第3話 守護者の家
第3話 守護者の家
森の奥へ進むほど、空気は静かになっていった。
さくらは少しだけ不安そうに周囲を見回す。
「……こんなに森の奥にお家があるんですね」
前を歩く女性――セレンは柔らかく微笑んだ。
「静かでいいわよ。こんな森の奥まで来る人なんて、ほとんどいないもの」
穏やかな声だった。
けれどその瞳は、さくらを静かに観察していた。
歩き方。
視線。
気配。
(……魔物の変化ではない)
少なくとも、今のところは。
だが、油断はしない。
この森には、守るべきものがある。
やがて木々の間に、小さな家が見えてきた。
石と木で作られた、古い家。
窓からは暖かな光が漏れている。
「ここよ」
「わぁ……」
さくらは思わず声を上げた。
セレンは扉を開ける。
「さあ、どうぞ」
さくらは遠慮がちに頷いた。
「お、おじゃまします」
家の中は暖かかった。
暖炉の火が静かに揺れている。
「そこに座っていて。温かいものを用意するわ」
「ありがとうございます」
さくらは椅子に座り、ほっと息をついた。
その様子を横目に見ながら、セレンは台所へ向かう。
(……妙ね)
振る舞いは自然だ。
恐怖も、焦りも、何かを隠している気配もない。
本当に、ただ迷い込んだだけの人間?
セレンはカップに湯を注ぎながら、意識を広げた。
森の気配を探る。
魔物の気配。
呪いの気配。
秘宝を狙う者の気配。
だが――
何もない。
(……分からない)
だからこそ、警戒は解かない。
カップを二つ持ち、部屋へ戻る。
「待たせたわね」
テーブルに置くと、さくらの顔がぱっと明るくなった。
「いい匂い」
「森のハーブよ。体も温まるわ」
さくらは両手でカップを包み、少し吹いてから口をつけた。
セレンは向かいの椅子に腰掛ける。
「ねえ、さくら」
「はい?」
「さっきも聞いたけど、あなたどうしてこの森に入ったの?」
優しい声。
けれどその質問は
心配や疑問とゆうより明らかに警戒されているのがわかった。
さくらは少し困った顔をした。
「えっと……」
少し考えてから答える。
「気づいたら、迷ってて……」
「迷った?」
「はい。気がついたら森の中にいて……」
セレンの視線がわずかに鋭くなる。
(気がついたら?)
そんなことがあるだろうか。
この森は、普通の人間が偶然辿り着けるような場所ではない。
セレンは静かに微笑んだまま言う。
「そう。大変だったわね」
さくらは申し訳なさそうに笑った。
「すみません……自分でもよくわからないんです」
その表情を見て、セレンは一瞬だけ考える。
(演技……には見えない)
だが、もしこれが演技なら――
かなり厄介だ。
暖炉の火が静かに揺れる。
セレンはカップを持ち上げながら、もう一度さくらを見つめた。
(もう少し観察しましょう)
森の守護者として。




