほとんど埋まってしまった。


「さすがに乗らんな」


いったん会計を済ませ、買った物を車の荷台へ押し込む。


そして再び店内へ戻り、2回目の買い物を始めた。


祭りの日くらいは、1人1枚くらいチキンを食べさせてやりたい。


冷凍チキン2kg入りを6パック。合計12kg。


味付け用に塩胡椒を2個。紙皿20枚入りを3個、割り箸100本入りを1個。


コップについては、その日だけ使って捨てる物にする必要はない。今後も村で毎日使えるように、丈夫なメラミン製のコップを50個揃えた。


さらに食後のおやつとして、ポテトチップスを50袋。


またカートの上下がいっぱいになった。


「これも結構な量だな」


2回目の会計を済ませ、再び全部を車の荷台へ積み込む。


これで終わりだと思って運転席へ戻りかけたところで、俺は立ち止まった。


「……俺のビール忘れてた」


村人用の酒ばかり考えて、自分用のビールを完全に忘れていた。


もう1度店内へ戻り、オリオンビールの350ml缶6本パックを2個買った。それからチキンを焼くために、大型のキャンプ用バーベキュー台、コールマンの「クールスパイダープロ/L」も1台購入した。


今度こそ買い物は終わりだ。


荷台には泡盛、レモンティー、冷凍チキン、食器類、ポテトチップス、オリオンビール、それにクールスパイダープロ/Lまで積まれている。


俺は運転席に乗り込み、そのままアパートへ帰った。


駐車場に着いて荷台を見た瞬間、少しうんざりした。


「……これ全部、部屋まで運ぶのか」


買っている時はそれほど気にならなかったが、改めて見るとかなりの量だ。何往復もしながら泡盛やレモンティー、冷凍チキン、コップ、ポテトチップス、それにバーベキュー台までアパートへ運び込む。


最後の荷物を部屋へ入れた頃には、床の一角が完全に商品置き場になっていた。


「多すぎだろ」


俺は買い物袋の中からレシートを取り出し、テーブルの上に並べた。


倍ビッグマックセット1,030円。泡盛1.8L紙パック20本で31,540円。レモンティー2Lを20本で3,360円。冷凍チキン2kgを6パックで10,680円。塩胡椒2個で596円。紙皿20枚入り3個で594円。割り箸100本入り1個で398円。メラミン製コップ50個で5,500円。ポテトチップス50袋で6,900円。オリオンビール6本パック2個で2,748円。クールスパイダープロ/Lが15,950円。


合計79,296円。


「結構使ったな」


前の残金は1,960,157円だった。


そこから79,296円を引く。


残りは1,880,861円。


俺は金額を確認すると、レシートをまとめてしまった。


ホームセンターが開く朝までは、まだ時間がある。


さすがにやることもなくなってきたので、Netflixをつけて映画を1本見ることにした。


ソファに座り、適当に選んだ映画を流す。


最初のうちは普通に見ていたのだが、いつの間にか目が重くなってきた。1600年では起きたばかりだったはずなのに、夜の街を走り回り、大量の買い物をして何度も荷物を運んだせいか、さすがに疲れたらしい。


映画がどこまで進んだのかも分からないまま、俺はそのまま寝落ちした。


次に目を開けた時には、部屋の中が明るくなっていた。


朝になっていた。


俺は顔を洗い、すぐにホームセンターへ向かった。


今日必要なのは6軒目の家1軒分の資材だ。柱や梁に使う木材、基礎材、金具、ボルト、釘、防腐剤など、これまでと同じ物を一通り買い込む。


会計を済ませてアパートへ戻ると、またしても目の前に大量の荷物が積み上がった。


「……またこれか」


昨日の祭り用品だけでもかなりの量だったのに、今度は家1軒分の建築資材だ。


さすがに部屋へ運び込んでから、また1600年へ持っていく気にはならない。


俺はそのまま荷物を置かず、買ってきた資材を次々と1600年へ運び込むことにした。


木材、金具、基礎材、工具類。


持てるだけ持ってブラックホールを抜け、置いたらすぐ現代へ戻る。


それを何度も繰り返した。


「何往復したんだ……」


数えるのも途中でやめたが、10往復以上はしたと思う。


ようやく最後の資材を運び終えた頃には、建築予定地の脇に6軒目の家1軒分の材料がきれいに積み上がっていた。


俺は一息つくと、タルガニを含めた家建設の8人を呼び集めた。


「今日もこの資材で6軒目を進めてくれ」


8人が積まれた材料を確認する。


「それと今日は、いつもと少し違う」


タルガニが俺を見る。


「何かあるのか?」


「ああ。朝飯を食ったあと昼過ぎまで仕事して、その後は祭りにする」


一瞬、8人の動きが止まった。


「祭り?」


「前に月に1回くらいやるって言っただろ。まだ1回もやってなかったからな」


俺は笑った。


「今日はご馳走も酒も準備してる」


その言葉を聞いた瞬間、8人の表情が一気に明るくなった。


ちょうど近くにいた子供たちにも聞こえたらしい。


「祭りだって!」


「ご馳走あるの!?」


「酒もあるって!」


一斉に騒ぎ始め、その声を聞いた別の子供たちまで集まってくる。


俺はその様子を見ながらタルガニに言った。


「村のみんなにも伝えておいてくれ。朝飯のあとから昼過ぎまでは仕事。その後は全員広場に集合だ」


タルガニは嬉しそうに頷いた。


「ああ、すぐ伝える」


8人もいつもより明らかに機嫌がいい。


その横では、祭りという言葉だけで興奮した子供たちが、まだ騒ぎ続けていた。


読んでいただきありがとうございます。

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