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目覚めと二人の温度

「ん──ここは」


「目が覚めたみたいだね藤沢くん」


 場所は海瀬基地にある医務室のカーテンで仕切られたベッドの上、ピーピーと心電図モニターが無機質な音を立てている。


 丸椅子に座っていたのは宮浦補佐官だった。穏やかな表情でこちらを見つめている。


「どれぐらい、眠っていたんだ……」


「ざっと二日くらいになるかな、あの状態なら早い方だよ」


「美穂は、大丈夫なのか?」


「日和が面倒を見ているよ、それにしても彼女はあれから色々率先して日和から掃除やら料理を教えてもらおうとしているみたいだよ。藤沢くんに負担を掛け過ぎたと少なからず罪悪感があるんだろうね」


 そんなこと、俺が単に自分を過信したばっかりに起きてしまったことなのに。


「藤沢くんはさ、あの子のこと正しく見れているのかな?」


「それってどういう……」


「確かに彼女は年齢より幼い部分はあると思うけど、藤沢くんのことに関しては彼女は深く考えてるんじゃないか? 藤沢くんはそれを認識して応えるべきだよ、あるいは尊重すべきだ」


 返す言葉がなかった。確かに美穂のことを俺がいないと何も出来ない甘えん坊だとしか認識していなかった部分もあるのは事実だった。


 いつの間にか、その表面上の裏にある美穂の姿や考えが見えなくなっていたのかもしれない。


「まあ、色々口出ししちゃったけど、もっと彼女との生活や関係の変化も楽しんでくれ、じゃないと僕たちが君たちの代わりに戦ってる意味がないからね」


「そっか……」


 俺の顔を表情を見て宮浦補佐官は困ったように苦笑する。


「別にそこになにも思わなくていいよ、むしろ僕たちが君らに感謝したいくらいさ。僕らは良くも悪くも電子戦が好きでね、こうして機会を与えられて日和も喜んでいる。僕が君らは戦いに向いていないと言ったのはそういうこと」


 まあ、俺たちは命令だから電子戦をこなしていただけで楽しんでいたわけではない。むしろ重荷になっていたのは事実だ。


 結局のところ俺たちは戦士としては心がもろすぎるのだ。あるいは優しすぎるとも言える。


「おっと、噂をすれば基地に到着したようだね、僕は次の電子戦があるから日和と合流することにしよう」


 宮浦補佐官は振動したスマホを確認して言った。


「あの、宮浦補佐官ありがとうございます」


「うん、あとは学長にはあまり無茶苦茶しないように言っておくよ」


 そう言い残して宮浦補佐官はこちらに背を向け片手を振りながら医務室を出ていった。


「──凛くん」


 入れ替わるように美穂が勢いよく入って来てこちらに駆け寄る。そして、ガバっと抱き付いてきた。


「良かった、こんなことがあるから私なるべく使わせないように気を付けてたのに……」


「ごめん、俺もこれからはあまり無茶な使い方しないように気を付けるよ」


 それとも、と続ける。


「もう使わなくてもいいくらい、本当は強いのか?」


「うん、凛くんはもう少しアトラスシステムを信用して解放する選択をしてくれてもいいんだよ、アトラスさんもそう言ってる」


 驚いた、美穂自身がアトラスさんと交流出来るのか。


「アトラスさんとは自由に意思疎通出来るのか?」


「うん、完全に自由ってわけじゃないけどお友達だよ」


 それから、美穂はベットの上に上がり俺の隣に腰を下ろす。嗅いだことのないようなバラのような匂いが鼻腔をかすめる。


「私、日和さんに習って玉子チャーハン作れるようになったんだよ、お掃除も少しだけ出来るようになったの」


「宮浦補佐官から聞いたよ、これで甘えん坊は卒業か」


 そう言うと美穂は首を軽く左右に振って「でもね」と続けた。


「凛くんみたいに美味しくは作れなかった、お掃除も日和さんに結構手伝ってもらっちゃたし」


 美穂は顔を俯きがちにして目を伏せる。


「私って自分が思った以上に不器用みたい……凛くんはすごいや」


 俺はそっと美穂の頭に手を回して優しく引き寄せる。突然の行動に美穂は驚いて目を見開きこちらを見上げていた。


「ゆっくりとやればいいんだ、今まで通り甘えながら。俺だって教えられるしな」


「──うん」


 俺がそのまま頭を撫でてやると美穂は心地よさそうに瞳を閉じて完全に頭をこちらに預けた。


「凛くんの体温って凄く落ち着く」


「そうか、実は俺も同じこと思ってる」


 言って俺も瞼をゆっくりと閉じる。美穂の息づかいや体温がより鮮明に感じられるようになった。


 また意識が遠のいていく、でもその感覚は不快なものではなく今までにないくらい心地良いものだ。


 眠りに落ちる瞬間──幼い頃、施設の広場に生い茂っていた草花の上で手を繋いでお昼寝をした記憶がよみがえる。


 ──こうしてる時が一番平和に感じられて好き。


 記憶の中で美穂がこちらを向いて言った。俺も美穂の方を向いて「お昼寝のこと?」と聞き返す。


 ──それもだけど、凛くんの体温を感じられることしてる時、だよ。

 

 記憶の中の美穂はえへへとはにかむように微笑んだ。


 俺はそこで完全に二回目の眠りにつく。それは穏やかな眠りの導入だった──。

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