第16話 1600年1月20日 その2
午後。
俺は防鳥ネットと杭、それにロープを持って畑へ向かった。
畑に着くと、種まきはもう全部終わっていた。
女性たちとシンガたちは、最後の水やりをしているところだった。
「お、終わったみたいだな」
畝を見ると、大根、小松菜、カラシナを植えた場所には薄く土がかけられ、順番に水が撒かれている。
俺はみんなに声をかけた。
「みなさん、ちょっと集まってください」
作業していた人たちが俺の周りに集まってくる。
俺は持ってきた防鳥ネットを広げた。
「次はこれを畑の上に張ります」
「これは何ですか?」
シンガがネットを触りながら聞いた。
「鳥よけです。種とか芽が出たばかりの野菜を鳥に食べられないようにします」
俺は杭を一本持ち上げる。
「まず、畑の周りにこの杭を立てます。それから畑の中にも何本か立てて、ネットが下に垂れないように支えます」
畑の端を指さす。
「杭は出来るだけ真っ直ぐ、しっかり地面に刺してください。風で抜けたら意味がないので」
次にロープを取り出した。
「杭を立てたら、今度はこのロープを杭と杭の間に張ります」
俺は両手を広げて説明する。
「畑の外側をぐるっと囲うように張って、そのあと上にも何本か渡します。これでネットを支える骨組みを作ります」
シンガたちが畑を見ながら頷いている。
「その上から、この網を広げます」
俺は防鳥ネットを少し持ち上げた。
「端から順番に広げて、隣の網と少し重ねます。隙間があると、そこから鳥が入るので」
「全部、この網で覆うのか?」
「そうです。畑全体を覆います」
俺は杭とロープを指さした。
「網の端はロープにしっかり固定してください。ただし、一か所だけ人が出入りできる場所を作ります」
畑の入口になる場所を指さす。
「ここだけは全部縛らずに、めくって入れるようにしておきましょう。中に入って水やりとか草取りをするので」
「なるほど」
「それと、網を地面まで垂らして、下から鳥が入らないようにしてください」
俺は地面を指さす。
「下の部分は石を置くか、杭に結んで押さえれば大丈夫です」
シンガが防鳥ネットを持ち上げながら言った。
「これなら鳥は入れんな」
「そうそう。そのための網です」
俺は畑全体を見渡した。
「じゃあ、まず男の人たちは杭を立てましょう。女性のみなさんはロープを配ってください。杭が立ったところから順番にロープを張って、そのあと全員でネットを広げます」
「分かった」
みんなそれぞれ杭やロープを持って動き始めた。
50メートル四方の畑全体を覆うとなると、それなりに時間はかかりそうだ。
それでも20人いれば、今日中には終わるだろう。
俺は最初の1時間ほど、みんなに声をかけながら防鳥ネットの設置を手伝った。
杭の位置を直したり、ロープの張り方を見たり、ネットが地面まできちんと垂れているか確認して回る。
「そこ、もう少し引っ張って」
「こっちは少し重ねてください」
最初は戸惑っていたみんなも、しばらくすると要領をつかんできた。
俺がいちいち指示しなくても、それぞれで作業を進められるようになっている。
「これなら大丈夫そうだな」
あらかた形になったところで、俺は畑を任せて塩の煮炊きをしている場所へ戻った。
ロケットストーブの上では、今日の分の海水が煮詰められている。
カナさんが鍋の前に座って様子を見ていた。
「カナさん、出来はどうですか?」
カナさんは寸胴の中を覗き込んだ。
「今日は水のなくなりが少し早いように思います」
「そうか」
俺も鍋の中を見る。
確かに昨日までより少し早い気がする。
火加減なのか、今日入れた海水の濃さなのかは分からないが、もう3回目だ。
カナさんもかなり慣れてきている。
「もう3回目だから、自分でもういいかなと思ったら薪は止めてください。あとはいつも通りで」
「分かりました」
「お願いします」
俺はそのままテントへ戻った。
中に入ると、荷物の中から現代で準備してきたコピーを探す。
「確かこの辺に……あった」
現代に戻った時、ChatGPTにカヌー2艘を双胴船にする方法を聞いて、その答えをコピーして持ってきていた。
紙を広げ、手順を上から確認する。
「まず2艘を平行に並べて、角材で固定……そのあと補強か」
必要な材料は昨日のうちに全部持ってきてある。
俺は紙を持ったままテントの外へ出た。
「よし、やるか」
二艘のカヌーを横に並べる。
ただ、角材を載せながら船体の間隔を合わせて、同時に固定するとなると、さすがに一人ではやりにくい。
「タルガニー!」
しばらくするとタルガニがやってきた。
「なんだ?」
「ちょっとこれ手伝って」
俺は二艘のカヌーを指さした。
「この二つを一つの船にする」
「二つを一つに?」
「そう。横に並べてつなぐんだ」
タルガニは不思議そうな顔をしながらも頷いた。
最初はこれでかなり捗ると思っていた。
だが、実際に作業を始めるとそう簡単ではなかった。
「タルガニ、その角材もう少し右。右にずらして」
「みぎ?」
「ああ、そっちそっち」
今度は固定金具を見せる。
「ここにUボルトを通して……」
「ゆーぼると?」
「あー……これのこと」
俺は現物を持ち上げて見せる。
さらにコピーを見ると、マスト、ブーム、デッキ、ワッシャー、シャックルと、日本語に混じって横文字が次々出てくる。
当然タルガニには通じない。
「違う違う、それじゃなくて……こっちの金具」
「これか?」
「それじゃない。そっちはワッシャー……って言っても分からんよな」
説明するたびに、指をさしたり、実際に部品を持たせたり、身振り手振りで伝えることになる。
二人なら作業が倍くらい早くなると思っていたのに、意思疎通だけでかなり時間を取られてしまう。
「これは思ったより大変だな……」
俺はコピーとタルガニの顔を交互に見ながら、頭をかいた。
俺は少し疲れてきたので、いったん休憩することにした。
腰を下ろして一服する。
「そういえば、昨日の塩の重さ量るの忘れてたな」
俺は立ち上がって、乾かしてあった昨日分の塩を量りに行った。
はかりに載せる。
「5.2キロか」
一昨日が5.5キロだったから、合わせて10.7キロ。
「10キロ超えたか。この調子だな」
俺は頭の中で斤に直してみる。
1斤がおよそ600グラム。
10.7キロなら――。
「17斤……いや、18斤弱くらいか」
この調子で毎日取れれば、村で使う分はかなり余裕が出てきそうだ。
夕方になった。
俺は出来上がった塩を見ながら考える。
一昨日と昨日の分を合わせて10キロ以上ある。
「これだけあれば、全世帯にある程度配れるな」
今まで村のみんなには畑作りや海水運び、それに塩作りまでかなり手伝ってもらっている。
せっかく塩の製造もうまくいき始めたんだ。
今日は少し還元してもいいだろう。
俺は村のみんなを呼んでもらった。
しばらくすると、村人たちが集まってくる。
何事かと俺の前に集まったみんなを見渡してから口を開いた。
「日頃、皆さん頑張ってくれてありがとうございます」
みんなが静かに俺を見る。
「塩の製造もうまくいって、今日こうやって皆さんに塩を配ることができます」
俺は横に置いてある塩を指さした。
「今日は一世帯につき一斤ずつ配ります。入れ物を持って並んでください」
一瞬、みんなが顔を見合わせた。
そのあと、すぐにざわざわと声が上がる。
「塩をもらえるのか?」
「一斤も?」
「本当にいいのか?」
「いいですよ。一世帯一斤です」
俺がそう言うと、みんなそれぞれ家へ入れ物を取りに戻っていった。
少しすると、壺や木の器、籠に布を敷いたものなど、それぞれ塩を入れられそうな物を持って戻ってくる。
自然と俺の前に列ができた。
俺ははかりを置き、一世帯ずつ塩を量っていく。
「はい、これで一斤」
量り終わった塩を入れ物へ移す。
「ありがとうございます」
「大事に使います」
「次の人どうぞ」
また一斤量る。
それを繰り返して、俺は村の全世帯に塩を配っていった。
「これで当分、村の塩は大丈夫だな。残りは売り物にしよう」




