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初めての友達

「わあ、凛くんこの子のお弁当なんか豪華だよ!」


「私の両親は和風料理のお店やってるからねー」


 昼休みになり、例の声を掛けてきた女子生徒と俺、そして美穂が机をくっつけて昼食を取っていた。


 確かに、俺もそこそこ料理は出来るし作ってきた弁当もけして悪い出来ではないのだが、この女子生徒のお弁当は重箱になっていてプロの和風料理が詰め込められている。


「ねえ、それ欲しいサーモン」


 美穂は魚介類の中でもサーモンに目がない。実際に女子生徒がお弁当を開けてから中に入っているサーモンの握り寿司を物欲しそうに凝視していて、ついに耐えられなくなったのだろう。


「こら、美穂人様のおかずを欲しがるものじゃないぞ」


「別に構わないよ藤沢さん」


 女子生徒がサーモンの握りを美穂のお弁当箱に移すと美穂はこれでもかというくらいに目を輝かせた。


「ありがとーえっとお名前はなんて言うの?」


「名乗っていなかったね星野朱里と言います」


「じゃあ朱里ちゃんだ、美味しいお魚ありがとー」


「いえいえ、それにしても神里さんはなんだかとても可愛いというか……つい頭を撫でたくなるような」


 そんなことを言いながら星野さんは手をぷるぷると震えさせている。彼女の気持ちはよく分かる。見た目は完全な美少女なのだが、振る舞いや言動から滲み出る幼さが美穂をあどけなさの塊のような存在に仕立て上げている。


「んう~美味しい」


 美穂はサーモンの握りを一口で食べると幸せそうな顔で堪能していた。星野さんはそこで限界に達したのか彼女の頭を軽く撫でた。


「朱里ちゃん、凛くんより撫でるの上手いね」


「美穂、そんなこと言うならもう撫でてやらないぞ」


 俺が割と真面目なトーンでそう言うと美穂はあわてて「やっぱ今のなし、凛くんじゃないと嫌だ」などと今度は星野さんに対して辛辣な方に訂正した。


「神里さんは一途なんだねー可愛いな」


「そう、そうなの私は凛くん一筋なの」


「ですって、藤沢さん愛されてるなー応えてあげなきゃ」


 なんでこの二人出会って間もないのにこんなに連携してるんだ……。これが家なら頭を撫でてやるところだけど、さっきから周囲からの視線が痛い。


「二人共その辺にしてくれないか、周りからの視線が凄いことになってるぞ」


「おお、これは失礼。では本題にうつろうかな」


 そう、本来この昼食の時間は星野さんが話したいことがあるというので集まったのだ。


「ああ、そうしてくれると助かる」


「えっと、単刀直入に聞くね電能適性とか電能遊戯試験の攻略法が知りたいんだけど……電脳適性値の上げ方とか」


 俺が口を開く前に星野さんの隣でお弁当を完食してうとうとしていた美穂が即座に答える。


「後天的に電能適性値を劇的に向上させる方法はないよ朱里ちゃん」


「やっぱりそうなんだ……普通科を志望している上で電能遊戯試験を突破した二人ならなにか知ってるのかと思ったけど」


 これは残酷ではあるが、事実として電能官を目指す上で指標となる脳の処理能力、つまり電能適性はほぼ生まれつき決まっていて、訓練である程度の向上は見込めるものの、限界がある。


 南沢高校の普通科や補佐官というのはそういう人達の受け皿みたいなものだ。


 まあ、美穂と俺が参加したアトラス計画のようなものは例外として。


「朱里ちゃんは電能官になりたかったの?」


「うん、電能官になって色々な人の力になりたいなって子供の頃からの夢だったんだ」


 美穂は「ふうん」と眠そうな目をこすって星野さんの方を真っ直ぐ見つめる。


「なら、補佐官の方が良いと思うよ。そこの凛くんは補佐官としての経験があるしね」


 思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。アトラスシステムに触れていなければセーフってわけでもないだろうに。

 

 俺は慌てて美穂に耳打ちする。


「こら、そういうのはシークレットだって言っただろ」


「でも、契約書に凛くんが補佐官だってことは秘匿事項に含まれてなかったよ」


 まあ、そうなんだけど。ていうか適当に欠伸しながら流し読みしてた癖にちゃんと内容覚えてるのはアトラスのおかげなのだろうか。


「藤沢さん、補佐官って電能適性がなくてもなれるんですか?」


 星野さんはピンと背筋を伸ばしてタメから敬語に口調を変えて聞いてきた。


「うん、なれるよ。養成機関で色々叩きこまれはするけどそれに耐えられさえすればね」


「忍耐力なら人一倍あるほうです」


 美穂は「凛くんみたいな補佐官はかっこいいんだよ縁の下の力持ちだけどね」と言って星野さんに微笑んだ。


 その時、昼休み終了のチャイムが鳴る。星野さんは改めて俺と美穂を交互に見る。


「あの私、まだ友達あまりいなくて良かったら仲良くして欲しい、です」


「朱里ちゃんは既に私の中では親友カテゴリーに入ってるよー」


 そう言う美穂の様子を見るに彼女は星野さんを気に入ったみたいだった。


「別にタメのままでいいよ、それにしても星野さんが友達少ないのは少し意外だな」


「そこは、まあ色々かな」


 ふむ、まああまり深く詮索することではないだろう。


「初友達だやったー」


 美穂は軽くバンザイしてから、机を元に戻しに行った。


 彼女は心底嬉しそうなのも頷けることだ。今まで同年代と対等に親しく話すという経験が俺も含めてあまりないからだ。


「改めてよろしく星野さん」


 この時はまだ俺は翌日の土曜日に起きることなんてまるで頭になかった。それは俺にとって初めて目にする現象だった──。

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