第22話 1600年2月1日 その2
俺は1600年へ戻ると、今回持ち込んだ分の精算をすることにした。
前回買って部屋に置いてあった物なので、1600年へ持ち込んだ今の時点で残金から引く。
アメリカ産米10キロを5袋。全部で50キロ。
1袋5,980円として、
5,980円×5袋=29,900円。
次に個別包装のチョコレート5袋。
1袋598円で、
598円×5袋=2,990円。
最後にカレールー10個。
1個298円で、
298円×10個=2,980円。
合計は、
29,900円+2,990円+2,980円=35,870円。
前回の残金は3,011,790円。
3,011,790円-35,870円。
残金2,975,920円。
「約297万か。まあ、金も手に入ったし、もう前ほど気にする必要はないな」
俺は精算を終え、今回持ち込んだ物資をテントの中へまとめて置いた。そのままテントの外へ出て、塩の煮炊き場へ向かう。
近づくにつれて、ロケットストーブの火の音と、鍋の中で海水が煮える音が聞こえてきた。見ると、カナさんがロケットストーブに火を入れ、大きな鍋の海水を棒でゆっくり混ぜている。
最初の頃は火加減も鍋の扱いも一つ一つ確認しながらやっていたのに、今ではもう完全に手慣れたものだ。
俺が近づいても、カナさんは慌てることなく鍋の中を確認しながら薪を足している。
「もう手慣れたもんですね」
俺が声をかけると、カナさんがこっちを見て笑った。
「毎日やっていますから」
「確かに」
俺も鍋の中を覗き込む。順調に煮詰まっている。
「カナさん、今日これ終わったら、鍋洗わなくていいから貸してくださいね」
「鍋をですか?」
「うん。今日は久しぶりにフーチバーカレー雑炊にするから」
その瞬間、カナさんの顔がぱっと明るくなった。
「本当ですか?」
満面の笑みだ。その横にいたマカトまで反応した。
「カレー雑炊!?」
「そうそう。久しぶりに作るよ」
マカトの目が一気に輝く。
「カレー雑炊だー!」
そう叫ぶと、そのまま村の方へ走っていった。
「おーい! 今日カレー雑炊だってー!」
まだ何も作っていないのに、もう報告に行っている。
俺は走っていくマカトの後ろ姿を見ながら笑った。
「早いな笑」
カナさんも楽しそうに笑っている。
まあ、いいか。
目的だった金も手に入った。現代で売れば八百万円を軽く超えるだけの金だ。
ここまで来たら、俺も少しくらい大盤振る舞いしてもいいだろう。
今日は村のみんなに、腹いっぱい食わせてやるか。
午後。
俺は鶏小屋の様子を見に行った。猟師たちが朝から作業していた場所へ行くと、木と竹を組んだ骨組みがだいぶ出来上がっている。まだ完成ではないが、なんとなく鶏小屋らしい形にはなっていた。
「あともう少しかな」
このままでも鶏を囲うだけなら何とかなりそうだ。ただ、問題は蛇だ。この辺なら普通に入ってくるだろうし、雛が生まれたあとなんかは特に危ない。
俺はしばらく鶏小屋を見たあと、テントへ戻った。中へ入り、ノートとペンを取り出す。
「今、必要な物まとめとくか」
まず鶏小屋。目の細かい鉄の網。これを周囲に張れば、少なくとも蛇は入りにくくなるだろう。
「それと大工道具もいるな」
今まで村にある道具だけで何とか作ってもらっていたが、やっぱり現代の道具があった方が早い。ハンマー、ノコギリ、釘、それから扉を付けるための蝶番。一つずつノートへ書いていく。
そこで、ふと村のみんなが使っている椀を思い出した。割れているもの、欠けているもの、形が歪んでいるもの。中には、子供が両手で抱えるようにして使っている物まである。
「……あれもどうにかした方がいいな」
どうせなら100均で揃えてしまおう。ラーメンが入るくらいの少し大きめの椀。子供もいるから、陶器じゃなくて軽いプラスチック製でいい。落としても割れにくいし、その方が使いやすい。
それからスプーン。
「村が44人だから……50個ずつでいいか」
椀50個。スプーン50本。全員分を配って、余った分は俺が予備として持っておけばいい。割れたり無くしたりしても、すぐ交換できる。
俺はノートへ最後まで書き込んだ。鶏小屋用の細かい金網、ハンマー、ノコギリ、釘、蝶番、プラスチック製の大きめの椀50個、スプーン50本。
「とりあえず、こんなもんだな」
ノートを閉じる。必要な物が、また少しずつ増えてきた。
俺はノートを閉じると、周囲に誰もいないことを確認した。
――現在に戻りたい。
目の前にブラックホールが現れ、そのまま中へ入る。
次の瞬間、俺は現代のアパートへ戻っていた。
今回は必要な物がはっきり決まっている。ホームセンターと100均を回り、買い物を済ませる。
現代での滞在時間はちょうど1時間。
買ってきた物をまとめ、そのまま1600年へ持ち込んだ。
テントへ戻ると、まず今回持ち込んだ分を精算する。
ハンマー2本。1本1,280円で2,560円。
ノコギリ2本。1本1,480円で2,960円。
釘500本入りが1,980円。
蝶番2個。1個330円で660円。
目の細かい鉄網、1メートル×10メートルが5,980円。
鉄網を切るための金切り鋏1本が1,480円。
100均で買ったプラスチック製の器50個。1個110円だから5,500円。
スプーンは3本入りを17セット。これで51本になる。17セットで1,870円。
全部合わせると、
2,560円+2,960円+1,980円+660円+5,980円+1,480円+5,500円+1,870円。
「2万2,990円か」
前回の残金は2,975,920円。
そこから22,990円を引く。
「残り295万2,930円」
俺はノートに残金を書き込み、買ってきた道具と器をテントの中へ置いた。
現代で過ごしたのは、きっちり1時間。
これで必要な物は一通り揃った。
俺は道具を持って鶏小屋へ戻り、そのまま小屋作りを手伝うことにした。
現代の道具を持ち帰ってきたが、みんなもう前ほど気にしていない。最初の頃なら一つ一つ珍しがって囲まれていたのに、今では「ああ、また悠真が何か持ってきた」くらいの反応だ。
面白いもんだ笑
まず俺は板を合わせて扉を作り、蝶番を使って小屋の入口へ取り付けた。
実際に開け閉めして見せると、みんな一斉に食いついた。
「これは便利だな」
「開けたり閉めたりできるのか」
「そうそう。これなら鶏を出す時も楽でしょ」
扉の仕組みそのものは単純だが、蝶番なんて見たことがない連中からすれば十分珍しいらしい。
次に小屋の寸法を測り、持ってきた鉄網を金切り鋏で必要な大きさに切っていく。
切った鉄網を木の枠へ当て、ハンマーと釘を使って固定する。
「こんな感じで打てばいい」
一か所だけ見本を見せると、あとはみんなに任せた。
俺は横で寸法を測って、鉄網を切っていくだけにする。
現代のハンマーとノコギリはやっぱり使いやすいらしく、作業もかなり早い。
途中からは俺が指示しなくても、それぞれ勝手に作業を進めるようになった。
それから二時間ほど。
小屋全体に鉄網が張られ、扉もきちんと開閉できる鶏小屋が完成した。
「これなら蛇も入りにくいだろ」
俺は全体を見回しながら確認する。
猟師たちも満足そうに小屋を眺めていた。
作業が終わると、俺はハンマーやノコギリ、金切り鋏などの大工道具を回収する。
「じゃあ、道具は一回持って帰りますね」
すると、何人かから時々貸してほしいと言われた。
「いいですよ。使いたい時は言ってください」
壊されたら困るけど、必要な時に貸すくらいなら問題ない。
それから俺は猟師三人を連れて海辺へ向かった。
「今度は貝殻を集めてください」
三人とも最初は何に使うのか分からない顔をしていたが、俺が浜に落ちている貝殻を拾って見せる。
「これを細かく砕いて、鶏の餌に混ぜます」
海岸にある平たい石の上へ貝殻を置き、ハンマーで細かく砕いて見せる。ある程度細かくなったところで、さっき買ってきたプラスチックの椀へ入れた。
「こんな感じです」
三人もすぐに真似をし始めた。浜で貝殻を探しては石の上に置き、ハンマーで細かく砕いて椀の中へ入れていく。
しばらくすると、三人とも黙々と作業を続けていた。
俺はその様子を見ながら頷く。
これなら鶏の餌に混ぜる分も十分集まりそうだ。
作業は三人に任せ、俺は大工道具をまとめてテントへ戻った。
俺が塩の煮炊き場へ戻ると、ちょうど火から鍋を下ろし、出来上がった塩をビニールシートへ移し終えたところだった。
「ちょうどよかった」
俺はそのまま鍋を借り、水を汲んできてもらって夕飯の準備を始める。
今日は昼と夕方の二回に分けるとか、そんなケチくさいことはしない。夕飯一回で全部食べ切るつもりだ。
米もいつもより多めに使う。
「今日は4キロいくか」
鍋に水を入れ、ロケットストーブへ戻して沸騰するのを待つ。
その間に、出来上がった鶏小屋へ鶏を移してもらうよう頼んだ。
俺も様子を見に行き、さっき猟師たちが細かく砕いた貝殻を椀二つに分け、そこへ粟とキビを混ぜて鶏小屋の中へ置く。
さらに新品の椀をもう一つ使い、水を入れて設置した。
「これでいいな」
砕いた貝殻でカルシウムも取れる。これなら少しは丈夫な卵を産んでくれるだろう。
鶏が餌をつつき始めたのを確認して、俺は煮炊き場へ戻った。
鍋を見ると、ちょうど水がしっかり沸騰している。
「よし」
俺は米4キロをそのまま鍋へぶち込んだ。
そこから時々かき混ぜながら、じっくり煮込んでいく。
二時間ほど経つ頃には、米はたっぷり水を吸い、鍋いっぱいの雑炊になっていた。
そこへフーチバーを入れる。
さらに猟師からもらった猪の燻製を細く切り、そのまま鍋の中へ。
最後にカレールー。
今日は一個ではなく二個入れる。
ゆっくり混ぜていくと、鍋全体にカレーの匂いが広がっていった。
前よりもしっかりカレー風味がついている。
「今日はこれくらいがいいな」
出来上がりを確認すると、俺はマカトを呼んだ。
「マカト、今日は椀いらないから、そのままみんな集まるように言ってきて」
「分かった!」
マカトはすぐに走っていった。
しばらくすると、村人たちが何も持たずに集まってきた。
いつもなら自分の椀を持ってくるところだが、今日は手ぶらだ。
俺は買ってきた新しい器とスプーンを用意し、一人ずつ渡していく。
「今日はこれ使ってください」
村人たちは受け取った器を持ち上げたり、裏返したりしながら不思議そうに見ている。
軽くて割れにくい器。それに銀色に光るステンレス製のスプーン。
子供たちは特に嬉しそうだ。
カナさんが鍋の前に立ち、一人ずつ大盛りで雑炊をよそっていく。
みんな新しい器を両手で持ち、目を輝かせながらスプーンで食べ始めた。
「うまい!」
「前よりカレーの味が強いな」
あちこちから声が上がる。
俺はその様子を見ながら言った。
「その器とスプーン、みんなにあげます。大事に使ってください」
一瞬静かになったあと、あちこちから嬉しそうな声が上がった。
自分専用の器とスプーンがもらえるとは思っていなかったらしい。
鍋にはまだたっぷり残っている。
「おかわりもあるから、遠慮しないで食べてください」
その言葉に、子供たちが真っ先に動いた。
カナさんも笑いながら次々によそっていく。
今日は量も十分ある。
村人たちは新しい器を抱え、何度もおかわりしながら満足そうに食べ続けていた。
食べ終わった頃、俺はテントからチョコレートを持ってきた。
一袋に30個入っている個別包装のチョコだ。今回はみんなに三個ずつ配ることにする。
「一人三個ずつね」
俺がそう言って配り始めると、村人たちの顔が一気に明るくなった。
チョコは前にも一度みんなに食べさせているので、そのうまさはもう知っている。それが今日は一人三個ももらえる。
あちこちから歓声が上がり、大人まで嬉しそうに手の中のチョコを眺めている。
特に子供たちは大はしゃぎだった。
すぐに全部食べる子もいるかと思ったが、意外にも大事そうに一個ずつ包みを開け、口の中でゆっくり溶かしながら食べている。
マカトも両手でチョコを持ちながら、少しずつかじっては嬉しそうに笑っていた。
三個あるのが相当嬉しいらしい。
俺はそんな村人たちの様子を眺めながら、俺も一個口に放り込んだ。
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