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ブラックホールの向こうは400年前の沖縄でした〜現代の道具と知識で始める琉球王国改革〜  作者: gere


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第25話 1600年2月10日

朝。


昨日はマチューとタルーの縁談が無事に決まった。これで残るのは、グシーとカマルーの二人だ。


二人とも相手になりそうな娘は見つかっているが、まだ一度も直接会っていない。まずは顔合わせからだ。


ただ、紹介された娘がいる村はそれぞれ別だった。そこで今回は二手に分かれて行ってもらうことにした。


昨日縁談が決まったばかりで余裕のあるマチューとタルーにも付き添ってもらう。グシーにはマチュー、カマルーにはタルーだ。


「今日は顔合わせだけだからな。話を決めてくる必要はないぞ」


俺は四人にそう言っておいた。相手の娘と実際に会って、お互いにどう思うか。まずはそこからだ。俺まで付いていく必要はない。


挨拶代わりとして、それぞれに塩一斤だけ持たせた。


「じゃあ、行ってこい」


俺がそう言うと、四人は村を出ていった。


グシーとマチューは二十三歳の娘がいる村へ。カマルーとタルーは二十歳の娘がいる別の村へ。


それぞれ別方向へ歩いていく四人の背中を見送ってから、俺は塩の煮炊き場へ顔を出した。


いつもと同じように、カナさんが忙しそうに鍋で海水を煮ている。


先日あげた生成りの作務衣を着ていた。


「おはよう、カナさん」


声をかけると、カナさんがこちらを振り向いた。


「その作務衣、よく似合ってるよ」


そう言うと、カナさんは少し照れたように微笑んだ。


俺はそのまま煮炊き場に居座り、カナさんと他愛もない話をした。特に何か用事があるわけでもない。そんな話をしているうちに時間だけが過ぎていった。


時々、石鹸の香りが鼻をかすめる。


服が変わっただけじゃない。


以前とは全然違う雰囲気になっていることには、俺も少々びっくりした。


しばらくカナさんと話したあと、俺は煮炊き場を離れて畑へ向かった。


畑では鶏があちこち歩き回り、地面をつつきながら餌を探している。


鶏小屋を覗いてみると、昨日のうちに抱卵用の小屋が出来上がっていた。その中では一羽の鶏が卵を抱いている。


しばらく様子を見ていたが、どうも卵から離れようとしない。これじゃ餌を食べに行けてないんじゃないか?


俺は持ってきていた百均の小さな器に餌を入れ、抱卵している鶏の目の前に置いてやった。


これなら卵から離れなくても食べられるだろう。


もう一つの小屋を覗くと、今度は卵が七個産まれていた。俺はそれを集め、抱卵用の小屋へ移しておく。


あとは、この卵を抱いてくれる鶏が出てくるのを待つだけだ。


この調子で増えていけば、一年でメスだけでも百羽くらいはいけるか?


オスはある程度育ったら食用にすればいい。メスが百羽まで増えて、卵も二日で五十個くらい産んでくれるようになれば、村の栄養改善にもかなり役立つはずだ。


鶏の様子を一通り確認したあと、今度はシンガを探した。


第一畑の横を見ると、すぐに見つかった。


シンガは村の男たちと一緒に、第二畑の開墾を進めている。鍬を振るい、草や根を取り除きながら、少しずつ畑を広げていた。


頑張ってるな。


第二畑には夏野菜を植える予定だ。


二月いっぱいで五十畝まで作って、三月中に土づくりを終わらせることができれば十分だろう。


夏野菜を植えるまでには、まだ時間がある。


焦る必要はない。


第二畑を見たあと、俺はシルー、カナグシ、マチューの猟師三人組を呼ぶことにした。


もっとも、マチューはグシーの顔合わせについて行っているので、今いるのはシルーとカナグシの二人だけだ。


「ちょっと頼みたいことがあるんだけど」


俺は二人を鶏小屋まで連れていった。


今はまだ数も少ないから、この程度の小屋で十分だ。だが、これから雛が孵って順調に増えていけば、当然このままでは足りなくなる。


「これから鶏が増えるたびに、小屋を作ってほしいんだ。毎日じゃなくていい。必要になった時でいいから」


シルーとカナグシは顔を見合わせた。


猟師といっても毎日猟へ出るわけではない。特に問題はないようで、シルーはすぐに頷いた。


「それならできる」


「助かるよ。その代わり、今貸してるノコギリとハンマーは二人にやる」


「本当か?」


カナグシがすぐに食いついた。


やっぱり現代の道具は欲しいらしい。


「ああ。これから鶏小屋を作ってもらうから、そのための道具ってことでいいよ」


これで鶏小屋の問題は解決だな。


鶏が増えるたびに俺がいちいち小屋のことまで考えなくて済む。必要になればシルーたちが作ってくれる。


二人と別れたあと、俺はそのまま村の中をぶらぶらと見て回ることにした。


歩いていると、あちこちで新しく渡した作務衣を着た村人たちが仕事をしている。


畑仕事をしている者もいれば、家の前で何か作業をしている者もいる。


小さな子供たちは甚平姿で村の中を走り回っていた。


その光景を見ながら、俺は少し嬉しくなった。


やっと俺がイメージしていた村になってきたな。


最初に来た頃は、なんというか……。


ホームレスの集団みたいだったし。


もちろん、この時代ではあれが普通なんだろう。俺が現代の感覚で見ているからそう感じるだけなのは分かっている。


それでも、村中の人間が新しい服を着ているだけで雰囲気がまるで違う。


ただ、これで終わりじゃない。


替えの作務衣も準備した方がいいだろうな。


放っておいたら、この人たち同じ作務衣をずっと着続けそうだし。


一人二着くらいあれば、洗っている間にもう一着を着られる。


まだまだ村を歩けば、足りない物はいくらでも目につく。


全部一気に揃える必要はない。


一つずつ解決していけばいい。


そんなことを考えながら村を回っていると、村の入口の方から見覚えのある四人が歩いてくるのが見えた。


おっ、帰ってきたか。


グシー、カマルー、マチュー、タルー。


嫁取り四人衆の帰還だ。


思っていたより早かったな。


どうやら今日行った二つの村は、前にマチューとタルーの縁談で行った村より近いらしい。


さて。


二人とも、相手の娘とはどうだったかな。


四人が近くまで来たところで、俺は声をかけた。


「おかえり。どうだった?」


グシーとカマルーが顔を見合わせた。


なんだ、その顔は。


「じゃあ、グシーから聞こうか」


俺がそう言うと、グシーが少し照れくさそうに頭をかいた。


「俺は……いいと思う」


おお。


「向こうは?」


「向こうも、いいって」


早いな。


俺は一緒に行ったマチューを見る。


「本当?」


「ああ。二人でちゃんと話してたぞ。向こうの親も反対してない」


詳しく聞いてみる。


相手は二十三歳の未婚の娘。


両親と弟二人の五人家族で暮らしている。


今年は畑の出来が悪く、家の暮らしにはあまり余裕がないらしい。それでも両親が勝手に娘を嫁に出すのではなく、まず本人同士を会わせてから決めたいという話だった。


そのための今日の顔合わせだったわけだ。


「グシー、お前ちゃんと話したの?」


「話した」


「何を?」


「村のこととか、畑のこととか」


まあ、グシーにしては上出来か。


相手の娘も塩屋へ嫁ぐことを嫌がってはいないらしい。


グシーの家には父親のゴローと母親のナミ、それに三歳の弟がいる。


嫁に来れば、その四人の家に入ることになる。


「それもちゃんと話した?」


「話した」


「それでいいって?」


グシーが頷いた。


なら問題ないな。


「よし。じゃあ次、カマルー」


俺が見ると、今度はカマルーが少し嬉しそうな顔をしている。


これは聞く前から分かるぞ。


「どうだった?」


「俺も、いい」


やっぱり。


「向こうは?」


「いいって言ってくれた」


おお。


こっちも成功か。


今度はタルーから詳しく話を聞いた。


相手は二十歳の未婚の娘。


父親は数年前に亡くなっていて、今は母親と妹二人、それに本人を合わせた女四人で暮らしている。


父親がいないこともあって、暮らしは決して楽ではない。


以前話を持っていった時から母親は嫁入りそのものには前向きだったが、やはり最後は娘本人がカマルーと会ってから決めたいということだった。


今日実際に会って話してみて、娘の方もカマルーならいいと言ってくれたらしい。


ただ、俺には一つ気になることがあった。


「嫁に来たら、向こうは母親と妹二人だけになるんだよな?」


「うん」


カマルーが頷く。


俺は少し考えた。


それなら、娘一人だけを塩屋へ連れてくる必要はないんじゃないか?


カマルーを実家から独立させて、向こうの家族ごと塩屋へ移住してもらえばいい。


カマルーの実家にはハチさんとサダさん、それに二歳の妹がいる。


一方、向こうは父親を亡くして、母親と娘三人だけだ。


だったらカマルーが新しい家を持って、嫁さんだけじゃなく、その母親と妹二人も一緒に養えばいい。


食い物のことなら村で面倒を見ればいい。


俺はウシマルとタルガニを呼んだ。


「二人にもう一回お願いがあるんだけど」


二人が俺を見る。


「明日、カマルーの相手の村にもう一度行って、長老と話してきてほしい。娘だけじゃなくて、母親と妹二人も塩屋に移住できないか交渉してほしいんだ」


ウシマルが少し驚いた顔をした。


「みんなか?」


「うん。四人ともこっちで面倒を見る。住むところも食べ物も村で支援するから、安心して来てくれって伝えて」


それなら、向こうの家族を引き離す必要もない。


カマルーにも新しい家族ができる。


「長老へのお礼はナタ三本でどうかな?」


ウシマルとタルガニが顔を見合わせたあと、頷いた。


「それなら話してみる」


「頼む」


次はグシーの方だ。


こっちは家族ごと移住させる必要はない。


両親も弟二人もいる。


「グシーの相手の村には、正式なお礼として四点セットを持っていこう」


俺は指を折りながら言った。


「ナタ、オノ、スコップ、それとカラシナの種」


現代の道具三つに種まで付ける。


これなら十分だろう。


「明日はウシマルとタルガニが話をして、グシー、カマルー、マチュー、タルーも一緒に行ってくれ」


また嫁取り四人衆総出だ。


まあ、自分たちの嫁の話なんだから頑張ってもらおう。


「それと、俺からもう一つ話がある」


四人が俺を見る。


「それは明日、村のみんなを集めて話すよ」


まだ俺の頭の中にあるだけだ。


先にウシマルには話しておいた方がいい。


村全体に関わることだからな。


「じゃあ明日のことは頼んだ」


俺はみんなと別れ、そのままウシマルの家へ向かった。


明日みんなに話す内容を、まずウシマルに聞いてもらおう。



読んでいただきありがとうございます。

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