第31話 1600年2月25日
1軒目の家が完成してから、10日が経った。
あれから家造りは順調に進んでいる。俺が必要な材料だけ現代から持ち込み、シルー、カナグシ、マチュー、ウミトゥ、サブロウ、タルー、グシー、カマルーの8人に建築を任せたところ、だいたい3日に1軒のペースで仕上げられるようになった。
途中、1日だけ雨でほとんど作業ができない日もあったが、それでも10日間で3軒が完成した。最初に建てたカマルーの家と合わせて4軒。これで嫁を迎える予定のカマルー、グシー、マチュー、タルーの4人全員に新しい家ができたことになる。
嫁たちが村へ来るのはまだ少し先だが、4人ともすでに元の家から荷物を移し、それぞれ新居で暮らし始めている。
俺はこの10日間を振り返った。
まず家造りでは、残り3軒分の材料を現代から追加で運び込んだ。1軒分の消耗材料費が107,905円なので、3軒分で323,715円。竹や茅は村で用意できるため、現代から買ってくるのは柱や梁に使う木材、基礎材、金具、ボルト、釘、防腐剤などが中心だ。
8人が家を建てている間、俺はほとんど家造りには手を出さず、別の作業を進めていた。
村人たちのトイレ事情を改めて確認したところ、これから家を広場の周りへ集めていくなら、共同で使える便所があった方がいいと考えたからだ。
そこで広場から少し離れた場所を選び、共同トイレを4基作ることにした。
1基は1m四方ほどの小さな造りで、家と同じように土台をしっかり組み、床を地面より高くする。壁は竹、屋根は茅葺き。床には穴を開け、その真下に便を受ける容器を置く単純な汲み取り式だ。
家に比べれば小さいので、作業そのものは難しくない。
俺はまず4基分の位置を決め、基礎を揃えて土台を組んだ。その上に柱を立て、梁を渡し、床板を張って穴を開ける。そこまでできれば、あとは竹で壁を囲み、屋根に茅を葺くだけだ。
向こうでは8人が新しい家を建て、その少し離れたところでは俺が便所を作っている。
途中、家造りの方から何か聞かれれば様子を見に行くが、基本的にはもう8人だけで進められていた。俺は俺でトイレ4基を順番に仕上げていく。
1基分の材料費が16,904円。4基で67,616円。
集めた便は捨てずに、村で作る堆肥の材料として使うことにした。便受けがいっぱいになる前に村人が交代で回収し、堆肥を作る場所まで運ぶ。
さすがに容器を抱えて運ばせるのは大変なので、回収用として一輪車も1台追加で購入した。前に買ったものと同じ7,980円だった。
食料の方にも変化があった。
これまで現代から持ち込んでいたアメリカ産の米がとうとう底をついた。村では朝と夜の2回、毎日雑炊を作っている。朝に1kg、夜に3kg使うので、1日4kg。今後も継続して米が必要になるなら、そのたびに少量ずつ買うより、まとめて仕入れた方がいい。
そこで現代へ戻った際に米屋へ行き、業務用の国産米をまとめて購入した。
30kgで10,000円の米を4袋。
合計120kgで40,000円。
これで今の使用量なら、ちょうど30日分になる。
ただ、120kgもの米をこれまでのようにテントで保管するのはさすがに無理がある。そこで最初に完成したカマルーの家へ運び込んで、しばらく預かってもらうことにした。
「悪いけど、この米しばらくここで預かってくれ」
床の一角に積まれた4袋の米を見て、カマルーが目を丸くした。
「全部、米か?」
「ああ。村みんなで食べる分だから、勝手に食うなよ」
俺が笑いながら言うと、カマルーも笑って頷いた。
新しい家は床が地面から上がっているので、テントに置いておくより保管場所としても使いやすい。共同の倉庫を作るまでは、ここを一時的な米置き場にさせてもらう。
畑の方も順調だった。
2月15日から収穫を始めた小松菜は、大きくなった株から順番に抜いていき、1畝全部で約125斤採れた。
そのうち25斤は村で消費した。朝と夜の雑炊へフーチバーと一緒に入れるだけでも、以前とは随分見た目が変わった。
残りの100斤は近くの村へ持っていき、粟や黍と交換した。農作業組の中から交代で売り役を出したので、1人だけに負担が偏ることもない。
交換して持ち帰った粟や黍は、すぐに共同の食事へ回した。米だけだった雑炊に粟や黍が加わったことで、以前よりかなりボリュームが出ている。そこへ小松菜とフーチバー、それに鶏小屋から採れる卵まで入る。
最初の頃に食べていた薄い雑炊と比べれば、もう完全に別物だ。鶏肉は夜だけにしているので、朝はこれくらいでちょうどいい。
小松菜を収穫した場所もそのまま空けてはいない。抜いたところから順番に種を播き直しているので、このまま育てば、もう1度収穫できる。
家が増え、共同トイレができ、畑から野菜が採れ始め、近くの村との交換で粟や黍まで入ってくる。
10日前と比べても、村の暮らしはかなり変わった。
現代から持ち込んだ物の金額も整理しておく。
家3軒分が323,715円。
共同トイレ4基分が67,616円。
回収用の一輪車が7,980円。
業務用国産米120kgが40,000円。
合計439,311円。
前の残金が2,507,373円だったので、残りは2,068,062円になった。
この10日間、必要になるたびに現代へ戻り、ホームセンターや米屋へ何度も足を運んだ。
最後の買い物を終えた日、ホームセンターを出たのは閉店時間の20時だった。
アパートへ戻り、買ってきた物を置いて時計を見る。
2026年1月2日 20時30分。
それでも現代では、まだ1月2日の夜だった。
俺は回想から意識を戻し、今日の段取りを考えた。
そうしているうちに朝飯の時間になり、広場には村人たちがぞろぞろと集まり始めていた。俺も椀を受け取り、中を覗く。
以前とは明らかに違う。
米と粟や黍の雑炊に、フーチバーと小松菜、それに卵まで入っている。もちろん現代の食事と比べれば、まだまだ質素だ。それでも最初の頃に食べていた雑炊と比べれば、断然いい。
俺も朝飯を食べ終えると、畑へ向かうことにした。
その前に1度テントへ戻る。
畑ではカラシナもそろそろ収穫できる頃だ。俺は以前、現代へ戻った時にChatGPTで調べて書き留めておいたマル秘資料を取り出し、収穫方法を確認した。
カラシナは株ごと抜いてしまう必要はない。大きく育った外側の葉を根元近くから順番に採り、中心の若い葉を残しておけば、そこからまた新しい葉が伸びてくる。これなら1度で終わらず、何回も収穫できる。
俺は資料をしまい、シンガを連れてカラシナの畝へ向かった。
葉はかなり大きく育っていて、もう食べ始めても問題なさそうだ。
俺は1株の前にしゃがみ込み、外側の大きな葉を指さした。
「カラシナは全部抜かなくていい。こういう外側の大きい葉から採っていく」
シンガも隣にしゃがみ込む。
「真ん中は残すのか?」
「ああ。真ん中の小さい葉は残す。そうすればまた伸びてくるから、何回も採れる」
俺は外葉を1枚、根元近くから折り取って見せた。
「こんな感じだ。採りすぎず、外から順番に。琉球芋を掘り始める6月初め頃までは、採れる葉を順番に村で使っていこう」
ただし、全部を食べるわけではない。
畝の端まで歩き、育ちの良さそうな株を5株選んだ。
「この5株は採らずに残しておいてくれ」
「また種か?」
「そう。これは葉を採らずにそのまま育てる。暖かくなれば茎が伸びて花が咲く。そのあと実ができて、中に種ができる。実が茶色く乾いてきたら刈り取って、種を集める」
シンガは選んだ5株を見ながら頷いた。
「それをまた畑に播くんだな」
「ああ。そうすれば次からは俺が種を持ってこなくても、この村で増やせる」
俺は畝全体を見渡した。
これからは必要な分だけ外葉を採りながら食べ、中心を残して何度も収穫する。そして最後には種も取る。
ようやくこの畑も、食べるだけではなく次につなげる段階に入り始めていた。
俺はシンガと別れて広場へ戻った。
広場の片側には、ここ10日で完成した4軒の家が並んでいる。その一番端まで歩き、俺は次に作る場所を眺めた。
ここには共同炊事場を作る予定だった。
家のように床を高くする必要はない。地面のままで、柱を立て、その上に雨避けの茅葺き屋根を掛けるだけだ。4面とも壁は作らず、完全に開けた造りにする。
材料も、新しく買う必要はほとんどない。
家造りで余った木材と竹を使えば十分だった。
「ここが炊事場だな」
近くにいたタルガニが、俺の見ている場所を確認する。
「ああ。壁はいらない。柱と屋根だけでいい。雨さえしのげれば十分だ」
俺は地面におおよその位置を示した。
炊事場の中には、余った材木と竹で簡単な作業台を2つ作る。今まで広場に仮置きして使っていたロケットストーブもここへ移し、今度は動かさなくてもいいように本設置するつもりだ。
炊事場については、余り物と村で採れる竹や茅を使うため、追加の出費はなしで済む。
その横では、家造りの8人が次の作業を始める準備をしていた。
俺は今日使う1軒分の材料をまとめて渡した。
「今日はここから、次の家を建ててくれ」
シルーが炊事場の予定地の先を見る。
「こっちに続けるのか?」
「ああ。炊事場の横から、あと4軒並べる」
最初の4軒、その隣に共同炊事場、さらにその横に4軒。
これで広場の片側が形になる。
今日渡した1軒分の材料費は107,905円。
これまでの残金が2,068,062円だったので、
2,068,062円 − 107,905円 = 1,960,157円。
残金は1,960,157円になった。
俺は8人に、この先の配置も説明しておくことにした。
「炊事場の横に4軒建て終わったら、今度は向かい側だ」
俺は広場の反対側を指さした。
「あっちはウシマルの家を基準にする」
「俺の家か?」
少し離れたところにいたウシマルがこちらを見る。
「ああ。長老の家を真ん中にして、右に4軒、左に4軒並べる」
ウシマルは広場を見渡しながら頷いた。
「ずいぶん家が並ぶな」
「全部できたら、この辺の景色もかなり変わるよ」
俺は反対側の予定地を目で追った。
ウシマルの家を中心に左右4軒ずつ。その中の1軒は、俺自身の家にするつもりだ。
今はまだテント暮らしだが、村全体の家が揃ってきたら、俺もその中に自分の家を持つ。
「俺の家も、そっちに1軒入れるからな」
そう言うと、タルガニが少し笑った。
「やっと家に住むのか」
「村のみんなの家が先だ。俺は最後の方でいい」
配置はこれで決まった。
広場の片側は、4軒、共同炊事場、4軒。
向かい側はウシマルの家を中心に、右へ4軒、左へ4軒。
家造りが進むにつれ、ばらばらだった塩屋村の家々が、少しずつ新しい村の形へ変わり始めていた。
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