↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラックホールの向こうは400年前の沖縄でした〜現代の道具と知識で始める琉球王国改革〜  作者: gere


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/69

第3話 1600年1月1日 その3

昼飯を食べ終えた俺は、食後の一服をすることにした。

ポケットからタバコを取り出し、火をつける。

「ふぅ……」

白い煙を吐きながら、あらためて周囲を見回した。

静かだ。

あまりにも静かすぎる。

遠くで鳥の鳴き声が聞こえる程度で、人の話し声も、何かを叩く音も、家畜の鳴き声すら聞こえてこない。

俺はリュックを引き寄せ、中から双眼鏡を取り出した。

レンズ越しに周囲をゆっくりと見渡していく。

山の斜面。

木々の隙間。

遠くに見える海。

海岸線。

何度か場所を変えて確認してみるが、やはり人影らしいものは見つからなかった。

「誰もいないな……」

双眼鏡を下ろす。

今日中に無理して人を探す必要もない。

そもそも、ここが本当に1600年の沖縄なら、現代のように道路沿いを少し歩けばすぐ誰かに会える、なんてことは期待しない方がいいだろう。

「まあ、今日はいいか」

俺は双眼鏡をリュックに戻した。

それよりコーヒーだ。

小さな鍋に水を入れ、携帯コンロで湯を沸かす。

やがて湯気が立ち始める。

インスタントコーヒーをカップに入れ、湯を注ぐ。

香ばしい匂いが鼻に届いた。

「これだよ、これ」

俺は折り畳み式の簡易リクライニングチェアを広げ、深く腰を下ろした。

温かいコーヒーを少しずつ飲みながら、ぼんやり空を見る。

昨日まで正月だった。

酒を飲んだり、ダラダラしたり、夜更かししたり。

そのまま今日はいきなり山を歩き回っている。

しかもただの登山ではない。

1600年の沖縄だ。

緊張していないつもりでも、知らないうちにかなり神経を使っていたらしい。

コーヒーを飲み終えた頃には、まぶたが重くなってきた。

「ちょっとだけ寝るか……」

椅子に体を預ける。

風が木々を揺らす音が心地いい。

そのまま俺は、いつの間にか意識を手放していた。

――寒っ。

体を震わせながら目を覚ます。

「うわ……何時間寝てたんだ俺」

沖縄とはいえ、一月だ。

昼間はそれなりに暖かくても、夕方が近づけば山の上は一気に冷える。

俺は椅子から起き上がり、両腕をこする。

「焚き火だな」

周囲から乾いた枝や落ちている薪になりそうな木を拾い集める。

適当な石を並べ、その中央で火を起こした。

しばらくするとパチパチと音を立てながら火が大きくなっていく。

俺は焚き火の前にしゃがみ込み、両手をかざした。

「ふぅー……暖かい」

生き返る。

やっぱり火は偉大だ。

空を見ると、太陽もだいぶ傾いていた。

「そろそろ夕方か」

今のうちに夕飯を作ってしまおう。

今日はもう動かない。

明日から本格的に周辺を調べるつもりだ。

俺は食材を取り出した。

「キャンプといえば……カレーだろ」

異論は認めない。

鍋を用意し、適当に切った野菜と肉を次々放り込んでいく。

水を入れ、火にかける。

あとは待つだけだ。

焚き火の前で時々鍋をかき混ぜながら三十分ほど煮込む。

肉にも野菜にも十分火が通ったところで、カレールーを投入した。

ゆっくり混ぜると、見慣れた茶色いとろみが出てくる。

漂ってくる匂いだけで腹が減ってきた。

「完璧」

さて。

次は飯だ。

米を炊こうとして、ふと手を止める。

「……いや、待てよ」

炊く必要あるか?

俺は現代に戻れる。

しかも現代側では、ほとんど時間が進まない。

「レンチンご飯持ってくればいいじゃん」

文明最高。

俺はカレー鍋を火から下ろし、蓋をした。

それから立ち上がる。

心の中で念じた。

――現在に戻りたい。

次の瞬間。

目の前の空間が歪み、見慣れ始めた黒い穴が現れた。

「はいはい、毎度どうも」

もう三回目ともなると驚きもしない。

俺はそのままブラックホールの中へ入った。

視界が一瞬暗転する。

そして――

「戻った」

自分の部屋だ。

俺はすぐ時計を見る。

AM11時。

「やっぱり進んでない」

ほぼ出発した時のままだ。

1600年では昼飯を食って、休憩して、昼寝して、夕方近くまで過ごした。

少なくとも数時間は経っている。

なのに現代ではほとんど時間が進んでいない。

改めて考えると、とんでもない能力だ。

だが今は考察より飯。

キッチンへ行き、パックご飯を一つ取り出す。

電子レンジに放り込み、スイッチを押す。

数分後。

ピッ。

温まったパックご飯を手に取る。

戻る前にもう一度時計を見る。

AM11時03分。

「三分か」

俺はパックご飯を持ったまま、再び1600年へ戻った。

景色が切り替わる。

焚き火。

テント。

椅子。

そしてカレー鍋。

全部そのままだ。

「よし」

パックご飯を開けて皿に移す。

その上から、たっぷりカレーをよそう。

湯気と一緒にカレーの匂いが立ち上る。

俺はスプーンですくって一口食べた。

「うっま!」

思わず声が出た。

山を歩き回ったあとだからなのか。

焚き火の前だからなのか。

それとも1600年の沖縄で食っているという異常な状況のせいなのか。

理由は分からないが、とにかく美味い。

俺は完全に無言になって、がつがつ食べ続けた。

「やっぱカレー最強だな」

気がつけば皿は空になっていた。

食べ終わる頃には、太陽はほぼ沈んでいた。

空が藍色へ変わっていく。

俺はふと顔を上げた。

「……おお」

思わず声が漏れる。

星だ。

とんでもない数の星が出ていた。

現代なら街の明かりでほとんど消えてしまうような小さな星まで、はっきり見える。

周囲に人工の明かりが一つもない。

街灯もない。

車もない。

家の灯りもない。

空一面が星で埋まっている。

「すげえな……」

満天の星空。

本当にその言葉通りだった。

しばらく俺は焚き火の前に座ったまま、空を眺めていた。

だが、だんだん体が重くなってくる。

今日は山頂を目指してかなり歩いた。

背負っていた荷物も軽くはない。

知らない土地で周囲を警戒し続けてもいた。

思っていた以上に疲れていたようだ。

「今日はもう寝るか」

明日は周辺をもう少し詳しく調べる。

できれば人の住んでいる場所も見つけたい。

俺は焚き火を安全な状態まで小さくしてから、テントへ入った。

寝袋に潜り込む。

「明日からが本番だな……」

そう呟いたところまでは覚えている。

その数秒後。

俺は、まるで電源を切ったように眠りへ落ちた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。