↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラックホールの向こうは400年前の沖縄でした〜現代の道具と知識で始める琉球王国改革〜  作者: gere


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/67

第2話 1600年1月1日 その2


部屋に戻ってきた俺は、しばらくその場に立ったまま動けなかった。時計は9時20分。さっきと同じ時間。向こうでは三十分以上歩いていたのに、こっちでは時間が進んでいない。

「……なんなんだよ、これ」

ハッとして、ポケットから煙草を取り出す。火をつけて椅子に座り、ゆっくり煙を吐いた。目の前には、相変わらずブラックホールがある。

本当に1600年なのか。あそこは本当に沖縄なのか。俺はこれからどうすればいいのか。いろんな考えが頭の中をぐるぐる回る。

タイムスリップできる。現代にも戻れる。しかも、向こうで時間を使ってもこっちの時間はほとんど進まない。

「これから、どうしよう……」

煙草を吸いながら考えたけど、当然答えなんて出ない。こういう時は、やっぱりChatGPTか。ラップトップを開いて入力する。

ブラックホールで1600年に行けるようになった。現代にも自由に戻れるみたい。これから俺はどうしたらいい?

少しして回答が出た。

もし本当にその状況だと仮定するなら、まず無計画に歴史へ介入するより、情報収集と安全確保を優先した方がいいと思います。その前に、あなた自身の経歴や持っている知識・技能を教えてください。それによって、1600年で何ができるかが大きく変わります。

「俺のスペックか」

確かに、それはそうだ。俺はそのまま入力を続ける。

25歳。九州大学工学部の土木系卒。今は陸上自衛隊の施設科で働いてる。実務は3年くらい。測量、道路、橋、陣地構築、重機とかは一通りやってる。

送信する。少し待つと、また回答が表示された。

その経歴なら、1600年ではかなり役立つ可能性があります。特に土木と施設科の経験は、道路、橋、水路、建物、防御施設、測量など、当時の生活や社会基盤に直接関わる分野です。ただし、現代の知識を知っていることと、当時の材料や道具だけで実現できることは別です。まずは現地が本当に1600年のどこなのか確認し、その時代に使える材料、工具、人員、社会制度を把握するところから始めるのがいいでしょう。

「なるほどな……」

俺は煙草を灰皿に押し付けながら、画面を見つめた。まずは、あそこがどこなのか。そこからか。

「よし、とりあえずキャンプして現地把握から始めるか」

いきなり何かを変えようとしても仕方ない。まずは何日か向こうで過ごして、周囲を見て回る。その方がいい。となれば、必要なのはキャンプ道具だ。

「ホームセンター行くか」

そう思って立ち上がりかけたところで、ふと止まる。

「いや、その前に必要な物聞いとくか」

何も考えずに店へ行って、買い忘れがあっても面倒だ。俺はもう一度ラップトップの前に座り、ChatGPTに入力する。

3泊位のキャンプで必要な道具教えて

少しして回答が出た。

3泊くらいなら、まず「寝る・食べる・水・火・明かり・防寒」の6つを優先するといいです。最低限そろえるなら、テント、寝袋、マット、ランタンかヘッドライト、水、食料、簡単な調理器具、バーナー、ライター、着替え、防寒着、雨具、タオル、救急セット、ゴミ袋あたりです。

それに加えて、長く歩くならリュック、飲み水を運ぶ容器、モバイルバッテリー、ナイフかマルチツール、ロープ、軍手があると便利です。ただし今回は普通のキャンプではなく、1600年へ行く前提なので、現地で補給できない可能性があります。食料と水は少し多めにして、ライト、火起こし、救急用品は予備も持った方が安全です。

「普通のキャンプじゃない、か。まあそうだよな」

画面を見ながら、必要そうな物を頭の中で整理する。テント、寝袋、マット、水、食料、バーナー、ライト、救急セット。雨具にロープ、軍手。

三泊なら、このくらいあれば何とかなるだろう。

「よし、買いに行くか」

俺はラップトップを閉じ、財布と車の鍵を持って部屋を出た。今度は本当にホームセンターへ向かう。

車に乗り込み、少し急ぎ気味に走らせる。頭の中には、さっきChatGPTに出してもらった必要品が残っていた。

「テント、寝袋、マット、水、食料……あとライトと救急セットか」

店に着くと、カートを押しながら必要な物を次々入れていく。一人用のテント。寝袋。マット。小型のバーナーとガス。簡単な調理器具。ランタンとヘッドライト。水を入れる容器に、三日分より少し多めの飲料水。

保存のきく食料、防寒着、雨具、タオル、救急セット、ゴミ袋。さらにリュック、モバイルバッテリー、マルチツール、ナタ、ロープ、軍手も入れる。

「こんなもんか」

カートの中を一度見直す。普通に三泊するだけなら十分だと思う。でも行く先は、本当に1600年かもしれない場所だ。足りないよりはマシだ。

そう思って、そのまま会計へ向かった。商品を一つずつレジに通していく。テント、寝袋、食料、細かい道具。

最後の商品が読み取られ、金額が表示された。

58,740円。

「まあ、こんなもんか」

もっと高くなるかと思っていたけど、これならまだいい。俺はそのまま会計を済ませ、大量の荷物をカートに載せて店を出た。

ホームセンターを出たところで、ふと思った。

「そういや、今いくら残ってるんだ?」

これから向こうで何をするにしても、結局は現代で金がかかる。キャンプ道具だけで終わるとも思えない。

「とりあえず残高見とくか」

俺は近くのATMに寄った。カードを入れて、残高照会を押す。画面に数字が表示される。

3,673,891円。

「367万か……」

さっきのホームセンターで使ったのが58,740円。買い物前は3,732,631円あったことになる。

「まあ、今すぐ困る金額じゃないけど……」

画面を見ながら考える。この先、1600年で何かやろうとすれば、道具もいる。食料もいる。場合によってはもっと大きな物も必要になるかもしれない。無限に金があるわけじゃない。

「使った金もちゃんと見といた方がいいな」

俺は残高を頭に入れて、カードを抜いた。そのまま急いでアパートへ戻る。駐車場に車を停め、買ってきた荷物を抱えて部屋へ向かう。玄関を開ける。

「……やっぱりあるな」

ドアの横。そこには、朝から何度も見たブラックホールが、変わらず存在していた。真っ黒で、光を吸い込んでいるようにも見える。部屋にある物の中で、あれだけが明らかにおかしい。

見慣れてきたはずなのに、近くで見るとやっぱり不気味だ。何も音を立てず、何も動かず、それでも強烈な存在感を放っている。俺は買い物袋を床に置き、しばらくその黒い穴を見つめた。

「よし、行くか」

まずは服を着替える。クローゼットを開け、本職で使っている迷彩服に着替えた。足元も普段履いている靴じゃなく、ブーツに履き替える。

買ってきたキャンプ道具をリュックに詰め、最後に双眼鏡も押し込んだ。

「これもあった方がいいな」

準備を終えたところで時計を見る。

AM11時ちょうど。

「11時、覚えとこ」

俺はブラックホールの中へ入る。黒い空間の中には、相変わらず一枚だけ静止画が浮かんでいる。

1600/01/01

その静止画へ手を伸ばした。指先が触れる。

パッ。

視界が切り替わった。次の瞬間、俺はさっきまでいた海岸線に立っていた。

「戻ってきたな」

波の音。海から吹いてくる風。周囲の景色もさっきと変わっていない。俺はゆっくり辺りを見回す。右。左。後ろ。

人影はない。念のため少し待ってみたが、誰かが近づいてくる気配もなかった。

「誰もいないな」

俺は海岸から少し内陸側へ目を向ける。少し離れたところに山が見えた。

「とりあえず、あの山の上まで行って周りを見てみるか」

双眼鏡もある。まずは高いところから、この場所がどんな所なのか確認する。

俺は右手に、ホームセンターで買ったばかりのナタを持って森の中へ入っていった。最初のうちはまだ歩けたけど、少し進むと草や枝が邪魔になってくる。

「これは結構きついな……」

ナタを振り下ろし、目の前の枝や草を切りながら少しずつ前へ進む。自衛官になってから行軍なら何度もやっている。でも、先頭でナタを振り回しながら道のない森を切り開いて進んだことなんて、さすがにない。

「こんな行軍はやったことないぞ」

一人で苦笑しながら、またナタを振る。しばらく進んでいると、途中で何度か見たことのない花が目に入った。赤い花。黄色い花。小さな白い花。

「これ、なんて花だ?」

当然分からない。俺はスマホを取り出して写真を撮った。通信はできないけど、写真なら残せる。

「帰ってから調べればいいか」

気になる植物を見つけるたびに何枚か写真を撮り、そのまま山を登り続ける。思った以上に時間がかかった。途中で何度か休みながら、およそ二時間。

ようやく木々が少なくなり、視界が開けてきた。

「はぁ……やっと着いた」

山の上までたどり着いた。さすがに疲れた。適当な場所に腰を下ろし、ポケットから煙草を取り出す。ライターで火をつけ、大きく煙を吸い込んだ。

「ふぅ……」

うまい。煙草を吸いながら、改めて周囲を見渡す。

海が広がっている。その手前には、大きく入り込んだ湾。さらに遠くを見ると、半島のように海へ突き出した陸地と、その向こうに島らしきものも見える。

「……ん?」

俺は煙草をくわえたまま立ち上がった。どこかで見たような地形だ。双眼鏡を取り出して、湾の形をじっくり見る。

「もしかして……ここ、塩屋湾か?」

もちろん確証はない。でも、なんとなく見覚えがある。

「写真撮っとこう」

俺はスマホを取り出した。湾。半島。島。山の位置。海岸線。あとで現代の地図と比べられるように、向きを変えながら何枚も撮る。

「これだけあれば分かるだろ」

一通り撮影を終え、スマホをポケットに戻した。まず現代に戻って、写真を調べる。俺は心の中で念じた。

現在に帰りたい。

すぐ目の前の空間に、あの真っ黒なブラックホールが現れた。

「ほんと便利だな、これ」

俺は迷わず中へ入る。パッと視界が変わった。次の瞬間には、自分の部屋だった。

「戻った」

床を見て慌てる。

「やば」

ブーツが泥だらけだ。玄関で急いでブーツを脱ぎ、そのまま時計を見る。

AM11時00分。

「…………」

もう一度見る。やっぱり11時ちょうど。

「二時間以上いたんだけどな……」

山まで登って、煙草を吸って、写真まで撮った。それでも現代では、一秒も進んでいない。

俺は時計を見ながら、思わず笑った。

「これ、マジで時間いくらでも使えるじゃん」

俺は早速ラップトップを開き、さっき現地で撮った写真を順番にアップしていった。途中で見つけた花の写真。山の上から撮った湾。遠くに見えた半島。その先に見えた島。

全部アップしてから、ChatGPTに入力する。

この写真をみてどこだと思う?

少しして回答が出た。

写真だけで断定はできませんが、地形を見る限り沖縄本島北部の大宜味村周辺にかなり似ています。特に大きく入り込んだ湾の形から、塩屋湾の可能性があります。ただし、写真の撮影方向や位置が分からないので、これだけでは確定できません。現在の地図や航空写真と、湾の形、半島、島の位置関係を照合すれば、さらに絞り込めると思います。

「やっぱり塩屋湾っぽいのか……」

俺は画面に表示された文字を見ながら、もう一度写真を開いた。湾の形。その向こうの陸地。遠くに見える島。

「だったら、場所はかなり絞れるな」

それに、ブラックホールの中に表示されていた日付は、1600/01/01だった。わざわざあそこに嘘の日付を表示する意味もない。

「まあ、1600年の沖縄ってことで考えていいよな」

そうなると、次に気になることが出てきた。人だ。さっき二時間以上山の中を歩いたのに、誰にも会わなかった。

「この頃って、沖縄に何人くらいいたんだ?」

俺はChatGPTに入力する。

1600年の沖縄の人口はどれくらい?

大宜味の塩屋にはどれくらいの人が住んでる?

少しして回答が表示された。

1600年ちょうどの正確な人口統計は残っていません。ただ、1600年前後の琉球王国全体では、およそ10万人前後だった可能性があります。

大宜味の塩屋についても1600年時点の正確な人口は分かりません。物語上の目安として考えるなら、数十戸、100〜300人程度の小さな集落と考えると大きく不自然ではありません。正確な人数として断定するより、「数百人もいない小さな集落」と考えておく方がいいでしょう。

「10万人くらいか……」

今の沖縄とは全然違う。しかも塩屋が100人とか200人くらいの集落なら、山の中を二時間歩いて誰にも会わなかったのも別におかしくない。

「なるほどな」

俺は椅子にもたれながら少し考えた。でも、とりあえず場所についてはかなり分かった。

「よし、戻ってキャンプ再開だな」

俺は床に置いていた泥まみれのブーツをもう一度履いた。

「まあ、向こうでまた汚れるしな」

リュックを背負い直し、そのままブラックホールの前に立つ。中へ入る。黒い空間の中に浮かんでいるのは、相変わらず一枚の静止画。

1600/01/01

俺はその静止画に手を伸ばした。

パッ。

視界が切り替わる。次の瞬間、俺はさっきまでいた山の頂上に戻っていた。足元の地面も、周囲の木々も変わっていない。

「ちゃんとここに戻れるんだな」

一度現代へ帰ったのに、また同じ場所に戻ってこられる。それだけでも、このブラックホールがどれだけ便利なのか分かる。

まずは今日の拠点を作る。リュックを下ろして、買ったばかりのテントを取り出した。説明書を確認しながら支柱を組み、地面に広げていく。

多少手間取ったけど、しばらくすると一人用の小さなテントが形になった。

「よし、こんなもんか」

中にマットと寝袋も入れておく。これで、とりあえず夜になっても休める場所はできた。

準備が一段落したところで、急に腹が減っていることに気づいた。

「腹減ったな……」

朝からブラックホールだの1600年だのと訳の分からないことばかりで、まともに飯を食っていない。リュックからバーナーと鍋を取り出す。

水を入れて火にかける。しばらくすると、鍋の中で湯が沸き始めた。

「簡単なのでいいか」

袋麺を取り出して鍋に入れる。そのままだと寂しいので、持ってきた野菜を適当に切って放り込み、最後に卵を一個落とした。

特別な料理じゃない。ただの袋麺に、野菜と卵を入れただけだ。でも、山の上で湯気を上げるラーメンを見ていると、それだけで妙にうまそうに見える。

「いただきます」

俺はその場に座り、箸を手に取った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。