第26話 1600年2月11日
朝。
俺は湯を沸かしてコーヒーを淹れ、いつものように一服する。
まだ村が本格的に動き出す前の静かな時間だ。
コーヒーを飲みながら、昨日ウシマルに話したことを頭の中でもう一度整理する。
昨日、俺はウシマルの家へ行き、これからこの村をどうしていきたいのかを一通り話した。
今までのように、それぞれの家が自分たちの畑を耕し、自分たちで食べ物を確保して暮らすやり方ではなく、村全体を一つの共同体として動かしていく。
かなり大きな変更になるので、さすがにウシマルの許可なしで勝手に進めるわけにはいかない。
だがウシマルは俺の話を最後まで聞いたあと、村が今より良くなるのであればよろしくお願いすると言ってくれた。
これで大胆に改革できる。
もちろん、こんなことができるのも俺が現代の知識を持っていて、必要な物資を現代から持ってこられるからだ。
とりあえず、この村を強くしていこう。
コーヒーを飲み終えて広場へ向かう。
昨日のうちにタルガニへ、朝になったら村のみんなを広場へ集めてほしいと頼んであった。
しばらくすると、家々から村人たちがポツポツと集まり始めた。
男たちだけではない。女たちも子供たちも集まってくる。
今日話すことは、一部の人間だけではなく村全員の生活に関わることだ。
やがて全員が揃った。
俺はウシマルとタルガニに自分の横へ来てもらった。
いきなり俺一人が村の仕組みを全部変えると言い出せば、いくら今まで俺のやることを受け入れてくれていた村人たちでも不安になるだろう。
そこで最初に、これから話すことについては昨日のうちにウシマルへ説明し、すでに了承を得ていることを伝えた。
横に立つウシマルが静かに頷く。
それを見て、村人たちもひとまず話を聞く雰囲気になった。
俺が最初に発表したのは家のことだった。
村にある家を、これから全部新しく建て替える。
その話をした瞬間、集まっていた村人たちの間にざわめきが広がった。
無理もない。
一軒だけではない。
全部だ。
今ある家を少し直すという話でもない。
新しい家を一軒ずつ建てていく。
まず優先するのは、今回嫁を迎える四人だ。
グシー、カマルー、マチュー、タルー。
四人の新しい家から建築を始め、その後、順番に残りの世帯の家も建て替えていく。
最終的には、この村にある家をすべて新しい家にする。
ただし、今建っている場所へそのまま建て直すわけではない。
現在の村は家があちこちに散らばっている。
それをやめる。
この広場を村の中心として、その周囲に新しい家をまとめて建てていく。
家と家が近くなれば何かあった時にもすぐ助け合えるし、これから作る共同施設も使いやすくなる。
家の話が一段落したところで、次は畑について説明した。
今後は各家庭がそれぞれ小さな畑を持ち、自分たちが食べる物を自分たちだけで作るやり方をやめる。
現在作っている村の畑をさらに広げ、これからは村全体で大きな畑を作る。
個人の畑については、今育っている作物を捨てる必要はない。
今ある物を収穫したところから順番に使わなくしていけばいい。
この話をした時には、さすがに何人かが少し不満そうな顔をした。
今まで自分の家族が食べる物は、自分の畑で作ってきたんだから当然だろう。
だが、村の畑はすでにみんなが見ている。
大勢でまとめて開墾して、大きな畑でまとめて作った方が、一軒一軒が小さな畑を耕すより多く作れる。
実際に第一畑ができ、今は第二畑まで広げている。
個人で作るより村全体で作った方が、最終的に自分たちが食べられる量も多くなると説明すると、不満そうだった者たちも次第に納得したようだった。
そして、ここからが一番大きく変わるところだ。
これから村の畑で採れた作物は、全部いったん村へ集める。
猟師が獲ってきた獲物も同じ。
漁師が獲ってきた魚も同じ。
塩も卵も、これから村の仕事として作った物は、基本的に一度村へ集める。
ただし、集めた物を全部どこかへ持っていくわけじゃない。
まずは俺たちが食べる。
村のみんなが食べる分を最優先にする。
次に、何かあった時のために保存できる物を蓄える。
それでも余った物は村の外へ持っていって売る。
野菜でも魚でも塩でもいい。
余った物をそのまま腐らせるくらいなら、必要としているところへ売ればいい。
そして売って手に入れた銅銭は、俺が取るわけでも、ウシマルが取るわけでもない。
村のみんなに分配する。
ここまで説明すると、村人たちの反応が明らかに変わった。
自分の畑がなくなると聞いた時には不安そうだった者たちも、ようやく俺が何をしようとしているのか分かってきたようだった。
みんなで作れば、それだけ多く作れる。
みんなで食べる。
余った物は蓄える。
それでも余った物は売る。
そして銭になったらみんなで分ける。
単純な話だ。
もちろん、作物だけではない。
猟師はこれまで通り猟をする。
漁師もこれまで通り漁へ出る。
ただし、自分の家族だけを食わせるためではなく、村全体を食わせるために獲ってきてもらう。
その代わり、猟師だから畑仕事をしていない、漁師だから野菜を作っていない、だから作物を食べられないなんてことにはしない。
畑を耕す者も、魚を獲る者も、獣を獲る者も、塩を作る者も、飯を作る者も、みんな村のために働いている。
仕事が違うだけだ。
そして食事も変える。
これからは各家庭が毎日それぞれ飯を作る必要はない。
一日二回。
朝と夕方。
村のみんなの食事をまとめて作る。
そのため、この広場に共同炊事場を作る。
主食になる米については俺が用意する。
そこへ村の畑で採れた野菜や芋、漁師が獲ってきた魚、猟師が獲ってきた肉、これから増えていく鶏の卵などを入れて、大きな鍋で村全員の食事をまとめて作る。
毎日の食事については心配しなくていい。
朝になれば飯がある。
一日の仕事が終われば、また飯がある。
食料が少ない家だけ腹を減らすようなこともなくなる。
その代わり、村の仕事はみんなで分担する。
農作業をする者。
炊事をする者。
塩を作る者。
猟へ出る者。
漁へ出る者。
家や鶏小屋を作る者。
必要な仕事に必要な人数を割り振っていく。
得意な仕事がある者は、できるだけその仕事をしてもらえばいい。
全員が同じことをする必要はない。
村全体で必要な仕事が全部回ればそれでいい。
そして最後に、もう一つ決めたことを発表した。
月に一度、村祭りをする。
その日はできるだけ仕事を減らす。
みんなで食べて、飲んで、楽しむ日にする。
もちろん酒付きだ。
この話をした時が、一番分かりやすく村人たちの表情が変わった。
さっきまで難しい顔をして話を聞いていた男たちまで、一気に顔が明るくなった。
やっぱり酒は強いな。
こうして塩屋村は、各家庭がそれぞれ自分たちだけで生活する村から、村全体で働き、村全体で食べ、余った物を売って、その利益までみんなで分ける共同体へと変わっていくことになった。
その後、昨日話していた通り、嫁取り四人衆とタルガニ、ウシマルはそれぞれの村へ向かった。
グシーの方は正式な嫁入りの話をまとめるため。
カマルーの方は、嫁になる娘だけではなく、母親と妹二人も一緒に塩屋へ移住できないか交渉するためだ。
ここから先はウシマルたちに任せておけばいいだろう。
俺はみんなを見送ったあと、テントへ戻った。
さて、俺もやることがある。
さっき村のみんなの前で家を全部建て替えるなんて宣言してしまったんだから、本当に建てないといけない。
テントの中に入り、現代から持ってきたコピー用紙の束を引っ張り出す。
確かこの辺だったよな。
以前、ChatGPTに相談しながらまとめた資料を一枚ずつめくっていく。
農業、塩作り、保存食、道具。
いろんなことを調べて印刷してきたので、結構な量になっている。
何枚かめくったところで、目的の紙を見つけた。
バンブーハウスの設計図だ。
これを基本にしよう。
ただし、フィリピンなんかで見るような本格的な高床式にする必要はない。
床の高さは地面から五十センチくらいでいいかな。
これなら地面からの湿気をある程度避けられるし、雨が降った時に床まで水が来る心配も減る。
何より今の家よりはずっといい。
問題は材料だ。
家一軒丸ごとの材料を現代から運んでくるのはさすがにもったいない。
せっかく沖縄には竹があるんだから、使える物はこっちの物を使えばいい。
俺は設計図を見ながら、必要な材料と工具を紙に書き出していく。
まず土台。
ここは家全体を支える部分だから、さすがに現地の適当な木材だけで作るのは不安だ。
土台と重要な構造部分には現代から持ってきた木材を使おう。
接合部分も釘だけではなく、ボルトや金具を使う。
ここさえしっかり作っておけば、その上はかなり自由にできる。
床や壁、その他の部分は基本的にここの竹を使う。
竹なら村の周辺から調達できるし、一本一本運ぶのも木材より楽だ。
傷んだところが出ても、村人たちだけで交換できる。
家を建てるたびに俺が現代から大量の木材を運び続ける必要もない。
屋根は……今まで通り茅葺きでいいか。
この辺りは村人たちの方が俺より慣れている。
わざわざ現代の屋根材を持ち込む必要もないだろう。
現代から持ってくるのは、土台用の木材と金具、それに現代の工具。
こっちで用意するのは竹と屋根に使う材料。
できるだけ現地の材料を使いながら、壊れたら村人たち自身で直せる家にする。
これなら十六世帯分を建てても、現代から運ぶ量をかなり抑えられる。
俺は設計図の横に、必要な材料と工具を一つずつ書き足していった。
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