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森の守護者  作者: 紫桜
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第2話 森の魔女


第2話 森の魔女


「どうして、この森にいるの?」


静かな声だった。


整った顔立ちで、どこか人間離れした雰囲気をまとっている女性。


足元には、さっき私を襲った巨大な獣が倒れている。


この人が助けてくれたんだ。


「あ、えっと……」


突然聞かれて、言葉に詰まる。


どうしてここにいるのか、それは私が一番知りたい。


思い出せる最後の記憶は、誰かの叫び声と耳を劈くブレーキの音。


そして身体に衝撃。


「……」


胸の奥がざわつく。


でも、それ以上は何も思い出せないのだ。


結論を出すのを怖がっているのかも知れない。


目にじわりと水分が集まるのがわかる。


「あなた、名前は?」


「……さくら、です」


目を擦りながら上を向き名前を言うと、女性は少しだけ目を細めた。


「さくら」


その名前を確かめるように繰り返す。


それから、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。


近くで見ると、本当に綺麗な人だ。


透き通るような肌。


長い銀の髪が、風に揺れる。


女性は私の顔をしばらく見つめてから、小さく息をついた。


「……嘘を言っている様子ではなさそうね」


「え?」


「いいえ、こっちの話よ」


女性は軽く首を振った。


それから、倒れている獣へ視線を向ける。


「この森はね」


少し間を置いて言った。


「普通の人が来る場所じゃないのよ」


背筋がぞくりとする。


やっぱりそうなんだ。


あんな化け物みたいな獣がいる場所なんて、普通じゃない。


女性は私に視線を戻した。


「帰り道は分かる?」


「え……」


言葉に詰まる。


どうしてここにいるのかも分からないのに帰り道なんて、分かるはずがない。


「……分かりません」


正直に答えると、女性は小さく眉を下げた。


「困ったわね」


本当に困っているような声だった。


女性は空を見上げ、それからもう一度私を見る。


「このまま森に一人でいるのは危ないわ」


優しく、でもはっきりした声だった。


そして森の奥を指さす。


「私の家が近くにあるの」


少しだけ微笑む。


「よかったら、いらっしゃい」


思わず顔を上げた。


「いいんですか……?」


女性は穏やかに笑う。


「ええ、あなたを放っておくほど、私は冷たくないわ」


その言葉を聞いた瞬間。


胸の奥の緊張が、少しだけほどけた。


女性はくるりと背を向ける。


「歩ける?」


「あ、はい」


「それなら、ついてきて」


森の奥へ歩き出す。


私は慌ててその後を追った。


少し歩いたところで、ふと思い出して声をかける。


「あの……」


「なにかしら?」


「名前、まだ聞いてないです」


女性は少しだけ振り返った。


銀の髪がふわりと揺れる。


そして、穏やかに言った。


「セレンよ」


「そう呼んでくれて構わないわ」



セレン。


それが——


森の魔女の名前だった。



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