復帰と勉強会
「今日の朝ごはんはツナとキノコの和風パスタだよー」
美穂は積極的にご飯を作ったり、洗濯をしたりするようになった。作れる料理は炒飯とパスタだけだが、パスタに関してはバリエーションが日々増えているというか美穂はパスタを作るのが好きなので自然と増えていくのだ。
あの日から俺は念のためと一ヶ月半ほど学校を休学することになった。その間は同じく休学した美穂とゲームをしたり、海に散歩に出かけたり、アニメを一気見したり濃い二人だけの時間を過ごしたことで少しだけ俺たちの距離はゼロに近づいてきた、と思う。
そして休学明けの朝、いつも滑り込んで寝ている美穂が居ないと思ってリビングに向かうと俺の助けを借りずにパスタを完成させていた。
「おおーついに一人だけで作れるようになったのか、これは感慨深いな」
「頑張った、キッチンは大変なことになってるけど」
美穂の言った通りキッチンの状態は極めて凄惨なことになっているが、今はそんなことより目の前の朝食を堪能することにしよう。
「どう? しょっぱかったりしてないかな?」
美穂はスパゲッティを口に運んだ俺の顔を不安そうに覗き込んでくる。
「うん、正直今までで一番美味しいかな、お世辞じゃないよ」
「知ってるよ凛くんはお世辞で褒めるような人じゃないもんね。嬉しいなぁ」
美穂はえへへっと後ろ髪を軽くかいてはにかむとパスタを口に運んで「ん~天才かも」と自分の料理にご満悦の様子だった。
久しぶりの登校でも、周囲は俺たちに対して妙な視線を向けてくることはなかった。そもそも俺も美穂もクラスに居る友達は星野さんだけだし、宮浦補佐官や日和さんはそもそも科が違うので会うことは滅多にない。
「久しぶり! 二人共」
教室に入るなり、星野さんが俺たちの方へ駆け寄ってくる。
「久しぶり朱里ちゃん、寂しかった~」
「私もだよ美穂ちゃんよしよし」
星野さんは美穂の頭を優しく撫でまわして「やっぱり癒されるね」と微笑んだ。
「藤沢くんも結構酷い体調不良だったんでしょ? もう大丈夫なの?」
「うん、もうすっかり元気になったよ」
星野さんは「そっかそっか」と頷くと黒板の方を向いて言った。
「ところで休学明けにすぐテスト期間に入るなんて二人もついてないね」
黒板にはテストの各教科の出題範囲が教師の手によって書かれていた。南沢高校は電能科、普通科どちらも普通の進学校と同じくらいの内容とペースで学習を進める。
見たところ俺はそこまで困ることはないなと思った。
「うえー、なんか範囲広くない?凛くん」
「まあ、標準的な高校よりは少し厳しいかもしれないが、赤点だけは取らないように頑張るんだぞ」
そう、俺が困らないのは補佐官のカリキュラムに学力向上が組み込まれていてそれをくぐり抜けてきたからなのだ。
電能官にもそういうカリキュラムが組まれているが美穂が受けてきたのは特殊なカリキュラムで通常のものとは違い電子戦特化型である。
だから学力に関しては一般平均かやや下ぐらいしかない。
「美穂ちゃんの気持ち、私なら分かるよ。むしろその藤沢くんの余裕の方がおかしいよ」
「そうかな……?」
「周りを見て。皆あの黒板を見て絶望しているでしょ」
言われて、俺は初めてまじまじと周囲の生徒を観察した。たしかに皆一様に暗い顔をしている。
「そうだよ、凛くんがおかしいんだよ」
んん、確かにそう言われてかつこの光景を見るとおかしいのは俺の方なのかもしれない。いや補佐官の学習カリキュラムのペースがおかしいのだろう。
「と、言うわけでそんな余裕な藤沢くんと勉強すれば私や美穂ちゃんも余裕になるわけ」
「おお~勉強会!」
「そうそう、テスト期間中は藤沢くんに頼ろうの会」
なんだか、美穂と星野さんで話が進んでいくのを聞きながらふとその勉強会はどこでやるんだろうか、と気になった。もしうちでやるというならそれはかなり問題がある気がする。
それを聞こうとした矢先、朝の時間終了のチャイムが鳴った──。
「藤沢くんと美穂ちゃんって一緒に住んでるの?」
一時限と二時限の間の休み時間、俺はふと星野さんに質問を投げかけられた。俺は思わず咳き込んでしまう。
「どうして、そう思うんだ?」
「いや美穂ちゃんがぽろっと言ってきたことがあって」
なるほど、どうやら美穂にとってはアトラスシステム以外のことは全て秘匿事項ではないらしい。こうなるともう隠そうとしても仕方ないだろう。
むしろ星野さん以外のクラスメイトに知られていないのが救いかもしれない。
「うん、まあ事情があって」
「へえー」
「詮索しないでもらえると俺的には助かるんだけど」
「ああ、大丈夫。そんなつもりないからね。ただ二人の住んでいる家に入れるのが少し楽しみなだなってだけ」
今のを聞いて星野さんの中では俺と美穂の家で勉強会を開催することが決定しているようだった。
この勉強会で俺は美穂が持っている未知の特性を一つ知ることになる──。




