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ブラックホールの向こうは400年前の沖縄でした〜現代の道具と知識で始める琉球王国改革〜  作者: gere


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第23話 1600年2月2日

朝。


俺は目を覚ますと湯を沸かし、コーヒーを淹れた。テントの前に座ってコーヒーを飲みながら煙草に火をつける。


一服しながら、今日何をするか考える。


今、この村に一番足りないものは何だろう。


食料は少しずつ増えてきた。塩も作れるようになったし、畑も広げている。鶏も飼い始めた。道具も必要なら現代から持ってこられる。


色々考えたが、結局行き着くところは一つだった。


「やっぱり人だな」


圧倒的に人口が少ない。


この村には44人しかいない。何をするにしても人手が足りず、できることに限界がある。畑を増やすにも、塩を作るにも、漁に出るにも、家を建てるにも人が必要だ。


鶏みたいに数か月で一気に増えるわけでもない。


人間は子供が生まれても、働けるようになるまで十年以上かかる。


なら、今のうちから手を打っておかないと、将来的にもずっと人手不足のままだ。


俺はコーヒーを飲み干すと、タルガニを呼んだ。


「タルガニさん、村の独り身の人を集めてもらえます?」


「独り身?」


「うん。結婚していない人と、今は一人になっている人も」


タルガニは少し不思議そうな顔をしたが、すぐに村へ向かった。


しばらくすると、何人かを連れて戻ってきた。


男は四人。


猟師のマチュー、三十歳。


漁師のタルー、三十一歳。


畑仕事をしているグシー、二十五歳。


同じく畑仕事のカマルー、二十二歳。


女は三人。


チルー、十九歳。


夫を亡くしているナビーさん、三十五歳。


そしてカナさん、三十一歳。夫を亡くしていて、十歳のマカトと二人で暮らしている。


全部で七人。


俺は並んだ七人の顔を見回した。


「この中で、誰か恋仲になってる人とか、他の村に好きな人がいる人っている?」


その瞬間、全員の顔が固まった。


いきなり何を聞き出すんだという顔で、誰も口を開かない。グシーは隣のカマルーを見るし、チルーは俯き、マチューとタルーまで妙に目を逸らした。


「いや、別に冷やかしたいわけじゃないよ」


それでも反応がないので、俺は理由を話すことにした。


「今この村は塩も大量に作れるようになったし、作物もかなり収穫できそうだろ。小松菜もそろそろだし、カラシナだってもう少ししたら大量に採れるはずだ。今なら人が増えても、前よりは養っていけると思うんだよ」


七人は黙って俺の話を聞いている。


「だからさ、今のうちに嫁取りとか婿取りをした方がいいんじゃないかなと思って。まあ、ちょっとおせっかいだけどさ」


俺が笑うと、何人かがようやく表情を緩めた。


その中で、なぜかカナさんだけが少し顔を赤くしている。


なんでだ?


俺は一瞬気になったが、とりあえず話を戻す。


しばらくして、ぽつぽつと答えが返ってきた。


この七人の中で恋仲になっている者はいないらしい。


ただ、マチューとタルーは少し違った。


どうやら二人とも、隣の村に気になっている娘がいるらしい。


俺は二人の顔を見た。


「なんだ、いるんじゃないですか」


マチューとタルーは、揃って気まずそうに目を逸らした。


俺はまず、女性陣にも今後の結婚についてどう考えているのか聞いてみた。


三人とも、将来的には結婚したい気持ちはあるらしい。


ただ、チルーはまだ十九歳ということもあって、結婚はもう少し先でもいいと考えているようだった。


ナビーさんは去年旦那さんを亡くしたばかりで、まだ再婚を考える気にはなれないとのことだった。


カナさんはなぜか俯きながら、今はいいとだけ答えた。


俺は深く聞かないことにした。


「分かりました。じゃあ女性陣は今日はここまでで大丈夫です」


三人には戻ってもらった。


残ったのは俺とタルガニ、それからマチュー、タルー、グシー、カマルーの四人。


俺は四人の顔を見回した。


「それじゃ、まず男性陣から嫁取りを考えようか」


そう言った瞬間、四人の顔が一気に明るくなった。


分かりやすいな。


まずは、すでに隣村に気になる娘がいるというマチューとタルーから詳しく話を聞くことにした。


どこまでの関係なのか、相手の家族構成はどうなっているのか、家の暮らし向きはどうなのか。まずはそのあたりを聞き出すところからだ。


マチューが気になっているのは、隣村に住む二十四歳の娘だった。何度か村同士の行き来で顔を合わせたことがあり、話をしたこともある。向こうもマチューを嫌っている様子はなく、会えば普通に言葉を交わす程度の関係らしい。


相手の家は両親と兄、妹の五人家族。畑仕事が中心で、暮らし向きは特別良くも悪くもない。ただ、娘が嫁に出れば一人分の食い扶持は減る一方で、働き手も一人減る。


タルーが気になっているのは、同じく隣村の二十二歳の娘だった。こちらも顔見知りで、何度か話したことがある程度。タルーの方が一方的に気にしている感じが強く、相手がどう思っているかまでは分からない。


その家は母親と兄、本人、弟の四人家族で、父親は数年前に亡くなっている。家では畑仕事と漁の手伝いをしており、娘も家の働き手としてかなり頼られているらしい。


二人とも全く脈がないわけではなさそうだが、まずは相手本人と家族がどう考えているのか確かめる必要がありそうだった。


いきなり俺たちが隣村へ乗り込むのも変な話だ。


そこで俺は、仲介役をウシマルに頼むことにした。塩屋の長老であるウシマルから隣村の長老へ話を通し、その長老から娘の家へ縁談を持っていってもらう。今の時代ではあまり見ない話だが、この時代ならむしろその方が自然だろう。


ただ、ここでマチューとタルーが少し困った顔をした。


嫁を迎えるのはいいが、相手の家に渡す礼をまだ準備できないらしい。


「そこは心配しなくていいよ。俺がどうにかするから」


そう言って、俺たちは揃ってウシマルのところへ向かった。


ウシマルには、ここまでの話を一通り説明した。


マチューとタルーについては、それぞれ気になっている娘がいる隣村の長老へ話を通してもらう。


そしてグシーとカマルーについては、別の二つの村に婚期の女性がいるようなら、塩屋へ嫁に来る気がないか打診してもらうことにした。


さすがに同じ村から女を四人も連れてきたら、向こうの村だって困る。


だから三つの村に分けて話を通してもらう。


ウシマルには、その三人の長老へ口利きをしてもらう時の手土産として、以前サンラーに渡したのと同じ陶器入りの泡盛を用意しようと思っている。


話を聞いたウシマルは、予想以上に喜んでいた。


俺は仲介を頼む以上、何か欲しい物はないかと聞いたが、ウシマルは何もいらないと言った。


村に人が増えて、暮らしが良くなっていく。それだけで十分らしい。


さすが長老だな。


なんというか、達観している。


俺は早速テントへ戻り、ブラックホールを開いてアパートへ戻った。


用意するのは、以前サンラーに渡したのと同じ陶器入りの泡盛だ。


一本3,600円。それを三本持って再び1600年へ戻る。


3,600円×3本で10,800円。


残金は2,942,130円になった。


三本の泡盛を抱えてウシマルのところへ戻り、そのまま手渡す。


「これを、それぞれの村の長老に渡してください。話を通してもらうお礼です」


ウシマルは陶器の瓶を受け取り、しばらく眺めていた。


中身が泡盛だと分かると、さらに驚いた顔をする。


これなら手土産としては十分だろう。


俺は続けて、グシーとカマルーの嫁候補を探してもらう二つの村について、ウシマルに少し詳しく聞いてみた。


ウシマルの話では、どちらも塩屋より規模の大きい村らしい。


ただ、今年はあまり暮らし向きが良くないようだった。作物の出来が悪いのか、それとも別の事情なのか、そこまでは分からないが、少なくとも余裕のある状態ではないらしい。


村同士の仲が悪いということもなく、塩屋と特に対立しているわけでもない。


それなら、話を持っていくこと自体は問題なさそうだ。


ウシマルは明日、タルガニと一緒に三つの村を回ってくれることになった。


マチューとタルーの縁談については相手が決まっているので、その娘の家へ話を通してもらう。


グシーとカマルーについては、残り二つの村で婚期の女性がいる家を探してもらい、塩屋へ嫁ぐ気がないか聞いてもらうことになる。


あとは向こうの返事待ちだ。


俺たちはウシマルに改めて礼を言い、その場を後にした。


そのまま皆で広場へ戻る。


広場へ戻って改めてマチューたちを見ると、今度は別のことが気になった。


見た目が、かなりまずい。


着ている服は何度も継ぎ当てされ、汚れも目立つ。髪も整っているとは言い難い。現代で見れば、正直ホームレスとあまり変わらないような姿だった。


もちろん、この時代ではこれが普通なのだろう。


それでも、これから他の村へ嫁取りの話を持っていくなら、せめて塩屋の人間だけでも見た目から少し変えてもいいんじゃないかと思った。


これを機に村人全員の服を新しくすることにする。


とりあえず今日はここで解散してもらい、俺は村人の男女と年齢を改めて確認した。


大人からある程度大きい子供までは作務衣。小さい子供には甚平を用意する。


全部で44着。


それに各家庭へ、とりあえず固形石鹸を一個ずつ配ることにした。予備も含めて20個買えば十分だろう。


俺は再びブラックホールを開き、アパートへ戻った。


衣料品店を何軒か回り、村人それぞれの年齢や体格を考えながら作務衣と甚平を揃える。44人分ともなると、さすがにかなりの量になった。


それに固形石鹸を20個。


買い物を終えてアパートへ戻り、山になった服と石鹸を眺める。


これを今から1600年へ持っていく。


その前に時計を確認した。


2026年1月2日、午後1時。


現代では、まだ昼を過ぎたばかりだった。


ブラックホールを抜け、荷物を何回かに分けてテントへ運び込んだ。


まずは今回の買い物を精算する。


大人用と子供用の作務衣、それに小さい子供用の甚平を合わせて44着。店やサイズによって値段は違ったが、衣料品だけで合計159,120円。


固形石鹸は20個で2,200円。


今回の出費は合計161,320円。


残金は2,942,130円から161,320円を引いて、2,780,810円になった。


さすがに44人分ともなると結構な金額になったが、今は金348グラム以上を持っている。以前なら躊躇した金額だが、これくらいなら村の生活を良くするために使った方がいい。


俺はテントを出ると、タルガニに村人全員を広場へ集めてもらうよう頼んだ。


皆それぞれ畑や塩作り、漁などの仕事をしている最中だったが、しばらくすると44人全員が集まってきた。


何が始まるのか分からないまま、俺の前に並んでいる。


俺はテントから大量の服を運び出した。


まず男性には濃紺の作務衣。


女性には生成り色の作務衣。


子供は男女関係なく、ある程度大きい子には生成り色の作務衣を渡し、まだ小さい子には動きやすい甚平を渡していった。


最初の一着を手渡した時から、村人たちの反応は今までとは明らかに違った。


布を両手で持ち、何度も表と裏を確かめる者。指先で生地を撫で続ける者。自分の体に当てて大きさを確かめながら笑っている者もいる。


子供たちは受け取った服を抱えたまま、すぐに着替えたそうに親の顔を見ていた。


今まで米や食べ物、器や匙、チョコレートまで色々渡してきたが、もしかすると一番喜ばれているかもしれない。


それほど、この時代では服そのものが貴重なんだろう。


今着ている服を見ればよく分かる。破れれば縫い、また破れれば別の布を当て、それを何度も繰り返している。新しい服を一着手に入れるというのは、俺が思っていた以上に大きなことらしい。


マカトなんて生成りの作務衣を胸に抱えたまま、満面の笑みを浮かべている。


カナさんも自分の作務衣を広げながら、何度も俺に頭を下げていた。


男たちも同じだった。


普段あまり表情を変えないシルーまで、濃紺の作務衣を眺めながら嬉しそうに笑っている。


買ってきて正解だったな。


続いて、各家庭に一個ずつ固形石鹸を渡すことにした。


ただ、こちらは服とは違って、何に使う物なのか分からないらしい。


皆、白い固まりを手にして不思議そうに眺めている。


俺は桶に水を用意し、自分の手を濡らしてから石鹸を擦りつけてみせた。


両手を擦り合わせると、すぐに白い泡が広がった。


「おお……」


あちこちから声が上がる。


泡がどんどん増えていくのを見て、子供たちは前へ寄ってきた。


そのまま水で流すと、汚れと一緒に泡が綺麗に消える。


俺は手を広げて見せた。


石鹸を受け取った村人たちは、今度はさっきとは違う目で白い固まりを見ている。


服ほど派手ではないが、これもすぐに村の生活に欠かせない物になる気がした。


読んでいただきありがとうございます。

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